【立体音響技術「AFC」使用事例レポート】『Japan Mobility Show 2023』AFCで実現したYamaha + Nexo + Steinbergのイマーシブソリューション
Japan/Tokyo Oct.2023
去る2023年10月28日から11月5日の9日間、東京ビッグサイトにて『Japan Mobility Show 2023』(主催:一般社団法人日本自動車工業会)が開催されました。大盛況のうちに幕を閉じた『Japan Mobility Show 2023』は、自動車とモビリティをテーマに、“未来の日本”を体験できる場として企画された新機軸のイベントです。
本イベントにヤマハ株式会社(以下、ヤマハ)はヤマハ発動機株式会社(以下、ヤマハ発動機)と共同で出展。“「生きる」を、感じる”をコンセプトに、ブースを劇場空間に見立て、人間の可能性を体感できるさまざまなショーを上演、さらにはイマーシブオーディオによるサウンド・インスタレーションの展示を行いました。前身の『東京モーターショー』時代を含め、日本自動車工業会が主催する本イベントにヤマハとヤマハ発動機が共同で出展するのは初めてのことであり、両社が共同でサウンド・インスタレーションを展示するのも初の試みとなりました。
今回、劇場空間に見立てたブースの音響演出で目指したのが、ヤマハイマーシブソリューションを最大限に活用した没入感のある音響体験の提供です。そのイマーシブな音環境を実現する上で重要な役割を担ったのが、ヤマハ独自の立体音響技術「AFC(アクティブ・フィールド・コントロール)」、NEXO社の高性能スピーカーシステムとシステムデザイン、Steinberg社のDAWソフトウェアによるサウンド・コンテンツプロダクションです。この最先端のソリューションとテクノロジーを駆使することで、来場者を感動で包み込むような、ヤマハならではのまったく新しい音響体験の提供を実現しました。
「AFC」は、最大128種類の音を空間に自在に定位できるオブジェクトベースの音像制御システム「AFC Image」と、空間固有の音響特性を元に響きを豊かにできる音場支援システム「AFC Enhance」の2つのモデルで構成しています。今回のショーとサウンド・インスタレーションでは、「AFC Image」をサウンド・コンテンツのイマーシブオーディオミックスやショーにおける演奏のライブミックスの両面で使用し、「AFC Enhance」はショーや音源再生時の演出用に使用しました。
Steinberg Nuendoによるサウンド・コンテンツのイマーシブオーディオミックス
ショーとサウンド・インスタレーションで使用されたサウンド・コンテンツは、イマーシブな音響体験の提供を想定して、今回のイベントのためにイマーシブオーディオに精通したクリエイターによって書き下ろされました。ショーやサウンド・インスタレーション用の楽曲は合計30曲近くにおよび、その他に展示車両を演出するためのサウンドなどもあり、来場者が常に劇場空間の中にいられるように、一時も無音状態にはならない構成になっています。
サウンド・コンテンツのイマーシブオーディオミックスは、音像制御システム「AFC Image」と展示ブースに設置したすべてのNEXOスピーカーを用いて、実際に空間に音を出しながら行われました。サウンド・コンテンツの再生機としてMacベースのSteinberg社「Nuendo」を使用し、各オーディオトラックのVST Multipannerなどの3Dパンニング機能とオートメーション機能を用いてオブジェクトの配置や音像の移動を行いました。
「Nuendo」のオーディオトラックの音声はインターフェースカード「AIC128-D」を介して、AFC ImageプロセッシングエンジンとDanteネットワークで接続し、オーディオトラックのオブジェクト操作と「AFC Image」のオブジェクト操作をOSC(Open Sound Control)プロトコルによって連動させることで、快適なミックス環境を整え、多数のサウンド・コンテンツのミックスを限られた時間内で行うことを可能にしました。
