第4回「SG」への想い

第4回「SG」への想い 伝説を超えて進化する。それがSGという伝統の継承。

 
Profile
山城隆
山城隆

1998年入社。アンプ、エフェクターのDGシリーズ、STOMPシリーズ、BBTシリーズの設計開発・企画を担当。2005年よりエレキギターの設計に携わり、2008年よりエレキギター全般の商品プロデュースを担当している。
山中伊顯
山中伊顯

1997年入社。生産技術部門にて設備設計開発を経験後2001年よりエレキギターの設計開発に携わり、ヤマハの看板モデルであるベースのBBシリーズおよびギターのSGなどのリニューアルを手がける。
 

 

——SGといえばヤマハエレキギターを代表するモデルですね。
【山中】:SGというモデル名そのものは1966年から。現行モデルの原型となったのが1976年のSG2000とSG1000ですから、すでに30年以上になる名門ブランドです。SGはこれまで多くのギタリストに愛用されてきました。サンタナ、高中正義、山本恭二、野呂一生。ボブ・マーリーもライブで使っていました。

——今回どうして大幅なモデルチェンジすることになったのですか。
【山城】:オリジナルパーツの確保、という問題もあるのですが、それ以上に大きいのが、高い完成度を誇っていたSGも、30年以上の時間を経てその間の音楽の変化や機材の進化に対応しきれなくなった点です。SGといえば、サンタナや高中さんのように、ソロギターに最適な、いわゆる「音が立つ」サウンドがトレードマークでした。でもギターソロをメインとした音楽のニーズが、現在のミュージックシーンにはあまりなくなってしまっています。
【山中】:SGには長い伝統があり、社内でも強い思い入れを持った人間が大勢います。しかし今回はあえてSGに対してフラットな感性を持ったロサンゼルスのYamaha Artist Services Hollywood (通称YASH)やイギリスのAR拠点を巻き込み、SGの「伝説」や「常識」に縛られずに「新しいSGはどうあるべきか」を検討しました。そして出てきたキーワードが、ずばり「ロック」でした。彼らにとってみればSGは数ある中の一つのギターであって、どこまで実戦的に使えるか、が大切なポイントなんです。

 

 

——なるほど。では新しいSGのモデルチェンジに際して、まず変えなかった点を教えてください。
【山城】:SGの最大の特徴である美しい対照型のダブルカッタウェイのシェイプはそのまま継承しました。この形が変わったらSGじゃない。このシルエットはSGのアイデンティティだと思っています。またボディの素材の組み合わせも以前と同じくメイプルトップ+マホガニーバックです。ヘッドに関しては、前と同じ印象に見えるようにしていますが、わずかに小型化し全体の重量バランスを向上させています。

 

 

——では逆に今回変更した点はどんな点でしょうか。
【山城】:まずボディのアーチのえぐりが今までより大きくなっています。ルックス上でもかなりダイナミックな印象に仕上がりましたが、これはサウンド面での狙いもあります。トップがより削られることで硬い素材であるメイプルの比率が減り、以前よりも音がまろやかで太くなりました。さらに従来のSGが持っていたバックコンター(背面のえぐり)も廃することで、マホガニーの比率がさらに上がっています。バックコンターはボディの上側、つまり低音弦側にありましたので、従来よりも豊かに低音が響くようになったと思います。
【山中】:今回モデルチェンジにあたって多くのギタリストの方に弾いてもらったんですが、30年前と比べると、音楽性や機材の変化だけでなくプレイスタイルそのものも変化しています。以前よりロック系のプレイヤーが増え、ギターの構える位置が低くなっているんです。ですから演奏上バックコンターはさほど必要ではなくなりました。
【山城】:指板もエボニーからローズウッドに変えています。エボニーは硬い音がするんですが、バッキング時のバンドサウンドへのなじみを考えるとローズのほうがベターだと判断しました。
【山中】:それからセットネックにした点も大きいですね。今までSG2000などのハイグレード機種はスルーネックでした。これは長いサステインを得るための手間とコストがかかる工法です。しかし今回は最上機種ながら、あえてサウンドの歯切れの良さを求めてセットネックとしました。近年のアンプやエフェクターの発達で、サステインは機材で十分フォローできるようになったということもあります。セットネックの方法は従来方法をさらに改良し、最新の木工技術を駆使することで非常に高い精度でネックを組み込むことに成功しています。
【山城】:でも一番大きいのはピックアップを変えた3種類のモデルがラインナップしている点でしょうね。

 

 

