エレクトーンと声との美しき競演 Etoile ~美しい夜~

ようやく冬らしい寒さが訪れたこの日、長く温めてきた演奏会を実現することができました。

エレクトーンと声との競演。バリトンは声楽界のプリンス・与那城敬さん。そして美しく気高いソプラノ、1999年のミス・ユニバース日本代表でもあります小川里美さん。お二人とも舞台に立つだけで美しく観客を魅了し、何よりも今を生きる素晴らしい音楽家です。

さてプログラムはオペラを中心にドイツ歌曲、フランス歌曲、日本歌曲と多岐にわたるジャンルで、それに合わせてエレクトーンもオーケストラの再現、ピアノ譜からのオーケストラ編曲、パイプオルガンと多種多様な響きを求められました。筆者は、エレクトーンは実に繊細な楽器だと思っています。単調に思われがちな電子楽器ですが、弾き手の編曲やタッチによって奏でられるサウンドが全く異なります。そして編曲を進めていく時、キャンパスに絵を描くというより、まるで建築物を造っているような感覚で楽器と向き合うのです。

美しい夜……フライヤーに載せた「作曲家たちが残したその時代の愛に満ちた美しい作品」という言葉。しかし準備を進めるうちに、あとでこの一文がとても皮相的であると気づきました。何故ならば作曲家が魂を削って遺した作品は必ずしも愛や喜びを歌ったものだけではなく、苦悩、死、人間の煩悩……言葉には言い表せない感情を楽譜に刻み、演奏者は精神と肉体で作曲家の意図を感じ取りながら、個々の人生を表現するわけです。それを一晩で何役も演じる歌い手とは、何て身体と心を酷使する職業なのか……。真摯に作品に向き合えば向き合うほど、ストレートに身体に入ってくる。だから理解し演じきる歌い手も作品も美しい。今回、改めて声楽家への尊敬の念が沸き、また作品への取り組みは生半可な知識や経験だけではできないものだと痛感いたしました。

とはいえ、本当に美しい演奏と立ち姿で、与那城さんの闘牛士の歌では皆の心が躍り、勇壮なエスカミーリョに視線は釘付け。アヴェ・マリアでは気高い小川さんの姿に心洗われ、ル・シッドで涙する……。作品ごとに照明も変化、スタッフの方々の素晴らしい技術に演奏者も感動! そして臨場感あるサウンドと演奏者の息遣いや表情まで感じることができる会場。これこそ小劇場ならではの魅力。演奏者だけではなく会場には歴代ミス・ユニバース方々のお姿も。そしてお客さまが皆さん、この演奏会のために装いを意識してくださり、ステージだけでなく客席も華やかな雰囲気でした。あたかも、演奏者とお客さまとで創った「美しい夜」となりました。

エレクトーン奏者/清水のり子

2010年12月15日 エレクトーンシティ渋谷

プログラム

コラール前奏曲 “最愛のイエスよ、我らここに集いて”BWV731 (J.S.バッハ)
アヴェ・マリア (J.S.バッハ/C.グノー)
オペラ「アドリアーナ・クルブルール」より “私は卑しい芸術の僕です” (F.チレア)
4つの歌 作品27 より “明日” (R.シュトラウス)
オペラ「ジャンニ・スキッキ」より “私のお父さま” (G.プッチーニ)
オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」より “アヴェ・マリア” (P.マスカーニ)
カディスの娘たち (L.ドリーブ)
オペラ「カルメン」より “諸君の乾杯を喜んで受けよう(闘牛士の歌)” (G.ビゼー)

~ Pause ~

荒城の月 (瀧廉太郎/三枝成彰 編)
この道 (山田耕筰)
オペラ「南風吹けば楠若葉」より “城を築き、人を築く” (出田敬三)
Amazing Grace (賛美歌)
オペラ「シチリア島の夕べの祈り」より “ありがとう、愛しい友よ” (G.ヴェルデイ)
アヴェ・マリア (C.サン=サーンス)
オペラ「エロディアード」より “はかない幻” (J.マスネ)
オペラ「ル・シッド」より “泣け、我が瞳よ” (J.マスネ)
オペラ「道化師」より
ネッダとシルヴィオの二重唱 “シルヴィオ、こんな時間に…” (R.レオンカヴァッロ)

~ アンコール ~

カタリ・カタリ (S.カルディルロ)
ミュージカル「マイ・フェア・レディ」より “踊り明かそう” (F.ロウ)