これからのマーチング

What'sマーチング?マーチングってなに?

発表の場の確立 ― 地域社会の中へ

何故、アメリカでマーチングが盛んになったのでしょうか。
その背景を国民性と言ってしまえば確かにそうかも知れませんが、ここまで盛んになった最も大きな理由は、マーチングにとって絶好の発表の場が確保されていたことではないでしょうか。

ハーフタイム・ショーとパレード

その発表の場とは、アメリカの3大スポーツの一つ、フットボールのハーフタイム・ショーです。マーチングには、体育(スポーツ)としての要素も数多く盛り込まれているため、当日、スタジアムにフットボールを見に集まった人達も、自然にマーチング・バンドに興味を持ってくれるようになり、内容を高めることによって理解も増し、幅広いファンを得るようになりました。現在では、ゲームだけでなく、マーチング・バンドのハーフタイム・ショーを楽しみにスタジアムに訪れる観衆も多いのです。
又、ローズ・パレード等の機会に恵まれていることから、パレードにも同様のことが言えます。マーチング・バンドが街路を行進すれば、そこに居合わせた人々は、その行進の目的が何であれ、区別無く、興味を持って見物するでしょう。その人により、感じ方、受け取り方は違っても、各バンドが自信のあるマーチングを展開するなら、バンドへの関心を持つ人々は自ずから増えてくるでしょう。

我が国における課題

この様に、アメリカではフットボールのハーフタイム・ショー、祝祭日のパレードをはじめ、地域ごとのコンテストやフェスティバルなど、数多い発表の場が確立されています。我が国においても、今後、マーチングを盛んにし、広めていくためには、地域社会の中での発表の場を確立していくことが必要でしょう。
マーチングは、バンド活動の輪を今以上に広げ、ファン(愛好者)を増やし、理解を得てゆく絶好の機会なのです。又、バンド活動の、最も行動的で積極的な面を代表する分野である以上、マーチングを行うに際しては、片手間に、ただ間に合わせで済ますべきではなく、演奏のレベルアップは勿論のこと、バンドとしての魅力を充分に練り上げた上で、取り組んで欲しいと思います。

指導者に期待されるもの

マーチングの発表の場で、演奏、動き、構成の3つの要素のうち、一つでも不足していれば、マーチングを行うことの満足感は乏しくなり、観衆の人達の感激も半減してしまうことでしょう。現在の指導者に最も要求されているのは、これらの3要素について、ひとつひとつ考え指導していく熱意であると思います。

マーチングは特効薬ではない

最近、マーチングを始めてからバンド・メンバーの礼儀が良くなったとか、バンド内が明るくなったという話をよく耳にします。確かに、マーチングはこうした教育的効果をもたらす要素を含んでいます。しかし、だからといってマーチングをしなければ礼儀や雰囲気が劣ってくるといえば暴論となるでしょう。
逆に、マーチングを始めたために音が荒くなったとか、雑に吹いてしょうがないとかいう声も聞きます。これも、マーチングそのものに責任があるのではなく、日常の演奏指導に問題があるのです。マーチングを行っていても演奏の指導は出来るし、又、しなくてはいけないはずです。
この様に、マーチングの指導は、室内の演奏と一体となって進めていかなければならないのです。マーチングそのものは決して特効薬というものではないのです。

基本の徹底

コンサートの時、どんなに素晴らしい名曲でも吹きこなす力がないのに演奏したのでは、聴衆に感動を与えることは出来ません。
同様にマーチングにおいても、どんなに優れた指導者が素晴らしいフォーメーションを考えたとしても、バンドにそれだけの力がなければ結果は同じです。
上手なマーチング・バンドは、会場の中央で足踏みをしながら演奏するだけで、その持っている力を感じさせてくれます。この様なバンドは、演技する前、会場の入り口で整列をして待っている間にも、何か他のバンドとの違いを感じさせます。
優れたマーチング・バンドになるための一番の早道は、基本の徹底につきる。
練習を始めたとき、最初の姿勢、最初の音で、この程度で良いだろうと妥協してしまうことがまま起こりえます。そのまま次の段階へ進んでいけば良い結果が期待出来るはずがありません。マーチングは、動きを伴うものである以上、当然、視覚的要素を含み、形として表れてくるものですから、観衆には一人一人の動きまでがはっきりわかってしまいます。
マーチングについて何も知らない人達にさえ、間違いや不揃いを簡単に指摘されてしまうのです。それだけに、ごまかしはきかず、妥協は許されず。絶対に無理な計画を立ててはならないことを、肝に銘じておきたいものです。

