【導入事例】阿寒湖の森ナイトウォーク KAMUY LUMINA(カムイルミナ) / 北海道

2022年6月18日(土)から11月19日(土)まで、北海道・釧路市の阿寒摩周国立内の阿寒湖温泉にて、音や光、プロジェクションマッピングなどのデジタル技術で構築されたアイヌの神々「カムイ」の物語を冒険する体験型アクティビティ「阿寒湖の森ナイトウォーク KAMUY LUMINA(カムイルミナ)」が開催されています。

来場者は、アイヌの杖をモチーフにした「リズムスティック」を手に、プロジェクションマッピングやシノグラフィー(光と音の舞台装置)などのデジタル技術でさまざまな演出や仕掛けがちりばめられた幻想的な夜の森を散策しながら、「自然との共生」の大切さを伝えるアイヌ神話の物語を体験します。

その主旨や概要、音響設備の運用・管理について、主催者の阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社の大川 伸二 氏、高橋 智之 氏、間宮 宏明 氏、および音響・映像・美術を担当した株式会社プリズムの松浦 靖 氏にお話を伺いました。


体験型マルチメディア・ナイトウォーク「KAMUY LUMINA」概要

「KAMUY LUMINA」は、東京オリンピック閉会式における光の演出やサグラダ・ファミリアでのプロジェクションマッピングなど、世界中で最先端技術を駆使したイベントを手がけるマルチメディア・エンターテイメント・スタジオMoment Factoryが制作した「ルミナ・ナイトウォーク・シリーズ」の10作目となる作品です。2019年にオープンし、惜しくも新型コロナウイルス感染症の影響で中止となった2020年を経て、2021年に続き今年は開催3年目を迎えています。

「ルミナ・ナイトウォーク」は、その土地がもつ固有の文化や美しい自然にインスピレーションを受け、幻想的な光と音、演出、映像、そしてインタラクティブな仕掛けを通じ、言語を超えて人々の心を動かす体験型マルチメディア・ナイトウォークです。Moment Factoryの本拠地、カナダ・ケベック州に加えて北米・欧州・アジアと世界各地で展開されており、今回は阿寒摩周国立公園が舞台となりました。

「KAMUY LUMINA」の企画から今後への展望

阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社

世界で唯一となった国立公園でのLUMINA事業

この地域は国立公園ということで自然が豊富で、サイクリングやトレッキング、釣りなどのアクティビティが楽しめます。国立公園を擁する観光地域における地域経済の活性化を目指すべく、2016年に環境省が「国立公園満喫プロジェクト」を立ち上げました。「KAMUY LUMINA」もその取り組みを受けて企画されました。国立公園内で開催するLUMINAはMoment Factoryにとっても全世界で阿寒湖が初めてです。

そもそも、ナイトウォーク「KAMUY LUMINA」を企画した背景には、もっと多くの方に阿寒湖温泉に宿泊していただきたいという意図があります。そのためのコンテンツの候補はいくつかあったのですが、「KAMUY LUMINA」はアイヌ文化をベースにしたストーリーほか、この土地ならではのコンテンツが盛り込まれている点が魅力的でした。ナイトウォークによって、お客様には日中は阿寒摩周国立公園の豊富な自然を、夜には同じ国立公園の全く新しい世界観を、と阿寒の二面性を楽しんでいただけるようになりました。

今回のストーリーは、アイヌ民族に伝わる数多くのユーカラ(叙事詩)の中から「コンクワ」という、フクロウの神の謡(うた)とカケスの物語がベースになっています。アイヌの方々はとても先進的で、アイヌ文化と現代文化や最先端技術の融合に対して理解を示してくださいます。そのような土地柄もあり、「KAMUY LUMINA」にはアイヌの文化を若い世代にも受け入れていただくために、デジタルアートなどと組み合わせた工夫が盛り込まれています。

SDGsにも繋がるストーリー「自然との共生」

ストーリーのテーマの1つは、「自然との共生」です。「共生」というのは、必要以上に動物を捕りすぎないことです。人間が動物を必要以上に狩って食べたことで、カムイ(神)が怒って自然界から人間界へ動物を送ることを止めてしまいました。その後、人間たちが考えを改めることによって動物が帰ってくるというお話で、ある意味SDGsの考え方を先取りしています。

このように、生きていく上での物の大切さや動物への敬意といったアイヌ民族のメッセージは、子供たちにも大きな影響を与えます。このため、釧路市、北見市、帯広市の教育委員会を通して学校でチラシを配布しました。温泉街ということもあり、ご家族連れは多いと聞いています。

