【導入事例】有限会社ペイントボックス 様 / SRカンパニー / 茨城
Japan/Ibaraki Apr.2020
Prosound Report茨城「ペイントボックス」が「NEXO P12」を日本初導入
(隔月刊PROSOUND Vol.215 2020年2月号より転載。テキスト:半澤公一)
ウーファーの中心軸上にトゥイーターを配備するコアキシャル型とも呼ばれる同軸ユニット。再生時の定位の良さやエンクロージャーの小型化に貢献するなど多くのメリットを持ち合わせているが、同時に構造が複雑になるため高耐入力型の設計が困難というデメリットもあり、これまで進化が難しいドライバーユニットのひとつとされてきた。しかしメーカーの果敢な挑戦により、業務用途に対応するほどの性能を持つものが登場し始めた。そこに注目し、製品化に向け白羽の矢が立ったのが演者をサポートするモニター用スピーカー・システムである。同軸型採用の理由としてはユニットからの聴取位置が近いことから定位感の改善、そしてバッフル面の消費面積が小さくなることで、コンパクト型が実現する。まさに打って付けといえよう。
今回はリリースされたばかりの「NEXO Plus series」から「P12」を導入、直後から現場で好結果を出し続けているというサウンドカンパニー「ペイントボックス」の杉田崇允氏、そして手厚いサポートで導入を助けた「ヤマハミュージックジャパン」PA営業部の河田杏奈氏の2人に話を聞いた。
1982年から茨城を拠点に活躍する「ペイントボックス」
プロサウンド(以下、PS): 杉田さん、はじめまして。今日は導入以来、現場でヒットを続けると聞く「NEXO P12」について教えてください。まず御社のことについてうかがっていきます。本拠地が茨城県古河市とのこと。
杉田: おはようございます。古河市はちょうど関東平野の真ん中あたりに位置しています。倉庫も同市内に置いており、東京からですと60キロ圏内といった位置関係にあたります。
PS: 仕事の主軸がSR業務とのことですが、歴史あるカンパニーと聞いています。創設などは。
杉田: 1982年頃から仕事を始めたことを先の代表であった父に聞いています。およそ4年後に法人化させたとのことで、起点からですとまもなく40年に届くということになります。私自身としては本来継ぐ気がなかった(笑)のですが、いつの間にかやらざるを得ないというと言葉が悪いのですが、現在は引き継いで運営しているところです。
PS: 社の規模感なども教えてください。
杉田: 組織的には2つの課を設けており、ホール管理課そしてPA課となります。従業員数は4名で、ホールの管理業務は行政から指定管理を受け、委託業務を行なっています。市民ホール「スペースU古河」が主な営業場所となりますが、収容400名ほどの多目的ホールです。
PA課の業務としては、私が担当するアーティストが複数あるのですが、ツアーへの同行。また近隣放送局の中継や公開録音の音声補助としての場内拡声、行政関連の催事などでしょうか。いわば地域のイベントといったことになりますね。また最近ではフェスの現地音響やデータ管理などの現場も多くなってきました。
PS: では、それ相応の規模機材を保有なさっているという認識でよろしいでしょうか。
杉田: それほどの物量ではありませんが、スピーカー・システムについては先代が入れた「EAW」、また「JBL PROFESSIONAL」の「VRX」などをメインとして使っています。コンソールは現在「ヤマハ」の「CL」および「QL」などとなります。
PS: 機材的な傾向といいますか特徴はどういったところにありますか。
杉田: 現在メーカーの一元化を進めています。今回の「P12」導入もその一環となるのですが、ターゲットとしているのは「ヤマハ」への機材移行を考えています。メリットとしてはやはり不具合対応やパーツ供給のスピード感、アフターケアが主眼となりますが、河田さんが営業担当として面倒をよく見てくださるというポイントが大きいです。
PS: 極端な話、夜に壊れても次の日には修復されていないといけませんしね。
杉田: そのとおりです。また無理を言って納期を合わせていただいたり、われわれのような小さなカンパニーの人間にとっては大きいことだと思いまして。
河田: いつもありがとうございます。
杉田: こちらこそお世話になっています。
PS: さて「ペイントボックス」さんですが、長い歴史をお持ちでありそこでの流儀や代替わりして杉田さんご自身の思いなども含め、どういった組織でありたいとお考えでしょうか。
杉田: コンセプトといえるかどうか分からないのですが、いろいろな意味で人の近くにいるカンパニーでありたいと思っています。制作やアーティスト、もちろんお客様を含め、さまざまな人の近くで音を出せるような、寄り添った存在でありたいと社員らと話しています。
PS: 身近というのは具体的に?
