2025年7月「Yamaha Music Japan Pro Audio Day 2025 - Immersive Audio Experience-」リポート&ミニインタビュー
Japan/Tokyo Jul. 2025
2025年7月17日と18日の2日間、東京・恵比寿「ザ・ガーデンルーム」において「Yamaha Music Japan Pro Audio Day 2025 - Immersive Audio Experience」が開催されました。本イベントは「Sound xRのイマーシブ体験をすべての人へ」をコンセプトに、ヤマハ、Steinberg、NEXOのグループ3社が連携して実施。コンテンツ制作からミキシング・制御・システムデザイン・再生に至るまでの一貫したイマーシブオーディオのワークフローが紹介されました。また最新デバイスを活用した高品質な没入型音響が体感できるプレゼンテーションが製品展示とともに行われました。
その様子のリポートと本イベントの開催趣旨などについてのミニインタビューをお送りします。
リポート・PHOTO:池谷恵司(Dialog)・ハイナーデザインフィックス
プレゼンテーションでは、まずヤマハが掲げる「Sound xR」というコンセプトについて説明がありました。「Sound xR」は、リアルとバーチャルの両面から至高のイマーシブ体験をすべての人に届けることを目指すヤマハのイマーシブソリューションの総称です。ヤマハが長年培ってきた空間音響技術と最新のデジタルソリューションを融合させ、リアルとバーチャルとの境界の無い音場体験の実現を目指しています。
今回のイベントで主役となったのは、実空間の立体音響技術「AFC(Active Field Control)」。デモンストレーションでは新製品のイマーシブオーディオプロセッサーNEXO「DME10」、シグナルプロセッサー「DME7」、そしてDMEシリーズに新たに対応した「AFC Image」を駆使し、多数のNEXOスピーカーを使用して、最先端のイマーシブ音響空間を体験できるプレゼンテーションとなりました。
プレゼンテーションの様子
展示エリア
プレゼンテーション登壇者インタビュー
イマーシブオーディオをヤマハ、Steinberg、NEXOのワンストップで提案できる強み
AFC国内マーケティング担当 山本 卓弥
ヤマハは1969年から建築音響のコンサルティングを開始し、1985年には「AFC」を発表するなど、空間音響の知見を積み上げてきました。現在「AFC」は世界で200を超える施設において稼働しており、当社のイマーシブ領域を支える基盤技術となっています。
そんな私たちが、今回掲げるキーワードが「Sound xR」です。リアル空間を拡張する「AFC」と、バーチャル空間でのバイノーラル再生技術「Sound xR Core」を統合し、“すべての人に没入体験を”届けることを目標にしています。家庭からライブ会場まで、オンラインとオフラインの境界を意識せずに一貫した音場体験を提供する――それが「Sound xR」の目指す姿です。
ヤマハイマーシブソリューションの強みのひとつは、リアル空間におけるスケーラビリティです。中小規模においてはシグナルプロセッサー「DME7」が最適です。「DME7」用拡張ライセンス「DEK-AFC-I」を使用することで「AFC Image」機能を追加でき、64in/32outまでのイマーシブ・ミキシングに対応します。
より大規模な空間には、2025年秋発売予定のイマーシブオーディオプロセッサーNEXO「DME10」が対応します。標準で256in/256outのDante入出力を持った「DME10」は、「AFC Image」を追加できる拡張ライセンス「NX-AFC-I」により、最大128in/64outのオブジェクト・ミキシングに対応します。さらに96kHz駆動時も十分な余裕を持って動作するプロセッシングパワーや、二重化電源を備えています。
