【使用事例】佐々木 直 氏と村山 知弘 氏が採用したRIVAGE PMシステムとNEXO「P15」 / ライブサウンド

Japan/Chiba Sep.2023

今夏、全国5都市で開催された大規模ワンマン・ツアーにて「RIVAGE PM5」がFOHとモニターの両方で採用され、さらにウェッジ・モニターとしてNEXO「P15」も活用されました。アーティストはエネルギッシュなライブ・パフォーマンスとスピード感あふれるサウンドで、国内外で絶大な人気を誇る4人組ロック・バンド、ELLEGARDEN。

圧巻のライブ・サウンドを支えた「RIVAGE PM5」とNEXO「P15」の選定理由と使用感について、エンジニアの佐々木 直 氏(HyperSound/FOH担当)と村山 知弘 氏(KHC/モニター担当)のお二人にお話を伺いました。


ライブ・サウンドの第一線でご活躍されている佐々木 直 氏と村山 知弘 氏

まずはお二人がこの世界に入られたきっかけからおしえていただけますか。

佐々木氏:
昔から音楽が好きだったのですが、ミュージシャンでやっていくのは無理だなと思って、音響の専門学校に行くことにしたんですよ。高校時代に機材を借りて、PAのようなことを見よう見まねでやっていたので、音響だったら自分でもできるかなと。専門学校は東京工学院というところで、ぼくは九州出身なので、専門学校入学をきっかけに上京した感じですね。そして上京後、割と早いタイミングで、レオミュージックのPA部にアルバイトとして雇ってもらったんです。

ですから専門学校に通いながらレオミュージックで働くことになったわけですけど、最初の2年間はまったく卓には触らせてもらえませんでしたね。社員の人からは、“見て盗め”と言われましたけど(笑)。結局、レオミュージックのPA部では3年くらい働いたのではないかと思います。

最初からレコーディングではなくPA志望だったのですか?

佐々木氏:
専門学校に入学した段階では、レコーディング・エンジニアとPAエンジニアの違いがよく分かってなかったですね(笑)。授業はレコーディングとPAが半々という感じでした。アーティストのマネージャーさんに一口坂スタジオをご紹介いただいて、レコーディングの勉強に行ったこともあります。その時にエンジニアの方が同じ箇所を繰り返し再生して、“どっちのミックスの方がいいと思う?”と訊かれたことがあったんですよ。でも正直、ぼくには違いがよく分からなくて……。音楽をそういう風に聴いたことがなかったですし、1曲通して聴かないと、曲の良し悪しなんて分からないんじゃないかと思ったんです。それでレコーディングはちょっと違うのかなと思って。あとは単純にライブが好きだったというのも大きいですね。

レオミュージックのPA部の後は?

佐々木氏:
消費税が導入された年(注:1989年)にレオミュージックのPA部が無くなることになり、当時一緒に働いていた仲間が5人いたんですけど、1人は地元の北海道に帰って、別の1人は『日清パワーステーション』にオープニング・スタッフとして入り、残りの3人でセレサというPA会社を始めたんです。それが24歳のときで、レオミュージックのPA部の機材を引き継ぐ形でスタートしました。フリーになったのはその3年後、27歳のときなんですが、きっかけは何人かの知り合いから“佐々木がフリーになってくれると、もっといろいろ仕事を振れるのに”と言われたからですね(笑)。

フリーになったときは、もう完全にゼロからのスタートでしたね。独立する前、ぼくはGO-BANG'Sという女性バンドを手がけていて、ちょうど武道館ライブが決まって勢いに乗っているところだったんですが、これは自分が取ってきた仕事ではないので会社に残そうと。メンバーは、“佐々木さん、一緒に武道館やりましょうよ”と言ってくれたんですけど、独立したタイミングできっぱりGO-BANG'Sの仕事はやめました。まぁ、自分的にも、1回ゼロから始めたかったんだと思います。

フリーランスとなった後も、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTなど著名なバンドのPAを数多く手がけられてきたわけですが、自分のどのあたりが業界で評価されているのだと思っていますか。

佐々木氏:
常にがんばって仕事をしてきたので、それを見てくれている人は見てくれているということなんじゃないでしょうか。同じように昔からがんばっていた人たちは皆、ちゃんと残っていますし。結局、人と人との繋がりというか、現場で“いつか一緒に仕事したいよね”という話になって、それが数年後にタイミングが合って実現したり。でも、もちろん腕も大事なので、単に人付き合いだけではないと思いますけどね。

たまにフリーのエンジニアさんから、“どうやったら仕事を取れるようになりますか?”と相談されますけど、ぼくは営業しているわけではないですし、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTに携われたのも運が良かった。でも、運が良いだけでもダメで、声をかけてもらったタイミングで自分のスケジュールが空いてなければどうしようもないわけですし、いろいろなことが上手くいって、たまたま続けてこられたんじゃないかと思っています。

佐々木 直 氏(Hyper Sound / FOH担当)

村山さんがPAの世界に飛び込まれたのは?

