【導入事例】池袋西口公園野外劇場 グローバルリングシアター 様 / 劇場 / 東京

Japan/Tokyo Oct.2021

東京有数のターミナル駅、池袋駅西口を出てすぐ、東京芸術劇場に隣接した池袋西口公園に2019年11月「池袋西口公園野外劇場 グローバルリングシアター」が誕生しました。

このたび「グローバルリングシアター」にヤマハ音場支援システム「AFC」、デジタルミキシングコンソール「QL1」、NEXO「GEO M10」ラインアレイシステムなどが導入されました。それらの機器の使い勝手などについて豊島区 文化商工部 文化デザイン課 文化施設管理係長 深井 紀知 氏、公益財団法人 としま未来文化財団 施設管理部 施設管理課長 岸本 匡史 氏、同 施設管理部 施設技術課 音響技術グループ 主査 中村 成志 氏にお話をうかがいました。

豊島区文化商工部文化デザイン課 文化施設管理係長 深井 紀知 氏(中央)
公益財団法人 としま未来文化財団 施設管理部 施設管理課長 岸本 匡史 氏(左)
同 施設管理部 施設技術課 音響技術グループ 主査 中村 成志 氏(右)

クラシック、演劇など多様な舞台芸術に対応する都市型野外劇場

「池袋西口公園野外劇場 グローバルリングシアター」の概要について教えてください。

深井氏:
池袋は駅を中心として東口、西口それぞれに街があります。東口は「サンシャインシティ」などの大型商業施設が多く、西口には「東京芸術劇場」があります。豊島区は「豊島区国際アート・カルチャー都市構想」を謳っており、文化を基軸としたまちづくりを目指して、「東京芸術劇場」に隣接した池袋西口公園に新しいランドマークとなる野外劇場を作ろう、ということで「グローバルリングシアター」が誕生しました。

豊島区 文化商工部 文化デザイン課 文化施設管理係長 深井 紀知 氏

ターミナル駅の一等地の繁華街にある野外劇場は、かなり珍しいのではないでしょうか。

深井氏:
大変珍しいと思います。野外劇場は音響環境として不利な面もありますが、「グローバルリングシアター」は豊島区の文化の中心ということで、音楽、それも特にクラシック音楽を演りたいという強い思いが区長にはあったようです。そのため舞台に音を前面に反射する大型の音響反射板を用意するなど、音響には非常にこだわりました。また音響反射板だけでなく、ヤマハの音場支援システムを導入し、野外でありながらクラシックの演奏を存分に楽しめる施設になっています。

「グローバルリングシアター」では毎週定期的にクラシックのコンサートを開催されていると聞きました。

深井氏:
はい。コロナ禍で休止していた期間もありますが、豊島区の主催で毎週水曜日の19時からクラシックを基本としたコンサート「Tokyo Music Evening Yube」を行っています。駅に近い繁華街という立地を活かし、より多くの方に聴いていただきたいと思っています。

毎週水曜日の夕方に開催されている「Tokyo Music Evening Yube」(写真指揮は西本智実氏)
Tokyo Music Evening Yube YouTube公式チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=ctzrmbm6_3E

ほかにはどのような用途で使用されているのでしょうか。

岸本氏:
当劇場は貸出し施設でもあり、さまざまな催しを行っています。2019年11月のオープン直後から新型コロナウイルスが広がりはじめ、なかなか思うようには貸し出しができないのが現状です。そんな中、「東京芸術祭」や、東京芸術劇場と連携した「サラダ音楽祭」などを行なっています。

公益財団法人 としま未来文化財団 施設管理部 施設管理課長 岸本 匡史 氏

野外劇場で響きを付加するヤマハ音場支援システム「AFC」

音響機器についておうかがいします。まず特徴的なのは音場支援システム「AFC」ですが、どのような理由で導入されたのでしょうか。

岸本氏:
そもそも野外の劇場でありながらクラシックを楽しめる劇場というコンセプトがありました。舞台上に音響反射板は用意しましたが、それだけでは音量も響きも足りないということで、自然な響きを電気的に付加する音場支援システムの導入を検討しました。音響支援システムは劇場やホールのような屋内空間に導入することが一般的のようですが、野外劇場にも有効であるということで導入に至りました。

アンプ室に設置された音場支援システム「AFC」
ステージ上部に設置されたAFC用収音マイク
周囲の柱にはオーディエンスを囲むようにAFC用のスピーカーが6カ所、計12台設置されている

実際に「AFC」を使用してみて、音の印象はいかがでしょうか。

岸本氏:
非常に自然な響きで、コンサートホールで聴いているのと同じような印象を持ちました。ストレスなく普通にコンサートが聴けていることに「あれ、おかしいぞ?」とあとで気づくぐらい自然な響きだと思います。よくよく考えると野外でコンサートホールのような響きが生まれるはずはありませんが、響きが自然なのでお客さんは音場支援システムの存在に気づいていないでしょうね。

深井氏:
私も非常にいい響き、いい音だと思いました。せっかくなので、このポテンシャルを試したい、という気持ちが起きて最初の頃はついつい音が大きくなってしまうこともありました。その後音量を見なおし、今はちょうどいいところで落ち着いています。

