『トスカ』に見る“エレクトーン・オペラ”上演の未来 オペラ『トスカ』ハイライト

当日の会場を埋め尽くした満員の聴衆は、オペラ公演におけるエレクトーンという楽器のポテンシャルと可能性に驚嘆したに違いない。

実は、『トスカ』のハイライト公演と聞いたとき、東京という巨大なオペラ市場において、あまりにもありきたりではないかと懸念した。

しかし蓋を開けてみれば、公演は大成功だった。観客は、小川里美が演じるトスカに、思い描いていた“美しい歌姫”そのものを見いだし、「愛と藝術に生き」る彼女のドラマに没入した。与那城敬は、スカルピアの“悪の色気”を、強靭さとしなやかさとを併せ持つ歌声によって表現した。マッダレーナ像も、牢獄もなかったが、そこにカヴァラドッシの愛や絶望が存在したのは、高田正人のオペラ俳優力があればこそであろう。照明の三浦あさ子は、“何もない空間”をあるときは教会に、もしくは城に仕立て、さらには登場人物たちの感情の発露を強化し、文字通り舞台を光で満たした。

そして今回特筆すべきは、清水のりこのエレクトーン演奏と編曲であった。原曲のオーケストレーションを最大限に活かし、楽器の特性を熟知したアレンジによってドラマを表現し尽くしたことは驚嘆に値する。彼女なくして公演の成功はなかった、と言っても過言ではないだろう。

さて、この度の好評を受け、めでたくもヤマハ株式会社主催による再演が決定した。そこで次回公演も含め、今後の“エレクトーン・オペラ”が発展してゆくための提案を最後に3つほど挙げてみたい。

①エレクトーンを「オーケストラの代り」にしない

1台でオーケストラと同等の音色の多様さを誇ることは、確かにエレクトーンの素晴らしさである。しかしオーケストラの代用楽器として使用する、というアイデアは、あまりにも消極的な選択によるものだ。そっくりの音を追求しているうちは、どうやってもイミテーションにすぎない。原曲のサウンドを忠実に再現しようと考え過ぎてはいけない。

②電子楽器としてのメリットを最大限に活かす

オペラ公演において、楽器とスピーカーを離して使用できることはかなり魅力的である。会場全体にスピーカーを配置してサラウンド効果を利用してみてはどうだろう。例えばバンダが客席後方から聞こえ始め、だんだん舞台に近づいてくるなどの演出も容易にできる。

③あえて電子音なども取り入れたアレンジをしてみる

筆者は以前、ヘンツェ編曲のモンテヴェルディ『ウリッセ祖国への帰還』を歌ったことがあるが、エレキギターやアコーディオン、ゴングなどを使用し、原曲からは完全にかけ離れたサウンドになっているにも関わらず、却って原曲の魅力を新しい切り口で伝えてくれていた。今こそ、あえて電子オルガンならではの音色を用いたアレンジを試みるべきではないだろうか。

オペラ演出家、カウンターテナー/彌勒忠史

(上から)写真1:トスカ/ソプラノ・小川里美|写真2:カヴァラドッシ/テノール・高田正人|写真3:スカルピア男爵/バリトン・与那城敬|写真4:演出・ナビゲーター/彌勒忠史|写真5:エレクトーン演奏/清水のりこ

2012年5月6日 銀座ヤマハホール