合言葉は、「子どもたちにオペラを!」 3歳からの渋谷こどもオペラ 『ヘンゼルとグレーテル』(日本語/1時間公演)

総合監督の三枝成彰氏(作曲家)のプロデュースによる『渋谷こどもオペラ』は、127席のシアター型円形ホール「シダックスカルチャーホール」で、昨年12月に計9回公演を行いました。この企画、実は、オペラ作曲家である三枝氏の原体験と重なるものです。幼い頃、両親に連れられて初めて観劇したのが、フンパーディンク『ヘンゼルとグレーテル』でした。クリスマスに、家族みんなで小さなオペラ劇場へ。臨場感たっぷりに本物のオペラに触れ、感想を言いながらクリスマスディナーを。そんな素敵な時間が、家族の恒例行事になりますように…。

今回は、3歳から入場可で、膝の上での鑑賞ならば無料。2時間近くのエッセンスを1時間に凝縮し、日本語で上演しました。新進気鋭のアーティスト森永大貴氏によるアニメーションも投影するなど、「子どもたちにオペラを」(三枝氏)を合言葉に、子どもたちに物語世界をより楽しんでもらえるよう、さまざまな仕掛けを施しました。

魔女役と母親役は、バリトンの江原啓之氏。二役とも初挑戦でしたが、圧倒的なオーラを放つ歌唱とパフォーマンスで、子どもたちを釘付けに。グレーテル役のソプラノ森川史さんは持ち前の清純さと安定した歌唱、そして、ヘンゼル役のソプラノ小村知帆さんは迫真の演技と快活な歌唱で、声・容姿ともにベストマッチ。眠りの精と露の精の二役を演じたソプラノ瀧口沙由理さんは、豊かな歌唱と演技で二人を温かく見守り、自由と希望の門出へと誘っていました。

そして、何より圧巻だったのは、エレクトーンの清水のりこさんです。森の怖さやお菓子の家のメルヘン、そして魔女の仕掛けた罠…、フンパーディンクが全編に張り巡らせたモティーフを、さまざまな色彩やタッチで繊細かつ大胆に表現し、エレクトーンの豊かさと無限の可能性を感じさせました。エレクトーン1台によるフルオーケストラのサウンドが、会場に感動の大きなうねりと一体感とを生み出していました。

著・指揮・演出/初谷敬史

エレクトーン演奏/清水のりこ

写真/山中志月

2018年12月21日~26日 シダックスカルチャーホール