中村さんは「AFC」を実際に操作されているそうですが、使ってみてどんな印象ですか。

中村氏:
音響オペレートを担当する時だけでなく、外部のエンジニアさんが乗り込みで来られたときも「AFC」は私が調整しています。先ほど岸本が申し上げたように、「野外なのにきれいな響きがある」というよく考えるとおかしなことが起きているわけですが、それをいかに自然に聴かせられるかが「AFC」の使いこなしのポイントだと思います。能力としては残響室のように不自然なほど深い響きを出すこともできますが、それでは導入した意味がありません。野外であることを忘れてしまうような、でも響きが加えられていることに気づかないぐらいの自然な印象になるように心がけています。

公益財団法人 としま未来文化財団 施設管理部 施設技術課 音響技術グループ 主査 中村 成志 氏

操作にあたって注意している点などはありますか。

中村氏:
野外ですからその日の天候や気温、湿度で響きが変わりますし、ここは客席エリアの地面が石なので、夏場は夕方になってもかなり暑いですし、冬場は逆にすごく冷えます。こうした状況は時間帯でも変わりますから、昼リハーサルで夜本番といった場合はリハと本番が同じ設定でいいとはかぎりません。その設定のさじ加減でずいぶん響きが変わってくるので、可能な限り客席で実際の響きを聴きながら「AFC」をリモート操作で調整しています。

客席からリモコンで「AFC」を操作するのですか。

中村氏:
Wi-FiでiPadをつないで「ProVisionaire Touch」画面で「AFC」をリモート操作しています。響きって、やはりその瞬間の音なので、そのときに現場で聴かないと、初期反射がどれぐらいなのか、サスティンがどう伸びているのかなどがわかりません。「AFC」は客席でのリモート操作ができるのでとても使いやすいと思います。

「AFC」は機器のリモートコントロール、モニタリングが可能なアプリケーションソフトウェア「ProVisionaire Touch」により iPadでのリモートコントロールが可能

NEXOスピーカーによるパワフルな再生系と、誰にでも扱いやすいデジタルミキサー ヤマハ「QL1」

先ほど音量のお話がありましたが、メインスピーカーとして導入したNEXO「GEO M10」ラインアレイシステムの音や使い勝手はいかがでしょうか。

中村氏:
NEXOらしいいい音ですし、音量も十分出ています。ここは繁華街の真ん中の野外なのである程度の音量は必要なんですが、パワーは十分ですね。この周辺は店舗やオフィスが多く、音量を出し過ぎたり低音を強調しすぎると周囲施設などにご迷惑をおかけしますので、特に注意をしています。

NEXO「GEO M10」ラインアレイシステムがメインスピーカーとしてステージ上部の左右に設置されている

調整卓にはデジタルミキシングコンソール「QL1」を導入していただきました。使用感はいかがでしょうか。

中村氏:
「QL1」はまさにヤマハの定番ですよね。私自身はその前のDMシリーズを使っていた世代ですが、今ではすっかりQLシリーズやCLシリーズに慣れました。使い勝手の良さもさすがにヤマハですし、「QL1」なら外部のエンジニアが来ても扱えるので問題ありません。iPadで操作できるアプリ「QL StageMix」を使って客席でミックス作業をすることが多いですね。

バックステージに設置された「QL1」
iPadでQL1がリモート操作できる「QL StageMix」

伝送はDanteを使用しているのでしょうか。

中村氏:
基本的にDanteネットワークをしっかりと入れています。館内ではどこにでもネットワークオーディオを使うような環境は整えられていますし、客席側にも引き回してあります。Danteはほぼ業界のデファクトスタンダードですので、乗り込みの方にとっても使いやすい環境が提供できていると思います。

Dante用L2スイッチヤマハ「SWP1-8」

池袋西口に生まれた野外劇場と公園が融合した快適なスペース

コロナ禍でなかなか思うように稼動はできないかと思いますが、お客さまの反響などがあったら教えていただけますか。

深井氏:
「グローバルリングシアター」ができてから公園利用者の方々にアンケート調査を行ったところ「きれいになった」「明るくなった」「居心地がよい」など、心地よい場所になったというご意見を多くいただきました。それは計画段階から目指していたことで、よかったと思っています。「グローバルリングシアター」は野外劇場でもありますが、同時に公園の場としての顔もあります。イベント広場でもあり、劇場でもあり、公園でもあるといういろんな要素がうまく融合できたと思っています。

今後グローバルリングシアターをどのように活用していきたいと思いますか。

深井氏:
やはり、たくさんの方々にご利用いただく、そして区民の皆様、近隣の方々に愛される施設になれば成功だと思っています。

岸本氏:
ここは劇場でもあると同時に不特定多数の方が憩う公園でもありますので、やはり安全・安心が第一で管理してきたいです。また音響機器の設置状況としては過酷な環境ですので、しっかりと保全しながら、いい音をご提供できる場でありたいと思います。

中村氏:
ここは野外で「AFC」という音場支援システムを使用している珍しい場でもありますので、ここでの事例はどんどん発信して同じようなことをやられている方の参考にしていただきたいですし、聴きに来ていただきたいですね。そしてこの場を活用していろんな「AFC」の実験をしていただいてもいいと思います。ここはもともとオープンな場所ですし、ノウハウも隠す必要はないですから、どんどん共有していきたいと思います。

本日はご多忙の中、ありがとうございました。

池袋西口公園野外劇場 グローバルリングシアター
https://globalring-theatre.com

ヤマハサウンドシステム株式会社 納入事例ページ
https://www.yamaha-ss.co.jp/halls-in-japan/tokyo-globalring-theatre.html

製品情報

ヤマハ音場支援システム AFC
デジタルミキシングコンソール QL1
NEXO ラインアレイシステム GEO M10

* iPadは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。