村山氏:
ぼくは福岡出身で、十代の頃ライブハウスにバンドとして出演していたんですけど、そのバンドでレコーディングをしたときに、エンジニアさんとのコミュニケーションが上手く取れなかったんですよ。言葉で説明しても、自分がイメージするような音にならないというか...。だったら自分で勉強した方が早いんじゃないかと思って、19歳のときにライブハウスで働くようになったんです。そして23歳のときにフリーになりました。

フリーと言っても、地方なのでレコーディングやライブハウスの小屋付きなど、いろいろなことをやらないと食べていけない。その過程で知り合ったのがSPC peakperformanceというPAチームで、ツアー先の九州での仕事を少しずつ振ってもらえるようになり、35歳のときに“自分もSPCの一員にしてください”と代表の西片さんにお願いして上京しました。

上京した年が東日本大震災の年で、その後の復興時に東北にライブハウスを作るというプロジェクト(東北ライブハウス大作戦)をSPCで立ち上げたのですが、そこで細美さん(注:ELLEGARDEN/ the HIATUS / MONOEYES / the LOW-ATUSのボーカル・ギター、細美武士氏)と知り合ったんです。そして2015年に細美さんがMONOEYESというバンドを始められたときに、モニターとして入ることになりました。それから2018年にELLEGARDENが復活する事になり、モニターに選出していただき初めて佐々木さんとハウスとモニターでタッグを組む事になり、現在に至ります。

村山 知弘 氏(KHC / モニター担当)

ヤマハのデジタルミキサーとの出会い

佐々木さんが初めて使用されたヤマハのデジタルミキサーは、どのモデルですか?

佐々木氏:
「PM1D」や「PM5D」は何度か触った程度で、じっくり使ったのは「M7CL」が最初ですね。ぼくの45歳の記念イベントがあったんですけど、貰ったお金を何かの形で残そうと思い、発売になったばかりの「M7CL」を購入したんです。ボタン1つですべてが切り替わるのは便利なんですが、それって凄く怖いことでもあるわけじゃないですか。そのデジ卓ならではの感覚に、ぼくらもそろそろ慣れておいた方がいいんじゃないかなと。みんな暇なときはウチの駐車場で「M7CL」をいじり倒していたので、あれによってデジ卓への恐怖感がかなり和らいだのではないかと思います。

「M7CL」という卓はいかがでしたか?

佐々木氏:
ぼくは好きでしたね。日本武道館のライブ現場でもFOHで使いましたし。周りからは、“本当に「M7CL」でやるんですか?”と驚かれましたけど(笑)、ぼく的には“何がいけないの?”という感じでしたよ。もちろんフロント返しで使うとラックの制限ができてしまうんですけど、FOHで使う分にはまったく問題ありませんでしたから。いろいろなメーカーのデジ卓を使いましたけど、自分にはヤマハが一番合っている気がしています。

ヤマハのデジタルミキサーのどのあたりを最も評価されていますか?

佐々木氏:
一番は操作性です。アナログ卓では不可能だった全チャンネルにコンプやゲートをインサートするということがデジ卓で可能になったわけですが、当然すべての操作子が表に出ているわけではないので、切り替えながら操作しなければならない。でも、ぼくらエンジニアは、瞬間的にミックスしなければならないんですよ。いちいち考えて操作していたのでは、反映されたときには音はもう通過してしまっていますから。

つまりアナログ卓とデジ卓の一番の違いは操作性なんですが、個人的にはヤマハのデジ卓が一番直感的に操作できるという印象があります。ぼくはもう60過ぎているので、小さな文字は覗き込まないと見えないんですけど(笑)、ヤマハは覗き込まなくても見えるというか。他のメーカーも、操作性についてはかなり考えているとは思うんですが、ぼく的にはやっぱりヤマハが一番ですね。

エフェクターも使いやすいんですよ。ディレイなんかはどのメーカーでも大して変わらないと思いますが、リバーブは同じ数値でもメーカーによってかかり方が違ってくる。その点ヤマハのリバーブは、使い慣れているというのも大きいんでしょうが、自分の感覚に一番近いですね。

それとぼくは、ヤマハのコンプの“止まり方”と、ゲートの切れ方が好きなんです。他のメーカーの卓だと、メーター上は切れていても、“これ、本当に切れているのかな?”と感じることがあるんですがそういう感覚がない。コンプに関しても、最近は止まり過ぎると感じるものが多いんですがそのあたりも凄く自然。ぼくは張ったときにちょっとかかるくらいが好きで、止まり過ぎるコンプは嫌いなんですけど、ちょうどそんな感じのかかり方なんです。

