【導入事例】株式会社アーチドゥーク・オーディオ様 / SRカンパニー / 神奈川県
Japan / Tokyo Mar. 2019
神奈川県横浜市に本社を置く株式会社アーチドゥーク·オーディオは、2013年に設立されたPAカンパニーです。CLシリーズやQLシリーズをはじめ、ヤマハ製ミキシングコンソールを多数使用している同社は、2016年にフラッグシップコンソールとしてRIVAGE PM10(コントロールサーフェスはCS-R10-S)を導入。その1年後にはより大規模なシステムにも対応すべくラージコンソール(CS-R10)システムを追加導入し、現在では2組のRIVAGE PM10を運用しています。その選定理由と使用感について、株式会社アーチドゥーク·オーディオチーフエンジニアの大坪宏昌氏、テクニカルサポートの佐藤修氏にお話を伺いました。
写真左からチーフエンジニア大坪宏昌氏、テクニカルサポート佐藤修氏
2013年設立のPAカンパニー、株式会社アーチドゥーク・オーディオ
アーチドゥーク・オーディオさんの沿革をご紹介いただけますか。
大坪氏:
2013年5月に設立、6年目を迎えた会社です。本当に小さなコンテナ倉庫からスタートした会社なのですが、現在は総勢22名のスタッフが在籍するまでに成長しました。いわゆるPAカンパニーではありますが、仕事の幅は広く、コンサートは勿論、企業のカンファレンスや発表会等の各種イベント等も手がけています。
アーチドゥーク・オーディオさんは、ヤマハのミキシングコンソールを多数ご活用いただいていますね。
佐藤氏:
ヤマハさんの卓は現在、フラッグシップであるRIVAGE PM10のフルスケール(註:コントロールサーフェスがCS-R10のシステム)とショートスケール(註:コントロールサーフェスがCS-R10-Sのシステム)を1枚ずつ、CL5を3枚、QL5を3枚、QL1を7枚使用しています。他PAカンパニーと比べても機材量は多い方だと思いますが、弊社の機材を外部のエンジニアさんが運用する事もある中、やはりヤマハさんのコンソールを熟知されているエンジニアさんが多いのも理由の一つですね。
Danteの登場によって、PAの現場は大きく変わりましたか。
大坪氏:
劇的に変わりましたね。弊社がDanteを使い始めたのはCLを導入してからなのですが、アナログ伝送からデジタル伝送に移行した事により、まずノイズ問題が劇的に改善されました。プライオリティーの高いマイクにノイズが乗るような事は非常に大きな問題です。アナログ・マルチの時代はいかにしてノイズに立ち向かっていくかは大きな課題でした。しかしDanteの登場によって、必要な場所にI/Oを設置できるようになり、ノイズが発生するリスクをかなり抑制できるようになりました。弊社ではDanteを標準的に使用していて、AVB対応のコンソールを使うときも、アウトプット段、アンプへの入力をDanteに変換する事も多々行っています。
株式会社アーチドゥーク·オーディオ チーフエンジニア 大坪宏昌氏
Danteに起因するトラブルはありませんか?
大坪氏:
シンプルな技術であり、非常に安定した規格だと思っています。トラブル事象に関しては未だに大半がヒューマンエラー、知識不足である事が多いかと思います。機材の再起動が必要になるレベルの手前で慌てず冷静に対処/解決できるように、運用に当たってのノウハウをしっかり蓄積していかないとダメですね。それは社内エンジニアに周知徹底させている事です。
2016年、フラッグシップコンソールとしてRIVAGE PM10を導入
導入にあたっては、いくつか選択肢があったのではないかと思います。
RIVAGE PM10選定の決め手になったのは?
大坪氏:
ヤマハさんは国内の現場のことをよくご理解されているので、外国産コンソールには無い機能がしっかり備わっていると思います。また、最近はDan Duganのオートマチックミキサー機能は欠かせないものになっているので、それが備わっていることも決め手になりました。CL/QLの使用感や先程のような点も踏まえ、特にデモ機を試すことなく迷わず導入させていただきました。ヤマハさんが満を持して発売したフラッグシップコンソールなので、何の不安もありませんでした。いろいろ“ちょうど良かった”というのも大きな理由でしょうか。もともとフラッグシップコンソールの導入を考えていたところにRIVAGE PM10が発表されたので、フルスケールのCS-R10を中心に据えたシステムを導入するつもりでした。しかしフルスケールは操作性や視認性は抜群である反面、大規模な現場以外との汎用性の部分で導入を悩んでいたところに、タイミング良くショートスケールのCS-R10-Sが発表され“ちょうど良い!”と思いました。物理的サイズがコンパクトになっているだけであり、チャンネルキャパシティ等の能力はCS-R10と同じなので、中規模・大規模両方の現場に対応できることに大きなメリットを感じましたね。
RIVAGE PM10はいつからお使いですか?
