地域から愛されるレディースビッグバンドを生み、支援する。 企業の新しい地域貢献のカタチ。

音楽の街づくり事業  おとまち

プロジェクト

課題解決に向けた取り組み

  • テーマ:地元企業による地域の文化育成と発信

昭和飛行機工業株式会社×おとまち

昭和飛行機工業株式会社×おとまち

地域から愛されるレディースビッグバンドを生み、支援する。
企業の新しい地域貢献のカタチ。

Project Summary

課 題
  • 社有地を利用して地域貢献につながる新しい取り組みをしたい
  • 「地域の芸術文化を育成、発信する」という企業目標に沿い、地域との人のふれあいや、にぎわいを創出したい
提 案
  • 地域に根ざし演奏活動を継続展開する女性だけのコミュニティバンドの創設
  • 企業が保有する施設を利用した「ビッグバンド養成講座」の実施
  • バンドが昭島の新しい文化となり、周辺地域から芸術文化の街として認知されるよう「持続的活動」を支援

Project Report

  • 成長の記録 01
  • 成長の記録 01
    地域から愛されるバンド 10年続く秘訣とは?
  • 地域から愛されるバンド 10年続く秘訣とは?

Project Report 成長の記録 01

地域から愛されるバンド、10年続く秘訣とは?

Report by おとまち/増井

Report by おとまち/増井

東京・昭島市。武蔵野の緑あふれる街に市民から愛されるビッグバンドがあります。その名は「フォレストレディース・スウィングオーケストラ」。メンバーは昭島市在住の方を中心とした市民の皆さん。自主開催のコンサートチケットは毎回完売。2020年3月1日のコンサートに向けての練習に励んでいます。

フォレストレディース・スウィングオーケストラは、2010年11月に開講した「レディースビッグバンド養成講座」から誕生しました。この講座は日本を代表するジャズ・クラリネット奏者、花岡詠二氏を講師に迎え、ホテル「フォレスト・イン昭和館」を練習会場に約1年間、計24回の講座を開講。受講者は昭島市を中心に募集し、幅広い年代の女性が集まりました。講座修了時にはデビューコンサートを実施。そして2012年から自主活動がスタート。以来、地域に根ざし、愛される市民バンドとして成長を遂げてきました。

このバンド養成プロジェクトに取り組んだのは、東京・昭島市に約40万坪の都市型リゾート「昭和の森」を展開する昭和飛行機工業株式会社とおとまちです。今回、バンドを立ち上げた富永さんと、現在バンド活動を支援している井口さんに「なぜ企業が地域のためのバンド育成に取り組んだのか?」などをおうかがいしました。加えて、バンドのメンバーからも活動が継続するポイントもたずねました。

目次

プロジェクト担当者インタビュー

  • なぜ企業が地域のためのバンド育成に取り組んだのか?
    「“地域の文化を育て発信する”我々には新しい地域貢献のカタチでした」
  • 市民バンドが現在まで自主活動を継続できている秘訣は?
    「自主運営を尊重してサポートすること。彼女たちの活躍の場を提供すること」
  • この活動によって企業としてどんな利益が享受できたのか?
    「日本を代表する大手企業がこの街に移転してくれました」

バンドメンバーインタビュー

  • 活動が継続する秘訣とは?
    「もう半分家族。ここに来ると楽しいから続けられます」
プロジェクト担当者インタビュー

芸術文化を育む地域貢献は
街の価値を高め、
やがて還元されます。

アーバンリゾーツ昭和の森株式会社
代表取締役社長 富永宏さん

富永宏さん 富永さんはバンドを立ち上げた当時、昭和飛行機工業株式会社の不動産部門に所属。現在はバンドの練習会場であるフォレスト・イン昭和館をはじめ昭和の森主要施設の運営を担うグループ会社「アーバンリゾーツ昭和の森株式会社」の社長。いまもメンバーの演奏活動を見守っている。

フォレスト・イン昭和館
企画広報室長 井口伸治さん

井口さんはフォレスト・イン昭和館のホテルマンのかたわら、フォレストレディース・スウィングオーケストラの練習会場予約の窓口や、数々のイベントに出演するときの調整役を担っている。

なぜ企業が地域のためのバンド育成に取り組んだのか?
“地域の文化を育て発信する”我々には新しい地域貢献のカタチでした。

昭和飛行機工業株式会社(以下、昭和飛行機工業)はその名のとおり航空機を製造していた企業です。設立は1937年。当時は米国の大型輸送機など最新航空機を製造していました。戦後、航空機製造ができなくなり、米軍の航空機修理や航空機部品、特殊車両の製造へと事業をスライドしていきながら、日本初の国産旅客機の開発にも参加。取引先は米国ボーイング社や防衛省、自動車メーカーなど、地域とはまったく関わりのないビジネスをしていました。

