【導入事例】ハウステンボス「ファンタジーフォレスト」様 / テーマパーク / 長崎
Japan/Nagasaki Jan.2023
長崎県佐世保市にあるハウステンボスは、ヨーロッパのような街並みと石畳、海へとつながる運河など街と自然が調和した、日本一の広さを誇るテーマパークです。このたびハウステンボスの「ファンタジーフォレスト」にヤマハのサーフェスマウントスピーカー「VXSシリーズ」が採用されました。
その導入の理由や使い勝手などについてハウステンボス株式会社 マーケティング本部 辻本 剛 氏、施設のコンセプトやデザイン、施工などを担当した株式会社丹青社のクリエイティブディレクター 山本 啓介 氏、同 デザイナー 帯川 裕丞 氏、同 プロデューサー 石田 裕美 氏、そして機種選定や施設内の楽曲制作を担当したサウンドデザイナー・作曲家 山崎 陽 氏にお話をうかがいました。
全天候型のキッズ向けアスレチック施設「ファンタジーフォレスト」
最初にハウステンボスの「ファンタジーフォレスト」について教えてください。
辻本氏:
ハウステンボスは「花と光の感動リゾート」をキーワードとした日本最大規模のテーマパークです。モナコ公国と同じ広さという広大な敷地内に、ヨーロッパの街並みと季節ごとの花畑、花火やイルミネーション、クリスマスなど四季折々のイベントでご好評をいただいています。
「ファンタジーフォレスト」は2022年7月にハウステンボス内にオープンしたキッズ向けの室内アスレチックで、お父さんやお母さんが見守る中で子どもたちが12種類のアトラクションを自由に回遊できる施設です。従来のハウステンボスは屋外の施設が多く、小さなお子さま連れのお客様から、雨が降ると遊ぶ場所が限定されるというご意見をいただいていました。そういった親子連れのお客様に楽しんでいただけるように、全天候型で、夏は涼しく冬は暖かい屋内施設を、ということで開設しました。
建物に入った途端、別世界に入り込んだような感覚を覚えました。ファンタジーフォレストというコンセプトはどんなところから生まれたのでしょうか。
山本氏:
まずハウステンボスさんから丹青社に「親子で遊べることを大前提に、天気に左右されない屋内のアスレチック施設を作ってほしい」というご依頼をいただき、そこからまず私たちでコンセプトメイキングを行いました。
アイディアの元は「ハウステンボス」という名前からで、これはオランダ語で「森の家」という意味ですので、テーマを「森」としました。そしてアスレチックとはいえ単に遊具を並べるのではなく、ひとつの世界観を構築してそこを探検しながら回遊できるものにしたいと考えました。
施設の中央にある「はじまりの木」は全長9メートルの木の形をしたアスレチックで、これを入口として、ロープネットで森の中を渡る空中散歩をしたり、巨大なトランポリンや滑り台を使って森の中を探検しながら回遊できるように設計しています。この「はじまりの木」というネーミングはハウステンボスさんからご提案いただきました。そのように我々が提示した世界観にハウステンボスの方々が肉付けをして、今の形ができあがりました。
帯川さんはデザイナーとしてアスレチックの造作を担当されたそうですが、どんな点にこだわりましたか。
帯川氏:
ハウステンボスさんから「没入感やワクワク感がほしい」というオーダーをいただいたので、森の中は子どもたちの目線に合わせて、カボチャやお花をデフォルメしてスケールアウトした大きさにすることで、妖精の世界に迷い込んだような空間にしました。
音作りで大切にしたのは「没入感」をどう表現するか
空間の音づくりに関してサウンドデザイナー・作曲家の山崎さんにはどのように依頼されたのでしょうか。
山本氏:
音に関して私たちが一番大事にしたのが、ハウステンボスの方々がこだわる「没入感」をどう表現するか、でした。森の中にいるというだけではなく、最初は森の中に迷い込んでしまった時の心情を表現し、たくさん遊んだ後に帰る時には、思わずハミングしながら帰るような曲にしたい、ということも含めて、ファンタジーフォレストの世界観にマッチしたオリジナル曲を山崎さんに依頼しました。
石田氏:
現在ファンタジーフォレストは30分単位で入れ替えをしていますが、具体的にはその30分の中で朝、昼、夕、夜の時間帯に分けて変化させ、世界観に沿った音楽を設定していただきました。またお子さんたちはアトラクション内を回遊するわけですが、水が流れる場所では水の音、木があるところでは木の音など、環境音や効果音についても場所ごとに変化が感じられるように音環境を設定していただきました。
作曲する側としてはハードルの高い要求だと思いますが、どのあたりが大変でしたか。
山崎氏:
作曲に際しては、子どもが馴染みやすい音とメロディを意識して、気づいたら口ずさんでいるような親しみを感じてもらえるように心がけました。
また、ファンタジーフォレストという世界観の中にどこまで没入できるか、ということを考え、子どもの動きに合わせて音が自然に変わるような表現を目指しました。元となる楽曲と、それをエリア毎にアレンジした楽曲を制作し、プログラムで制御して各エリアのスピーカーから再生することで、移動すると音楽が途切れることなくメロディやリズムの楽器音色がシームレスに入れ替わるというインタラクティブな音体験が味わえます。
楽曲や自然音をナチュラルで美しく再生できるヤマハのサーフェスマウントスピーカー「VXSシリーズ」を選定
