【NEXO「STM Series」使用事例レポート】2.5次元ミュージカル作品、ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズンを音響面で支える「STM」
Japan/Tokyo Jan.2025

近年注目を集めている“2.5次元ミュージカル”は、日本の漫画、アニメ、ゲームを原作とした舞台コンテンツで若い層を中心に人気を集めている演劇ジャンルの一つです。その草分け的演目として知られているのが、アニメにもなった人気のスポーツ漫画 原作:許斐 剛『テニスの王子様』(集英社ジャンプコミックス刊)をミュージカル形式で舞台化したミュージカル『テニスの王子様』(通称『テニミュ』)。2003年の初演以来、実に20年以上にわたって上演され、作品は4thシーズンに突入、多くのファンから支持を集めています。
そんなミュージカル『テニスの王子様』4thシーズンを音響面で支えているのがNEXO「STM Series」で、今年1月に日本青年館ホールで上演された『青学(せいがく)vs比嘉』公演でも採用されました。「STM Series」が採用された経緯と、『テニミュ』で使用されたインプレッションについて、音響を担当する門田 圭介 氏、宮城 貴弘 氏、塩澤 宏光 氏のお三方にお話を伺いました。
2.5次元ミュージカルの草分け、ミュージカル『テニスの王子様』

はじめに、皆さんの経歴をご紹介いただけますか。
門田氏:
僕は音響の専門学校を卒業後、有限会社サウンドオフィスという会社に入り、そこでエンジニアとしてのキャリアをスタートさせました。入社してしばらくは企業系のイベントを手がけることが多かったのですが、徐々にお芝居の音響を任されることが増えていき、そちらの方にシフトしていった感じです。
サウンドオフィスは25歳にときに離れたのですが、27歳からは劇団☆新感線の音響に関わり、それ以降はずっとお芝居の世界で仕事をしていますね。一時期、有限会社サウンドバスターズという会社に所属していたこともあるのですが、30歳のときにフリーランスになり、その後株式会社オーベロンという会社を経て現在は株式会社K2Soundという会社を設立しています。

これまで演劇やミュージカルの音響をメインに手がけられてきたということは、そちらの方がおもしろかったからですか?
門田氏:
いや、そういうわけではないですね(笑)。音響の専門学校に入ったのも歌モノをやりたかったからで、演劇はどちらかと言えば好きではありませんでした(笑)。サウンドオフィスが演劇の仕事を多く手がけていたので、自然とこっちの世界に入っていった感じですね。現在の仕事としては、音効を手がけることもあり、『東京2020パラリンピック』にも少し関わりました。開会式の演出を手がけられたウォーリー木下さんとは、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」という舞台でお付き合いが始まり、そこからの流れで関わることになったんです。
宮城氏:
僕はフリーランスのエンジニアとして活動していて、演劇だけではなく、ライブや配信系など、音楽関係の仕事も手がけています。演劇に関しては、今回のように門田さんの現場でオペレートすることが多いですね。

塩澤氏:
僕もフリーランスとして仕事をしています。これまでいろいろな現場を手がけてきたのですが、あるお芝居で門田さんと出会い、そこからはがっつりお芝居の方にいったという感じですね。最初は音楽やイベント系の仕事と半々にしておこうと思っていたんですが、何度か手がけるうちに、すごくやり甲斐のある仕事だなと感じまして。

