エレクトーンと人間とのハイブリッドな関係性 ヒンデミット『ロングクリスマスディナー』

私がオペラでエレクトーンと出会ったのは4年前、杉田香織氏との共演が初めてでした。それまでエレクトーンと言えば、管弦打楽器の代用品くらいにしか思っていなかった私は、指揮者とコミュニケーションを取りながら演奏ができ、オーケストラの楽器の模倣という概念では語りきれない表現力の深さに驚きを隠せませんでした。と同時になんという無礼な思いを抱いていたのだろうと自戒しました。エレクトーンはあくまでも電子機器です。しかし、電子機器と人間とのハイブリッドな関係性が成立することで、エレクトーンは既存楽器の代用あるいは模倣を超えた存在へと昇華することを、指揮者は忘れてはいけません。そのような意味でオケの中のエレクトーンは、ア・カペラの “ボイパ”の存在に近いかもしれません。著名なボーカルパーカッショニストKAAZは言います。「主張ではない調和だ」と。

2019年12月14・15日のP.ヒンデミット『ロングクリスマスディナー』の公演では、木管楽器の1stは木管で演奏し、2ndパートと金管楽器およびコントラバズーンの音をエレクトーンが担当しました。簡素な筆致ながら一聴すると難解なヒンデミットの音楽は、エレクトーンを組み入れた小編成のオーケストラによって、あたかも2管編成のオケであるかのように響き渡りました。そして、スピーカーのコーン紙からの発音を感じさせない音の立ち上がりとエンベローブ(減衰)の処理、外部スピーカーの向きといった杉田氏の配慮が施されたエレクトーンは、聴衆にはオケの音の一つとして受け容れられたに違いありません。もちろん、このことを最も感じたのは、近くにいたオケの奏者だったことでしょう。

こうなると、アレンジではなくオリジナルとしてのエレクトーン・オペラに期待が膨らみます。でも、舞台裏からは「僕らの仕事を取るなよ」という声が聞こえてきそうです。そのときはこう答えましょう。「私は楽器の代用品ではありませんよ!」。

著・LCアルモーニカ/河本洋一

エレクトーン演奏/杉田香織

2019年12月14、15日 札幌市教育文化会館 小ホール