ライブ配信の「いま」そして「これから」

ライブ配信現場の「いま」そして「これから」

ライブ配信現場の「いま」
そして「これから」

近年、会場の集客に制限がある中で、ライブやイベントのネット配信需要が急速に高まっています。しかし現状ライブ配信やイベント配信に特化した業務用音響機器は少なく、確立された手法やノウハウが無いことも手伝って、各社手探り状態になっている現状があります。
そこで今回、InterBEE 2020 ONLINE特別企画として【ライブ配信現場の「いま」そして「これから」】をお届けしたいと思います。ライブ配信を手掛ける5社のオンライン座談会を通じて、浮き彫りになったライブ配信の「いま」、そして「これから」をご紹介します。

ASCII ブランド総編集長 小林久氏

インタビュアー:
 ASCII ブランド総編集長 小林 久 氏


出演者:
 株式会社スターテック  高田義博 氏
 株式会社タケナカ  大内 敏 氏
 有限会社ティースペック  橋本敏邦 氏
 株式会社BEYOND  鯨井拓実 氏
 株式会社結音  藤森暖生 氏

小林:本日はお集まりいただきましてありがとうございます。
ここでは昨今ニーズが高まっているオンライン配信についてお話を伺っていきたいと思います。まずは私自身の自己紹介からですが、私は角川アスキー総合研究所でASCIIブランドを統括している総編集長の立場で、IT業界やデジタル業界を追いかけ続けてきています。
皆さんもいろいろご苦労されている部分もあると思いますが、2020年にはコロナ禍で人が集まることが厳しくなってしまい、リアルイベントのオンライン化とか、無観客ライブ配信が急速に進んでいくという状況があると思います。インターネット配信、特にライブ配信に積極的に取り組んでいる各社に集まっていただいて、ライブ配信ならではの悩みや成功へ導くためのノウハウや、ライブ配信のあるべき姿について意見交換する場にできればと思います。
ということで、現場にいらっしゃる皆さんだからこそわかる肌感覚をお聞きしながら、2021年以降の配信のあるべき姿ってどんな形なのか、技術をどう応用していけばいいんだろう、といったテーマでいろいろなご意見を伺えればと思っています。よろしくお願いいたします。

はじめに

小林:まずは今回お集まりいただいている皆様に自己紹介をしていただきたいと思います。各社のご紹介と強み、ご自身の専門分野、過去に手掛けたお仕事などについてコメントいただけますでしょうか。まずはスターテック高田様お願いします。

高田:スターテックの高田と申します。最近はダンスボーカルグループを数グループ担当させていただいています。他にも宇多田ヒカルさんや、海外のアーティストをいくつか担当させてもらっています。基本的にはFOHエンジニアですが、時と場合によってはモニターエンジニアやシステムエンジニアを担当させていただくときもあります。最近の仕事で代表的なものだと、3か月連続くらい立て続けにやっているアリーナ規模のライブ配信ですね。今回は5ステージをアーティストがぐるぐるまわるようなライブ配信を行っています。先日は普通のライブハウスを使い20名の有観客で同時にライブ配信をするなど、さまざまな現場を担当させていただいております。

小林:比較的大規模な配信を行っているのですか?

高田:そうですね。弊社としてはわりと大きなアーティストを担当させていただいているので、配信の規模も大きい事が多いですね。

小林:では次にタケナカ大内様お願いします。

大内:私自身はずっと音響をやっているのですが、10年くらい前に今の会社に移りまして、今の会社が映像がメインの会社で、私が入ってから音楽関係の音響事業も展開しております。今、「シンユニティグループ」という名前でホールディングス化しているので、制作、映像、技術、レンタル、あと一部舞台関係や、施工関係といったものもあります。コロナ禍でのイベントではほとんどが配信系で、中でもMICE系が多いですね。コロナ禍においてはエンターテインメント系の方がなかなか復活しにくい状況ということもあり、MICE系の方が配信に注力している状況ですね。例えば世界規模で世界規模での配信や1万人規模の企業の配信などを行ったり、現状はそういったところが多いですね。

小林:ではティースペック橋本様お願いします。

橋本:和歌山でティースペックという会社をやっています。和歌山とはいえ仕事の範囲は全国的ではあるのですが、コロナ禍で地元のイベントはもちろん、県外に行くイベントも仕事も全部なくなってしまいました。仕事の内容としては地方の音響屋ですので、なんでも頼まれたことはするという感じですね。私の想いとしては、全国、たとえば東京、大阪といった全国区で動いている方々とできるだけ同じクオリティを地方でも出していきたいというところで、音楽であればきちっとしたサウンドのPAをするということを心掛けております。コロナ禍では、いわゆる普通のライブ配信ではなく全く別のことをしたいなと思ったもので、ヤマハのSYNCROOM(旧NETDUETTO)を使った完全遠隔でのセッションと完全遠隔でのミックスを映像も合わせて配信するというようなことをやっています。

小林:ありがとうございます。なかなかおもしろい、新しい試みをされているということですね。
では、BEYOND鯨井さんお願いします。

鯨井:株式会社BEYONDの鯨井と申します。弊社では音響事業部と映像事業部、映像というのは出しの方ではなく、撮影や編集の方ですね。ライブやT V番組のカメラマン、スイッチャーなどの業務を行なっています。ライブ配信というよりは、本当の配信の方ですね。TV局だったり、YouTubeの公式チャンネルとかですね。最近増えているのがeスポーツです。基本的にはお客さんを入れずに配信スタジオでeスポーツの番組配信を行ったり、東京ゲームショーでは特設ステージでお客さんを入れた状態、かつ、全世界に向けてのYouTubeなどのプラットフォームを使用した配信の音声に関わっているのが主になっています。僕自身はライブサウンドもやっておりますので、イベントの現場や、原作モノのお芝居やミュージカルの音響システムプランニングやシステムチューニング、オペレーションをしています。実はコロナになってから現場が増えた減ったというのはなくて、単純に今までお客さんを入れてたのを入れなくなった、みたいな感じの違いです。

小林:最後に結音藤森さんよろしくお願いします。

藤森:株式会社結音の藤森です。弊社も普通の大阪のPAカンパニーで、イベントはもちろん、ミュージカルやお芝居、バレエとかを多くやっていまして、あとは劇場運営・管理も何館か持たせてもらっています。で、コロナになりまして、これらがきれいにゼロになって、「本当にゼロになるんだ」と思って、どうしようかなと。去年の暮れくらいから、遊び程度に映像を始めていたのでそれをやっていたのは運が良かったのか、問い合わせがちょいちょいありまして、それで配信の方に軸を置いいて、今では主に配信の仕事がメインになっています。配信の内容のとしては音楽モノもあるのですが、会議やセミナーが多いですね。

