有名になるべき傑作を編曲する幸せなひととき サルビア21主催 オペレッタ 『ヴェニスの一夜』

発足から21年を数える『サルビア21』。公演は不定期ながらも、今年で団体名と同じ『21』年目のこの団体は、埼玉県和光市を中心に“聴衆が心から楽しみ、メロディーを口ずさみながら家路につく公演”を目指し、主宰の宮地多美子氏の下、日本語訳、台本、演出、舞台道具などに至るまで全てを団員全員で取り組んでいる。

今回の『ヴェニスの一夜』は(よくあることだが)原作が分かりにくく、初演は成功しなかった作品とされている。しかし、その楽曲はたいへん美しく秀逸で、J.シュトラウス2世の作曲実験が随所で見られる作品である。

ただ、今回の作品を編曲するにあたり一つ懸念があった。それは奏者の小倉里恵氏から「エレクトーン用の3段譜で編曲を」と指示があったことだ。普段からオーケストラスコアしか頭にない私が、最初からエレクトーンスコアでの編曲を行うのである。

例えるなら、オリーブオイルで天ぷらを作るようなもので。取り掛かり始めた最初の数曲は、ひどい労力であった。しかし、人間やればできるもので、ある工夫を思いつく。

普通、スコア上段から順にEL1、EL2……と書かれるものを、今回はEL2、EL1と、順番を逆にしたのである。私にとって、スコアの最上段からフルートではなくヴァイオリンの音がすることや、1st. ELから1st. ヴァイオリンの音が出ないことは、どうしても気持ちが悪いのである。

この工夫によって、例えばEL1の右手にヴァイオリンを指示すると、本来のオーケストラスコアに近づき、楽譜から音が見えてくるようになった。オリーブオイルでも意外と美味しい天ぷらに仕上げることができたようだ。

編曲は、今回初めてお会いする西岡奈津子氏からも評価いただき、終わってみれば、いつも以上に幸せな編曲だったように思う。

各方面から大好評をいただく公演になったことは言うまでもなく、3ステージ延べ1000人規模の観客から温かい拍手をいただいた。

この場を借り、ご来場くださった皆様や関係者をはじめ、改めて西岡氏、小倉氏にも最大の感謝を申し上げたい。

著・編曲・指揮/小林 樹(作曲家)

エレクトーン演奏/西岡奈津子、小倉里恵

2018年6月30日、7月1日 和光市民文化センター サンアゼリア小ホール