佐藤氏:
まず2016年の6月末に、ショートスケールCS-R10-Sのシステムを導入し、そのちょうど1年後にフルスケールのCS-R10のシステムを導入しました。
RIVAGE PM10を導入したのは、フラッグシップコンソールの強みである多入力/多出力の需要が多くなってきた背景もあるかと思います。コンソールに限らず、ワイヤレスマイクの同時運用数やマルチレコーディング、ライブ配信が増えたことで、CLでは収まらない数の入力/出力を求められるという事が当たり前になってきています。そういった状況を踏まえると、RIVAGE PM10の144ch入力というスペックは魅力的ですね。今後、フラッグシップコンソールへの需要はますます高まっていくのではないかと思っています。
アーチドゥーク・オーディオさんが導入されたRIVAGE PM10のシステム構成をおしえてください。
佐藤氏:
コントロールサーフェスはラージのCS-R10とスモールのCS-R10-Sが1枚ずつですが、DSPエンジンのDSP-R10はVer2でのDSPミラーリングが行えるように複数導入しています。I/OラックのRPio622はアナログ64ch入力/32ch出力という仕様で所持しています。
RIVAGE PM10の使われ方というと?
大坪氏:
ライブ・コンサートだけでなく、企業イベント、もういろいろですね。弊社では他社のラージコンソールも所有しているのですが、安全かつ繊細な音を出したいときはRIVAGE PM10を選ぶことが多いです。特にCS-R10-Sはサイズがコンパクトなので、オペレーションブースを小さくしたいときにも重宝していますね。
2台のラックのうち一方はDSPミラーリングができるようにDSP-R10が2台収容されている
RIVAGE PM10の魅力は、音の解像度の高さと定位感の良さ
約2年間、現場で使用されて、RIVAGE PM10というコンソールはいかがですか?
大坪氏:
やはり一番感じるのは音の良さですね。音の分解能の高さと定位感の良さは、他のコンソールには無いRIVAGE PM10ならではのものだと思います。一つの例として、広い会場内にスピーカーを何箇所も設置しなくてはならない現場があったのですが、従来だと明瞭度が下がってしまい、定位感もまばらになるんですが、RIVAGE PM10を使うと凄くしっかりした音になる。ヘッドホンで聴いた2ミックスをそのままスピーカーで再現してくれるというか、SRの現場でもレコーディングスタジオのラージスピーカーでミックスしているような感覚がありますね。
スモールコンソール「CS-R10S」の導入後にラージコンソール「CS-R10」を追加導入
“SILK”プロセッシングは使われますか?
大坪氏:
もちろんです。ヘッドアンプは特に素晴らしく、“SILK”プロセッシングを使わなくても凄く良い音ですね。質感がかなり向上しているというか、まさにグレードの違いというのを感じています。SILK”プロセッシングは魅力的な魔法のような機能です。ただ多用するのではなく、際立たせたいチャンネルに“SILK”プロセッシングを使うようにしています。
“SILK”プロセッシングのREDとBLUEの使い分けについておしえてください。
大坪氏:
もうそのままですね。高域をアレンジしたい、煌びやかにしたい時にはREDを使い、低域をアレンジしたい、倍音成分を豊かにしたいときはBLUEを使います。チャンネルに対して、どういうイメージにしたいかというのが選ぶポイントになります。
操作性はいかがですか?
大坪氏:
凄く良いです。ヤマハさんのコンソール共通の操作感を継承しつつ、各機能が向上している印象です。CLやQLで、ここはこうなっていれば良いのになと感じていた部分が、ことごとく改善されているというか。中でもSelected Channelのエンコーダーが多いというのは、やはり便利ですね。これまで3回のアクションが必要だったところが、2回で済むようになった。これはオペレーションする上で凄く大きいですね。それと視認性も良いです。ほどよく情報が出ているというか、多すぎず少なすぎず、ちょうどいい感じなんです。欲しい情報はすべて表に出ていて、もっと深く知りたければ入っていける。ディスプレイが大きくなったのも非常に良いですね。
特に気に入っている機能はありますか?
