独自の視点による 神奈川ミュージカル協会 ミュージカル『アンナ・カレーニナ』

ミュージカルにはいろいろな要素が含まれているが、歌唱力を重要視したミュージカルを作ってみたいと声楽家を中心に8年前に神奈川県で結成された団体が、この「神奈川ミュージカル協会」だ。公演の回を重ねていくうちにその主旨に賛同して、映画俳優やバレリーナなどが参加しはじめ、公演によってはフランス人やブラジルのオペラ歌手も出演している。

そして今年、2011年8月13日、第8回ミュージカル公演『アンナ・カレーニナ』が横浜馬車道にある関内大ホールにて、13時と17時2回公演のダブルキャスト(アンナだけはシングル)で行われた。

公演はトルストイの原作を独自の視点で台本作成、構成し音楽をつけた気品ある美しい悲劇に仕立て上げられていた。

この団体の音楽作りはユニークで興味深いものがある。今回は全編チャイコフスキーの音楽に歌詞をつけており、さらに緊迫した場面ではタンゴ、アストール・ピアソラがちりばめられている。そのために、音楽が日本的なメロディーに陥らず、劇の格調を高めていた。この手法は過去に上演された作品にも共通しており、第5回公演『マリー・アントワネット』では、ラフマニノフの楽曲が作品に情感を与えており、第6回公演『エリザベート』では、ワーグナーとジャズの組合せが劇的効果を高めていた。各公演とも、エレクトーンを中心にほかの楽器を組み合わせており、今回もエレクトーンと打楽器が公演を引き締めていた。エレクトーン奏者は小林由佳。この協会の公演に毎回出演し大きな力を発揮している。

さて、今回の公演は、冒頭のモスクワ駅の雑踏を表現している合唱の動きが鋭角的、現代的で新鮮な感じを与え、一転して舞踏会の場面になると全員オーソドックスな服装、動作に変化するのも面白い。主役のアンナは石渡千寿子のシングルキャスト。歌良し踊り良し、いつもながらの美しく気品のあるステージを見せてくれた。昼の部のヴロンスキーは声楽家の土井悦生、夜の部は俳優の一見直樹が演じており、片や立派な声で演じる重みのあるヴロンスキー、片やアンナとの心の葛藤を見事に演じるヴロンスキーで、それぞれの違いが面白い。カレーニンはベテラン声優家の伊東剛と筆者(岡田有弘)。その内容の濃い演技と声で舞台を引き締めていた。アンナ、ヴロンスキー、カレーニンの三者三様の哀しみが充分に伝わってきて充実。今回も密かに涙をぬぐう観客の姿があちこちに見られた。

ちなみに、これ以外に同協会で上演された作品は、ミュージカル『カルメン』、場末のキャバレーの踊り子がトップに昇り詰めていくストーリーの『ニューヨーク・トップレディ物語』など。それらの作品の面白さ新鮮さゆえに、複数の劇場が上演場所の提供をしてくれたり、『音楽の友』が2年連続で記事として取り上げてくれた。今後もいろいろな作品を独自の視点でミュージカルに作り直し、新しい形態の舞台芸術が生み出されてきたら面白いのではないか。

神奈川ミュージカル協会会長/岡田有弘

(上から)写真4:エレクトーン演奏/小林由佳

2011年11月10日 関内ホール