私たちの強みは、ヤマハグループとして“制作 ― 信号処理 ― 再生”をワンストップで提供できる点です。制作はSteinberg「Nuendo」、信号処理は「DME7/DME10」、再生はNEXOスピーカー。オブジェクトベースのワークフローがシームレスにつながるので、会場規模やスピーカー配置に縛られず、演出意図の再現に集中できます。価格面でも、同等クラスの他社構成に比べて導入総額を抑えられる自負があります。これは機器単価だけでなく、台数最適化と設計・調整工数の削減が相乗的に効くためです。
今後はオンラインとオフラインの体験がさらに溶け合ってきます。聴覚は視覚で補えない文脈、距離感、空気感を与える重要な要素です。今後、さまざまな分野でSound xRをご活用いただき、リアル空間でのイマーシブ体験への関心や需要を喚起していきたい。ヤマハは技術と運用ノウハウの両面から、皆さんと伴走していきたいと考えています。
「AFC」とシームレスに連動する“制作ハブ”となる「Nuendo」
Steinberg Nuendo担当 花形 優一郎
Steinbergの「Nuendo」は、収録から編集、仕上げまでを一気通貫で担えるDAWです。最大384kHzの高分解度に対応し、数百トラック規模のプロジェクトでも安定運用できます。オーディオと映像を同じ操作感で扱え、高度なプロセッシングを標準で備えた設計は、ソロボーカルから大編成オーケストラなどの音楽作品や、映像作品といった幅広い現場で評価されています。いまや「Nuendo」はイマーシブオーディオの制作から再生までをシームレスにつなぐ“制作ハブ”でもあります。クリエイターが“作りたい音場”をそのまま現場に持ち出し、最小限の手戻りで運用に移せるワークフローを提供することが役割です。
イマーシブオーディオの制作において「Nuendo」は、各トラックでオートメーションデータとして記録した音源のパンニング情報を、イマーシブ用のハードウェアにメタデータとしてレンダリング出力することを担います。ハードウェアの対象が「AFC」である場合は2つの手段を用意しています。ひとつは「Nuendo」標準のサラウンドパンナー「VST MultiPanner」を使う方法。DAW上で通常エディット時に使う汎用パンナーが「AFC」側と連動するため簡単です。もうひとつは「AFC Image Panner」というプラグインを使う方法で、「AFC Image」に最適化されたミキシングパラメータを高精度に書き込み、オブジェクトの挙動をきめ細かく設計できます。「AFC Image Panner」は将来リリースする予定です。
ワークフロー面では、「Nuendo」上のパンニング情報が「AFC Image」側のオブジェクト位置情報として扱えることに加え、「AFC Image」のレンダリングエリアコンバージョン機能で「Nuendo」上のパンニングエリアと実空間の音像定位エリアとを適合させることができます。そのため現場では微調整のみで済み、マッピング変更に伴う再現性の劣化や大幅な手戻りを避けられます。オブジェクトベースで音作りを行うため、プリプロ環境と会場でスピーカー配置が異なっていても互換性がとりやすく、演出意図に沿った定位と動きの再現性を確保できる点も利点です。
運用効率の観点では、プリミックスや座標のオートメーションの作り込みをオフラインで完了させ、会場ではオーディエンスエリアや空間条件に合わせた最終チューニングのみを行うことで、再現性と設営の省力化が実現できます。「Nuendo」を中核にした制作基盤と、ヤマハ/NEXOが担う信号処理・再生基盤を密に結び、イマーシブの“作る・運ぶ・鳴らす”をよりスムーズに連結することで、クリエイターが描いた音場のイメージを意図通りに観客へ届ける――それこそが私たちの提供価値だと考えています。
NEXO「DME10」と多彩なスピーカーラインナップによるイマーシブソリューション
NEXO担当 宮下 亮
NEXOは創業以来40年以上のスピーカー開発の歴史と研鑽を背景に「IDシリーズ」「Plusシリーズ」「GEO Mシリーズ」など、サイズも指向性も目的別に最適化された機種を揃えています。いずれもコンパクトでありながら十分な音圧レベルと明確な指向性制御を発揮し、イマーシブオーディオで必要となる多数配置にも十分にマッチします。小型化は、「必要なエリアに対して、的確な音響カバレッジを実現する」ことを目的とした設計思想であり、柔軟な設置に対応します。イマーシブ領域では、会場に最適なスピーカー配置とプロセッシングを設計し、NEXOスピーカー群で確実に再現できる統合ソリューションを提示することがNEXOの使命です。