——確かに今までSGのトップモデルは1機種でした。今回3モデルあるのはどういう理由からですか。
【山城】:今回のリニューアルのテーマは「ロック」ですが、今の時代、1つのモデルだけでこれだけ多様化したロックのすべてのジャンルをカバーするのは無理があると考えたのが主な理由です。開発当初はスタンダードなSG1820だけを開発していたんですが、いろんなユーザーの声を聞いてみると要求が多種多様で、少なくともピックアップの種類だけで3タイプぐらいは必要だなと。
【山中】:SG1820はスタンダードなハンバッカーですが、SG1802はシングルコイルでカリっとしたクランチ系の音色が魅力のP-90タイプのピックアップを搭載しています。一方SG1820Aはヘヴィロック・メタル系サウンドに対応したモデルです。ピックアップにはアクティブタイプのEMGを搭載し、音圧感のあるハイゲインなサウンドを出すことができます。3つのモデルはそれぞれデザインにも音楽性にマッチした個性を持たせています。

 

 

——SGの開発で特に思い出深いエピソードはありますか?
【山城】:まだ開発の初期段階にYASHで試弾してもらったのですが、バンド演奏時の音ヌケを確認したかったので、あるバンドのギタリストにバンド全体でのアンサンブルの中でギターの音をチェックしてもらいました。特に新旧を言わずに弾いてもらったら、新しいSGが断然いいよって言ってくれました。しかもそのギタリストだけでなく他のバンドメンバーも同じ声で。これは嬉しかったですね。その時に今回のSGのモデルチェンジの方向性は間違ってないなって確信しました。そこが今回のSGの進む方向を決定したポイントだったと思います。
【山中】:僕はトップ面のカーブ形状に結構こだわったところです。試作段階で何種類か職人さんに削ってもらって、もう少し深くしてください、とお願いしたりして微妙なところまで細かく修正しながら、この形状になっています。

 

 

——お二人のギターとの関わりについて教えてください。
【山中】:ギターは高校生ぐらいからですね。X JapanやBOOWYを聴いていて、エレキってカッコイイなって思って始めました。大学でもずっとギターを弾いていたんですが、元来モノづくりに対して非常に興味があったので、自分だったらこうしたいという思いもあって、大好きなエレキギターの開発の仕事がしたいと思うようになり、今の職場を熱望していました。社会人になった今もギターはよく弾いています。山城といっしょに演ったりもしてますよ(笑)。主に聴くのはメタリカなどのヘヴィメタル系なんですが、最近はJ-POPやジャズなど、いろんな音楽を聴くようになってきました。ジャズだとなぜかピアノ系が好きです。でもやっぱり一番好きなのはヘヴィメタルで、今回のSGも、バンドで弾くときに、自分が弾くならこうしたいな、と思って音や仕様を提案した部分もあります。できあがった新しいSGを自分のバンドで使うのを楽しみにしています。
【山城】:僕がギターを始めたのは山中より少し遅くて大学ぐらいなんです。弾きはじめた頃はディープ・パープルをやりましたね。リッチー・ブラックモアが好きでした。そこからザック・ワイルなど、ロックやヘヴィメタル系にハマっていました。でもバンドでいろんな曲を演奏するようになって、聴く音楽も広がってきて、楽器に関しても、だんだんと弾くことだけでなく機材関連にも興味が移ってきて。それで就職の時はギターやアンプの開発ができるヤマハに入社しました。僕もギターは今でもよく弾いてます。ヘヴィメタルのオリジナルをバンドでやってます。ギターが好きでヤマハに入って、自分の経験やギターへの思いを込めながら、伝統あるSGというギターの設計ができて、とても幸せだと思っています。

 

 

——最後に新しいSGをどんな風に弾いてもらいたいと思いますか。
【山中】:このSGはロックな音が出せるようにしました。ですからとにかく元気に弾いて欲しいです。弾いたら丁寧に拭いてハードケースにしまう、という弾き方より、ステッカー貼りたかったら貼ってもらって、ガンガン弾いて、傷ついてもいいからソフトケースでどんどん持ち運んで。そんなイメージで弾き込んでもらいたいと思います。正直言って自分が欲しいと思ったギターを作った、という感じです。
【山城】:僕の場合、自分が持っていたギターで、わりと高いものでも長く使っているうちにネックが反ったりして使えなくなったモノがありました。でも、ヤマハのギターは過酷な試験にも耐えられる設計や作り方をしていますので、そういうことはありません。最初はちょっと高価だと思われるかもしれませんが、何十年も使っていただける堅牢さと音のクオリティを持っています。ぜひ末永く使ってください。

 

 
Editor's Comment
インタビューの時に新しいSGを見て「あのSGが、こんなに変わったのか!」というのが第一印象でした。でも山城さんや山中さんのお話を聞いているうちに、輝かしい歴史と伝統に縛られることなく「ギターとしての完成度」にこだわったモデルチェンジであることがよくわかりました。伝統とは単に守っていてはダメなんですね。変化を恐れることなく、積極的に変わっていくことで伝統は継承されるんだなと感じた、楽しいインタビューでした。