能代オペラ音楽祭の歩み〜『椿姫』から『ラ・ボエーム』まで〜 能代オペラ音楽祭第8回公演 プッチーニ『ラ・ボエーム』

北東北の県庁所在地でもない一地方都市秋田県能代市に、2年後の上演を目指しイタリアオペラ『椿姫』、しかも全幕を開催しましょう!というとんでもない大きな企画と機運が生まれたのは2010年のことでした。前々からご縁のあったバリトン歌手で芸術監督の成田博之氏の提案で伴奏はぜひエレクトーンで!ということになりました。私もこれまでオペラを観てきた中でオペラはオーケストラという固定観念がありましたので、その提案は意外なものでした。

能代市はおろか、秋田県内でも初めての上演となった『椿姫』は話題性もあり大成功でした。オペラという新しい文化の誕生に市民からは今後も続けてほしいという声が持ち上がり、その後はモーツァルト『レクイエム』、『椿姫』再演、フォーレ『レクイエム』、『カルメン』全幕、『第九』、『ラ・ボエーム』第2幕演奏会形式、『ラ・ボエーム』全幕と今夏まで8回の公演を重ねてきました。エレクトーンは『第九』を除くすべての演目に関わっていただいています。

オペラではオケピの中に、ある時は舞台袖でバンダ、ある時は舞台上にオーケストラとともに、西岡奈津子氏を中心としたプレイヤーが、ほぼ毎年能代にいらしていただいています。

特に印象深かったのが、オーケストラピット内での演奏で、エレクトーン2台の奏でるリアルな音と豊かな表現に「どんなオーケストラが演奏しているのだろう?」と幕間にオケピを見にきたお客様が「エレクトーンだった!!」と目を白黒させ、その感激をお話ししてくれた時のことでした。オーケストラパートをエレクトーン2台で受け持ち、指揮者、エレクトーン奏者、歌手、舞台、そしてお客様が一体となって表現するこの演奏形態は、今や能代では定番の風景となっています。

そして今年の公演は、オペラ『ラ・ボエーム』全幕。「これぞ、ボエーム!」とワクワクする気持ちが生まれてくる冒頭の有名なフレーズがエレクトーンによって1180席の劇場に響き渡ると、一気に緊張感も加速します。舞台袖でその瞬間を注視していた私も「ついにここまで!」と本当に感激いたしました。

清純なミミのテーマ、ミミとロドルフォの出会いのシーン、ミミが息絶えるクライマックスなど、プッチーニの色彩感溢れる旋律がエレクトーンのゴージャスな音によって今年も再現され、能代の人々に感銘を与えてくださいました。エレクトーンとの出会いがなければ能代オペラは存在していなかったと言っても過言でないと思います。

能代でこれからもオペラを!というお客様の声にお応えするべく、そして、このご縁がさらに感動的なものとなれるように精進を重ねてゆきたいと思います。

著・代表/関口美奈子

エレクトーン演奏/西岡奈津子、小倉里恵

2019年8月25日 能代市市民会館大ホール