ヤマハメモリーシステム

開発の背景

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演奏台(石川県立音楽堂)

パイプオルガンは一台の楽器でありながら様々な音色を持っていて、音色の選択は演奏台にある「ストップ」というレバー(あるいはスイッチ)を操作して行います。
演奏者は自分の感性でストップを組み合わせて個性的な音色をつくり、曲想に変化を持たせて演奏します。
大型のオルガンになるほどストップの組み合わせの可能性は増大し、曲の途中で音色を変化させようとした場合、多くのストップを瞬時に入れ替える必要があります。

 

しかしアシスタントの力を借りたとしても、一度に扱えるストップの数にはおのずと限界があり、また扱うストップ数が多くなると、ストップの取り違えミスが起きることがあります。
そういった問題を回避し、演奏に出来るだけ集中するために考案されたのが「コンビネーションシステム」です。
これは演奏者が音色の組合せをオルガンに内蔵された記憶装置にあらかじめ記憶させ、演奏中に呼び出しボタン一つで瞬時に切り替えることが出来る便利な装置で、演奏者の負担を軽減するものとして、今日では殆ど全てのコンサートオルガンや、それと同等の規模を持ったオルガンに装備されています。
このように、オルガニストの演奏表現に直結した役割を要求されるコンビネーションシステムは、信頼性の高いものでなくてはなりません。

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京都コンサートホール

日本におけるコンサートオルガンの信頼性向上への使命感から、ヤマハは1991年より、この装置の自社開発に取り組みました。
そして4年の開発期間をおいて、京都コンサートホール(クライス社製90ストップ1995年)へ最初のシステムを導入しました。

このシステムの開発にあたっては、コンサートオルガンに求められる「故障が起こりにくい高信頼設計」、また万一故障が起こっても「迅速なメンテナンス対応ができること」を最優先課題としました。
また機能面では、単なる「ストップの組み合わせ記憶装置」(コンビネーションシステム)としてでだけではなく、「移動式演奏台」や、「記録/再生が忠実に行える自動演奏」にも高精度に対応可能な、ヤマハ独自のシステムコンセプトによる「ヤマハ パイプオルガンメモリーシステム」を実現しました。
その基礎となったのが電子楽器における演奏情報処理技術と、ピアノの自動演奏で長年養われたアコースティック楽器の自動制御技術のノウハウです。
これら各部門の開発スタッフとオルガン技術者とのチームワークによって、オルガンという古典楽器と、最新の電子技術とのスムーズなマッチングを実現しています。

さらにサントリーホール、武蔵野音楽大学、エリザベト音楽大学では、従来のシステムにヤマハシステムを付加、または全体をヤマハ製に入れ替え、機能とメンテナンス性の向上を果たしました。

特長

1.オールデジタル化による情報処理精度の向上

一般的なコンビネーションシステムがデジタル、アナログ混在システムであるのに対し、ヤマハメモリシステムは開発コンセプトとしてオールデジタルシステムを採用しました。
鍵盤情報はもちろん、スライダーやスウェル扉の動作など全てを、各ユニット単位でデジタル信号処理します。その為温度変化や電圧変動による影響を受けにくく、安定した動作が可能になりました。また、各ユニット間の通信は少ないケーブルで多くの信号を転送できるシリアル通信方式を採用し、内部配線の簡素化による信頼性向上を図りました。

2.演奏者毎の個別メモリ領域の体現

最新のヤマハメモリーシステムにおいては、大曲演奏時のメモリ数を十分にカバーする約1000通のメモリ数と高速化が可能です。 加えて、演奏者識別機能として、演奏者IDキーにて、演奏者毎の個別メモリ領域を選択可能なシステムの設置も可能です。本機能設置により、誤操作によるメモリ使用・削除等の事故を未然に防ぐことが出来ます。

3.モジュール化による最適システムの構築が容易

機能毎にユニットをモジュール化しました。従ってコンサートホール用の大型オルガンから小型オルガンまで、様々な規模や仕様に柔軟に対応できるようになりました。また、リモートコンソール、メモリーカード、自動演奏の録音/再生装置の設置も可能です(但し、これらの拡張機能につていは、オルガン設置計画における初期段階での検討が重要になります)。

4.信頼性向上に寄与するシステム、構成部品の採用

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光センサー

長年にわたるヤマハ電気、電子楽器の経験を基にシステム構成はもちろんのこと、使用部品についても厳選し、高い信頼性を確保致しました。例えば鍵盤の動きを感知するセンサーには、サイレントピアノやピアノプレーヤー(自動演奏ピアノ)で実績のある、光学式の非接触センサー(特許)を採用。従来からの接触式センサーと比較して、抜群の耐久力を誇ります。

5.専任技術者による一貫した技術体制

パイプオルガンは、楽器の規模、製作方法や設置される場所の条件等によってメモリーシステム計画のあり方が大きく変わります。これらに柔軟に対応するには、ハード面の完成度はもちろん、楽器自体の構造、機能に精通している技術者の存在が欠かせません。ヤマハでは、メモリーシステム専任の電気/電子技術者を開発の当初から配置しています。彼らはオルガン技術者とともに様々な問題にあたってこれをクリアし、システム全体の完成度を高めてまいりました。このような整った環境のもとで、メモリーシステムの計画の立案からメンテナンスまで、責任をもって対応可能です。

 

導入事例

ヤマハパイプオルガンメモリーシステムの導入事例です。
物件名
設置年
導入内容
横浜みなとみらいホール※※
2022
更新(演奏者IDキー導入)
札幌コンサートホール※※
2021
更新(演奏者IDキー導入)
東京オペラシティコンサートホール※※
2020
更新(演奏者IDキー導入)
ホテル日航福岡チャペルプリエール※※
2019
更新(演奏者IDキー導入)
サントリーホール※※
2017
更新(移動演奏台、演奏者IDキー導入)
アクトシティ浜松※
2008
移動演奏台、USBメモリー、自動演奏装置
福井県立音楽堂
2004
メモリーカード、自動演奏装置
石川県立音楽堂
2001
メモリーカード、自動演奏装置
同志社女子大学新島記念講堂
2001

LICはびきのホールM
2000

エリザベト音楽大学※
1998

武蔵野音楽大学バッハザール※
1998

サントリーホール※
1998
移動演奏台、メモリーカード
横浜みなとみらいコンサートホール
1998

ホテル日航福岡チャペルプリエール
1998

東京オペラシティーコンサートホール
1997

墨田トリフォニーホール
1997
メモリーカード
札幌コンサートホール
1997

京都コンサートホール
1995
移動演奏台、メモリーカード

※ヤマハメモリーシステムに改造
※※既に搭載されているヤマハメモリーシステムを更新