ELLEGARDENの大規模ワンマン・ツアーで活用された「RIVAGE PM5」

今夏開催されたELLEGARDENの大規模ワンマン・ツアー、『Get it Get it Go! SUMMER PARTY2023』では、FOHとモニターの両方で「RIVAGE PM5」を使用していただきました。今回のツアーで、「RIVAGE PM5」を選定された理由をおしえてください。

佐々木氏:
いろいろなデジ卓がありますが、違うバンドのホール・ツアーでRIVAGE PMを使用し、使い勝手が良かったので今回もこれでいきたいなと。

村山氏:
これまでもモニターはヤマハの卓を使ってきたわけですが、「CL5」ですと使用できる『Premium Rack』の数に制限があったり、いろいろと限界がきていたんです。とはいえ、最近は『Premium Rack』ありきの音づくりになっているので、それだったらもうRIVAGE PMを使うしかないだろうと。

ツアーを終えて、あらためて「RIVAGE PM5」というデジタルミキサーへの感想をお聞かせください。

佐々木氏:
音質に関しては、当たり前ですけど、悪くないと思います。96kHzについては、今回のツアーはオープン・エアーの大きな会場ばかりでしたので、違いがよく分からなかったというのが正直なところです(笑)。ZOZOマリンスタジアムのようなすり鉢状のスタジアムは、ぼくはあまり経験したことがなくて、前にやったときはけっこう苦戦したんですよね。でも今回は制限がそれほどキツくなく、規制の範囲内で出したら、割とそれで決まってしまった感じで、全体にやりやすくできた印象です。

村山氏:
卓からのアウトをアナログとデジタルのどちらにするか、システムに両方で受けてもらって、会場ごとに聴き比べてましたよね。

佐々木氏:
両者を聴き比べたときに一番印象が違うのは低域なんです。デジタルの方が低域が締まっていて、ベースとキックが分離良く出る感じがある。でも低域が締まった分、ボーカルの出方も変わってきて、アナログで出した方がボーカルはハマるときがあるんですよ。それはEQでは補正できない変わり方なので、会場ごとに実際に音を出して聴き比べましたね。今回のツアーは、最初アナログでスタートして、後半は途中でアナログに変えたときもありましたけど、基本デジタルだったのではないかと思います。似たような話で、前のツアーのときに96kHzで始めたら低域が落ち着かなかったので48kHzに変えたということもありましたね。

「RIVAGE PM5」の操作感はいかがですか?

佐々木氏:
何と言っても画面が大きくて見やすいです。

村山氏:
屋外の会場ですと卓にヒサシを付けることもあるんですけど、RIVAGE PMのは逆光でもちゃんと見えるのがいいですね。

佐々木氏:
デジ卓だと液晶が命だから画面が見えないと困ってしまう(笑)。RIVAGE PMは多分、サーフェスの角度がいいんじゃないかと思います。もっと寝ていたら反射しちゃうだろうし、これ以上起きていても見にくいだろうし。それとフェーダーの滑りも良く、凄くいい感じだなと。あとはやっぱり、iPadアプリの『RIVAGE PM StageMix』が便利です。iPadは、他のメーカーのデジ卓でも使えますけど、卓のレイアウトどおりではなかったり、何か使いづらい。その点、ヤマハのiPadアプリは直感的に操作できるので気に入っています。

ライブ会場では、どうしてもセンターに低域が溜まってしまうんですけど、かと言ってそこを切ってしまうと、サイドがベタベタな音になってしまう。そういった問題も、『RIVAGE PMStageMix』があれば会場を動き回りながら、“センターのローはそこまで要らないので脇に持っていって”とか、システムの人と相談しながら調整することができるんです。ヤマハのデジ卓の場合は、8ポイントのパラメがあれば、ほぼチューニングできてしまうので。あとはグラフィックで微調整すれば大丈夫ですね。

エフェクトはどんなものを使用されましたか?

佐々木氏:
マスターには『Buss Comp 369』を入れていますね。リバーブは最もスタンダードな『REV-X』の“REV-X HALL”というアルゴリズムを使用しました。ぼくはボーカルと楽器で別のリバーブを使用せず、ボーカルにもドラムにも同じリバーブをかけるんですよ。今回はリハの段階でCDに近い感じで追い込んで、リハーサルを録音してはプレイバックして、メンバーに楽曲のイメージや音質など細かな所を確認しあい進めて来ました。リバーブやディレイも掛かり過ぎないように注意され、意識して普段より薄目にしてみたりもしました。あとはロング・ディレイをきっかけ部分に、短いディレイをところどころで使った感じですね。ドラムに関しては、スネアには常にゲート・リバーブをかけています。

それとRIVAGE PMは、全チャンネルでEQやコンプをA/B切り替えられるのがいいですね。バラードとロック、ハンド・マイクとスタンド・マイクで、違うEQやコンプに切り替えることができる。A/B切り替えると、HAのパラメーターまで変わってしまうので少し怖いんですけど、そこはダブル・パッチにしておけば問題ない。A/B切り替えは、『SILK』とはまた違うウリの機能なのではないかと思います。

『SILK』は活用されましたか?