コロナ禍の影響について

小林:やはりコロナの影響というのはかなり感じているのでしょうか。どなたかコメントいただける方がいらっしゃいましたらお願いします。

高田:弊社は100%ライブやコンサートの仕事だったので、2月の下旬にドーム公演がある予定だったのが、当日の午後に中止が決まってから、年内のドームツアーが全部中止になりました。その他のアリーナツアーも、今はもう無くなった本数もわからないですが、全部のライブ現場がなくなってしまった感じですね。8月くらいまではほぼ無くなってたので、それを機に4月のはじめ頃から社内配信やZOOMで会議やったり、他社を交えて配信の実験をしつつ勉強会をしたりしていました。8月くらいからは各アーティストが動き出してライブ配信を始めた感じです。年内は有観客のライブもありますが、ほぼ配信ライブという状況ですね。有観客のライブと言っても、以前のような全国を周るコンサートツアーのような本数ではなくて、アーティストによってですが月に1・2本やるくらいですね。あとはテレビの音楽収録で年末に向けてアーティストさんが動くようになったので、「何となく仕事が戻ってきたかな」というのがコンサート音響をやっている会社の現状だと思います。

小林:緊急事態宣言が出たのが4月頃で、それより前に「無観客にした方がいいよ」というのが2月、3月から増えてきた状況だったと思いますが、各社そういう状況になってから何らかの対応をしなければならないという形で動き出されたのでしょうか。

高田:そうですね。当時、政府が会見をしたのが2月26日で、正確な時間を憶えていませんが、確か12時、もしくは14時からの会見で興行の自粛要請を出され、その日、我々は公演があったのですが、「政府からの要請があるのでやめましょう」というのが始まりで、別の地方でやっているコンサートも全部自粛になりました。緊急事態宣言前の自粛要請の時点で、もうライブに関してはほぼ止まった状態ですね。

小林:それまでスターテックさんは映像配信をあまりされていなかったのが、大規模なライブが無くなることによって、ライブ配信に取り組まれるようになったということですね。一方で大内さんのところは基本的には映像制作がメインでしたが、そのあたりの移行については比較的スムーズにできた感じでしょうか。

株式会社タケナカ マネージャー 大内敏氏

大内:スムーズかどうかはわかりませんが、かなり早い段階で全社で役割の再編からやりました。うちの場合、BEYONDさんと違いアウト系が多いので、LEDビジョンとか、大型のアウトプット系の機材とか、そういったものは未だに一切動かない状態です。株主総会に関しては、仕事はあるけど内容が違う。当然派手なものはでないし、人が集まれないので。今まで液晶モニターをいっぱいばらまいていたところがいらなくなって、逆にカメラやカメラマンがたくさん要る、と。役員室から一人ずつオンエアする状況でしたね。ただ、逆に「この方が都合いいぞ」みたいなところも内容的にあったりして(笑)。それ以降、ベースになっているのは学会系ですね。学会は大規模で、重要な会議がほとんどのため先延ばしにできないようで、動き出したのは一番早かったですね。4月・5月の段階で配信に切り替えると…。そうすると当社も対応がわからないわけですよ。機材はあまり動かない反面、普段の何倍も人が多く必要でした。結果的に今はガンガン動いていますが、学会に関しては「集まってやった方がいいな」というものと、中身によっては「配信の方が都合いいな」というものと二分している。で、現状多いのが「マルチハイブリッド」と呼んでいますが、お客さんも居る、かつ配信もしている。あるいは大きな学会になると1日に100人近い人間が入れ替わり講演していくのですが、講演者も自宅からするというようなパターンになってくる。オペレーターのためだけにホテルの宴会場を一室借りて、数十人あるいは百人近いのオペレーターが入って、それぞれ自宅の先生方とやり取りしている人がいる、それからメインの配信をしている人がいる。要するにZOOMオペレーターみたいな人間がたくさん要る、と。そういうスタッフは外注することが多いのですが、密にならないようにしなきゃいけないんですけど、4月・5月くらいは社内で、映像を手伝っていただいている皆さんを集めて、1か月くらい研修をどんどんやって、それが正に今動いているという状況です。

小林:必要とされる機材や、スキルを持った人材の割り振りが、コロナ前と後では変わったということですね?

大内:変わりますね。ZOOMは皆さんも使われると思いますが、かなり奥が深いです。バージョンアップする度に使い方が変わって、それが1,000人や10,000人規模になるとちょっとしたトラブルが大変なことになったりしますし。営業の人間ができることと、できないことを把握して、判断できなければダメということで、当社も週2回の営業会議をZOOMで行っています。ZOOMのディレクター、仕切りを交替で営業の人間が行う。それと週1回の社内配信もあえて色々なプラットフォームを使ってみています。社内なのでバタバタになってもそこで洗い出せますし。そういったノウハウが必要になってきていますね。

小林:学会や株主総会の話が出てきましたが、実際のイベント等では専門家の方がきちんと音響設備を整えて、音切れなどが発生しないよう配慮した上で話されると思いますが、遠隔会議であると各自が自宅から配慮の形になるので、音声の部分は気を使うことになりそうですね。

大内:そうですね、かなり大変みたいで、皆、ストレスたまっているようです。要は「パソコンのコントールパネルを開いてください」というところから説明していかなければならない、と。それは当然サービス業ということで技術の人間が案内役になりますよね。そういうのに向いている人、向いていない人、「もうやだ」という人や何とか乗り切ってやっている人、「意外と向いているな」という人もいたり、という状況です。

小林:橋本さんはオンライン配信をセッションに取り込まれているとお話されていましたが、そのあたりの特徴的なところなど教えていただけますか。

橋本:コロナ禍で外出禁止ということになり、和歌山では2月の下旬には「じっとしていなさい」という状況になってしまったので、現場も無くなってしまいました。そんなこともあって「何かできることあるかな」と考えたんです。もともとリモートでA地点とB地点を遠隔で音をつなぐことはずっと研究していたのですが、機材面、ネットワーク面ともになかなか大変な部分があって…。特に遅延が一番大変なんですが、「なかなか実現できないな」と思っていたところ、ちょうどヤマハの「SYNCROOM」、2020年2月当時はまだ「NETDUETTO」という名前でしたが、これと出会いました。「これはすごいかも、おもしろいかも、いけるかも」と思って、4月くらいから取り組み始めて、もちろん初めはうまくいかなかったり、トラブルがあったりしましたが、やっているうちに慣れてきて、ノウハウも生まれてきました。私は事務所でやっていたのですが、相手側は皆さんご自宅なので、それこそ先ほど大内さんがおっしゃっていたように、「コントールパネルを開いて」からスタートするので、そのあたりのコミュニケーションが一番大変だし、重要でしたね。ただこのコロナ禍で人と会えない、出られない、密になれない状態で、話ができるだけでも楽しかったので、そういう意味では良い経験になりました。

小林:NETDUETTOは僕も使ってみました。遅延が少なくて非常に使いやすいと思いますが、新しい物なので、一緒に合わせるときの呼吸の合わせ方だったり、配信以前の使う人の「慣れ」みたいなところがあるのかなという感想を持ちました。そういう意味では、配信の技術的な部分より前の、コミュニケーションとか演者とのやり取りが重要だということはおっしゃる通りだと思います。ありがとうございました。
鯨井さんは、先ほどの自己紹介をお聞きして、もともと配信が中心という理解でよろしいでしょうか。

株式会社BEYOND サウンドエンジニア 鯨井拓実氏

鯨井:そうですね。今、現場的には6~7割が配信になっています。

小林:コロナ下でゲームの関心も増えていると思いますが、eスポーツの実況をされたり、今回ゲームショーもオンライン開催になっていたかと思いますが、そのあたりを踏まえて、こういう状況に対して感じ取られていることはありますか?

