『Shibuya Crossing Jam by 百々和宏 / 五味岳久』 2026年8月8日(土)@Yamaha Sound Crossing Shibuya
2026.9.10
“手ぶら”で集まったふたりが鳴らした
飾らない歌と熱いロックンロール・ハート

2019年に現元号である“令和”がスタートし、今年で8年目。カレンダーのカウンターが“888”と並ぶ令和8年8月8日は、この夏のなかでもちょっとだけ特別な1日に映るのではないだろうか。そんな同日、渋谷の最新エンターテインメント・エリア[渋谷サクラステージ]にあるヤマハのショウルーム[Yamaha Sound Crossing Shibuya]では、5回目の開催となるライヴ・イベント《Shibuya Crossing Jam》が催された。
“ミュージシャンが手ぶらでフラっと立ち寄って、気ままに音楽を奏でる”というテーマを持つ本イベント。これまでも<中田裕二 ✕ 荒谷翔大>、<Keishi Tanaka ✕ Nika>、<ODD Foot Works ✕ 竹内朋康>、<SiNGO ✕ Kazuki Isogai>といった新鮮な組み合わせのミュージシャンが、企画趣旨そのままにフラりと会場に現われ、会場に置いてあるヤマハの楽器を手にして、その瞬間だけのケミストリーでステージを彩ってきた。そして今回初登壇となったのが、MO'SOME TONEBENDERの百々和宏(vo、g)と、LOSTAGEの五味岳久(vo、b)だ。
両名ともオルタナティヴ・シーンで活躍するバンドのフロントマンであり、福岡県出身の百々と奈良県出身の五味と出身地やキャリアに違いはあるものの、バンド/ソロと形態を問わず、何度も共演している20年来の仲のふたり。過去には初対面コンビによるステージもあったCrossing Jamだが、果たして阿吽の呼吸から生まれる今回のセッションやいかに!?

MCで本イベントのキュレーターである尾藤雅哉(BITTERS)に呼び込まれ最初に登場したのはLOSTAGEの五味岳久。バンドではベースをプレイする五味だが、本ステージではヤマハ製エレクトリック・アコースティック・ギター[FG9 RX]をチョイス。トップにアディロンダック・スプルース、サイド&バックにインディアン・ローズウッドを使用した、ドレッドノート・スタイルの1本だ。本器は純日本製のモデルで、組み込みはもちろん、装飾を含めた細部にまで“メイド・イン・ジャパン”らしい丁寧な作業が見られる。
簡単な挨拶のあと、そんなFG9を手に歌いあげたのが「ひかりのまち」。2026年に公開されたLOSTAGEのドキュメンタリー映画『A DOCUMENTARY FILM OF LOSTAGE -ひかりのまち、わたしたちの-』のサブ・タイトルにもなった、バンドの“今”を象徴するような1曲だ。
シンプルなコード・ストロークに飾らない歌声を乗せたパフォーマンスで、スペースを埋めるオーディエンスは早くも彼の世界に引き込まれていったよう。ハイの鳴りがきらびやかなFG9のトーンは、力強く伸びやかな五味の歌との相性が良く、スペースの最後方まで真っすぐに音が届く。本人も“いつも使っているギターよりもいいモノなんです……欲しいな”と、さっそく本音が漏れていた(笑)。
続く「楽園」ではハーモニカを吹きながら、情熱的な弾き語りを披露。歌声を邪魔しない太すぎない鳴りなのも、このアコースティック・ギターの魅力と言えるのではないだろうか。またコード・アルペジオでも、か細くならないのも重要なポイントだろう。このあたりの繊細な出音バランスも、日本製ならでは。
短いMCを挟み、早くも最後の曲となる「HARVEST」がプレイされる。叙情的なメロディが郷愁感を感じさせ、外はまだまだ陽が残る8月らしい空模様だが、なんだか夕日のなかを歩いているかのような気持ちにさせてくれた。コードのストロークも柔らかく響く。そしてひと言“どうもありがとうございました”と挨拶をし、彼は一度ステージを降りていった。

