『Shibuya Crossing Jam by SiNGO / 磯貝一樹』 2026年5月23日(土)@Yamaha Sound Crossing Shibuya

2026.7.28

ラテン、ソウル、ジャズが鮮やかに交差した
自由でスリリングな即興セッション

夏至はまだひと月も先だというのに、すっかり“夏日和”となった5月23日。土曜日ということもあり、渋谷の駅周辺は世代を問わず多くの人で賑わっている。とりわけ新南口にある複合施設“Shibuya Sakura Stage”にはライヴハウスや複数のイベント・スペースがあるためか、音楽や舞台などのカルチャーに引き寄せられた人も多く見られた。

そんな渋谷の新たなランドマークにて、ほかのプレイスにはない個性的なカラーを打ち出している一角がある。日本の老舗楽器ブランド“ヤマハ”がプロデュースするYamaha Sound Crossing Shibuyaだ。ライヴ・ステージとカフェが常設された本スペースは、同社のさまざまな楽器に触れられるだけでなく、生演奏を間近で観ることができるという、音楽を多角的に体感できるアミューズメント・ルームなのだ。そして当日ここでは、ミュージシャンがペアを組んで新たな音楽を創造する新感覚ライブ・イベント『Shibuya Crossing Jam』の第4回が開催された。

約半年ぶりとなる今回は、ニューヨークを拠点に活動するラテン・ピアニストのSiNGOと、SANABAGUN.を始め数多くのバンドやプロジェクトでギターを鳴らしてきた実力派ギタリスト、磯貝一樹によるコラボレーション。イベント当日の会場では、“ずっと真夜中でいいのに。の音楽をヤマハ機器で体験できる”という企画も同時進行していたため、開演前から会場内は各ファンで大賑わい!

そして午後5時よりライブはスタート。当イベントのキュレーターでありMCの尾藤雅哉氏に呼び込まれ、最初に登壇したのがSiNGOだ。着席とともにスッと鍵盤へ手を伸ばし、挨拶代わりにと始めたのは、彼のオリジナル楽曲である「El guaguancó del silencio」。ラテン・ピアニストという肩書きから陽気で明るい曲想を想像するかもしれないが、本曲は流れるような運指で鍵盤を広く鳴らすドラマティックなナンバー。ただ、やはりこれは彼のラテン・ソウルなのだろう、ルンバの弾むようなタッチと自身の豊かな表情によって、音階以上の熱気が感じられる演奏となった。

この『Shibuya Crossing Jam』のコンセプトのひとつに、“ミュージシャンがフラっと手ぶらで訪れて、その場にあるヤマハの楽器で演奏する”というものがある。彼がステージで弾く2台の鍵盤楽器も、会場でチョイスしたものだ。メインとして客席に向くのは、デジタル・ピアノ[CP88]。“CP=ステージ・ピアノ”の名称が示すとおり、コンサートで使われる多様なピアノのサウンドを内蔵する、音色・タッチの両面からリアルさを追求した同社が誇る電子ピアノだ。それにプラスして左手側には、シンセサイザーのフラッグシップ・モデル[MONTAGEMシリーズ]と同等のサウンド・エンジンを軽量のボディに詰め込んだ[MODX M7]を用意。CP88の演奏を軸に、こちらM7でときに効果音を加えるなど、多層的な音楽を作り上げていく。

続けて演奏されたのは「Kimigayo」……タイトルのとおり、彼のアレンジがたっぷりと効いた日本国歌だ。我々にとっては大変身近な曲ではあるが、“ラテン・アレンジにした”というこのバージョンは、一聴しただけではそれとわからないほど多様なエレメントが加えられ、これまでにない解釈の「君が代」になっている。両曲とも“静と動”が同居した、まさにラテン音楽を日本的感性で解釈したと言えるSiNGOならではの楽曲だった。

SiNGOが2曲プレイし終えたところで、本日もうひとりの出演者である磯貝がステージへと呼び込まれた。やはり“手ぶら”でステージにあがった彼は、これも当企画のコンセプトどおり、壇上に置かれたエレクトリック・ギターへと手を伸ばす。早くも準備はOKだ。

この日が初対面だというふたり。少しの間、お互いに目を合わせ、息を合わせるようにプレイし始めたのは、グローヴァー・ワシントン・ジュニア(&ビル・ウィザース)の「クリスタルの恋人たち(Just The Two Of Us)」だ。ピアノ伴奏の上で柔らかいピッキングでメロディを奏でる磯貝は、少し下を向きつつ音楽のなかに没入しているように見える。和音と単音を織り交ぜ、ときに強くアクセントを出すプレイはやはり情熱的!