鯨井:正直、お客さんが入るか入らないかの違いくらいで、業界的には大きな流れは変わっていないですけど、たとえば小さいスタジオで収録があるときに、今まではMCがいて、ゲームに対しての実況・解説は3人くらいが来るんですが、それぞれご自宅からZOOMを介して参加、みたいなパターンは増えてきましたね。その場合も、先ほど大内さんがおっしゃっていたZOOM等の設定というところはクライアントがやっている作業となるので、PCとヘッドセットマイク、とそれに対する取り扱い説明書を全部送って、ネットにつないで、その設定自体を現場にいる人間が遠隔で操作して、そこまではクライアントさんが行って、音声なりの担保をこちらで保障する、という形が多くなりました。ですので、作業的にはそれこそ「ZOOMオペレーター」というポジションが2人か3人増えて、リアルタイムでZOOM以外の普通の音声電話やチャットツールなどのホットラインを使って出演者たちと進行のやり取りをする、という流れが多いですね。

小林:配信がこれまでも主流で、その流れの中で仕事を進められてきたと言っても、各自バラバラの環境から入ってくる状態になることによって新たな苦労や手順が増えているということですか?

鯨井:そうですね。先ほどおっしゃっていたようにカメラマンが増える、人が増える、そして細かいものが色々増えていっているというイメージですね。

小林:わかりました。ありがとうございます。藤森さんは会議やセミナーなどが、かなり増えているというお話でしたが、現場に行かれて今までとは違うオペレーションが発生したり、考え方が一緒だなと思っていることなどありますか?

藤森:鯨井さんと一緒で、人がとにかく増えました。今まで地方のイベント現場だと2~3人くらいでこなしていましたが、映像が増えてくることによって、カメラ2人に、スイッチャー、配信、オペレーターとなってくるとやはり5~6人体制に増えたので、そのあたりの違いがありますね。

小林:たしかに人が従来より必要になったというのは、想像していなかったところですが、皆さんがおっしゃられていることから見ると、今まで以上にケアが必要になってきているということですね。素朴な疑問なのですが、人手が足りない部分はどのように補っているのですか?

藤森:うちは地方なので、予算がコンパクトなんですよね。バジェットが大きいと映像カンパニーにお願いしたりするんですが、「社内でとりあえず済ませてしまおう」という発想だったので、大内さんの前で言うのも何ですが、「1080Pって何ですか」みたいな話で、Pもiもわからなかったんですよ(笑)。720も1080も知らなかったので、そこからでしたね。ですので、音響職で就職してきたスタッフが今、カメラ振ったり、スイッチャーしてたりとか、そういう感じです。

小林:(人を)探すというより、覚えようという流れで……。

藤森:そうですね。だいぶ実験もしましたし、テスト配信もたくさんしましたね。

実際のイベントとオンライン配信の違いについて

小林:コロナ禍の話に徐々に入り始めていますが、リアルなPAみたいなものと配信という部分でどういった違いがあるのか、少しお伺いしたいと思います。今回のテーマは、オンラインライブイベント配信ですけども、リアルでのイベントとオンラインのイベントで最も違いを感じる点について一言ずつ皆様にいただきたいと思います。まず高田さん、いかがでしょうか。

高田:我々はいつもお客さんがいる状態でやっていたので、当然お客さんの反応があるのが当たり前で、「聞こえる、聞こえない」に対しスピーカーの位置を調整していたのが、配信では視聴者の反応が見えないうえに視聴環境が全員違います。イヤホンの方もいるし、テレビの方、 iPadやiPhoneの方もいて、全員違うっていうのが一番困ります。(チャットなどの)書き込みで、「なんか音質悪い」と言われても、それが端末のせいなのか、回線が遅くて悪いのか、はたまたその人の設定が違うとか、当然いろいろな状況があるので、何基準でやらなきゃいけないのか。お客さんのコメントもどういう状況のものなのかがわからない。例えば会場であれば、ちょっと見えにくい席とか、スピーカーからちょっと外れてるから音が聞きにくいと言われれば当然そこにスピーカーを向けるなり、追加することが可能だったのが、配信ではお客さんが見えないので、どういう状況なのかがわからないのが一番困りますね。アーティストやMCの方も「盛り上がってますか?」と言ったところで会場では反応が返ってこないので、場つなぎ的なことも結構難しいようで、スタッフが反応するわけにもいかず、拍手するのもちょっとおかしいので現場はすごく静かに進むし、反応がないのでアーティストもちょっと間が空いちゃったり。今までのコンサートの演出では、拍手間を待ってから次の曲にいくタイミングも、配信では曲つながりにしなきゃいけないとか、そういった苦労は今までとは全く違いますね。

小林:反応がやはり大事だったというのを実感されたわけですね。

高田:そうですね。やっぱり反応がないとちょっと戸惑いますね。

小林:大内さんはいかがでしょうか。

大内:藤森さん、すみません。僕も720Pという言葉、最近使い出したんですよ(笑)。

一同:(笑)

大内:これだけ映像のこといっぱいやらなきゃいけなくなってくると、見積りに、映像も書かないとダメなことになって…そのへん全然変わってきたところです。今までと違うのは、ヒアリングが非常に大事だなって。数か月やった段階で思うのは、ZOOMとか極端に遅延の短いものや相互やり取りのあるものと、YouTubeとかビデオは、同じ配信といっても基本的に違うなと。YouTubeとかビデオとか一方通行で配信するものに関しては、「録音のミックスをしている」というような感覚でやっていけるんですけど。会議システムを使って相互やり取りがある場合が1点。それと配信する側、あるいは配信される側の会場にお客さんがいる・いなくても、PAする・しないがもう1点。まずその大きな2点は聞いておかないと、システム構成からエネルギーから全く変わってくる。手間のかかり具合、金額も相当変わってくるので、そこが最初バタバタしたかな。今までは、「マイク何本いるな」とか、「これだけスピーカーいるな」とか、そういうところで考えていたのが、お客さんからしたら配信っていう言葉一括りで言っちゃうけれど、ZOOMとか会議システム使う場合、ネット環境を調べるのでも回線の太さだけ平均値を測っても、YouTubeだったら何となくそれで成り立つようなイメージですけど、ZOOMだとジッター、ゆらぎ、とかをきっちりチェックしておかないといけない。それから高田さんが言われたように、「この内容のものはおそらくほとんどの人がヘッドホンで聞くんだろうな」とか、「数名きちっとしたオーディオで聞くのかな」、「その人のためにやるのかな」とか相手の環境を想像してやっていかないとダメでしょうね。「良い環境を作るのが技術」という立ち位置からしたら、一番のポジションになるので。会議なら会議で、会議の本質がスムーズにいけるように、音楽配信するのであればできるだけクオリティの高い物を送りたい、というところを考えてやらないと。

小林:なるほど、わかりました。総合すると、決まった形というのがないので、そこに対してどういう形で対応していくかを試行錯誤していく、みたいなものがあるのですか?