転機となったのは40年近く前の1984年。工場や滑走路に使われていた敷地に大型ショッピングセンター「モリタウン」を開発したときです。ここから地域の方々を対象としたビジネスが始まっていきました。テニスコート、フィットネスクラブ、そしてフォレストレディース・スウィングオーケストラが練習会場として利用しているリゾートホテル「フォレスト・イン昭和館」などを次々と開業していき、2015年にはアウトドアヴィレッジ、スポーツクライミングやボルダリング施設をオープン。現在、都市型リゾート「昭和の森」として、昭島市と周辺のみなさまにご愛用いただいています。

 

また、昭和飛行機工業は地域貢献の一環として2006年に、昭島市や市内のボランティア団体とともに、「昭和の森 芸術文化振興会」を設立しました。歴史・芸術・芸能・文化に彩られた昭島を内外に発信しよう、未来の子どもたちが誇れる環境を整備しよう、と地域の活性化を図る事業を推進してきました。例えば、年に1度、地域の音楽祭を開催し、横田基地の米空軍バンドにも出演いただいています。また2019年には、自然のなかで自由に鑑賞できる彫刻園も開園しました。

 

言わば、昭和飛行機工業は社有地を利用して昭島の街づくりを行なってきたのです。施設をつくることに加え、地域の文化を育て発信していこうという考え方が根強くありました。このホテルも「文化を発信しよう」という目標を掲げているので、チャペルにはヤマハのグランドピアノを常設して、開業時から毎月コンサートをつづけています。上階のバーでは毎週ジャズナイトを開催して、演奏に必要な楽器や機材は一通り揃えてあります。

 

このように地域のために、さまざまな取り組みをしてきましたが、さらに何か新しいことをと思案していたときに、おとまちと出会いました。「ホテルのホールや楽器、機材を使って、コミュニティバンドをつくり、育てましょう」とご提案をいただいたのです。コミュニティバンドが自主的に演奏活動をつづけ、やがて地域から愛され、新しい文化やにぎわいをつくることをめざすプロジェクトでした。地域文化の育成と発信をかかげる我々にとっては、とてもマッチした内容で、それも女性だけのビッグバンド。学生時代に吹奏楽をやっていたけれどしばらく遠ざかっていた。そんな女性のニーズをおとまちが掘り起こしてくれました。このプロジェクトは我々にとっても新しいカタチの地域貢献でした。

市民バンドが現在まで自主活動を継続できている秘訣は?
自主運営を尊重してサポートすること。彼女たちの活躍の場を提供すること。

レディースビッグバンド養成講座参加者には講座終了後、自主運営することを最初からインフォメーションし、そのために必要な活動内容を、おとまちが詳細にレクチャーしてくれたので、自主活動を目指す高い志でスタートできました。3月1日の自主コンサートは市の“文化芸術のまちづくり事業の助成金“を受けて開催するのですが、助成金の申請もメンバーで行なっています。こうした意思を我々は尊重し、ホテルのホールや宴会場を練習で利用するときは有償としています。その代わり楽器のお預かりは無償で。自主運営ですからあまり我々が出しゃばってはいけない。ただ、できることは何でもご協力する。お互いの良い距離感が、継続の秘訣かもしれません。

 

さらに、我々が提供しているのは活躍の場です。モリタウンの屋外ステージ、母の日や敬老の日のライブ、夏はホテルのビアガーデンに出演していただいています。季節や場所にあわせて、アロハや浴衣など……衣装もお揃いで、演奏はもちろんのこと、本当にとても評判がいいいんです。彼女たちの演奏を観たお客さまから「彼女たちにぜひ演奏してほしい」と出演依頼もホテルに入ったりします。2021年でデビュー10周年。ホテルでコンサートをやりたいね、とメンバーと話をしています。

 

あとは、花岡先生の楽しいご指導も継続の秘訣かと思います。講座終了後も月2回来ていただいて、自主コンサートを目指して指導を受ける。彼女たちの演奏クオリティはもう格段の進歩をしています。まさにご指導のたまものです。

この活動は、どのようなプラス効果をもたらしたのか?
日本を代表する大手企業がこの街に転入してくれました。

こうした文化・芸術活動は「昭和の森 芸術文化振興会」の事務局でもある、昭和飛行機工業の地域振興推進室が担当しています。当初は、ショッピングセンター「モリタウン」の集客策のひとつとして不動産開発部門が兼務していたものが、徐々に地域貢献の意味合いが強くなっていき、そうした地域貢献活動にきちんと予算を捻出しようと努力してきました。その結果、地域密着のビジネスが根付くことができ、文化芸術活動が盛んな街をつくることができた。さらに、この街に魅力を感じてくださった日本を代表する大手企業が、オフィスや研究開発部門を転入してくれています。

やはり収益目的の施設をつくるだけでなく、芸術文化も含めた暮らしやすい街をつくっていくことは、我々のような地域に密着した企業にとって、非常に大切なことだと実感しています。

