【導入事例】劇団四季キャッツ・シアター様 / 劇場 / 東京都

Japan / Tokyo Jan. 2019

main_banner 撮影:下坂敦俊

今年8月、東京・大井町にオープンしたキャッツ・シアター。人気ミュージカル『キャッツ』の公演が連日行われているこの劇場では、音響調整卓としてRIVAGE PM10が活躍しています。その選定理由と使用感について、四季株式会社 技術部 音響担当である長井卓也氏と後関有里氏にお話を伺いました。

photo001 (写真右から) 四季株式会社 技術部 音響担当である長井卓也氏と後関有里氏

 


『キャッツ』専用劇場としてオープンしたキャッツ・シアター


はじめに、東京・大井町に新しい『キャッツ』専用劇場を開設した経緯からおしえていただけますか。

長井氏:
浜松町にあった四季劇場[春][秋]を竹芝エリアの再開発事業に伴って閉鎖することになり、それに代わる劇場として昨年春くらいに新劇場の構想が持ち上がりました。そしてJR東日本様からJR大井町駅近くの土地をご提供いただけることになり、2018年8月11日にオープンしたのが、このキャッツ・シアターになります。この劇場は名前のとおり、ミュージカル『キャッツ』専用の劇場であり、他の演目には流用できない造りになっています。キャパシティは1,281名で、普通の箱型の形状ですと1,000名を超えると大きな劇場というイメージになりますが、ここは半円形の劇場ですので、大き過ぎず小さ過ぎず、ちょうどいい大きさなのではないかと思っています。2階席の無い1フロアの半円形劇場では、これくらいが最大規模かもしれません。

photo002 撮影:下坂敦俊

新しい『キャッツ』専用劇場を開設するにあたり、何かコンセプトはありましたか。

長井氏:
今回は可能な限りお客様のスペースを広くしようと考えました。ですので、建物の大きさから考えると、バックヤードはかなり狭くなっています。『キャッツ』の公演が行われる劇場には、猫の目線で見たゴミのオブジェをステージや客席に設置するのですが、ここは専用劇場ですので、壁から天井に至るまでめいっぱい装飾することができました。スピーカーや照明などは、せっかく作り上げた『キャッツ』の世界観を損なわないように、オブジェの中に紛れ込ますように設置してあります。これまで以上に『キャッツ』を楽しんでいただける空間に仕上がったのではないかと思っています。

photo003 四季株式会社 技術部 音響担当 長井卓也氏

音響施工面での苦労はありましたか。

長井氏:
半円形の劇場ということで、スピーカーの設置位置には頭を悩ませました。特殊な形状の劇場なので、メイン・スピーカーはステージの奥にしか設置できません。大型のものから小型のものまで、様々なサイズのスピーカーをバランスよく取り揃え、それらを適切な場所に設置することで、どこで聴いても明瞭な音を目指しました。オペレーターの立場でも、半円形の劇場というのは普通の劇場とは違う難しさがあります。

後関氏:
私はこういう半円形の劇場でオペレートを担当するのは初めてだったので、最初は少し戸惑いましたが、2ヶ月経ってようやく慣れてきたところです。少しずつですが、自分のイメージする音が作れるようになってきました。

『キャッツ』は30年以上にわたり愛され続けているわけですが、この演目の何が観劇する人を惹きつけているのだと思いますか。

長井氏:
猫が主役というのも他にはないユニークな点なんですが、ストーリーの根底にある“再生と復活”というコンセプトが多くの人たちを惹きつけているのではないかと思っています。猫の踊りやゴミを見て昔を思い出し、これからの未来に思いを馳せる。そこが世代を超えて受けている部分なのではないか思います。ありがたいことにチケットは連日完売で、現在来年6月分まで販売しているのですが、既に完売してしまった日もあるくらいです。今回、公演の内容も少しリニューアルしていますので、リピーターの方にとってもきっと新鮮なのではないでしょうか。

 