大内:そうですね。「PAがあって配信もする」、あるいは「PAはないけどモニターはイヤホンつけないから転がしで出さないとダメ」っていうパターンを集計していくと10パターンくらいできちゃうんですよ。そこに「同時通訳」等が入ってくればさらに増えます。そういう引き出しを作ってしまえば、一発のヒアリングで要領よくいけると思うんですけど。そこにくるまでも意外と担当者レベルではいろいろ不具合がありましたね。

小林:橋本さんはいかがでしょうか。

有限会社ティースペック 代表取締役 橋本敏邦氏

橋本:私の場合は、通常の無観客もしくは有観客の配信とは違って、完全に在宅遠隔セッションでしたので、もう何もかもが初めてでした。NETDUETTO自体は10年ぐらい前からあるでしょうけども、私がやり始めたのはつい最近なので、全くもって未知の世界であり、かつ演奏される方も初めての経験の方が多かったので、もう本当に全てが手探りでした。おもしろいな、と思ったのは、今までだと手順に乗って「現場をして」、「はいお疲れ様でした」って感じでしたけど、まず「お宅はどちらですか」、「ああ神奈川ですか」から始まって、「回線は?」とかひたすらそういう話をするわけですね。で、どういった音楽、どういったミックス、どういった感じにしたいかとか、全部ヒアリングというか、もうメンバーの一人となって「こんなんやっていきましょうよ」って感じになるんです。コロナ禍でPAの仕事がなくなっている状態でしたが、そんな中、ミュージシャンの方から「やっぱりエンジニアの人がいてくれるとこんなに配信の音が良くなった」みたいなことを言ってもらったり、ありがたみを持っていただけたのが、こちらのモチベーションにも繋がりました。また、配信と違って、レコーディングミックスに近い音に仕上げるのですが、臨機応変さとかトラブルシューティングの仕方についてはほとんどライブエンジニアなんですよね。「理想はこうだけど、今やってる時間がないからこれでとりあえず行きましょう」っていうような臨機応変さや瞬時の判断が必要だったので、そういう意味ではライブエンジニアの活躍どころだったのかなと思っています。

小林:完パケという意味ではレコーディングエンジニアのようだけど、実際にライブをエンジニアリングしているのに近い形になるということでしょうかね。わかりました。鯨井さん、いかがでしょうか。

鯨井:最近配信の方にも他のセクションの方、ライブでいうと進行チームだったり、配信・局の仕事になるとディレクターだったりしますが、ディレクターのポジションにいわゆるイベントの進行さんチームとか入ってくる時があるので、その方がどのような演出をしたいのかを汲み取るのが最初の重要な仕事なのかな、と。極端に言うと、テレビ番組みたいなミックスにするのか、それともイベントっぽいミックスにするのか。弊社はそれを両方ともできるところが強みなのでディレクターの方に聞いたら、「僕、実は舞台とか普通の企業のイベントの進行なんです」、「じゃあ、イベントみたいにやりましょうか」みたいな。イベントっぽく現場は進行して、でも配信が最終段にはなるので、そこにもよれるようなミックスにします。

小林:テレビ番組のミックスとイベントのミックスで違うってお話はおもしろいなと思ったのですが、どういう感じの違いがあるんですか?

鯨井:ガチガチのテレビをやっているわけではないのであくまでもざっくりとですが、テレビ番組はしゃべってる人がいて、後ろにずっとBGMが乗っかってる。普通のPA現場と比較するといつもの BGMより10㏈くらい大きいかな。PAイベントだと、声が聞こえるのがまず第一。それに合わせると BGMは必要以上に小さくする感じでオペレートされてるんですけど、そのミックスでやると、配信ミックスを聞いているクライアントに「BGM小さい!」って言われるんです。僕らは「嘘でしょ!?」って、嘘でもいいからちょっと BGM あげたら「あ、こんくらい、こんくらい」みたいになって(笑)。自分でヘッドホンで聞いた時に、「なんかテレビっぽいな」と。ちょっと語弊があるかもしれないですけど。

小林:イベントではあるけど、イベントのPAではなくて、テレビで見るようなPAに調整しないといけないということですね。

鯨井:まあ、そうですね。そこはクライアントと進行チーム、ディレクターとの摺り合わせで、さじ加減がオペレーターにゆだねられているといった感じですね。

小林:付随してお伺いしますが、テレビの場合って最大音量とか決まっていますよね。ですがネット配信の場合はまちまちだったりするので、番組によって全く違う音量になったり、使う側として戸惑う部分もあると思うのですが。そのあたりはどういうお考えで普段作られていますか?

鯨井:うちの場合は、最終段の配信ミックスに関してはクライアント側に配信管理の人間がいるので、配信する PC のところでも聞く人がいる、プラス、先ほどおっしゃっていたみたいに別室でiPadなり、iPhoneなり、PCなり、誰でも使うようなイヤホンで実際に聞いている人がいて、正直その人の聴感というか、その人の印象、特定多数の印象に委ねられた感想をフィードバックして、調節しています。

小林:ありがとうございます。興味深い話が出てきました。では藤森さん、いかがでしょうか。

藤森:そうですね。高田さんと話がかぶってきますが、やっぱり生の配信の意味はクライアントとよく話をしますね。「生でする意味があるのか」っていうところはよく議題には出てきます。橋本さんもおそらく疑問が出てきていると思いますが、生で演奏する意味をどう位置づけるかという点をクライアントがしっかり持ってないとちょっとやりにくいかなっていう気はしますね。

小林:確かにそうですよね。今まで当たり前にやるようなものだったのが、本当に必要かどうかを考えるタイミングになりますよね。例えば、「演奏しているならPAが必要だけど、配信だったらPA要らないんじゃない?」というような話もありえますもんね。

藤森:そうですね。あると思います。あと、テクニックでいうと皆さん一緒だと思いますが、先ほど「マスタリング」と出たように、トータルはコンプであったりリミッターだったり、PAとは全然違ってきているので。ライブだとダイナミックスをどれだけ付けられるかが醍醐味だったりしていたのが、「コンプそこまでかけますか?」みたいな所までコンプやリミッターを多用するようになって、ダイナミックスというか音を貼り付けてるような感じで……。でもそうしないと端末によって、皆さんおっしゃるように楽曲のイメージが変わってきたりするので、そこを担保するのに皆さん苦労してるのかなって。

小林:例えば大規模なライブ等では自宅では感じられないサブウーファーの重低音を感じられて、そこに迫力を感じたりとかがありますけど、実際配信してしまうと、スピーカーによって下の方は全部カットされて聞こえない、みたいなことに……。

藤森:そうですね。

小林:臨場感のあるライブを収録をしているんだけれども、配信に関してはどのような環境でも対応できるような万能的なものが求められている、ということですね。

ライブ配信の「いま」

小林:コロナ禍でいろいろ配信について苦労されたことがあると思いますが、特に苦労した現場とか、そのあたりについてお伺いしたいと思います。今までのお話の中で出てくる部分もあったと思うので、「この現場は特に苦労しました」というご経験お持ちの方いらっしゃいましたら挙手していただいて、その方にお話いただこうかと思うのですがいかがでしょうか。(藤森氏挙手)では藤森さんお願いします。

株式会社結音 代表取締役 藤森暖生氏

藤森:皆さんと一緒だと思いますが、ずばりネット環境です。

一同:(笑)

藤森:もうこれが最初なので、ここですよね。

小林:それは色々なケースが想定されるから、ということですか? 参加される方それぞれに対し、それとも配信する場所にネット環境があまりないっていうことでしょうか?

