【導入事例】「動き出す妖怪展 NAGOYA ~Imagination of Japan~」/ 愛知
Japan/Aichi Sep. 2025
最新のデジタル技術により妖怪たちが動き出す、そんな体験型イマーシブアートミュージアム「動き出す妖怪展 NAGOYA ~Imagination of Japan~」(2025年7月19日―9月23日)が愛知県・名古屋市 金山南ビル美術館棟で開催されました。
その展覧会においてヤマハ サーフェスマウントスピーカー「VXS5」「VXS1MLB」、サブウーファー「VXS10S」などが使用されました。機材の選定理由や実際の運用状況について、同展の企画・プロデュースを手がけた株式会社一旗 代表取締役 東山 武明 氏、ディレクター 中川 和 氏 にお話をうかがいました。
同 ディレクター 中川 和氏(左)
最初に「動き出す妖怪展 NAGOYA」について教えてください。
東山氏:
2年前に弊社とテレビ愛知との共同企画で「動き出す浮世絵展」というイマーシブアートミュージアムを今回と同じ会場で立ち上げ、大変好評をいただきました。その展覧会は名古屋での開催をスタートに、ミラノ、鹿児島、東京、福岡、台北と、国内外で巡回しています。
今回の「動き出す妖怪展 NAGOYA」は「動き出す浮世絵展」に続くイマーシブアートミュージアム企画の第2弾で、江戸や明治時代に描かれた妖怪画や妖怪美術をモチーフに、9つの立体映像空間と造形を組み合わせて展示しています。
その「イマーシブアートミュージアム」とはどんなものでしょうか。
東山氏:
一言で言えば「没入型の展覧会」です。一般的な展覧会では静止した作品を一つひとつ鑑賞するスタイルですが、イマーシブアートミュージアムは空間全体が映像や音に包まれ、作品の世界に入り込むような体験を味わっていただくことができます。
現在、世界ではゴッホ、モネ、クリムトなど巨匠のイマーシブ展がブームとなっています。彼らの名画が壁や床一面に投影され、観客はその中を歩き回りながら絵画の世界に入り込んだかのような体験ができます。私たちは日本の企業として、浮世絵や妖怪といった日本ならではの文化資産をテーマに展開することに意義があると考えています。
「動き出す妖怪展 NAGOYA」ならではの特長があれば教えてください。
東山氏:
一般的なイマーシブアートミュージアムでは広い空間で1つの長尺コンテンツ(30~40分程度)を見せるのが主流です。しかし1つの長尺コンテンツでは小さなお子様はすぐ飽きてしまい、高齢の方も鑑賞のスタイルに慣れていないためストレスが大きいというデメリットがあります。
そこで本展では9つのコンセプトの空間を設け1部屋ごとのコンテンツ尺を短くし、好きなタイミングで次の空間に移動しながら体験できるスタイルにしました。結果として「怖すぎず、臨場感があり、ポップに楽しめる妖怪の世界」が提供できたと感じています。
中川氏:
「動き出す妖怪展 NAGOYA」は夏休み初日にスタートしたこともあり、小さなお子様からご高齢の方、外国人まで幅広い層のお客様に楽しんでいただけました。妖怪をおどろおどろしく見せると泣いてしまうお子様もいますので、怖さではなく、妖怪のユニークな面白さやポップさを重視しました。
妖怪は現代のポップカルチャーにつながる「元祖ポップアート」とも言える存在です。そこでコミカルな笑い声や効果音を取り入れ、ホラーになりすぎないように工夫しました。
この展覧会はSNSでも話題でしたね、SNSの親和性についてはいかがですか。
中川氏:
私たちは、会場内すべてのエリアでの写真・動画撮影を許可しており、YouTubeやSNSへの自由な投稿も歓迎しています。来場者が体験した映像や音の迫力は、SNSを通じて広く共有され、「行ってみたい」という新たな来場動機を生み出すきっかけとなっています。
特に現在の若年層は、TikTokなどの短尺動画に日常的に親しんでおり、静止画中心の美術展よりも、短く動きのあるコンテンツに高い親和性を示しています。
こうした傾向を踏まえ、私たちは来場者がその場で撮影・発信できる環境を整えることで、体験の魅力をより多くの人々に伝え、来場の輪を広げていったと考えています。
いまなぜイマーシブアートミュージアムが大流行しているのでしょうか。
東山氏:
大きな要因は技術的な進歩です。美術館の広い空間に多数のプロジェクターを設置して壁・床・天井に映像を投影するためには、解像度や明るさ、そして複数映像をシームレスにつなぐことができる技術が不可欠です。そのため10年前であれば実現は困難でしたが、近年は小型・軽量で高性能なプロジェクターが普及し、現実的な予算での映像投影が可能になりました。