RIVAGE PM10をコントロールサーフェス2枚の構成で導入


新しいキャッツ・シアターでは、音響調整卓としてRIVAGE PM10を導入していただきましたが、その選定ポイントをおしえていただけますか。

長井氏:
『キャッツ』では、長らくPM1Dをメイン・コンソールとして使用してきました。2002年に使い始めたPM1Dは、劇団四季が初めて導入したデジタル・コンソールでもあります。PM1Dを導入したときに感じたのは、アナログ・コンソールと比較して格段に音が良いなということ。アウトプットが多いのもミュージカルのような演目では都合が良く、また操作性も非常に優れていたため、それまで2マン・オペレーションだったのをPM1Dを導入してからは1マン・オペレーションに切り替えたくらいです。総じてPM1Dは、非常に完成度の高いコンソールだったと思います。しかし長年使ってきて、そろそろ動作が心配になってきたため、数年前にCL5に移行しました。特にヤマハのコンソールにこだわっているわけではないのですが、DCAが使えてシーン・メモリーをたくさん組めるものとなると、ヤマハのコンソールがベストな選択肢だったんです。ただ、CL5も良いコンソールではあるんですが、PM1Dと比較すると少し制約があるので、表現の面でスケール・ダウンせざるを得ませんでした。ですので、PM1Dの後継機が登場するのを、ずっと待ち望んでいたんです。今回、新劇場をオープンするにあたり、RIVAGE PM10も発売から少し経ってそろそろソフトウェアの完成度が高まってきたのではないかと思い、この機会に導入してみようということになりました。

photo004 今回導入されたRIVAGE PM10システム

こういうミュージカル専用劇場で、音響調整卓に求める機能というと?

長井氏:
我々が手がけているようなミュージカルでは、シーンに合わせて音の出所や音色を即座に切り替えていかなければなりません。例えば『キャッツ』では、約250ものシーン・メモリーを組んで切り替えています。4秒ごとの切り替えを1分間繰り返したり……。世にコンソールはたくさんありますが、そんなオペレーションに耐えられるコンソールというのはなかなか無いんです。

キャッツ・シアターのRIVAGE PM10のシステム構成をおしえてください。

長井氏:
DSPエンジンはDSP-R10が1台ですが、コントロールサーフェスはCS-R10とCS-R10-Sの2枚導入しました。これまでは1マン・オペレーションで手がけてきたわけですが、やはり2人で手がけた方がクオリティが高い。I/Oラックはステージ裏手にRPio622とRPio222を設置し、96KHzで運用しているRIVAGE PM10システムと48KHzで運用している他の機器とはRSio64-Dを介してDante接続しています。また検聴用にQL1も用意してあります。システム全体は、RIVAGE PM10のインターナル・クロックで運用しています。

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CS-R10とCS-R10-Sは、どのような使い分けになるのでしょうか。

長井氏:
CS-R10ではボイスや効果音を扱い、CS-R10-Sでは音楽ソースを扱っています。ステージではワイヤレス・マイクは26波使用しており、効果音も16chと多いため、メイン卓は規模の大きなCS-R10を選定しました。一方、音楽ソースはステム・ミックスなのでコンパクトなCS-R10-Sで問題ないだろうという判断です。CS-R10は私がオペレートし、CS-R10-Sは後関がオペレートしています。

photo006 CS-R10とCS-R10-Sのデュアルコンソールによる2マン・オペレーション

現場で数ヶ月使用されて、RIVAGE PM10の印象はいかがですか。

長井氏:
最初に使って一番驚いたのは音の良さですね。皆さん言われていますが、音の分解能が本当に高い。初めて音を出した瞬間、チューニング前なのにも関わらず出音が整っていて、もの凄くビックリしました。正直、モニター・ルームで試聴したときはCL5との大きな差を感じられなかったんです。でも、ホールで大きな音で聴いてみると明らかに違う。これまではワイヤレス・マイクの入力を20波くらい一気に上げた際、干渉から生じる音の濁りが気になることもあったのですが、RIVAGE PM10ではそれがほとんど気にならないというか、むしろクリアに聴こえる。従来のシステムも決して音が悪かったわけではないんですが、RIVAGE PM10の導入によって確実に音のクオリティが向上しました。ここまで分解能の高い音に慣れてしまうと、もう昔のシステムには戻れないですね。

後関氏:
RIVAGE PM10では、パッと出しただけでも細かい音が聴こえるんです。出音がとても繊細になったので、扱いがとてもラクになりました。

操作性はいかがですか?

