【導入事例】四季株式会社 様 有明四季劇場 / 劇場 / 東京

Japan/Tokyo Sep.2021

撮影: 上原タカシ

2021年9月、東京・有明の地に「有明四季劇場」が開館しました。1998年に開幕以来ロングラン記録を更新し続けているディズニーミュージカル『ライオンキング』はこの新劇場に拠点を移し、さらなる無期限ロングランに挑みます。

このたび有明四季劇場にデジタルミキシングシステム「RIVAGE PM5」が導入されました。導入の経緯や選定理由などについて、四季株式会社 技術本部 音響・音楽部 森下 要 氏にお話をうかがいました。

四季株式会社 技術本部 音響・音楽部 森下 要 氏

専用劇場として劇団四季の理想を目指した有明四季劇場

有明四季劇場の音響についてはどんなコンセプトで考えられているのでしょうか。

森下氏:
有明四季劇場は劇団四季の専用劇場として建設されました。客席数は約1,200席です。専用劇場では、劇団四季の伝統的なスタイルに則るのと同時に、私たちの理想を追求し続けることができます。それは、たとえば客席の配置や壁面、それから音響面でも残響時間の設定などに表れています。

撮影: 荒井健

劇団四季としては、劇場の響きは少ない方がいいのですか。

森下氏:
響きすぎず、しかし響きを抑えすぎない、という劇団四季の先輩方から受け継いだ理想値があり、有明四季劇場も一般の劇場よりは響かない設計にしています。私たちの演目は多数のスピーカーを使うので、劇場が響きすぎると残響のコントロールが難しくなります。劇場固有の響きに我々が音響システムで作る響きを加えることで演目にあったいちばんいい響きを作り出したいんです。

通常の劇場より吸音材などで響きを抑制しているということですか。

森下氏:
はい。有明四季劇場は他の専用劇場よりさらに吸音しています。吸音に関しては音響面以外の理由もあります。近年は舞台機構や照明機材の自動化が進んでいるのですが、それに伴ってファンやモーターなどの機械音が大きくなってきました。そうした暗騒音を抑えるために吸音しているという側面もあります。

これから有明四季劇場で『ライオンキング』のロングランに挑むわけですね。

森下氏:
劇団四季と言えば『ライオンキング』と言われることもあるように、日本での通算上演回数がすでに13,000回を超えていますから、もう観られた方も多いし、予備知識を持たれている方も多い。日本では、初めて観劇したミュージカルがこの作品という方も多いと思います。そこで今後大切なことはクオリティを保つということです。これからも長く続けていきたい作品だからこそ気を引き締めていきたいと思います。

『ライオンキング』という演目の音響面の難しさはありますか。

森下氏:
音響面で言えば、『ライオンキング』はパーカッションが生演奏で、オーケストラは再生音なんですね。その生音と再生音のミックスをいかに自然に聴かせるかが難しいところです。また作品内のあるシーンでは音像を移動させる表現が必要になるため、館内にたくさんのスピーカーが設置されていて、ミキサーのスピーカーのアウトプットだけで40以上あります。音像移動はシーンデータを作って物語のシークエンスと連動させてシーンをオートメーションで動かすことで120を超える数のスピーカーからの出音を制御しています。

劇団四季はアナログミキサー時代からヤマハを使用

今回有明四季劇場で「RIVAGE PM5」を選定した理由を教えて下さい。

森下氏:
もともと劇団四季は今まで、アナログミキサー時代から歴代のヤマハのミキサーで使っていない機種はないというぐらい使い続けています。ですから第一にオペレーターがヤマハのミキサーの操作性に慣れているということがあります。この劇場でも最初は以前の劇場で使用していた「CL5」という話もあったのですが、ちょうどいいタイミングで「RIVAGE PM5」が発表されたので、使おうということになりました。
またずっとヤマハを使っているのは、ヤマハを応援しているという面もあります。劇団四季は輸入ものの演目が多いんですね。ですから海外オペレーターやデザイナーは海外製品を指定することが多いのですが、ヤマハでも操作できるように試行錯誤しています。ヤマハのミキサーでもこのように設定すればできるよって彼らに提案してみたいと言う気持ちもあります。

デジタルミキシングシステム「RIVAGE PM5」
PAブースには「RIVAGE PM5」が2台設置されている

ヤマハを応援してくださっているのはどうしてですか。

森下氏:
国内のメーカーに頑張ってほしいというのが第一です。ヤマハとの長い付き合いの中で信頼関係が生まれ、改善点やアイデアを伝えると、できる限り製品に反映するよう努力してくれます。何かトラブルが生じた時、すぐに相談できることも大切です。実はこれが一番かもしれません。海外とのやりとりとなると、英語だったり、時差があったりで、どうしても時間がかかりますが、ヤマハなら日本語ですぐに連絡がとれます。オペレーターが使用に慣れていることも大きな理由の一つです。