コンテンツ制作においても高解像度・大容量のデータが短期間で制作できるようになり、こうした技術的背景が大きく後押ししていると思います。
ヤマハスピーカーが支える「動き出す妖怪展 NAGOYA」の音響演出
今回の展示で使用された音響機材について教えてください。
東山氏:
音響機器はヤマハ製品を中心に導入しました。具体的にはサーフェスマウントスピーカー「VXS5」「VXS1MLB」、サブウーファー「VXS10S」を使用しました。
ヤマハのPAスピーカーを選定した理由を教えてください。
東山氏:
実は過去の展示では民生機の単体スピーカーを使用していたため、電源が一括管理できなかったり、設定で個別にリモコン操作が必要になるなどの不便がありました。さらに音が隣室へ漏れてしまう、迫力や低音が不足するといったトラブルも発生し、音に関する課題は多々ありました。
そんな中今回ヤマハの音響機器を選んだ大きな理由は、単に機器性能だけではなく選定にあたっての提案が丁寧であったことです。事前に図面上でスピーカーの設置位置や音圧分布をシミュレーションすることのコツを教えてもらい理想的な機種と配置が決定できました。
その結果、隣室への音漏れを抑えつつ十分な音量を確保できましたし、サブウーファーを導入したことで、今までにないほど迫力ある重低音も実現できました。
音響面の演出ではどのような工夫をされたのでしょうか。
中川氏:
「動き出す妖怪展」では、映像と効果音とが精密に連動するような音響設計を行っています。たとえば「妖怪大乱舞」では、妖怪の登場に合わせて、登場位置に近いスピーカーから妖怪の笑い声や効果音を鳴らしています。また中央にちゃぶ台を配置した「妖怪ちゃぶ台」では、来場者が自然に中央に集まるよう、天井上部中央に「VXS5」を設置し音による導線を作りました。
さらに「妖怪百鬼夜行」では妖怪の行進方向に合わせ、展示室の突き当たりにサブウーファーを設置することで奥の方で低音が鳴る効果を出しましたし、「妖怪藤回廊」では藤の花が垂れ下がる空間の頭上に「VXS5」を仕込み、音が上から降り注ぐように演出しました。このような立体的な音響設計によって、映像に加えてイマーシブな音響体験が提供できたのではないかと考えています。
音で魅せる「イマーシブアート」の可能性
今後の企画や展望について教えてください。
東山氏:
「動き出す妖怪展」については、すでに各地から「自分たちの都市で開催したい」というご要望をいただいています。今後は巡回展として全国、さらには海外を巡っていくことになると思います。
また、弊社は屋外でのプロジェクションマッピングを主事業としています。代表例は国宝・松本城でのプロジェクションマッピングで、こちらは2年連続して実施しており2025年も開催予定です。さらに12月には浅草寺・宝蔵門で史上初となるプロジェクションマッピングも実施予定です。こうした屋外で培った技術を応用する形で、「動き出す妖怪展」のような屋内型のイマーシブアートミュージアムにも積極的に取り組んでいきます。
「イマーシブ」は音響でも重要なキーワードですが、美術の世界でも重要なのでしょうか。
中川氏:
人口減少の影響で従来型の美術展だけでは入場者数の確保が難しくなっています。そこで先端技術を活用したイマーシブアートを導入し、美術展の付加価値を高めることで、入場料収入の増加につなげたいと考えています。またSNS時代に親和性の高いコンテンツを取り入れることで、若年層にも伝統文化を届けることができますのではないかと期待しています。
音をテーマにした新しい展開も考えられていると伺いました。
東山氏:
はい。現在は「サウンドアート」への挑戦も考えており、映像がなくても音だけで楽しむアートコンテンツを作れないかと構想しています。たとえば、ろうそくの火一本だけの空間で、音のみで妖怪の世界を表現する、といった企画です。妖怪とは本来の見えない「もののけ」であって、気配だけで感じる存在ですから、こうした音だけでの表現には非常に適していると思います。
中川氏:
音圧設計についても、これまでは平面図をベースにした設計が中心でしたが、今後はXYZ軸を考慮した立体的な音響にも取り組みたいと考えています。より緻密な音響設計を行うことで、さらに没入感の高い体験を提供できると考えています。
本日はありがとうございました
「動き出す妖怪展 NAGOYA ~Imagination of Japan~」
https://www.yokaiimmersive.com