長井氏:
フェーダーの感触がとても滑らかで、非常に操作しやすいです。モーターの引っ掛かりもほとんど感じることなく、手によく馴染む感じがしますね。こういうコンソールで、使い始めから手に馴染むものってほとんど無いんですが、RIVAGE PM10は使い勝手の面もよく計算されている印象を受けます。視認性も良く、タッチ・スクリーンや各種スイッチが手の届く範囲に配置されているのもいいですね。

後関氏:
音楽のミックスでは細かくフェーダーを動かさなければならないので、ハッと思ったときにハッと動かせるフェーダーの軽さはとてもありがたいです。本当に滑らかなフェーダーですね。

photo007 四季株式会社 技術部 音響担当 後関有里氏

RIVAGE PM10は、Rupert Neve DesignsやEventideのプラグイン・エフェクトが標準搭載されているのも大きな特徴ですが、特に気に入っているものはありますか。

長井氏:
TC Electronicのリバーブがもの凄く良いですね。SPXやREV-Xも良かったんですが、それら以上に音の広がりがある。半円形劇場なので、残響の付け方がとても難しいんですが、TC Electronicのリバーブは本当にこの劇場の残響のように聴こえる。リバーブなんですけど、エフェクトくささが無いんです。周りの人たちからも非常に評判がいいですね。

頻繁に行われるシーン・メモリーの切り替えも問題ありませんか?

長井氏:
最初は不安だったんですが、現状まったく問題ありません。シーン・メモリーの切り替えスピードも、ソフトウェアが更新される度に上がってきている印象です。処理能力はこれまでとは桁違いだと思いますし、我々のような使い方をする現場にはベストなコンソールなのではないかと思います。

お気に入りの機能はありますか?

長井氏:
何と言ってもSILKプロセッシングですね。RPioラックに搭載されているマイクプリアンプが凄く良かったので、それを加工してしまうのはどうなのだろうかと最初は思っていたんですが、実際に使ってみると素晴らしい機能でした。これまではミックスした音が平面的になってしまっても、こういうものかと諦めていたんですが、RIVAGE PM10の分解能の高さとSILKプロセッシングによって、すべてが横並びではない立体的なミックスが可能になった。楽器などはレコーディング・スタジオで聴いているかのような3D感があります。とても効果的な機能で重宝しています。

SILKプロセッシングでは、REDとBLUEのどちらを多用されていますか?

長井氏:
音の輪郭をハッキリさせたいときはREDを使い、音を膨よかにしたいときはBLUEを使っています。劇団四季では、言葉を伝えるということを大切にしているのですが、REDを使うことで人間の声が非常に明瞭になる。音楽に関しても、あえてREDを使うことで輪郭を強調したりしていますね。一方、BLUEは音が底上げされる印象があるので、音楽全体に使うと低域が強調されてしまって良くないのですが、ストリングスのような高域楽器だけに使うと良い結果が得られたりします。また、あまり体調の良くない役者さんにBLUEを使い、声の張りをカバーするといった使い方をすることもあります。本当にいろいろな使い方ができる機能ですね。

今後のバージョン・アップで期待していることはありますか。

長井氏:
チャンネルのダイナミクスなどは、これまで使ってきたどのプロセッサーよりも精度が高い印象なので、他のプロセッサーも卓の中でどんどん進化していってほしいと思います。あとはDSPが1台だけのシステムでも、2枚のコントロールサーフェスからまったく別の作業ができるようになるといいですね。

役者さんや周りのスタッフは、RIVAGE PM10のサウンドについて何かおっしゃっていますか?

長井氏:
演者さんからも音がクリアになったと非常に好評です。また先日、観劇された海外の方がわざわざ卓のところまでいらして、“本当に音が良いですね”と言ってくださいました。それを聞いて、RIVAGE PM10を導入して本当に良かったなと思いましたね。まだ劇場全体をブラッシュ・アップしている最中なので、これからもっとサウンドは良くなっていくのではないかと思っています。

 

本日はご多忙の中、ありがとうございました。

photo008 撮影:下坂敦俊

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