門田氏:
僕ら3人、同じ専門学校出身なんですよ。
皆さんが音響を手がけられているミュージカル『テニスの王子様』は、“2.5次元ミュージカル”の草分け的な演目と言われています。“2.5次元ミュージカル”とは、どのような舞台なのでしょうか。
門田氏:
日本の2次元の漫画、アニメ、ゲームを原作とした舞台コンテンツをストレートプレイなども含めて総称して“2.5次元ミュージカル”と呼んでいます。 “2.5次元”という言葉は、ファンの人たちから自然発生的に出た言葉だそうで、2次元の漫画やアニメ、ゲームの世界を3次元の舞台として再現することからそう呼ばれていますが、今では演劇の一つのジャンルになっていますね。
ちなみにミュージカル『テニスの王子様』は、2003年から上演されているとても歴史のある舞台で、全42巻ある原作がもう何周もしているんですよ。僕らが関わり始めたのは4年前からはじまった4thシーズンからで、ネルケプランニングさんが我々に任せてくださるようになったんです。最近は年に2回、各回30ステージくらい公演があります。
演劇の1ジャンルとのお話ですが、音響面で“2.5次元ミュージカル”ならではの部分というのはありますか。
門田氏:
普通の演劇ですと1~2人でオペレーションすることがほとんどだと思いますが、“2.5次元ミュージカル”は仕事量が多いので、マイク・オペ、BGM、SEと3人で割り振りしながらオペレーションしています。これは“2.5次元ミュージカル”の音響面の大きな特徴かもしれませんね。ポスプロにおけるMAのような作業をリアルタイムに舞台上でやっているというか。
音響面以外の特徴としては、原作が漫画ということもあって、創造的な衣裳だったり、殺陣やダンスも多いかなと思います。それから、ミュージカル『テニスの王子様』に関しては、出演者の皆さんがほぼ初舞台の役者さんも多いんです。事務所に所属したばかりの若い役者さんの登竜門的な舞台になっている。
卓周りのシステム構成についておしえてください。


門田氏:
宮城がオペレートするメイン卓は「CL5」で、そこにワイヤレスマイクが36波入っています。塩澤がオペレートするBGM卓は「QL1」、もう一人のオペレーターが操作するSE卓は「01V96i」で、3台の卓はDanteでデジタル接続しています。
塩澤氏:
BGMやSEを送出するパソコンと卓の接続も、Dante Virtual Soundcardを使ってDanteで行っています。
宮城氏:
マイクの本数がかなり多いので、「CL5」のインプットはフルで使っています。BGM卓とSE卓からの音も完全に分けていて、それぞれのセクションを各々で調整してもらっています。
門田氏:
Dante接続ではあるんですけど、実際にやっていることはアナログ卓をカスケード接続しているのと変わらないというか。それにしてもDanteのおかげでシステムがかなりシンプルになりましたよ。10年くらい前は、卓の傍にCDプレーヤーが8台くらいあって、すべてアナログで繋いでいましたから。
“2.5次元ミュージカル”の音づくりで気をつけていることはありますか?
宮城氏:
3人でオペレートするので、全員が同じ気持ち、同じ感覚で臨まないと厳しいかなと思います。3人の気持ちが同じでないと、絶対に良い結果にならない。そこは気をつけていますね。
塩澤氏:
それと棲み分けですよね。このシーンでは声を生かすとか、SEを立たせるとか、そういったバランスは大事だなと思います。
門田氏:
3人が3人、ゴールを決めてもダメで、パスを出さないといけない。音楽で持っていくシーンであれば、そこにSEを載せてはダメですし。ベースにあるのはあくまでもセリフで、その上で音でどう演出効果を出せるか。3人のオペレーターの意思疎通が上手くいっていないと、ちぐはぐなバランスになってしまうんです。演劇の世界には“場当たり”という本番の会場でのリハーサルがあるんですけど、良い音響を作るためには、“場当たり”での調整が大切ですね。
「STM Series」は使い手の個性が現れるラインアレイ


ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 青学(せいがく)vs比嘉公演では、NEXO STM Seriesを使用していただきましたが、導入された経緯をおしえていただけますか。
門田氏:
ミュージカル『テニスの王子様』で使用している「STM Series」は、オーベロンという映像制作の会社が音響セクションを立ち上げる際にメインスピーカーとして導入したものになります。もちろん他にも選択肢はありましたが、東京音研さん(注:株式会社東京音響通信研究所)が導入されていたり、いろいろなフェスで使われていたりと、実績がたくさんあったということが「STM Series」導入の決め手になりました。
音に関しては、以前現場で試した時の手応えが非常に良くて。それ以外の現場でも実際に聴いて印象に残っていたので、ほとんど迷わずに「STM Series」に決まった感じです。あとは正直、予算内でフラッグシップモデルが導入できるというのも大きかったですね。
機材を導入する際に、メーカーのサポート体制については重視しますか?
門田氏:
かなり重視します。NEXOがヤマハミュージックジャパンの取り扱いでなかったら導入していなかったかもしれません。実際、現場でトラブルが発生したときも、すぐに対応していただけました。正直、プラグインとかソフトウェアに関しては、英語が日本語になるだけのサポートは要らないと思っているんですよ。しかしハードウェアに関しては、自分たちではどうにもできないところが大きいですから、メーカーのサポート体制というのはすごく重要ですね。
導入されたシステムの構成をおしえてください。
門田氏:
サブベースモジュールの「STM S118」が4台、ベースモジュールの「STM B112」が4台、オムニモジュールの「STM M28」が12台で、片側2/2/6という構成です。アンプは「NXAMP4x4MK2」が片側2台ですね。導入時は、もっと本数があった方がいいかなと思ったのですが、費用対効果を考えて、とりあえずこの構成をベースに使ってみようと。
『テニミュ』の現場で使用されて、音質的にはどのような印象ですか。
門田氏:
すごくコントロールしやすいスピーカーだなという印象です。具体的には低域の出方がすごくきれいでタイトなところが気に入っていますね。芝居では無指向性のマイクを使うこともあるので、インフラ・サブがずっと鳴っているようなスピーカーですと、なかなかコントロールがしづらいんですよ。STMの低域はかなり好きですね。
宮城氏:
ワイヤレスマイクのマージンがめちゃくちゃ取りやすいところも、芝居現場では重宝しています。それとレベルを突っ込むと良い音がするスピーカーという印象がありますね。突っ込めば突っ込むだけ良い音で鳴ってくれる。音量感の割に回り込みが少ないところもいいですね。
門田氏:
そうだね。出力は高いんだけれども、指向性はしっかりコントロールできているというか。以前使っていたスピーカーと比べると出力がかなり高いので、全体的に余裕が感じられるところもいいなと思います。
セッティングのやりやすさはいかがですか?
宮城氏:
セッティングはしやすいスピーカーだと思います。日本青年館ホールではフライングをしていますが、「STM Series」は0°の状態で吊り上げて、あとは角度を決めて背面を絞るだけ。すごく簡単です。何も考えずに上下を連結させればいい。一度覚えてしまえば、誰でも吊れるんじゃないかと思います。
塩澤氏:
吊るのは本当に簡単ですね。仕込みの時間はかなり早くなりました。
宮城氏:
ただ、重量が軽くはないので、積み方を変更する必要があるときはちょっと大変(笑)。基本的にはスタックした状態で輸送、搬入していて、その状態のまま設置できるのでとても楽なんですけど、現場の規模によっては一旦バラして、スタックをやり直さなければならないので……。まぁ、それはどんなスピーカーでもおなじですけどね。
他に「STM Series」で気に入っている点はありますか?
門田氏:
NEXOのフラッグシップのラインアレイなのに、小規模な現場にも対応できるところですね。他社のフラッグシップモデルだと、サイズの関係で小規模な現場での使用はなかなか難しいですが、「STM Series」ならば300人規模の現場にも対応できる。
他のラインアレイとはサイズの概念が違うというか、モジュールの構成次第で多様な現場に対応できる点は、「STM Series」の一番の特徴なのではないかと思っています。500人キャパから2000人強まで、様々な現場を手がける僕らにはすごく合っているラインアレイですね。現場に足を運んでみて、“この会場にはオーバーな構成だから少しカットしよう”ということができますから。
約1年半「STM Series」を使って感じるのは、良い意味で使い手によって音が違ってくるスピーカーだなということですね。誰が鳴らしてもそれなりに鳴ってくれるスピーカーというのもありますが、「STM Series」はそういうタイプのスピーカーではない。使い手の個性が現れるというか、だからこそ技術屋としてはおもしろいスピーカーですね。ハマったときに、ものすごく良い音で鳴ってくれますから。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
<公演情報>
ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 全国大会 青学(せいがく)vs氷帝
原作:許斐 剛『テニスの王子様』(集英社ジャンプコミックス刊)
東京
2025年7月6日(日)~13日(日)
Kanadevia Hall(旧TOKYO DOME CITY HALL)
大阪
2025年7月19日(土)~27日(日)
SkyシアターMBS
岐阜
2025年8月1日(金)~3日(日)
土岐市文化プラザ サンホール
福岡
2025年8月15日(金)~17日(日)
久留米シティプラザ ザ・グランドホール
東京凱旋
2025年8月23日(土)~31日(日)
日本青年館ホール
詳細はテニミュ公式サイトよりご確認ください。
https://www.tennimu.com/4th_2025hyotei/