藤森:最近の劇場はあるんですけど、昔からの市民会館にはネット回線がないことと、「NTTの工事を入れてくれ」って言ってもすごく煩雑な許可がいるので、とにかく面倒くさがられる。「何とかしてくれ」みたいな感じで言われるので。とりあえずwi-fiで乗り切ろうとはするんですけど、場所によってはまだまだ回線の状況が悪かったり、有線はあったけど、いざ現場に行ってみたら光ではなくADSLでした、みたいな時もあったりします。

小林:その場合はモバイル回線とかを活用されるんですか?

藤森:そうです。LiveUとかを使用させてもらいますね。

小林:ネット回線に関して何かコメントがある方いればお聞きしたいのですが。

鯨井:うちの場合だと現場の規模によるのですが、必ず光回線を敷きます。「そこどうにかしてもらわないと話にならないよね」というのはあるので。もちろんバックアップで藤森さんがおっしゃったLiveUだったり、いろいろなものも用意しているんですけど。いつものPA現場でいう「電源ちゃんと100V来てるよね」ぐらいのレベルで、どの現場も「光が来てるよね」という感じで求められているのは現状ですね。

小林:そこは各会場に対して強く言っておきたいところですかね。「これからはネット回線が公営の施設には必要ですよ」と。あと、バックアップの話が出ましたが、配信されるときのバックアップは何種類くらいお持ちですか?

藤森:メインが光回線だとしたら、LiveU、と最悪の最悪を想定したwi-fi 回線、のだいたい3種類ですね。

小林:だいたい3重くらいになっていれば大丈夫だろうというような感じですか。

藤森:ワイヤレスマイク使うのと一緒ですよね。100%ではないので、そこは常に不安。安心して配信をできる環境って、今現在そこまで作られていないなっていうのはあると思います。

小林:そうですね、ここは皆様の力でできる部分とできない部分が発生しているところではありますから、そこは大きなところですよね。ここでひとつ質問なのですが、一口にライブといっても、規模や出演者の数などによって使用される設備とか、スタッフの数などが大きく異なってくると思います。そんな中で、配信機材をミニマムで押さえつつ、高品質な配信をするために、「最低限このくらいの人数でこういった機材が必要だ」という最低ラインはどの辺りに捉えられているか、あとはそれを規模によって上げていくとしたらどういった形の構成を取られているか、より現場の技術的な話に近い部分を掘り下げていければと思いますが、いかがでしょうか。藤森さん、お伺いしてもいいですか?

藤森:うちはとにかく規模がコンパクトなので、初めてライブ配信をさせてもらった時は、劇場でした。業務用カメラ2台と家庭用カメラ2台をスイッチャーに入れて、普通に配信かけるみたいな感じです。CEREVO社のLiveShellからYouTube にあげるっていう。6月20日にさせていただいたこれが僕らのスタートでした。規模感としてはここがうちの基本となっていて、これを社内の人間だけでできるように練習したのが最初の第一歩。後はそのクライアントの規模感や予算感に合わせて縮小していく。これ以上大きくなると映像カンパニーを交えて、こういう感じでやっています。

小林:これに対して何かご意見いただける方いらっしゃいますか? 「うちの場合はもっとこういうやり方でやっているよ」とか。橋本さん、ご感想とかいかがですか?

橋本:おそらく中小というか、大規模なのを除けば、今藤森さんがおっしゃった形でされているところが多いと思います。ただスタッフですよね。スタッフがたくさんいる会社は手分けして、ノウハウの勉強、共有を含めてやるでしょうけど、うちみたいな一人しかいないところは逆にワンマンでできる方法どんどん模索することになるとは思います。そこがちょっと違うかもしれませんね。

小林:実際ワンマンでやる上で工夫されることは何かあるのでしょうか。

橋本:配置ですね。手が届く範囲に置く(笑)。

小林:意外にアナログな(笑)

橋本:二人でやるならソーシャルディスタンスもあるし、やはり当たったりするので離れた方がいい。でも一人でするなら近い方がいい。ノウハウに関しても二人でするなら、例えば一つの指示が来ましたという時に、二人が共有しないと「あれ?あれ?」みたいなことになって正確な意思疎通ができないんですよね。例えば「もう少し音量レベルを上げてください」って一人が聞いて、上げました。でも配信側の人が見て「うわ、さっきよりレベル大きくなった」って下げちゃうと、いたちごっこでまったく意味がないので、二人が共有する必要がある。ただワンマンでやってると全部一人なので楽ですね。だから一人でやるのか複数でやるのかでタスクのやり方がまったく違うかなと思います。

小林:ありがとうございました。今回ライブ配信になると音声はもちろんですが、映像も一緒に届けなければいけないので、そのために配慮していることや注意していることがあったら教えていただきたいと思いますが、高田さんいかがでしょうか。

高田:弊社は大型案件が多いので、映像に関して一応見てはいるんですけど。生ライブを見に行って、例えば4人バンドだった場合、ボーカルが好きな人もいれば、ギタリストが好きな人もいるし、ドラマーが好きな人もいるので、お客さんの目線としてはボーカルを見てない人もいるんですね。ギタリストばっかり見たいと思っている人もいて。でも配信になると全部とはいわないですけど、大概ボーカルが映るんです。1曲のうち半分はたぶんボーカルでしょう。でもギタリストが好きな人は、「ギター見たいのに」と思う。

小林:テクニックとかね……。

高田:そうそう。見たいのに見られない。じゃあ、ボーカルをフィーチャーされているから、我々はボーカルをフィーチャーするのかっていうとそれもまた違う。先ほどの話にも出てきましたが、機材が違うし、ダイナミックレンジが全然違いますし、ライブだとギターソロは終わりまでほぼ一定で出しますが 配信の場合はギターソロが16小節ある場合、全部ギターソロで放送することは少ない事が多く、頭の8小節だけでギターソロを映して、それ以降はベースやドラム、ボーカル、パフォーマンスとかダンスしてるところを映したりしています。その時にギターソロは続いているのでギターの音が大きくなっているにも関わらず、でも映像ではギタリストではないアーティストが映っていて。「映像に合わせてちょっとギター下げるのこれ?」ってなんか不安になりながらミックスしたり……。我々も映像ありきでやっているので、映像に合わせたミックスをする部分もあります。しかし音楽的には、ないとおかしいので、ある程度ギターを聞かせないといけないので、音と映像が合わない、そういう難しさ的なことはあると思っています。
映像と同時配信っていう意味では、我々の希望としてはユーザー側がマルチに見られる配信、1本のライブで5カメラあって、俯瞰の映像と4人のアーティストの場合、それぞれをフィーチャーしてるカメラがあって、ギタリスト好きな人はギタリストのチャンネルというか、画面を見続けることができて、かつギターが大きめなミックスが聞けたりとか。映像に合ったものを配信できたりすると良いですよね。現状だと音のバランスが合わないというか、見た目との整合性がつかないところがあったりするので、難しかったりすることがありますね。