  • 妥協は指導者によって生み出される。
  • 基本の徹底は、まず、妥協しないことから始まる。

 

冷静な判断力

指導者が高度なことを考えてもバンドにそれを実践する力がなければ役には立ちません。結局、冷静にバンドの力を判断しながら、一歩一歩前進していく以外に、上達の道は無いと思います。
マーチングは、そのバンドの指導者の考え方と指導力が、形になって表面に表れてくるものだけに、やってみたいことが先行してややもするとバンドの持っている実力以上のことまで強引に要求しがちになります。しかし、パレードの時、無理をして曲をたくさん暗譜して演奏するよりも、自信のある曲を絞って演奏する方が効果があり、ドリルについても、用意された時間枠を無理にいっぱいに使う必要はなく、自分たちの納得のゆく時間内で、中身の濃い演技を発表した方がより効果的なのです。このあたりの判断には、指導者の冷静な判断力の有無が多分に影響してきます。

真の上達とは

何か目新しいことを発表すれば上達したと考えがちですが、こうした考えは間違いではないにしろ、大変危険で、新しいことを研究するのは上達への第一歩には違いないのですが、それ自体が真の上達と言えるわけではないのです。
例えば、アメリカのバンドなどが見慣れないことをやると、直ぐに飛びつき表面だけ真似をする。又、目新しいことが目につけばその真似をする・・・。
これでは、段々とオリジナリティが無くなり、自分たちのバンド・カラーが薄れてしまいます。
よく考えてから判断をし、研究もし、新しいものを自家薬籠中としてから発表するよう指導者は心がけたいものです。マーチングの真の上達は、自分達で考えてゆく研究心と、基本のなお一層の徹底の中から生まれてくるものなのです。

ドリル作成は作曲と同じ

ドリルの作成には充分な時間をかけて考えたいものです。
自分の作った構想でバンド全員が動き、演奏をする。たとえて言うならこれは、自分で作曲をし、自分で指揮をするのと同様です。にも拘わらず現在、非常に安易な気持ちでドリルを作ってしまってはいないでしょうか。
自分の考えひとつで多くの人間がその通り動き表現してゆく、しかも、その善し悪しは机上のプランの段階で大部分が決まってしまいます。充分な時間をかけ、自分の考えを打ち出して、研究をし、検討を重ねた上でドリルを決定して欲しいと思います。

ドリル作成の第一歩は

なにかの行事の間近になって急いで作り上げたドリルはあまり期待出来ない作品が多くなりがちですから、先ず止めた方が良いでしょう。
毎日の生活の中で、寝る前の数分間にどんなことでも良いから必ず考えてみるようにしてはどうでしょう。良いアイディア、練習方法、ドリルの動き、演出、曲目など、何でも思いついたらメモを取っておく。翌朝そのメモを見て、良いアイディアだと思われたら実行に移す計画を立てるなり、そうしたアイディアをまとめて後日のために整理しておく。何れドリルを作成するときがきたらそれらを見直し、構想の中に入れられるものを抜き出しまとめ上げていくという習慣をつければ楽に作成が進むでしょう。

研究から使いみちがわかる

現在、アメリカなどからマーチングの様々な手法が紹介されています。それらがどの様にして生まれたかを調べてみるとなかなか面白くプラス面、マイナス面もよくわかります。パレードの際、地域によってテンポが違うとか、演奏していない時にも両手で楽器を持っているといった例にぶつかることがあります。そういう例を見る度に、何故だろうと考えてみましょう。その手法が生まれた理由をいろいろ調べてみるとその使いみちも自ら分かってくるものです。

マーチングの楽しさ

観客側から見たマーチングの面白さは、誰にでも批評でき楽しめるというところにあります。例えば、その人の趣味や関心に従って次のような楽しみ方が考えられます。

マーチングの楽しみ方

  • 音楽関係の人は ― 選曲、音、演奏、編曲等の音楽面から楽しめ、専門的な批評も出来る。
  • 体育関係の人は ― ユニフォームのデザイン、配色、センス等。
  • 演劇やショーに興味のある人は ― 演出、構成などについて。
  • 一般の人は ― 吹奏楽やマーチングを知らない人でも、老若男女を問わず、マーチングを一番広い視野から楽しみ、結構、的を射た批評をしてくれる。
  • 例えば、列の乱れとか間違いを見つけたり、知っている曲であれば、一緒に口ずさんだり・・・。