佐々木氏:
ずっと気になっていたので、ベースやキックで使ってみました。ボーカルにも少し使ったかもしれない。でも今回はそこまで試す時間が無かったので、機会があればもっとじっくり使ってみたいですね。

村山氏:
ぼくは『SILK』を『FUJI ROCK FESTIVAL』で使ってみたのですが、とても良かったですね。もう少し使い込めば、もっといろいろなことができるのかなと。ただ今回のツアーは、モニターのI/Oラックが「Rio3224-D2」だったので、『SILK』をインプットで使うことができなかったんですよ。でも『Premium Rack』のP2MB(Portico II Master Buss Processor)で『SILK』が使えたので、それでカバーすることができました。

モニター卓としての「RIVAGE PM5」はいかがでしたか?

村山氏:
最初はイヤモニで96kHzはどうだろうと少し不安だったんですよ。あまりに高解像度のきれいな音でも、ロックっぽさが損なわれてしまいますしね。しかしRIVAGE PMは、『PremiumRack』でエフェクトがかけられるので、まったく問題ありませんでした。イヤモニのすべてのアウトに『Buss Comp 369』を入れたのですが、良い感じに音がグッとまとまってくれて。その後に、P2MBを入れて、マスタリングっぽく使いましたね。

そして何よりCLやQLと互換性があるのがとても便利です。今回のツアーの前に、36本のライブハウスツアーがあったのですが、常設の卓だとアウトが足りないので、モニター用に「QL1」を持ち回ったんですよ。ライブハウスのマルチから分岐して「QL1」に立ち上げ、各メンバー用のミックスを作って。その「QL1」の最新の設定が、そのままRIVAGE PMで使えたのは本当に便利でしたね。

ウェッジ・モニターとしてNEXO「P15」も活用

今回のツアーでは、ウェッジ・モニターとしてNEXO「P15」を使用されたそうですね。

村山氏:
すべての会場で卓をフィックスしたのと同じように、ウェッジ・モニターも同じものを持ち回ろうと思ったんです。会場が毎回変わるのでステージ中の環境をなるべく同じ感じにしたかったので。基本イヤモニなんですが、アンコールでイヤモニ外したりした時の事を想定して、会場の空気感とウェッジ・モニターが混ざって違和感なく演奏できるようにできたらなと。

「P15」に関しては、ずっと使いたいなと思っていたんですよ。以前、「P12」を使用したことがあって、そのときの印象が凄く良かったんです。ボーカリストが欲しい帯域がそのまま出てくる印象で、ほとんどEQを使う必要がなかった。EQを使わないでおけば、アーティスト・サイドから何かリクエストがあったときも、音づくりがしやすいんですよ。

現場で使用して、「P15」も「P12」と同じ印象でしたか?

村山氏:
そうですね。それとウェッジ・モニターを96kHzで出したのは今回が初めてだったのですが、とても良かったです。96kHzで使用すると、「P15」の良さがより際立つのではないかなと。

長いインタビューになってしまいましたが、最後にNEXOについて、お二人のイメージをお聞かせください。

村山氏:
NEXOと言うと、“ロックっぽいサウンド”というイメージがあります。個人的にはAlphaSystemのイメージが強くて、地方のライブハウスではまだまだ現役だったりするんですけど、凄く好きなスピーカーですね。

佐々木氏:
ぼくもAlpha Systemが好きで、よくリクエストしますよ。ロックっぽい音で、ぼくが欲しいサブ・ローの帯域がしっかり出てくれるんです。他のスピーカーですと、スネアが揺れるくらい下が出ているものでも、40Hzあたりで切ってしまうと、消えてほしくない帯域まで無くなってしまったりするんですよ。その点Alpha Systemは、40kHz近辺で切っても、おいしい帯域はしっかり残っているんです。

それと積み方で音圧を変えられるのも便利で、ハイを振ったりして変則に組めば、変わった形の会場にも対応できる。実際、現場で鳴らしながら積み替えたこともありますよ。他のワンボックス・スピーカーでは、なかなかそういうことはできない。今はもうAlpha Seriesで表の数を揃えられるところは少ないんですが、本当に良いスピーカーだと思います。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

RIVAGE PM Series

新世代のフラッグシップ・デジタルミキシングシステム。