世界的プリマドンナとエレクトーンの競演 楽天世界遺産劇場 中丸三千繪 建長寺プレミアムコンサート

オペラ歌手・中丸三千繪とエレクトーンの出会いは、昨年に遡る。作曲家・三枝成彰氏の「昭和3部作」の第2作目、モノオペラ『悲嘆 Grief』世界初演の際、小編成のオーケストラのシンセサイザーパートをエレクトーンSTAGEAが担当したことに始まる。このときの演奏は、ピアニストの岩井美貴、ソプラノはもちろん中丸三千繪だった。

公演は大成功に終わり、三枝氏も「これからはエレクトーンの時代だと確信しました。可能性も限りない」と語ったという。

このモノオペラからの曲を中丸が昨年暮れに開いた自身のリサイタルに歌うことになり、エレクトーン2台で演奏する運びに。演奏は、岩井美貴と清水のりこのふたりが行った。リハーサルのわずかな時間で中丸はエレクトーンの実力を実感し、『悲嘆~』以外の曲の追加も即決したという。

そして、さらなる展開が、この夜のコンサートとなったのだ。

鎌倉の名刹・建長寺は、日本に於ける禅寺の源流。ここで夜のコンサートが開かれるのは、約760年の歴史で初めてのこと。世界的プリマドンナである中丸にとっても、特別な心躍るコンサートであったことだろう。

天井には、8年ほど前に完成した小泉淳作筆の龍が躍り、後ろには穏やかにほほえむ観音様。舞台にはSTAGEA2台が並ぶ。・限りない清風が吹き抜ける・法堂を涼やかな秋の虫の声が包み込む。

1曲目、エレクトーンのストリングスとチェンバロの音色のやわらかな演奏にのせた、中丸の艶やかで切ない歌声……。「私を泣かせないで」を歌ったあと中丸のおしゃべりが入り、にこやかで包容力のある、意外にも・男前・な素顔がよぎる。そのあとの2曲は、ヴォカリーズの「鳥の歌」、そして歌詞は・アヴェ・マリア・だけのヴォカリーズ風とも言えるカッチーニの「アヴェ・マリア」。エレクトーンの音色と器楽的な歌声が交錯するこの編成ならではの選曲、幻想的な照明もあいまって、ここ建長寺でしか味わえない世界を創り上げた。

ユーモアたっぷりに「オーケストラよりエレクトーンのほうがいい」というお客様もいらしたと話すなど、おしゃべりもすこぶる面白く、彼女の人間性にも魅せられてしまう。

プログラムは、「宵待草」など日本歌曲、「バラ色の人生」のシャンソン、「サムホエア(ウエストサイド・ストーリー)」のミュージカルナンバーとバラエティに富み楽しめたが、なんといっても「自分の一部」と語るイタリア・オペラからのアリアの素晴らしさ! 圧倒的な歌の力が心に染みた。

JOCでも活躍し、ピアノ伴奏者として活躍する岩井美貴と熊本オペラなど豊富な経験を持ち、豊かな演奏力を誇る清水のりこ。お互いが作・編曲にも長けているふたりの奏者によるあうんの呼吸の演奏は、中丸の信頼も厚く、アレンジについて特別な要望もなく、奏者に委ねられているとのこと。今後のさらなる活躍に期待したい。

(上から)写真1:見事な天井画の龍が躍る建長寺法堂境内で行われた。|写真2:世界的プリマドンナ・中丸三千繪|写真3:エレクトーン演奏/岩井美貴、清水のりこ|写真4:山本寛斎デザインによる、中丸にぴったりの“太陽”のようなイメージの衣装に着替えて。 [写真/竹下光士]

2009年9月18日 鎌倉・建長寺

プログラム

1) 私を泣かせてください~歌劇「リナルド」より
2) 鳥の歌/カザルス
3) Ave Maria/カッチーニ
4) 月に寄せる歌~歌劇「ルサルカ」より
5) 宵待草/多忠亮
6) 初恋/越谷達之助
7) If I Loved You ~ミュージカル「回転木馬」より
8) バラ色の人生/ルイギー
9) ああ愛する人の/ドナウディ
10) ありがとう、愛する友よ ~歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より
11) さらば過ぎ去りし日よ~歌劇「椿姫」より
12) 歌に生き、愛に生き~歌劇「トスカ」より
13) 清らかな女神よ~歌劇「ノルマ」より

アンコール

1) Somewhere ~ミュージカル「ウエストサイド・ストーリー」より
2) ニューシネマパラダイス/モリコーネ
3) 別れの曲/ショパン
4) Ave Maria ~歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より
5) 私のお父さん~歌劇「ジャンニ・スキッキ」より