寺島作品の魅力を伝えつづけるエレクトーン門下生 さとうきび畑こんさあと 〜発表50年特別記念コンサート〜

父・寺島尚彦が作詩・作曲した、沖縄戦の悲しみを〈ざわわ〉という風の音に乗せて歌う「さとうきび畑」は、今から50年前の1967年に誕生しました。それを記念して父の作品によるコンサートが、6月10日に東京文化会館小ホールで開催されました。

発売開始後ひと月でチケットは完売御礼となり、コンサート当日は立錐の余地もない満員の会場に、父の作品を大切に歌い継いでいる平松混声合唱団、アンサンブルテラ、洗足学園音楽大学コールファンタジア、そして雙葉小学校聖歌隊による美しいハーモニーが響き渡りました。傘寿を迎える母・葉子とソプラノの姉・樹子も揃って出演し、父とともに全国で行っていたファミリーコンサートの形を再現。また特別ゲストの森山良子さんの熱唱や、父の幼なじみ、谷川俊太郎さんのビデオメッセージ、そしてすべての出演者に温かい音色で寄り添ってくださったピアニストの江川真理子さんなど、多彩な出演者に恵まれて「さとうきび畑」の50歳の誕生を盛大に祝うことができました。

今回のコンサートで、ひときわ強力な原動力として活躍したのが、父の愛弟子たちで作られた「緑陰会」のエレクトーンプレイヤーの面々。父は洗足学園音楽大学の電子オルガン科立ち上げに関わり、約10年間主任としてエレクトーンの普及と学生の指導に尽力しましたが、当時の父の教え子であった橘光一、伊藤佐智、堀麻衣子、桑原哲章、関口寿子、そしてスタッフとして和泉さと子と末永京がサポートに入り、準備段階から絶妙なチームワークで支えてくれたことが、このコンサートを大成功に導いてくれました。父が亡くなって13年。この間、まったく変わることなく父の想いを大切に、メンバーそれぞれの個性を幾重にも重ね合わせて毎年一緒にコンサートを作り上げ、成長を続けてきた彼らの演奏は年を追うごとに安定感が増し、寺島作品の魅力を余すことなく会場に伝えてくれました。そんな彼らの演奏を聴きに、客席にはお忙しい中駆けつけてくださった加曽利康之さんの姿もありました。

机上の理論で作品を生み出すより、現場で音楽を生み出し創り上げることが好きだった父にとって、エレクトーンの音楽的可能性を模索し、新しいものを生み出していくことは性に合っていたのだと思いますが、その中でかけがえのない教え子に恵まれたことは父にとって本当に幸せなことでした。そして私自身も作品と一緒に父が私に遺してくれた彼らと、これからもずっと共演者として一緒に音楽を分かち合える幸せを感謝したいと思います。

穏やかな性格で、家族や愛弟子たちといつも一緒に生き生きとコンサートのステージに立ち、生涯美しいメロディーを書き続けた父。その父は生前よく「さとうきび畑」について「この歌がうたわれなくなる日が来ればよい」と言っていました。けれども私は、父の性格そのままの、この穏やかで優しいメロディーが「平和」の象徴として子守歌のように愛され、これからもずっと歌い継がれていくことを祈っているのです。

声楽家/寺島夕紗子

エレクトーン演奏/緑陰会 橘光一、関口寿子

2017年6月10日 東京文化会館小ホール