「夢と希望、愛と友情、そして現実」が交錯する舞台 川崎市民オペラ 全曲シリーズ第12弾 『ラ・ボエーム』日本語上演

私たちが今年選んだのは、プッチーニ作曲の『ラ・ボエーム』です。オペラを歌うものにとって、ヴェルディ、プッチーニは憧れですが、なかでも流麗な旋律と和音、独特な"揺れ"を特徴とするプッチーニ作品の演奏は、"夢"に近いものでした。私たちは創設から一貫して"日本語による演奏"をモットーとしてきました。ヴェリズモ(現実主義)オペラの日常的な会話劇をどう日本語に訳し、どう旋律にのせていくか?! 苦労はそこから始まりました。イタリア語に付けられた旋律に、その美しさを損なわずに日本語の歌詞をのせる作業は、実に悩ましい限りです。きっとこの先もずっと、この悩みは続くのでしょう。

舞台装置は機能的にしてリアリティのある空間を目指し、特に2幕の広場の光景は目を見張る出来映えだった……とは自画自賛でしょうか。今回、川崎市民オペラ(以下、川オペ)初参加の若手二人の声を聞きました。まず、演出助手を務めた自身も歌い手の桜庭由希さんの声です。

「約千人収容の会場。ソリスト陣の素晴らしい歌、パワフルで生き生きとした合唱団。全員が舞台の上で輝いていました。『大成功!』という形で終われて本当に良かったです。日本語を美しくわかりやすく伝えるために歌い手は相当な努力を重ねます。今回の規模のホールの後ろまで声と言葉を届けるのは並大抵のことではありません。私は12月公演予定の舞台に出演しますが、ベテランの先輩たちを見習い、しっかり言葉を届けられるように頑張ります!エレクトーンによる舞台は、オーケストラの音により近づいた効果なのか、オケ合わせから出演者のテンションがぐん!と上がりました。歌い手の呼吸を読み取って弾いてくださって、皆の個性がさらに光っていました!!」とのこと。

そして、初役のムゼッタを歌った根岸千尋さん。 「今回エレクトーンでの演奏も音を間近で聴くことも初めてだったので、初稽古のときはとても感動しました。二人だけでフル・オケの音をこんなに出せるのか!と驚き、お二人の演奏方法など聞いてさらに興奮しました。両手・両足、全部違う動きで弾いている姿も躍動感がありカッコよかったです。ぜひまた、エレクトーンの演奏で歌ってみたいと思います」

……川オペも21年が経ち、第2次世代交代が始まろうとしています。これから10年を夢と希望を持って駆けてゆく若者に、愛と友情をもって道を示す経験者たちが手を添えて、舞台と現実の狭間を行き来し、オペラの舞台を通して音楽の素晴らしさ、人の心の美しさを表現し伝えていきたいと思う私たちの『ラ・ボエーム』でした。

次回公演は、2016年12月14日(水) ノクティホール"メノッティ・ナイト"として『アマールと夜の訪問者』『電話』の2本立てです。ご期待ください!!

制作/大沼久仁子

エレクトーン演奏/赤塚博美、村山佳奈

2016年6月4日 川崎市多摩市民館大ホール