小林:映像と音が合っていることが非常に重要だということですね。

高田:そうですね。ギターソロの裏でドラム叩いているのにギターソロしか聞こえない、でも映像はドラム叩いていて、シンバルが激しく叩いているのにちょっと弱いと、「あれこれ演奏しているの?」ってなっちゃうんで。

小林:そうですね。確かにそこは難しいですね。現状は映像に合わせてミックスの調整をしていくような感じですか?

高田:ある程度は、音楽を損なわない程度に、映像に合わせた多少の+αのミックスをするっていう感じですね。

小林:そうすると、PA的なミックスの部分と、カメラ割りのスイッチャーの連携というか、イメージの共有を早い段階でしておくことが必要になってくるということでしょうか?

高田:それができれば良いのかもしれませんが、実際のところはできないですね。ライブ配信の場合は卓前にテレビを置いていただいて、それを見ながらやっています。カット割りとかの台本もありますけど、音楽聴きながらカット割りの進行表を見ることができないので、リアルタイムで見ながらって感じですね。

小林:ありがとうございます。そのあたりの映像と音の関係性みたいなところで何かコメントいただける方いらっしゃいますか? 大内さんのところはどうですか?

大内:配信に限らず、映像が変われば音が変わる、とか言うか、人間の心理と言うか、そういうことは常に付いてまわるんだろうなと。映像がリアルだと大きな会場になるとそれこそ LED があって、遠くの人はそっちのほうが見えるから選択肢はないけど、自分で見たいところを見られるということと、それから配信の場合だと、映像に関しては強制的に見えないところも出てくるので。だからやっぱりトータルの演出というのは必要なんだろうなと思います。
ミキシングのバランスのことになるとシビアな話になってきますけど。例えばイベントとかで効果音をつける時に擬似バイノーラルみたいなことも重要になってくるのかなと。むしろ配信がメインになってくるとみんな飽きてきちゃうし。そんな風に思います。

小林:例えばVRみたいなものでやると視点に応じて、先ほどおっしゃっていた疑似バイノーラルのような、音の方向がかわったりとか、聞こえる音の音量が変わったりとか?

大内:そうですね。ちょっと話が逸れるかもしれませんが、うちの場合XRというバーチャルステージを使ってやるので、PCにかなりハードな作業をさせるんです。フェラーリ級のPCが何台も動いているんです。映像って遅延をあまり気にしていないじゃないですか。音より遅く出てくるのが当然なんですけど、やっているほうも、「この機材使ったらこれだけ遅れる」とかインプットされていなかったりするので。スイッチャーというのはそれなりに遅延がでてきて、すべてのカメラの映像が同じ遅延で出てくればこちらも合わせようがあるのですが。例えば映像のほうでディレイをかけるというのはスイッチャーの中にはないわけで、機材をまた追加していく必要があるのですが、最初はやってみないとわからないとこもあったので、メモリしておいてシーンが変わったり、スイッチャーに直に入っているカメラに切り替わった瞬間ディレイを変えるとか。そういうことはリハで気が付いてやらざるを得なかったりしましたね。

小林:演出的な意味合いはもちろんあると思いますが、それ以上に自然に感じさせるような映像と音のマッチングが重要という話の理解で合ってますか?

大内:そうですね。必然性もそうだし、やっぱり没入感、最近はイマーシブという言葉を使いますけど、やっぱそういうことを考えていかないとお客さんは簡単に飽きちゃうだろうなと。

小林:会議がどんどん長くなって疲れちゃったり……。

大内:それだとやっぱり、まずいと思いますね。

ライブ配信をより良くするためのノウハウ

小林:わかりました。先ほどからオンラインでの配信はエンドユーザー側の使う機器が統一されていないので難しさがあるというお話がでていましたが、同時に配信先のサービスによって遅れがある形式とかビットレートも異なってくると思いますし、場合によってはミキシングやイコライジングの調整や工夫なども必要かと思いますが、そのあたりノウハウで教えていただけるものがあればお聞きしたいのですが、いかがでしょうか。ノウハウお持ちの方いらっしゃいますか?

株式会社スターテック ミキシングエンジニア 高田義博氏

高田:直接僕たちのPAミックスの音というか、ハウスのエンジニアが作った音が配信される現場もありますし、音声中継車が入ってオーディエンスマイクを立てる配信もあります。ですがPA 機材で放送には対応できないのは確かなんです。それはメーター構造がそもそも違うので、僕らが使うピークメーターと言われるメーターでは全くもってレベル感がわからないんです。ライブのダイナミックレンジはとても広くて、アコースティックコーナーは極力小さく出来ますし、MCに対してのBGMのバランスも小さく出来ます。でもそれだと先ほど鯨井さんが言ったように放送ではBGMが小さくなってしまう。現場では当然「これぐらいでいいな」って思っているんですけど、放送上はやっぱり聞こえなくなってしまう。ラウドネスという問題があって、メーターは放送用に関してはラウドネスメーターを使えばBGMのレベルとか、音楽のレベルとか、トークのレベルはだいたい揃えられるんですね。でもそれはPA機材には付いていないんです。例えばYouTubeやAbemaTVなど、配信先によってラウドネスのしきい値が違うという問題があって、民放だと-24㏈LKFSで、ちょっと正確な数値はわかりませんがYouTubeだと-14㏈LKFS。PA卓からのOUTをラウドネスメーターに入れて、果たして自分のミックスがその1曲の間に平均値を取れているかなんて難しくてなかなか出来ません。普通のPA感覚ではアコースティックコーナーはすごいレベルを下げられますが、下げすぎると放送では全然聞こえなくなっちゃうので、いつもより6㏈以上上がってたりとか、それはラウドネスメーターでみて管理するしかない状況です。トークコーナーもいつもよりトークが大きいんですけど、放送上では「まあ、こんなもんだよね」と。テレビでもiPhoneでもユーザーは聞く端末のボリュームをいちいち変えない、変えたくないので。変えちゃうと「音でかい」、「MC聞こえない」っていうことになるので。それは現状のPA機材だけではできないので、配信をやるのであればラウドネスメーターを入れた方がちゃんとしたミックスができるのは確かですね。それはノウハウとして持っていない会社もいらっしゃるので、導入することをお勧めします。あとはマスタリング的なことをどうするか、というところですね。マスターコンプなのかリミッターなのかマルチバンドなのか、そういうのも当然やっておかないといけません。リミッターだけではいけないし、普通のコンプにするとなると、ある周波数だけ大きい音源があった場合でも全体のレベルが下がっちゃったりするので、マルチバンドコンプでその周辺の周波数だけ叩いたり、ディエッサーとかでも構いませんが。放送内容に合わせたマスタリングの仕方をしないと、聴くお客さん側によって普通に聞けない。家のテレビって、普段(ボリュームを)10で設定していたら、朝のニュース番組も夜の音楽番組も10で聴けるはずなんです。それをどんな配信でもやってあげなきゃいけなくて。プラットフォームによってもそのレベルしきい値が違うので、それも合わせてあげるために、ノウハウはPAなり配信をやる側が持っていないといけません。昔やっていた、最後にエキサイターを入れて聞かそうとする技もありますけど、最近はそれをやると放送先側で叩かれちゃうんでなかなか難しんです。そういうノウハウは放送のプラットフォームによっても違うので、配信の形態に合わせたやり方をやっていかなければいけないですし、そうするとやはりPA機材では配信が難しいというのが現状ですね。