2025年秋に発売する「DME10」はNEXOの最上位イマーシブオーディオプロセッサーで、NEXOスピーカー・アンプと組み合わせてイマーシブオーディオシステムをデザインすることを想定したモデルです。標準で32in/16outの「AFC Image」を使うことができ、拡張ライセンスを用いれば最大128in/64outのオブジェクト・ミキシングを一台で完結できます。さらに標準で256in/256outのDante入出力を装備し、「DME7」を遥かに超える膨大なプロセッシングパワーを備えたカスタマイズ可能なイマーシブプロセッサーとして、大規模な現場でも信号処理を集約できます。
設計段階では、無償の音響シミュレーションソフト「NS-1」の「AFC Design Assistant」機能が実務を支えます。会場形状・客席エリア・指向性などの条件を入力すれば、スピーカーの台数・配置・高さが自動算出されるため、イマーシブオーディオシステムのベースプランを短時間で作成できます。さらにNEXOだけでなくヤマハのスピーカーも同一環境で検討可能です。設計データは「AFC Image Controller」へエクスポートできるため、制作から現場調整までスムーズに連携します。
イマーシブオーディオの制作と現場を直結する「AFC Image」
AFCテクニカルマーケティング担当 石橋 健児
ヤマハが提供する「AFC Image」は、最大128オブジェクト・チャンネルの音像を自在にコントロールし、あらゆる空間でイマーシブな音環境を創り出すオブジェクトベース方式の音像制御システムです。音像はオブジェクトとして設定され、オブジェクトをベースにミキシングされます。オブジェクトの位置や移動は、グラフィカルなUIで直感的にコントロールできます。会場の規模や用途、再生アプリケーションが変わっても、オブジェクトベースで作られた制作データを基に、変更点だけを柔軟に調整可能です。
また「AFC Image」には、高品質な3Dリバーブが搭載されています。オブジェクトの位置に応じて最適な響きを自動計算し、自然な響きで立体的かつ柔らかな音響空間を創出します。
イマーシブオーディオシステムの信号処理は、ヤマハ「DME7」またはNEXO「DME10」が担います。「DME7」は拡張ライセンス「DEK-AFC-I」により最大64in/32outのオブジェクト・ミキシングに対応し、小~中規模の音場に最適です。それ以上であればNEXO「DME10」をお使いください。どちらも「AFC Image」の運用基盤として、制作データを確実に再生へ橋渡しします。
現場では、ミキサーから直接コントロールできることが大きな武器になります。ヤマハはデジタルミキサーのリーディングカンパニーです。「RIVAGE PMシリーズ」および「DM7シリーズ」から「AFC Image」のオブジェクト位置情報をダイレクトにコントロール可能です(*)。通常のフェーダーワークと同一パネル上で「AFC Image」のミックスが行え、一貫した操作感でオペレーションできます。「DM7」については、将来的にジョグダイヤルで3Dパンニングを行えるアップデートも予定しています。
今後も「AFC Image」を中心に、イマーシブオーディオを「もっと身近な存在」にしていきます。制作から現場までの摩擦を減らし、誰もが意図した立体音場を再現できる――その実現が、ヤマハの提供価値だと考えています。
*DME10およびDME7のAFC Imageコントロールは将来対応
「Yamaha Music Japan Pro Audio Day 2025 - Immersive Audio Experience」スピーカーセットアップ
プレゼンテーションルームのスピーカー構成
- フロントスピーカー上段:NEXO「P12」(PS type)5台
- フロントスピーカー下段:「ID24T」4台
- サラウンドスピーカー:NEXO「P10」12台
- シーリングスピーカー:NEXO「P8」6台
- サブウーファー(コーナー)NEXO「L15」4台
- サブウーファー(センター)NEXO「L18」2台