杉田: 例えばホールクラスのアーティスト現場の翌日が幼稚園の発表会といったことも珍しくありません。それが同時進行できる、そうしたカンパニーはさほど多くないのではと自負しています。それが弊社の強みのひとつとも言えます。
PS: 杉田さんご自身としては、どういったことを大事に考えていつも現場に向かわれるのですか。
杉田: 結果は100%ではなくそれ以上、120%や200%で応えたいといつも忘れずに持って行きます。
PS: 相手が思いもよらない驚きというか、期待以上に応えると。
杉田: 「おつかれさま」と言われるよりも「来年もよろしく」と言われることが何より嬉しいですし、期待以上に応えることがそれにつながるのではないかと思っています。
同軸型+12インチを求めNEXO P12と出会った
PS: それでは「NEXO P12」についてうかがっていきます。先ほど河田さんには「ペイントボックス」さんが日本で初めての導入と聞きました。杉田さん、どういった出会いがあったのでしょうか。
杉田: WebだったかSNSでしたか記憶が曖昧なのですが、モックの時点で出るかも知れないという時点で即、河田さんに電話をしたのです。
PS: 何か感じるものがあった。
杉田: 当時メインとして使っていたモニターシステムがほぼ20年経過していました。そろそろ切り替えないとゲストオペレーターの方に迷惑がかかってしまいますし、実際メンテナンス用パーツ供給の問題などが起きていました。そろそろ替え時かなと2年ほど前から相談はしていたのですが、これ!と感じるものがなかったのです。
河田: その当時ご提案できるモニタースピーカーですと「PS15」に代表される「PS」シリーズが主流だったのですが、杉田さんは以前から同軸型をご希望でした。そして、2019年の6月に海外の展示会で発表された時すぐに連絡をいただいて「実は同軸が出るのです」とご紹介した経緯があります。
PS: こだわりの部分が同軸ユニットだった。
杉田: ええ、同軸ということ、加えて12インチクラスを求めていました。それには明確な理由がありまして、弊社のPA課は私を含め3名なのですが、うち2名が女性なのです。したがって15インチとなると可搬性や転換の際の手間が避けられません。かといって音には妥協できませんので探し続けていたわけです。「NEXO」以外も視野に入れながら検討を重ねていました。
PS: なかなか難しい選択ですね。でも日々のことだけに大事なことです。トラックへの上げ下ろしや無理をして身体を痛めてしまってはたいへんです。これまで技術的に難しかった同軸型から高品位かつ大音圧を引き出すことがメーカーの努力で実現するようになったのはここ最近です。
杉田: ええ、また最近のモデルは15インチと遜色ないほどパワフルで、ミックスできる印象を持っています。
PS: では音を聴くまでもなく希望する仕様のものがリリースされたと。
杉田: そこで即刻デモをしたいと連絡を取り、バンドのスケジュールも揃えて直近の現場に間に合わせてほしいと無理を申し出ました。
河田: ええ、本当に間に合うかどうかぎりぎりのところだったのですが、ご希望の台数は揃わなかったものの、なんとか実機をご用意することができ、そして「即決」とご連絡をいただいています。
杉田: すぐに導入を決めています。そのくらい魅力がありましたね。
「ペイントボックス」所属のサウンドエンジニア、渡辺早紀氏 ( 写真左 ) と関谷 歩氏。重量20kgの「P12」(ケースは約1kg)を2人とも笑顔で軽々と持ち運ぶ
モニターとして確かな働きを
PS: 河田さん、高域のドライバーはどのくらいの大きさになりますか。
河田: 3インチ径のものを搭載しています。この「P12」はポールマウントもでき、ハウス用としてもお使いいただけるポイントソース型なのですが、今回はモニター用途としてご検討をされていました。
PS: それでバンドさんにもご協力いただいて、ということなのですね。
杉田: そのとおりです。実際の演奏で確認しないことには意味がないと言いますか、モニタースピーカーとしての実力は計れないと思うのです。おかげで自分の思っていたとおりの仕上がりに満足しています。
PS: その場に河田さんも同席されたのですか。