バンドメンバーインタビュー

半分家族のような感じ。
ここに来ると楽しいから
続けられます。

フォレストレディース・スウィングオーケストラ
サクソフォン担当 野口 敦子さん

フォレストレディース・スウィングオーケストラ サクソフォン担当 野口 敦子さん レディースビッグバンド養成講座では当初、多数の応募者の中から選ばれピアノを担当。楽器を持ち歩くのに憧れ、
サクソフォンの格好よさに惹かれ練習を開始。2012年からサクソフォンを担当。

2020年3月1日に第7回コンサートが無事に開催できました。演奏したのは20曲。聴きに来てくださった方から「仲のよさが音に出てるね」と言われ、とても嬉しかったです。終演後、しばらく余韻に浸っていましたが、コンサートの会計をやらなければ……(笑)

 

講座から10年が経つんですよね。独身だったメンバーが結婚したり、生まれたばかりの子どもが小学生になったり。私も子どものご飯の支度をしてから練習に来ていましたけど、その子もいまはもう社会人。支度をしなくても大丈夫。なぜ10年も続いているのかと言えば、ここに来ると楽しいんですよ。若い方から年上の方まで、いろんな年代がいて、半分家族のような感じ。助言をもらったり、近所の人には言いづらいことが言えてしまったり。だから練習の間が空くと寂しくなるんです。振り返ってみると、最初の頃はみんな練習に一杯一杯で必死でした。デビューコンサートの打ち上げで初めてメンバー全員と話したくらいなんです。年を追うごとにチームワークがよくなってきて、みんなとハーモニーが合うと、とっても気持ちいいんです。

 

コンサートのチケットも毎年完売してリピートして来てくださる方が多くて。これも面白く楽しく教えてくださる花岡先生のご指導のおかげです。これからもずっと続けていきたいです。

「レディースビッグバンド養成講座」の採用通知書。現メンバーでは野口さんともう一人しか持っていないレアもの。 「レディースビッグバンド養成講座」の採用通知書。
現メンバーでは野口さんともう一人しか持っていないレアもの。

彼女たちの演奏に憧れて、
未経験なのに
飛び込ませていただきました。

フォレストレディース・スウィングオーケストラ
サクソフォン担当 廣 みち子さん

フォレストレディース・スウィングオーケストラ サクソフォン担当 廣 みち子さん 自主活動2年目から参加した廣さん。手にしているテナーサクソフォンは、花岡先生から譲り受けたヤマハのヴィンテージもの。最近では先生の素敵なクラリネットに憧れて、クラリネットにも挑戦中。

「レディースビッグバンド養成講座」の募集記事を見つけとき、素敵だなと思ったのですが、応募の条件が3つあって、未経験の私はすべて当てはまらなかったんです。だからその時には応募しなかったのですが、その後に彼女たちの母の日ライブを観に行って、もう感銘を受けて。この素敵な音楽の中のひとつになれたら、自分の音がのったらかっこいいだろうなって。そこから家族に内緒でサクソフォンのレッスンに1年間通い「吹けるようになったらサクソフォンを買おう」と頑張りました。

 

そして、ホテルでの練習を見学に行ったら、花岡先生が快く迎え入れてくださって、いきなりいちばん前の席に座らされたと思ったら、さっそく演奏。初めての演奏が「9:20 Special」。まったく吹けなかったのですが、こんな素敵なジャズがあるんだと思い、その日に「入れてください!」と頼んで入会しました。あれからもう7年、いつまで経っても初心者ですね。出だしや休みを間違えたり。いつもごめんなさいって感じです。でも楽しいんです、すごく。みんな快く教えてくださって、みんなが私の先生です。

 

私の夢ノートには当時の募集記事が貼ってあり、そこに「一緒に演奏したい」とメモがあります。その夢が叶いましたね。一生楽しめる趣味と仲間ができて、ほんとうによかったです。

市民でつくるコミュニティバンドの良さは、音楽を通じて友だちや仲間をつくれることです。新しく転居されてきた人も、音楽でそのコミュニティに参加できる。また、おとまちでは、バンドが末長く継続していくように、各楽器のパートを複数人で担当する組み方を提案させていただきました。お仕事やご家族の都合で練習に参加できなかった場合も、パートの誰かが参加できるようにしました。

また、自主活動を行なっていくうえでの運営体制づくりの準備についてもメンバーで話し合い、役割分担をしながら協力し活動を続けていく心得を、おとまちからレクチャーをさせていただきました。

何よりもコミュニティバンドが継続していくには、昭和飛行機工業とフォレスト・イン昭和館のような、地域のよき理解者、支援者の存在が大きいです。おとまちでは、フォレストレディース・スウィングオーケストラをはじめ、MITOレディース・ビッグバンドなど数々のコミュニティバンドをお手伝いさせていただいてきた実績があります。しかも、そのどれもが現在も活動を継続し、地域に愛される存在になっています。

ぜひ、皆さまの街にも、ビッグバンドで新しいコミュニティを形成しませんか。

Project Report

東京都昭島市
昭和飛行機工業株式会社
https://www.showa-aircraft.co.jp/
アーバンリゾーツ昭和の森株式会社
http://www.showasp.co.jp/