小林:PA 機材をそのまま流用して配信に対応するのは難しいということですが、話の中でも少し出てましたが、機能改善だったり、追加が必要だなと思う部分は特にどこでしょうか?

高田:もう、メーターじゃないですか。皆さんどうですか。たぶんメーターがどうにかなれば音質はPA卓で遜色なくいけると思うんですけど。PAと放送ではレベル管理の基準が違うので、PAは振り切っても多少は「なんとかなる」みたいなところがありますが(笑)、放送では振り切れることが許されませんからね。

小林:おもしろい話ですね。動画に配信する場合って圧縮かかりますよね。かかる際に例えば、バックグラウンドの細かいノイズがあると歪みの原因になったりとか、低ビットレートになると音が聞こえにくくなる原因になるのかなと思ったりしますが、そういう意味で直接音を中心にとるのか、アンビエンスを少し入れていくのかとか、収録の方向にも差が出てくるかと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。橋本さん、どうですか?

橋本:私の場合は特殊なのであれですけど。アンビエンスがないので(笑)。遠隔の場合、皆さんスタジオのブースにいるのと同じで、基本的に相互の音は干渉しない、いわゆる被り込みもありませんし、マイクに入ってきた音しかこっちに来ないので、全部ダイレクト音ですよね。ただ配信も一緒だと思いますがやっぱり暗騒音ですよね。暗騒音の対策が肝心になると思います。

小林:例えばイコライジングの方法だったり、先ほどコンプの話が出たと思いますが、ネットで出す場合は周波数帯域自体も調整したほうがいい部分があるのでしょうか?

橋本:そうですね、YouTubeでは16kHzぐらいまでしか伸びてませんから、その上をどうこうしてもしょうがないというのはあります。私の場合は、実際の配信で確認してそれがいいかどうかの判断を自分の中でして、送り出し元で反映しています。結局PAのエンジニアがあちこち会場を回って出音を確認するのに近いかもしれません。広い会場をあちこち回って聴いて、「ここも大丈夫」「ここも大丈夫」っていうような感覚で、「iPhoneも大丈夫」「iPadも大丈夫」「イヤホンも大丈夫」「スピーカーもなんとなく大丈夫。OK、OK」みたいな感じですかね。

小林:そのほか「こういうノウハウでやってます」というご意見をお持ちの方いらっしゃいますか?

高田:僕は、実は決まったEQがあります。それこそ橋本さんが言ったように、YouTubeとか上が切られているとか、下切られているとか当然ありますが、オーバーシュートして切られている配信元もあれば、普通にカットされてるところもあるので。オーバーシュートして切れているのであれば、ちょっと下が切れてもふくよかに仮想的に聞こえますが、オーバーシュートしてなくて切れてるところもあるので、その場合はこっちで膨らませてあげるみたいな処理をします。上げ幅とかは配信されてきたものをもう一回聞いて確認はしますが、「こんな感じかな」っていうEQを私の場合はかけてます。

小林:皆さんそのあたりの調整はされて配信しているという感じでしょうか。鯨井さんはいかがですか。

鯨井:極論、オペする人と配信する人を別にしたい、というのが理想像ではあると思っています。今まででいうと、PAエンジニアがいて、ミックス送って、それが収録だったら収録エンジニアの手に渡って配信される。現状の世の中だと、その配信のエンジニアもおそらくこちらで手配、という話が多くなると思います。この前、お手伝いさせていただいた現場では、アーティストのレコーディングエンジニアが配信のエンジニアとして来られて、オペレーターと配信エンジニアがディスカッションしながら最終的な配信の出音を決めていました。そうすると、お客さんを少し入れていたましたけど、あくまで現場は現場でいつも通りのミックスをして、配信は配信のエンジニアがトークの時だけちょっと上げたり、プラス、アンビを混ぜたりっていう手法をとっていたので、ライブとかイベントに関しては「これが一つの形なのかな」という感じですね。気心の知れたエンジニアが配信のミックスも担当することによって、思っていることの差異が少なくなるのかなとは思っています。

ライブ配信の「これから」

ZOOMによる座談会収録の様子

小林:では、ライブ配信の未来のお話のテーマに進みたいと思います。いろいろとお話を聞いてきましたが、実際にオンライン配信を経験されて感じたことや特に改善しなければいけないこと、努力によって克服しなければいけないような課題があれば、皆様一言ずついただければと思います。では、まず藤森さんからお願いします。

藤森:現状としてはたぶん皆さん一緒かと思いますが、マネタイズポイントをどこでとるのかという点は主催者とよく話し合いになります。結局今まで「1」でできてたライブが、配信することによって「1.5」になるみたいな話なので。なおかつお客さんが入れられない。じゃどこでその収入を得るのかみたいなところは話し合いになって、「それならもう配信はいらないか…」みたいなことにもなったりするので。そのあたりがこちらとしてもうまく提案できないといけないのかな、という気はしています。あとプラットフォームにしてもそうですね。「ここはYouTubeで」みたいな決まりがまだまだないので。うちの場合は営業含めてすべて自分でしなければいけないので、そのあたりがうまくお客さんに提案できるようにならないといけないと思っています。

小林:例えば、かけるコストに対しての収入のバランスだと思いますが、ここの部分の手間が減ったら軽快に動けるので受注がしやすくなるとか、あるいは、ここの部分の機材コストを下げることによって何かうまくできるようになるとか、より具体的に考えていらっしゃることはありますか?

藤森:現状としては、手間は増える一方ですね(笑)。コンパクトにやりたいのはやまやまなんですが、コンパクトにできないのが悩みですね。

小林:何人かで手分けしてやるパターンになるかと思いますが、それをワンオペできるような便利なソフトができるとか、機材の中でそういった機能が含まれるとより助かるみたいなところもあるのでしょうか。

藤森:うーん、オートミキサーはたぶん使い勝手が良くなってくるだろうという気はします。トークショーには皆さん絶対に入れていると思いますので。オートミキサー的なものがもう一歩二歩進むと、いう感じではあります。あとは、皆さん入れているとは思いますが、WAVESのプラグインでいうとVocal Riderみたいな設定したレベルを一定にしてくれるようなものが、例えばO1Vのようなハードウェアに入ってくると、我々としてはすごく楽になると思います。

小林:そのあたりは、ヤマハに期待したいですね(笑)。

一同:(笑)

小林:鯨井さん、いかがですか?