大坪氏:
内部のフロー、オーディオのルーティングを自由に変えられる点は、モニターコンソールとして使うときにとても便利ですね。EQのプリ/ポストもチャンネルごとに選べて、本当に痒いところに手が届くコンソールだと思います。
それと先ほども言いましたが、Dan Duganのオートマチックミキサー機能。カンファレンスだけでなく、ステージ上に何十人もいるアイドルのライブなどでも欠かせない機能になっています。オートマチックミキサー機能によって、フェーダーから手を離せるタイミングが増える事で、EQやダイナミクス、エフェクトなどを細かく追い込むことができるんです。もちろん、万能というわけではなく、オートマチックミキサー機能ではしっくりこない場面というのもあるのですが、そう感じたら戻せばいいだけの話なので。我々は積極的に活用しています。
内蔵エフェクトに関しては?
大坪氏:
個人的にはTC Electronicのリバーブが気に入っています。REV-Xも素晴らしいのですが、滑らかな質感が全然違う。なのでボーカルの聴かせたい部分だけにかけたり、ここぞというときに使っています。“SILK”と同じで、すべてのリバーブをTC Electronicにせずに、少し毛色を変えたいというときだけ使う。それとRIVAGE PM10は、インプットチャンネル標準のダイナミクスの種類がいろいろ揃っているのが嬉しいですね。他のコンソールですとプラグインをインストールしなければならないのが、RIVAGE PM10だとコンプレッサーだけでも何パターンか選べるんです。
動作の安定性については問題ありませんか。
佐藤氏:
現場でどうしようもなくなったトラブルというのはゼロです。導入後のテスト運用時にトラブルがあったのですが、それは単純な見落としによるヒューマンエラーでした。強いて言うなら、ヘッドホンホルダーが収まらなくなったことくらいです(笑)。
株式会社アーチドゥーク·オーディオ テクニカルサポート 佐藤修氏
大坪氏:
RIVAGE PM10を使って改めて感じるのは、ヤマハさんのコンソールは現場で安心して使えるなということ。何かあったらすぐにコンタクトが取れますし、真剣に対応してくれますからね。それにヤマハさんのコンソールなら、乗り込みのオペレーターさんの認知度も高いというのも安心です。RIVAGE PM10を使ったことがないという人もいると思うんですが、CLやQLに慣れたオペレーターさんならすぐに使うことができる。TOUCH AND TURNを使えれば、それだけで乗り切れてしまうので。
デュアルコンソールによる2マンオペレートにも対応可能
RIVAGE PM10は、バージョン2でDSPミラーリング/デュアルコンソールに対応しました。
大坪氏:
もともとDSPミラーリング/デュアルコンソール機能が追加されるというアナウンスを聞いており、将来的なデュアルコンソールとしてのユースケースを見据えていたので、最初にショートスケールのCS-R10Sを導入しました。なので今回フルスケールCS-R10を導入したタイミングでこれらの機能が実装されたことはこれまた“ちょうど良い”タイミングでした。
佐藤氏:
あとはバージョンアップでRIVAGE PM10でもRio3224-DやRio1608-DのHAがコントロールできるようになったのが嬉しいですね。現場ではステージ以外の場所でインプットが必要になったり、アウトプットをアナログで複数出したいという要望があったりするので、その時もRシリーズを持って行けば対応できてしまうのは大きなメリットです。
DSP-R10、RPio622とともにRio3224-D2がマウント。バージョンアップにより使い勝手が更に向上した。
最後に、RIVAGE PM10の気に入っている点を改めておしえてください。
大坪氏:
やはりサウンドですね。RIVAGE PM10は音をきれいにまとめてくれて、“聴かせるサウンド”に仕上げてくれるんです。それはバンドであっても、アイドルなどのオケものだろうが、すべてそう。弊社は外国産のコンソールも持っていますが、日本の音楽にはRIVAGE PM10が凄く合っている感じがします。そして安全性、安定性の部分に関してもDSPミラーリング/デュアルコンソールに対応した事で非常に満足しています。我々もその機能全てを活かせるようにまだまだ学んでいかなければなりません。これからもいろいろな現場で活用していきたいですね。
本日はご多忙の中、ありがとうございました。
株式会社アーチドゥーク·オーディオ
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