磯貝が手にしていたのは、REVSTARのRSP20X。丸みのある大きめのボディとダブル・カッタウェイのシルエットが特徴的なエレキ・ギターで、ボディ内部はチェンバー加工(一部をくり抜いた構造)が施されているため、アコースティック・ギターにも近いふくよかな鳴りを感じることができる1本だ。

流れのまま彼らは、キューバを代表する音楽家チューチョ・バルデスの「Mambo Influenciado」をプレイ。速いパッセージで弾くテーマ、ピアノとの掛け合いで生み出されるインプロヴィゼーションと、楽器プレイヤーとしての高い実力をたっぷりと堪能できる演奏が繰り広げられる。もちろんキューバ人ピアニスト作曲のナンバーなだけに、SiNGOのプレイにはより一層ピッタリだったことは言うまでもないだろう。会場は大きな拍手に包まれたのだった。

4曲の演奏が終わり、ここで初めてのトーク・タイム。SiNGOはふたりでのセッションを振り返り“磯貝さんは今日初めてラテンにチャレンジされたそうですが、本当に演奏が素晴らしい!

お互いにフレーズを受けてフレーズを返してという、ラテン流のセッションになったと思います”と語り、片や磯貝は“SiNGOさんは本場でやられている方なので、胸を借りるつもりで頑張りました(笑)。ドライブ感が刺激的で、自分流のラテンが出てきました”と返答。これらの言葉からも、にこやかに演奏しつつも互いに刺激し合っていたことがよくわかる。ほかにも会場エリアである渋谷の思い出や、各都市の音楽的イメージなど興味深い話が次々と語られた。

なおステージ上にはもう1本、コルドバ製のエレガット・ギター[STAGE TRADITIONAL CD]が置かれていた。セッションでは出番がなかったものの、トーク中に軽く爪弾かれた音はとてもリッチで、次回はこちらでの演奏も聴きたいと思わせてくれたこともつけ加えておこう。

あっと言う間の1時間、ラストはスティーヴィー・ワンダーの「可愛いアイシャ(Isn't she lovely)」をふたりでプレイ。明るくハネやかなピアノはSiNGOらしさ満載で、また磯貝もフィンガー&ピックを使い分け、リズムとリードを弾きこなす。先述のように本曲でもフレーズの掛け合い、刺激のし合いはあったのだろうが、ふたりは終始笑顔でアイコンタクトをしながらプレイ。場内には別企画を目当てに来訪している人もたくさんいたが、全員がステージ上のパフォーマンスに釘付けだ。そして最後の1音が鳴り終わり、大きな拍手をもって『Shibuya Crossing Jam Vol.4』は終了となったのだった。

初対面のふたりがフラッと手ぶらで集まり、会場にある楽器で作り上げたこの時間。もちろんプロ・ミュージシャンの素晴らしいスキルがあってこそのクオリティとも言えるが、楽器を楽しく演奏したいという気持ちがあれば、誰にだってトライすることができるシチュエーションでもあるのではないだろうか。今回のステージを観て、きっと“楽器を始めたい・もっと演奏したい”と思った人がいることだろう。音楽はもっと気軽に演奏していい……そう教えてくれた『Shibuya Crossing Jam』でもあった。

なおSiNGOに関しては、Shibuya Sakura Stageのすぐ隣にある渋谷ストリーム ホールにて2026年10月10日(土)に開催される『JAPAN LATIN MUSIC FESTIVAL "timba"』 への出演を控えている。今回をきっかけにラテン音楽に興味を持った方は、ぜひそちらもチェックしてみよう。

そして次回の『Shibuya Crossing Jam』は2026年8月8日(土)を予定している。プロの演奏が間近で観られ、しかもそれが無料で楽しめる。ぜひ第5回も期待して待ちたい。

◎SET LIST

  1. El guaguancó del silencio(SiNGO)
  2. Kimigayo(SiNGO)
  3. Just The Two Of Us(SiNGO&磯貝一樹)
  4. Mambo Influenciado(SiNGO&磯貝一樹)
  5. Isn't she lovely(SiNGO&磯貝一樹)

◎EQUIPMENTS

<SiNGO>

<磯貝一樹>

文・撮影:岡見高秀


<第5回 Shibuya Crossing Jam 予告>

Shibuya Crossing Jam By 百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)/五味岳久(LOSTAGE)

Shibuya Crossing Jam By 百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)/五味岳久(LOSTAGE)

日程:2026年8月8日(土)
出演:百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)/五味岳久(LOSTAGE)

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