川口シティオペラとは…… 川口シティオペラ第4回公演『ヘンゼルとグレーテル』

20年余り川口少年少女ミュージカル団の芸術監督として川口総合文化センターリリアで活動してきた本会芸術監督の松山雅彦が、リリア音楽ホールの音響の良さに感動し、地域に根ざしたオペラ上演を通じて子どもから大人まで多くの市民が劇場文化を体験、享受し、さらにこれらが活性化することを目的に、本会「川口シティオペラを考える会」の発足を考えました。そしてそれに賛同した埼玉県議会議員の田中千裕氏が会長に就任、広く市民にオペラ合唱団員を募集し「川口シティオペラを考える会」が2008年1月に設立いたしました。

オペラ演出家の松山が地域住民参加型である市民オペラの上演を考えた訳は、市民参加者がオペラに出演することにより客席で鑑賞される市民の方がより身近にオペラを享受できるという事由はもとより、オペラ上演を通じて参加されたあらゆる年代の市民相互のコミュニケーションの向上、また、市民オペラに多くの市内の子どもたちが参加することによりオペラを若年層育成番組としても活用できる、という大きな期待があったからです。

「川口シティオペラを考える会」が第1回公演としてはじめに選んだ作品はオペラと言えば定番のモーツァルト作曲『フィガロの結婚』です。

まずこの喜歌劇的オペラをよりわかりやすくするために内容を現代とし、登場人物のアルマヴィーバ伯爵は伯爵家の当主ではなく、芸能事務所の好色社長、フィガロはその会社の舞台監督、婚約者のスザンナは社長夫人のファッションコーディネーターとし、余りにも騒がしい好色社長率いるアルマ芸能社の一日と表題しました。さらにイタリア語での言語上演をよりわかりやすくするために、このオペラのナビゲーター役として女流講談師の神田紅師匠を迎え、西洋の「オペラ」と日本芸能としての話芸である「講談」をコラボさせ、神田紅師匠の巧妙なる講談でオペラ『フィガロの結婚』を上演いたしました。

第2回公演として選んだのは最も親しまれているオペラ、ビゼー作曲『カルメン』。特筆すべきは、川口シティオペラ合唱団、子ども合唱として川口少年少女ミュージカル団の参加に加え、川口市内にて長年にわたり活動を続ける大沢フラメンコ舞踏団の出演、そして新たに地域間交流として愛知県豊橋市の男声合唱団「ふんけんクラブ」が出演し、舞台を通じて新たなコミュニケーションが成立し、広く地域をあげての市民オペラとして『フラメンコオペラ・カルメン』が上演されたことです。

第3回公演として選んだ作品は、日本人なら誰もが一度は聴いたことのあるメロディー(文明堂のカステラのCM)でお馴染みのオペレッタ、ジャック・オッフェンバッハ作曲の『天国と地獄』。

「天国と地獄って何?」と質問されることが多いのですが、CMのメロデイーを聴くとオペラに馴染みのない人でも納得。また、舞台に大階段を作り、出演者は階段を昇り2階へ、そして1階へと一周できる舞台装置やクルクル廻る回転ベッドの上で行われる早替えなど、オペラ初心者にも飽きさせない演出で第1回目から続く満員御礼を更新いたしました。

そして第4回公演として選んだ作品はフンパーディンク作曲の『ヘンゼルとグレーテル』。子どもたちが魔女の手下の「魔女っ子」「森の妖精」「お菓子の家」などの役柄を演じ、よりファンタジーな色合いを大切にする演出で上演、さらに本来ならば出演する場面がない大人合唱を、「さらわれた子どもたちを探しにきた親たちと子どもたちの再会場面」として創作し、シティオペラ合唱団が活躍できるように構成。この子どもたち中心のオペラをシティオペラ『ヘンゼルとグレーテル』として再編し上演しました。

また今回のオペラにおいて最も重要なことは、フンパーディンクの濃密なる音楽をどう表現するか、でした。

というのも、これまでの「川口シティオペラを考える会」の上演形式はピアノ伴奏での上演が恒例となっていたからです。そこで、以前エレクトーンシティ渋谷においてエレクトーン伴奏によるオペラを演出した経験がある松山は、エレクトーンでの表現が望ましいと考え、STAGEAを2台導入しました。

エレクトーンはよくオーケストラの代わりと考えられますが、決してそうではないのです。単なるオーケストラの代用とは認識せず、エレクトーンのもつ本来のサウンド感をオペラ表現においていかに生かすかが要なのです。もちろんそれにはまだまだ技術の向上が期待されますし、目下のところエレクトーン奏者の音作りの面が課題となるでしょう。しかし、オペラ表現においてのエレクトーンのこれからには大いに期待いたします。

芸術監督/松山雅彦

エレクトーン演奏/赤塚博美、海津幸子

2012年12月22日 川口リリア音楽ホール