鯨井:このコロナを機に、いわゆるPAカンパニーと、局の収録などでこられるような中継カンパニーですね、そういう人たちの垣根がなくなってくんじゃないかなと。垣根をなくしていかないと現場を乗り切れなくなってきてるのかなっていうのは正直思っていますので、音響以外のことでも視野を広げていかないといけないなと思っています。

小林:橋本さん、いかがでしょうか。

橋本:今おしゃっていたように、映像カンパニーからすれば、PAカンパニーがやろうとしてる配信っていうのは、あまり今まで手をつけていないっていうか、手をつけたくなかった部分でもあるかもしれません。でもそこにちょうどうまく音響がはまって、ライブということも含め、トラブルシューティングができるということも含めて入ってきたかなと思います。とはいえ、私はこういう時だから誰もやらないようなことをやろうと思って、完全遠隔、ミックスも遠隔でしてしまうということをやっているわけですが…。
機材の話をちょっとさせて欲しいのですが、ヤマハの機材は汎用性を持っているので、例えばネットワークであればDanteだったり、WAVESのカード入れられますよとか。周辺との拡張性という意味で最近の機器は垣根を作ってこなかったために、例えばヤマハの卓、QL、CL、RIVAGE PMどれにしてもWAVESのカード挿せますし、今までの状況と違うようなことが起きた時も、臨機応変に対応できる良さがあるなって今回思いました。そうでなかったら、例えば先ほど藤森さんがおっしゃっていた「オートミキサーが…」みたいな話になっても、オートミキサーを導入していないメーカーはもうまったく使う術がないですけど、ヤマハのデジタルミキサーは元々Dan Duganオートマチックミキサーが入ってるし、もし入ってない卓でもカードを挿せば使える。変な囲い込みをしていない、拡張性を残しつつやっている点がすごく良かったなと思っています。

小林:柔軟性にやっているというか、試行錯誤の余地があるというか。では、大内様お願いします。

大内:コロナが収束してもきっと元のようには戻らないので、配信は配信で技術も残るし形も残る、いいところもあれば悪いとこもある。そのなかで我々がやっていかなければならないことがあると思います。5Gが一般的になるのはもうちょっと時間がかかりそうですが、そうなればさらに加速していくので。機材面の希望としては、ヤマハのアナログミキサーMG16XUやMG12XUには付いてますが、ドライバーのインストールが不要な簡易的な機材がもっと増えてほしいですね。インターフェースを簡易的に使うにはまだまだハードルが高いので。それとQL/CLクラスのライブ用コンソールにも多チャンネルの「エコーキャンセラー」が搭載できるものが必要だと思います。

小林:ありがとうございます。高田さんにもコメントいただきつつ、今後の音楽配信、ライブイベントはどんな形が主流になっていくと考えられますか、というところも踏まえつつコメントいただいて。最後に皆さんに、これからの将来、こういったライブ配信をしたいと考えてることがあれば、自由に一言ずついただくような形で会を締めたいと思っているので、お話ししていただければと思います。では高田さんお願いいたします。

高田:将来的なことは、さっき言ったマルチ映像的なユーザー側が選べるものがあったらいいなって思いますし、その音に関してもある程度のプラットフォーム(種類)があってもいいのかなと。大内さんが言っていたように、どんどんコンプをかけていくと当然聞きやすくて良いのかもしれないですけど、例えば家で、スピーカーで聴ける人はスピーカー用のミックスが選択できる、iPad とかパソコンの本体で聞く人はそれ用のミックス、イヤホンで聞く人はイヤホン用のミックス、というように複数ミックスが送れるようにしておけば、ユーザー側で選べてより良い音で聴ける環境が出来ると良いかと。テレビとかで映画モード、ゲームモードとかって選べるのと一緒で、オーディオも選べて、ある程度ミックスに適したコンプの具合とかをこちらも設定して送れるので、そういうことができてもいいのかなと思いますし、マルチ画面で見たい人の画面を見続けることもできる。そうすると複数のミックスをこちらから送らなくちゃいけなくて大変になるのかもしれないですけど。でもそれもステレオミックスみたいなのを作って、マトリクスでスピーカー用、イヤホン用、なんとか用というのがインサートとかですぐにできて、6ミックスで回すとか。そういうのが将来的にできてもいいんじゃないかなと思います。先ほど大内さんがおっしゃった5Gになればデータ量も増やせるので、そういうミックスをいっぱい送ることも簡単になるんじゃないかなと思いますね。今後、音楽もそういう風になっていくかはちょっとわからないですけど、バイノーラルとか、新しい技術を入れていかないとみんなやっぱり飽きてしまう。テレビじゃ盛り上がれない。家の小さい画面じゃ盛り上がれない。1回目はやっぱり見たいから見るんですけど、2回目は「もう楽しめなかったからいいや」というお客さんは結構いらっしゃるんで、そういうところが今後技術の進歩なのか、もっと改善するコンテンツができるのかわからないですけど・・・。あとはお客さんが参加できるような、我々の配信ライブもZOOMでお客さんに参加してもらうんですが、それにはマイナスワンを作って送り返したりして、それも面倒だったりするので、もうちょっとお客さんとのコミュニケーションが取れたりできるものとかあったらいいなと思います。

小林:そのほか「こういうライブ配信の将来像は見えてるよね」とか、「これに対してこういうことをやってみたい」と思っていることが何かあれば。

高田:そうですね、僕たちもいろいろな配信をやらせてもらっていますが、やってみたいと思うのは、バイノーラル的な、ライブ空間を感じられるようなミックスというか配信があると、お客さん的には楽しめるんじゃないかと。

小林:ヘッドホンで聴いたりすると没入感的なものがあると……。

高田:そうですね。そういうのが簡単にできるようになったりすると、こちらも配信をやってみたいと思うし、お客さんの声が返ってくることも、それが良いのか悪いのかわからないですけど。そういうことができるのであればやってみたいと思いますね。

小林:お話をお伺いしていて、とても話が広がっていったと思いますし、おもしろい話題も多かったと思いますが、現状、定番のやり方や正解が決まっていない中で、試行錯誤していく楽しみがあるのかと思う一方で、いろいろな人がたくさん動かければならないとか、機材のコストが上がってくとか、そういった部分に不満を持っていたり、オペレーションが複雑になる中で、何か回答を見つけていくための手がかりになるような情報が今回の座談会の中で誰かがインスピレーションを与えたり、感じ取っていただけると良かったのではないかなと個人的には思いました。みなさま、本日はお忙しい中、長時間ご参加いただきありがとうございました。

一同:ありがとうございました。