「RIVAGE PM5」はフェーダーのタッチが滑らかで、バーチャルサウンドチェック機能も便利

実際に「RIVAGE PM5」を使ってみて良かった点を教えてください。

森下氏:
まず操作性ですね。フェーダーの操作感をとても気に入っています。またディスプレイがタッチパネルで3面あるので、慣れは必要ですが操作性はかなり良くなったと思います。

音に関してはいかがでしょうか。

森下氏:
I/Oが前の劇場の「Rio3224-D」から「Rio3224-D2」にグレードアップしたのでS/Nが非常に良く、クリアな音になりました。

PAブースの「Rio3224-D2」
舞台下手袖に設置された「Rio3224-D2」

機能に関して「RIVAGE PM5」のいい点はありますか。

森下氏:
まだ本格的には使っていませんが「RIVAGE PM5」に搭載されている「バーチャルサウンドチェック機能」が便利です。リハーサルをマルチトラック録音しておいてパッチを切り換えることで、俳優がいなくても音響のリハができます。これは音像移動のオートメーションを組む時などでも便利だと思います。この劇場ではこれから『ライオンキング』をロングラン上演することになります。ロングランでは同じ人間が何年も同じ演目を続けるということはないので、引き継ぎが大切になります。その時々の操作の流れ、録音再生のタイミング、レベルが変わるタイミングなどを伝達するときに、バーチャルサウンドチェック機能は便利に使えると思います。

バーチャルサウンドチェック機能の画面

今後森下さんが劇団四季の音響としてやってみたいことはありますか。

森下氏:
やっぱり新しいことって面白いので、新しい物はどんどん取り入れていきたいです。たとえば今は、空間の中の音を動かすことを、どうしたら印象づけられるかというのを考えています。今まではシーンをオートメーションでめくって少しずつ動かすことをやってきましたが、それをよりスムーズにする方法を考えています。

ロングラン公演だと新しいことを取り入れるにはリスクもありますよね。

森下氏:
現場のオペレーターは毎日が本番なので安全重視で、いつもと同じ機材で、いつもと同じオペレーションをすることでできるだけトラブルを避けたいという気持ちを持っています。そんな彼らに先ほどの「バーチャルサウンドチェック機能」もそうですが、こっちから便利な機能があるよって、使って見せると現場からも「なるほど便利ですね」といった反応が返ってきます。そういった新しいものを探して提案すること、より安全で便利なもの、より効率的なものをオペレーターたちが安心して使えるような形で提案するのも僕の役割だと思っています。

オペレーターアンケート

チーフオペレーター 渋谷 昌子 氏

渋谷 昌子 氏

音響に携わってこられた経歴と劇団四季でのご担当された演目を教えてください。

四季に入団する前は宝塚の舞台や弘前文化会館で音響の仕事をしてきました。四季に入ってからは9年経ち、今までに担当した演目は、『人間になりたがった猫』『ふたりのロッテ』『コーラスライン』『ライオンキング』です。

「ライオンキング」の音響上の特徴を教えてください。

この作品は冒頭、遠くから動物たちが集まってくる表現を効果的にするため、客席の音像移動があったり、SEを壁面スピーカーから出したりします。また『ライオンキング』で印象的な冒頭とラストのシーンなどで使用する客席後方に設置しているサブウーファーは特徴的だと思います。
パーカッションのみ生演奏で、録音されたオケと生演奏を混ぜて公演を行なっています。また、メインのお芝居、歌唱はもちろん、アンサンブルコーラスも大きな役割を担っており、コーラスバランスも重視しています。

「RIVAGE PM5」を使ってみた感想を教えてください。

フェーダーが「CL5」に比べて軽く滑りがなめらかなので自分が思っているよりもかなり繊細なオペレートを行わないと指の動きが音にダイレクトに出てしまいます。

今後「RIVAGE PMシリーズ」試してみたい使い方や機能があれば教えてください。

現在、稽古場・本番で使用しつつ新しい機材、環境に慣れていっている状況です。今後、余裕が出てきたらバーチャルサウンドチェック機能を試してみたいです。

サブオペレーター 南 成嬅 氏

南 成嬅 氏

音響に携わってこられた経歴と劇団四季様でのご担当された演目を教えてください。

劇団四季に入団して13年、今までに担当した演目は『アイーダ』『桃次郎の冒険』『恋におちたシェイクスピア』『ガンバの大冒険』『カモメに飛ぶことを教えた猫』『ライオンキング」です。

『ライオンキング』の音響上の特徴を教えてください。

パーカッションの生演奏と録音されたオケを混ぜて公演を行なっています。

「RIVAGE PM5」を使ってみた感想を教えてください。

これまで使っていた「CL5」よりも便利な点は、1つのインプットChにA InputとB Inputができてバックアップのチャンネルを作らずに同じChに同じ設定で使えることや、Global Pasteが細かく分かれていて初期値の直しや調整のときに修正などが楽でした。またTheatre Modeも「RIVAGE PM5」の特徴だと思います。

ご多忙中ありがとうございました。

劇団四季|有明四季劇場
https://www.shiki.jp/theatres/ariake/

製品情報

デジタルミキシングシステム RIVAGE PMシリーズ