今回、山崎さんは機材の選定も担当されたそうですが、このたびファンタジーフォレストでヤマハのサーフェスマウントスピーカー「VXS5」「VXS3FT」を選定いただいた理由を教えてください。
山崎氏:
ファンタジーフォレストの世界観に必要なのは間違いなくアコースティックな音と考えました。そしてアコースティックなサウンドを一番自然で美しく響かせるスピーカーは、ヤマハの機材だと最初から確信していました。ヤマハは、楽器も作り、音響機器も作るという他にはないメーカーで、どうすれば楽器の音を美しく響かせられるかをよく知っています。またお子さんにとっても、ヤマハの音は、幼稚園や学校のピアノで聴きなじみもあります。そういった意味でも、子どもの耳に自然に届く音だと思い、ヤマハのスピーカーを選定しました。
「VXS5」と「VXS3FT」というサイズが違う2種類のサーフェスマウントスピーカーを採用いただきましたが、どのように使い分けているのですか。
山崎氏:
やや大きめの「VXS5」が楽曲用、小ぶりな「VXS3FT」を効果音用として使い分けています。例えばフルートの音と鳥のさえずりを同じスピーカーから鳴らすと、同方向から音が混ざった状態での聞こえ方になってしまいます。両方とも違和感なく自然に響かせるために、音声トラックの系統を分け、スピーカーも別の系統で再生しています。
スピーカーの設置も草の中に潜ませるなど、風景に馴染んでいて一見するとどこにスピーカーがあるのか分からないですね。
山崎氏:
ファンタジーフォレストの世界観を大切にし、スピーカーはできるだけその気配を感じさせない場所に設置しました。また、安全面からも子どもの手が届く場所にスピーカーを設置しないように注意を払っています。色に関しても「はじまりの木」の中のスピーカーは白の方が目立たないので、スピーカーの色も使い分けました。
音がシームレスに切り替わる、ナチュラルで心地よい空間に
実際にファンタジーフォレストが稼動してみて、音の印象はいかがでしたか。
辻本氏:
音に包まれている感じがあり、優しさを感じます。特に入り口は入った瞬間ちょっと暗いのでお子さんによっては怖いと感じるかもしれないと心配しましたが、優しい音が流れているので温かい雰囲気がします。そして遊具がある場所に行くと、体を動かしたくなるような元気な音に変わります。それと安全性という意味でご両親の声が遊んでいる子どもたちに届くような音の環境をお願いしていたのですが、うるさいと感じることなく、大人の声も子どもの声もきこえ、そこに音楽や小鳥のさえずりが自然に響くような、いい環境になっていると思います。このあたりは、きちんとファンタジーフォレストの世界観を考えてくれて、そのコンセプトにそって音楽を作り、音響機器やシステムを厳選していただいたおかげだと思っています。ありがとうございます。
石田氏:
作り手としては、環境の演出として音楽を活かしたかったので、それが上手く実現できていてとても嬉しいです。音をエリアによって分けつつ同時に鳴らすという手法も、最初は「意図通りになるかな?」と心配もありましたが、いい形に仕上がって満足しています。子どもたちが飽きることなく走り回ってくれているのは、音楽の演出の効果も大きいのではないでしょうか。
帯川氏:
エリアごとの特性を出すために、音楽の雰囲気を変えたいとは思っていましたが、音がエリアごとにコロコロ変わるわけではなく、歩いているとメロディの音色がピアノからフルートにシームレスにかつ効果的に変化しています。企画側の意図を見事に音響面で再現していただいたと感じています。
山本氏:
山崎さんには、ファンタジーフォレストという施設は回遊できる屋内のアスレチックであるということを伝えた時、山崎さんから場所ごとに楽曲や環境音をさりげなく切り替えようという提案をしていただきました。実際に仕上がってみると実に心地よく、しかも違和感なく施設内の回遊が楽しめる音環境になっています。楽曲の面でも、そして音響システムの面でも具現化してくださったので、山崎さんにお願いして非常に良かったなと思っています。
山崎氏:
作曲者としては、自分が楽曲制作で使っているモニタースピーカーもヤマハ製だったので、音楽制作の現場で作った音のイメージがそのまま施設の現場で再生されていて助かりました。これもヤマハのスピーカーを選定して良かった点の一つです。曲を作った時の音のイメージが施設のスピーカーで聴くとイメージが全然違う、ということもありますので。
ファンタジーフォレストに来て遊んでいるお子さんの様子はいかがですか。
辻本氏:
「楽しかった」「もう一回遊びたい」と言う子が多いです。現在は30分サイクルの予約制となっていますが、空きがあれば当日でもお入りいただけるということにしているので、お子さんによっては、出たらまた入るというのを、何回も繰り返すほど気に入ってくれた子もいます。
石田氏:
低学年くらいまでのお子さんは、とにかくその場が楽しそうだということで喜んで遊んでくれますが、小4、小5ぐらいのちょっと年齢の高いお子さんたちになると、ファンタジーフォレストという物語の世界観を理解してくれるのか、入った瞬間から「すごーい、すごーい」と声を上げながら、妖精が作り上げた森という世界を、ファンタジックなストーリーとして楽しんでくれているようです。
「ファンタジーフォレスト」は、今後も拡張などの予定はあるのでしょうか。
辻本氏:
はい。「はじまりの木」を起点としながら、今後もここにいる妖精たちが一生懸命世界を広げていくのではないかと思います。ぜひ今後もファンタジーフォレストを楽しみにしていてください。