河田: そうですね。ご自身で担当なさっているバンドのモニターとして使えることが第一の条件とうかがっていました。普段、現在の定番と言える某社のモニタースピーカーを現地機材などで使用される機会が多く、それ以上のものであることも線引きとしてあるとも聞いていました。カタログスペックではアクティブ動作で140dBとの記載がありますが、事前の倉庫でのチェック段階で実際にこの音圧が出せるならば、と良い感触がありました。デモの時はパッシブ動作でお使いいただきました。双方で動作する設計となっています。
杉田: 弊社としては普段の現場の電源事情をふまえ、パッシブでの運用が基本になるかなと考えています。デモ時、バンドは中音がそこそこ大きく手こずることも少なくないのですが、すんなりゲネプロが進んでいき、実力あるスピーカーだなと実感しました。
クラスDモデルとなった「NXAMP MK2」を相棒に
PS: パワーアンプは何をお使いだったのですか。
杉田: 同じ「NEXO」の「NXAMP4×2 MK2」です。DSPを積んで最適化されたパワーアンプで鳴らすのが初めてだったのですが驚きました。「アンプで音が変わる」というのはこうしたことだと身をもって体験し、すごいなと思いました。
河田: これまで「NXAMP」は音質を重視して、スイッチング電源+ヤマハ独自のドライブ方式であるEEEngineで消費電流が多かったところ、時間をかけてすべてモデルチェンジを行ない、ようやくクラスDのアンプに変わりました。現在のモデル「4×2 MK2」であれば、消費20Aを下回っています。
PS: アクティブ時とパッシブ時では、高域ドライバーとのアライメント数値が変わるかと思うのですが、そのあたりはどのように解決なされているのでしょうか。
河田: その点はすべて「NXAMP」内部にそれぞれ専用プリセットがあり、ロードしていただくだけで最適化されるようになっています。
PS: と言うことは推奨アンプとして「NXAMP」が存在するということですね。ところで杉田さん、音質的にも良かったとの評価ですが、具体的にどのような感じだったのでしょうか。
杉田: 大音量のバンドの中ですので、いきおいモニター音量も大きくなってくるのですが、そこで歪んでしまったり頭を打っている感じが普段は出てきます。「P12」ではそれがなく、明暸度が保たれたまま出てくれたので驚きました。小さな音量でもそうした傾向は変わらず、高い明暸製が圧倒的に良いと感じました。
PS: よく陥ってしまうパターンとして、ロック系のバンドでキックドラムとベースを返し出すとヴォーカルが遠くに行ってしまう場合が多いですね。
杉田: ええ、そうしてぼやけてくるのかと思ったら、ヴォーカルはしっかり残っていてくれました。ほかには同軸の効果かなと思っているのですが、メイン側への漏れも少なく、外音へ影響を与えずヴォーカルも稼げるという。
PS: それは使いやすそうですね。チューニングはかなり必要になりますか。
杉田: それがまったくと言っていいほど必要を感じません。イコライザーのコントロールでは気になったところを4~5ポイントの程度で事足りてしまいます。したがって時間もかからず、進行に貢献できるメリットは大きいです。
河田: ほかの特徴としては、ハウスで使うメインモードとモニターでの用途とでDSPに同じスピーカー用で別のプリセットがあります。ハウスでは必要になるけれども、モニターの際には不要となる周波数などがあらかじめ処理されています。また演者さんはよりレイテンシーに対してシビアですが、モニターモードでは遅延が少なくなるよう配慮もなされています。
PS: 「P12」は魅力的な実力と機能が満載された印象を受けました。導入予定の数量としてはどのくらいを計画されているのですか。
杉田: 現在5本、手元にあるのですが最終的にモニモニを含めてあと4本、合計9本を考えています。また今回の導入を機にスタッフらの意欲が上がり、さらに詳しく掘りさげたい、また「Dante」運用をしたいなど、そうした声を聞くようになりました。技術が上がることもさることながら、普段は静かだったスタッフが見せる気持ちを何より評価したいのが一番にあります。
PS: 良い機材ゆえに組織に新しい風を生む、そして変わる。といったことは素晴らしい、そのひと言に尽きます。
杉田: さらにお客様からの要求に応えられる幅が大きくなったため、ミックスに対するモチベーションもはっきり上がってきています。
PS: それは組織を束ねる杉田さんとしても頼もしい限りですね。今日はお忙しいところ、長い時間ありがとうございました。
データ
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NEXOサイト 日本語ページ