ミックス後の完パケは、「AFC Image」によるオブジェクトレンダリング後の出力信号を、再生機とは別の「Nuendo」にオーディオ・マスターとしてレコーディングして作成。会期中は安定した運用を考慮し、レコーディングしたオーディオ・マスターをスタンドアローンのDante対応マルチトラックレコーダーで再生しました。メインとバックアップの2台用意したマルチトラックレコーダーは、映像システムのタイムコードに同期して再生することで、映像と音が連動したイマーシブな再生環境を実現しました。
NEXOスピーカーシステムによる迫力あるイマーシブオーディオ再生
ブースにはイマーシブオーディオ再生用に28台のフルレンジスピーカー、4台のサブウーファーをすべてNEXO製スピーカーで用意しました。フルレンジスピーカーはブース上部のトラスを利用して高さ方向2レイヤーで構成。ブース中央のステージ上にはメインスピーカーとして「GEO M6システム(M620 x5)」をLCRでフライング、ブースを取り囲むようにレイアウトしたサラウンドスピーカーには「ID24シリーズ(120°×60°)」を12本、これらを同一の1stレイヤーとして扱い、床から約3.5mの高さに設置しました。
2ndレイヤーには天井のシーリングスピーカーとして「PS15-R2」を13本、角度を付けずに真下に向けて、床から約6mの高さに設置しました。これらのスピーカーは設置後にトラスが上がってしまうと後で設置場所や取付角度を変えることができないため、各スピーカーの音圧ができるだけ均一になるよう、NEXOシミュレーションソフトウェア「NS-1」を用いて事前に入念にスピーカーシミュレーションを行いました。
そしてステージ奥の両サイド、外からは見えないスペースには、サブウーファーの「LS18」を4台設置し、迫力ある低音を再生しました。パワーセクションには、「NXAMP4x4MK2」を3台、「NXAMP4x4」を3台、「NXAMP4x1」を2台使用してすべてのNEXOスピーカーをドライブしました。
イマーシブオーディオ再生を担ったRIVAGE PM3とAFC Image
サウンド・コンテンツの再生や各ショーのコントロールは、コントロールサーフェス「CS-R3」、DSPエンジン「DSP-RX」、I/Oラック「RPio222」で構成する「RIVAGE PM3」が担いました。サウンド・コンテンツ再生用のマルチトラックレコーダーの信号や、ショー運営用のマイクなど「RPio222」に入力した信号は、「DSP-RX」のチャンネルセクションを経由して処理され、Danteネットワーク接続したAFCプロセッシングエンジンやNEXO NXAMPを通じて各スピーカーに出力されています。「RIVAGE PM3」は、各信号ソースのミキシングだけでなく、ブース内の場所によって異なって聴こえる音の補正なども行い、大規模なシステムにおける緻密な音響調整に柔軟に対応しました。
PAブースにはAFC Imageのコントロール用ソフトウェア「AFC Image Editor」を常時設置し、ショーの内容に応じてPAオペレーターがステージ上の演奏者の動きに合わせてオブジェクトを操作するなど、リアルタイムのオペレーションも行いました。
AFC Enhanceによる臨場感の演出
ブースでは響きを増強する音場支援システム「AFC Enhance」も使用しました。「AFC Enhance」集音用として、ステージ上のトラスに単一指向性のマイクを合計8本設置し、サウンド・コンテンツ再生時の一部でAFC Enhanceの効果をオンにすることで、スピーカーに音が張り付いた印象を軽減させ、音の空間的な広がりと臨場感を増加させています。「AFC Enhance」のオン/オフ操作は、iPadのProVisionaire Touch Kioskを使用して遠隔操作で行いました。
ヤマハ発動機ブースには、平日・休日問わず連日3万人以上が来場し、多くの人に没入感のあるサウンドの体験を提供しました。現在、各方面から注目されている次世代の音響技術“イマーシブオーディオ”ですが、ヤマハグループの製品を組み合わせれば、楽曲/サウンド・コンテンツ制作(Nuendo+VSTプラグイン)から音像制御/音場支援(AFC)、ライブ・ミキシング(ヤマハデジタルミキサー)、そして出力(NEXO+NXAMP+システムデザイン)に至るまで、すべてを完遂することができます。『Japan Mobility Show 2023』は、そのことを見事に実証できた貴重なイベントでした。