といったように、皆それぞれ自信のある分野から個性的な批評をしてくれることでしょう、それだけにマーチングは幅広い要素を持ち、楽しみ方が多いと言えます。指導者にとって、こうした楽しみを人々に提供するために努力することは、今は苦しみと感じられても、作り上げられたマーチングのもたらす喜びの大きさを考えてみるなら、それを全て自分の手で生み出すことの出来ることはなんと贅沢な楽しみではないでしょうか。
マーチングは誰もが批評家になれますが、一つの問題に対する解決の仕方が、ただ一つとは限らないところにも又、面白さがあると言えます。何故なら、ある曲のある部分に対応する動きは指導者の個性によって、無限のバリエーションの存在が許されるからです。
その指導者の考え方、感じ方が、その場面に応じて創り出してゆくもの ― それがマーチングなのではないでしょうか。
曲から受けたイメージが、思い通りに動きと調和したときに楽しみが生まれ、そして、それを思いのままに指導できたとき、そこに指導者の大きな喜びがあるのです。

マーチングの計画

アメリカのバンドでは、色々な記念日のパレード、地域における催し、フェスティバル或いはフットボールのハーフタイム・ショー等マーチングの発表のチャンスが多いほかコンサート活動も数多くあります。そこで、これらの行事を消化するため1年間のバンドの全体的な活動計画が立てられその中で、マーチング活動を行うための綿密なスケジュールが組まれています。そうした計画の中に含まれる要素として次のようなものがあります。

マーチング活動の年間計画に含まれる要素

  • 年間の行事計画 ― 出演日、出演内容、その他
  • 年間の練習計画 ― 練習場所、演奏曲、編成、ドリル、フォーメーション、その他
  • 必要備品、補充計画 ― 楽器、楽譜、ユニフォーム、その他
  • その他 ― 新人養成の為の練習計画etc.

以上の他にも、一つ一つの目標に向かって種々の計画が立てられています。
日本のバンドで重視されなければならないものは、指導者の熱意と計画です。現在のバンド運営に支障をきたさないように心がけながら、まず、バンドの日常活動の中から計画的に実行可能なものを考えてみて欲しいと思います。

マーチングの練習(基礎)計画

  • 1日の練習時間の中で、マーチングの基礎練習のためにせめて3分程度の時間を生み出せないものでしょうか。練習の始めや終わり、又は練習の合間に室内で出来ることを考えてみましょう。(足踏み、回れ右、左向け左、右向け右等)
  • 1ヶ月の練習日の中に、1~2日程度、マーチングのための日程を生み出せないでしょうか。
  • マーチングで使う曲を早く決め、機会をとらえて演奏して、自然に出来るよう心がける。
  • 内容のあるVTRや、マーチングの行事等を見学する機会を作る。

こうして年間計画を立案する傍ら、平行して3年間程度の長期計画を練っておきましょう。次に、その一例を示すと、

マーチング練習計画3年計画(例)

1年目

1.基本に重点を置く。
2.ドラム・セクションを鍛える。
3.ユニフォームなどは、現在あるものを有効に使う。
4.行事は出来るだけ絞って、無理の無いように。
5.マーチングの催しの機会を数多く見学し、研究する。
6.最低、パレードぐらいは出来るようにする。
7.曲は、現在演奏できる曲目の中から選べばよい。
8.来年度のドラム・メジャー候補を見つけだし、練習を始める。

2年目

1.基本を行う傍ら、応用的なことに重点を移す。
2.オーソドックスなマーチングを心がける。
3.ユニフォームなどは、揃えられるものだけ揃える。
4.ステージ・ドリルぐらいは、出来るようにする。
5.曲は、とりあげたい曲を選んで練習する。

3年目

1.自分たちのバンドカラーを作り上げ、ドリルの中にオリジナリティを出す。
2.良い行事と思われるものには、積極的に参加する。
3.ユニフォームなど、マーチングに必要な備品は全て揃え終わるようにする。
4.新人教育のための練習計画を立て、実行に移す。

2007 JAPAN BAND CLINIC(日本吹奏楽指導者クリニック)テキスト
マーチング講座I・II 山崎昌平:著より