観光振興の一般的なアプローチとして、最初に大規模なプロモーション活動を行い幅広く周知してからお客さまに来ていただくという考え方があります。一方私たちは、まず地元の方々に知ってもらい地元のすばらしさを発信していただくことが最高のプロモーションだと考えています。道内外の観光客の方も「KAMUY LUMINAっていうイベントがあって、すごくいいよ」と地元の人から聞けば、本当にお薦めなんだなと興味を持ってもらえるでしょう。実際にお客様からも非常に好評で、「また来たいです」というお声を多くいただきます。今後は国内のお客様に限らず海外からのビジターの方々にも見ていただきたいですね。

さらに「自然との共生」の観点から、国立公園内の野鳥や動物に配慮してプロジェクションマッピングのためのスクリーンや一部の照明器具を毎日設営・撤収しています。雨の日も梯子をかけて毎日設営・撤収を繰り返しています。また、日中の景観を大切にするために、人工物がお客様の目に入らないように軍用の迷彩ネットなどをかけ、違和感のないように工夫しています。

プロジェクションマッピング用のスクリーンは毎日設営しチェックを行う
スピーカーも巧みにカモフラージュされている
カモフラージュを外したスピーカーVXS8

アドベンチャーツーリズムやワーケーションにも注力

今後、阿寒アドベンチャーツーリズムとしましては「KAMUY LUMINA」に加えて、「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち2つ以上で構成される旅行」と定義される、「アドベンチャーツーリズム」事業にも力を入れていきたいと考えています。海外の方は自然を使ったアクティビティを生み出すことが得意ですが、国内ではアドベンチャーツーリズムはまだ定着していません。阿寒にはこれだけ大自然が残っているので、もっと知っていただきたいです。

また、私たちは移住推進にも取り組んでいます。釧路市の夏は全国一涼しく、最高気温が25℃までしか上がらないため夏でも半袖シャツがいらないくらいです。釧路市としても、本州方面からの夏の短期移住プロジェクトに取り組んでおり、阿寒湖周辺のホテルにはワーケーションに対応した個室やブースを備える「コワーキングスペース」が新設されました。真夏の間だけでも阿寒に住んで良さを知っていただきたいと考えています。

過酷な環境下でも信頼できるヤマハの音響システム

株式会社プリズム

阿寒アドベンチャーツーリズムから委託を受け、オープン時にはMoment Factoryと共同で施工し、また日々の技術運営・オペレーションと維持管理・保守を担当しています。14時から16時半(冬は13時半から16時)に機器のメンテナンスを実施し、本番の1時間前になるとスクリーンやLED照明の設置とウォーキングチェックを行います。本番30分前になると本番のショーのオペレーションを開始し、21時半(冬は21時)に最後のグループが出発するとスクリーンやLED照明を撤収します。

Moment Factoryにとっても、LUMINAの取り組みの中で設置と撤収を毎日行う運営は過去に例がありませんでした。また、冬季休業中の現場や機器の保管も初めてのことでしたので、一つ一つ相談しながら運用方法を決めました。

ナイトウォークの会場は8つのゾーンに分かれています。パワーアンプはヤマハの「XMVシリーズ」をいくつかのシェルター内に設置し、スピーカーはヤマハの「VXS8」を計32台、「VXS5」はチケットエリアを含め計6台設置しています。音源や映像の再生システムからXMVシリーズアンプへの伝送にはDanteを使用しています。XMVシリーズはIPアドレスが設定が簡単にできて、ネットワークに詳しくない人にも対応できるシステムになっていますね。

屋外イベントはどうしても天候に左右されるので、そこをどう克服していくかのかが大変でした。実際にはラックボックス内にエアコンとヒーターを設置し、Wi-Fi接続された温湿度計をリモートでモニタリングするなどして温度・湿度を管理しています。

ここまで、ヤマハの製品を3年間使ってみた感想としては、安定していると感じます。コストパフォーマンスもいいです。スピーカーに関しては、今後IP等級がもう少し高いものや完全防水のものが出てくるといいなと期待しています。

パワーアンプ「XMVシリーズ」が設置されたシェルター内はエアコンとヒーターが取り付けられ、温度・湿度がリモートで管理されている
左から阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社 事業企画総務部長の高橋 智之 氏、プリズム株式会社の松浦 靖 氏、阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社 ルミナ事業部長の間宮 宏明 氏、同 常務取締役 AT事業部長の大川 伸二 氏

製品情報

スピーカーシステム VXSシリーズ
パワーアンプリファイアー XMVシリーズ