“乾杯”をテーマに酒蔵コンサート 第十回 構響楽

「熊谷市の酒造でコンサートをしませんか?」とチェコの民謡を歌い世界で活躍中のカウンターテナー出井則太郎氏からお話をいただき、お酒好きの私は「酒造!」と飛びついた。

さて、その酒造。嘉永3年(1850年)創業の164年の歴史をもつ熊谷市唯一の造り酒屋“権田酒造”という素晴らしい歴史のある舞台。コンサートは、熊谷市助成事業から派生して誕生した、「名建築で(構)素晴らしい音楽の響きを(響)楽しむ(楽)」をコンセプトにする事業で、教会・寺院など地域の名建築でのコンサートが続いており、今回は記念すべき10回目。「構響楽」とはなんともステキなネーミングである。

当日はあいにくの雨で少し肌寒い気候ではあったが、昼・夜の部共に100名を超えるお客様が来場くださり、酒蔵は熱気で満ちあふれた。熊谷市長・富岡清氏の挨拶で幕開けしたコンサートは2部構成。1部は「オン・ブラ・マイフ」「アヴェ・マリア」 、旋律をヴォカリーズ(歌詞なしに母音のみで歌う歌唱法)でなぞった「G線上のアリア」など美しいカウンターテナーの調べ。2部「ワインをもう1杯支払おう」「愛しき白ワイン」など、出井氏の得意とする“お酒”を題材にしたチェコの民謡と、エレクトーンソロで「モルダウ」を演奏し、酒ベースの日本とチェコの融合となった。急遽ゲストとしてウィーンより帰国されていたソプラノの岡崎麻奈未さんをお迎えして、オペラ『椿姫』より「乾杯の歌」をお届けし、最後は会場の皆様と「乾杯」(長渕剛)を大合唱し締めくくった。

今回のコンサートテーマは“乾杯”。文字通り乾杯と名のつく曲や、お酒に関する曲などをお送りし、出井氏の軽快なトークと共に10回目の節目にあった盛り上がりのあるコンサートとなった。エレクトーンが初めてというお客様がほとんどで、ダイナミックな音色にお客様から「おぉ!」と感嘆の声がもれ聞こえ、出井氏と練ったアレンジに手ごたえを感じた。今まで、寄席や銭湯など一風変わった場所でのコンサートをやってきたが、今回の酒造もエレクトーン(D-DECK®)のさらなる可能性を感じることのできる現場であった。

エレクトーン演奏家/さいとうりょう

2014年10月5日 権田酒造(埼玉県熊谷市)