五味と入れ替わる形でステージに上がったMO'SOME TONEBENDERの百々和宏は、アコギではなくエレキ・ギターでの弾き語りとなった。手にしているのはギルド製のセミ・アコースティック(セミ・ホロウ)ギター[Starfire 1 DC]。本ブランド定番のセミアコ・モデルで、演奏中にも絶妙な揺らぎを生み出した特製のトレモロ・ユニットを備えた1本だ。
演奏前のMCでは“普段使っている楽器ではないので、スゴくやりづらいんです(苦笑)”と語っていたが、1曲目である「クラクラ」からすでに弾き馴染んだ愛器のように見え、このあたりはさまざまな経験を重ねてきた彼ならではの流石のプレイというところだろう。
低音でのハネたリズム・リフにいざなわれて始まった「スーパッパ」は、ギター1本ということも相まって、ブルース色が強くなったアレンジとなった。軽快な百々の歌がまた、ブルージィな陽気さを演出する。アウトロではクランチ・サウンドでギュンギュンとワイルドなフレージングを披露し、エレキによる弾き語りの強みも見せてくれた。
ラストの「ロックンロールハート(イズネバーダイ)」でも、百々は曲間やコーラス・パートでEQDのファズを踏んだドライブ・サウンドをかき鳴らし、彼らしいオルタナ・ソウルな味付けをしていくのだった。
それぞれ3曲ずつ披露し、ソロ・セクションは終了。ともにクリアであり感情溢れる歌唱を持ち味にするシンガーだが、アコースティック・ギターとエレキ・ギターという伴奏楽器の違いによって、その個性の違いがより色濃く出た弾き語りとなった。そしてすぐさま五味もステージに呼ばれ、ここからいよいよトーク・セッション・タイムだ!

ステージに並んだふたりの手には、いつのまにかビールも握られている。このYamaha Sound Crossing Shibuyaにはステージや楽器展示ブースのほかにカフェ・カウンターもあり、そこではオリジナルのクラフト・ビールも展開。演奏するミュージシャンから観客まで、お酒やコーヒーを飲みながらリラックスして音楽を楽しむことができるのもShibuya Crossing Jamの特徴であり、楽しいところだ。
そしてここからは、しばし対談コーナーがスタート。MCから“オルタナティヴの神(五味)”、“オルタナティヴの貴公子(百々)”と紹介されるように、ともにジャパニーズ・オルタナ・シーンを盛り上げているふたり。そこにお酒も入ったということで、まるで楽屋のように和気あいあいと会話がはずむ。初対面でのこと、渋谷エリアの思い出、ミュージシャン同士のつながり方など、いつも以上に盛り上がったのだった。

もちろん本日弾いた楽器についての話しも熱く、五味は“初めて弾くギターでも、いいものは弾きやすい。メーカーからのサポートではなく、しっかりとお金をためて買いたい!”と、すっかりFG9が気に入った様子。“ヤマハの印象”というテーマでは“幼稚園のときからヤマハのエレクトーン教室に通っていた(五味)”、“ヤマハ主催の音楽コンテストに参加していた(百々)”と、自身とブランドのつながりについても教えてくれた。

イベント時間もすっかり最終盤、最後はふたりの共演だ。そこで両人が選んだのが、中島みゆきの「悪女」のカバーだった。中島は、百々もエントリーした音楽コンテスト《ポプコン》出身であり、またそもそも当スペースは彼女のレコーディングも行なわれていたヤマハのスタジオがあった場所でもあるという。まさにブランドとのゆかりをなぞる本日のシメにピッタリのセレクトだと言えるだろう。


百々は再びStarfire1を、五味はヤマハ製ベースのフラッグシップ・モデル[BBP34]を手に取り、“ありがとうございました”の挨拶に続けて演奏を始める。
歌い出しは百々。リヴァーブの効いたギターに甘めの歌唱が乗り、カバーながらもしっかりと個性が出ている。それを支える五味のベースはやわらかく、少ない音数でギターとのコントラストを出す。間奏ではふたりともハードにドライブさせ、オルタナティブな彩りを加えたプレイも見せてくれた。
2番を担当する五味もやはり自身の個性が出た歌唱を披露、タメを挟んで入ったコーラスでは、目を細めてより激情的に歌う。またそこに百々のクランチィなかき鳴らしが重なり、ふたりだけの「悪女」が成ったのだった。

今回のShibuya Crossing Jamは、近いシーンで活動してきたふたりによるコラボレーションであり、その相性の良さが存分に出たステージになったと言えるだろう。ふたりの歌と2本の楽器で、もうバンド・アンサンブルなのだ。そんな気づきも得られたイベントであり、フラっと立ち寄ってくれたミュージシャンたちの個性のマッチアップから、どのような音楽にも変化していくセッションと改めて感じられた1日でもあった。“令和最大の末広がりの日”は、音楽の無限の広がりも表わしていたのかも!?
さて、次回は11月14日(土)を予定しているShibuya Crossing Jam。次はまったく違ったスタイルのふたりなのか? 手にする楽器は何なのか? ぜひとも、どんなプレイヤーが登場するのか楽しみにしながら、その発表を待ってもらいたい!

◎SET LIST
- ひかりのまち(五味岳久/LOSTAGE)
- 楽園(五味岳久/LOSTAGE)
- HARVEST(五味岳久/LOSTAGE)
- クラクラ(百々和宏/MO'SOME TONEBENDER)
- スーパッパ(百々和宏/MO'SOME TONEBENDER)
- ロックンロールハート(イズネバーダイ)(百々和宏/MO'SOME TONEBENDER)
- 悪女/中島みゆきのカバー(百々和宏&五味岳久)