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山本 貴志 ピアノダイアリー

2005年第15回ショパン国際ピアノコンクールで第4位に輝いた山本貴志が、
再びポーランドにも拠点を置きながら新たな活動を開始。
日本とポーランド、両国から生の声をお届けします。

※Kraj kwitnących wiśni(クライ・クフィットノンツィフ・ヴィシニ)=「桜の花咲く国」:
ポーランドでは日本の事をこのように表現します。

(毎月1日、15日頃更新。※更新日は、都合により前後する場合がございます。)
No. 242015.08.05 Do zobaczenia!(最終回)

こちらを書いている今日8月1日はポーランド、とりわけワルシャワにとって忘れられない日、忘れてはならない日となっています。今から71年前の1944年8月1日、第二次世界大戦末期のワルシャワでこの地を占領していたドイツ軍に対する武装蜂起が発生しました。ワルシャワ蜂起と呼ばれているこの出来事、最終的にはおびただしい数の尊い命が失われ、蜂起の報復としてワルシャワの街は徹底的に破壊されてしまいます。国の解放のために戦った「英雄」と、その悲劇を決して忘れることのないよう、毎年ワルシャワ蜂起が開始された8月1日の午後5時を「Godzina W(ゴジナW・時刻W)」として街中にサイレンを鳴らし、歩行者、公共交通機関、車両などを含むすべてがその場に停まり1分間の黙とうを捧げます。

Godzina Wのポスター

Godzina Wのポスター

ご存じのようにワルシャワ歴史地区は世界遺産に登録されていますが、それはこの廃墟から元のワルシャワの姿に完全に復元させたポーランド人の不屈の魂を讃えるものとなっています。Godzina Wの時、自宅でテレビの中継を見ていたのですが、白黒の画面で当時の蜂起の様子が何度も流され、そして実際に蜂起に参加したご年配の方々が想いを語られていました。中でも印象的だったのが「ポーランドは決して滅びない」という言葉です。ポーランド国歌、ドンブロフスキのマズルカも「ポーランドは未だ滅びず」という歌詞で始まりますが、遥か昔から他国からの侵略を受けてきたこの国の人々のこの言葉は本当に重いものがあります・・・。そして、国家機関だけでなく、民家や街を走るトラム、バスに至るまで国旗を掲げ、敬いと追悼を捧げているポーランドの人々を見て、歴史が繰り返されないためには何をするべきなのかを教えていただいた気がしました。こちらの連載で何度かポーランドの素朴で温かい料理や習慣をご紹介してまいりましたが、こういった国民性だからこそ生まれたものなのかもしれません・・・。

ショパンの音楽がポーランド人からこれほど愛されているのもこういった不屈の精神を持っているからではないでしょうか・・・?短い生涯の半分をポーランドの外で過ごすことになった運命・・・愛している故郷に居られなかったからこそ見えた彼だけの「ポーランド」。連載のタイトルを「桜の花咲く国」としましたのも異国に住みながら描いたショパンの「ポーランド」に感動して付けたものでした・・・。離れて初めて分かるその国の美しさ。今週末はチェコとの国境近くのドゥシュニキで開催されるショパン国際ピアノフェスティバルで弾いてまいりますが、日本とポーランド、2つの国の美しさに力をいただいて楽器に向かいたいと思います!

さて、ちょうど1年前の8月1日にこちらの連載を始めていたのですね・・・。
1年間、あっという間だった気が致します。まだまだ書ききれない楽しい習慣や興味深いものが数多くありますが・・・!

まだまだ書ききれないものの一例です(笑)これは先日のBBQの様子。爽やかな気候のもといただくお肉は勿論、この自家製キノコスープが絶品!!ポーランドではぜひスープを召し上がってみてください

まだまだ書ききれないものの一例です(笑)これは先日のBBQの様子。爽やかな気候のもといただくお肉は勿論、この自家製キノコスープが絶品!!ポーランドではぜひスープを召し上がってみてください

今回が最終回となりますが、最後に嬉しいお知らせを!来年1月より、LOTポーランド航空が成田ーワルシャワ間の直行便を開設するようです!ますます近くなるポーランド、ぜひ皆さまも遊びにいらしてください!!

ポーランド語でいわゆる普通のさようならは「Do widzenia(ド ヴィゼニア)」ですが、近く会えることを前提にした「Do zobaczenia(ド ゾバチェニア)」もあります。ですのでまた皆さまにお会いできますことを願ってDo zobaczenia!

1年間本当にありがとうございました。

山本貴志

No. 232015.07.10 DIY・・・!?

年に10日もないであろう真夏日のワルシャワです。いくら湿度が低い国と言っても34度まで上がると冷房が欲しくなってしまいますが、冷房があるのはショッピングセンターやホテルなど一部だけ・・・でも冷房の風に当たり続けて発汗の仕組みが退化している、などと言われている今ですから逆に健康的なのかもしれませんね!実際、緯度が高く日差しこそ強烈ですが木陰に逃げ込むと意外とやり過ごせます。後は扇風機をうまく使うだけ。練習の時にこれがないと大変なことになります。夏だけではなく、暖房が効き過ぎている冬も大活躍!

暑い時期になると気になるのが蚊、ですよね。実はこちらの集合住宅は「網戸」というものがないことが多く、今の自宅も例外ではありません。でもそれだと夜、窓から蚊が・・・。そこで大家さんにお願いしたところ、「よし、付けましょう!」となりました。これでやっと煩わしさから解放される、と思ったのも束の間、業者さんかと思ったら現れたのは大家さんその方。そして手にはこんな箱が・・・

説明もなく潔い・・・

説明もなく潔い・・・

この表紙の写真からしてイヤな予感・・・。そして残念ながら予感的中。なんと自分で網戸代わりのネットを貼ろうということだったのです。「業者さんに頼んだはずでは・・・?」と尋ねたところ「まさか!DIYだよ」という言葉が満面の笑みとともに・・・。自分で網戸代わりに本当の網を張るなんて生まれて初めてです(笑)しかも開けてみてサイズを測ってみると書いてあるサイズより10センチ以上も大きい・・・大家さんは「親切に余分に作ってくれたんだね」と笑い飛ばしていましたがなかなか衝撃的でした・・・。

悪戦苦闘した挙句なんとか一人で作業完了。思ってみれば先ほどは扇風機の話題でしたが、こちらも買ってみたら部品の名前が記されているだけで肝心の組み立て方が書かれていなかったり、壁に穴をあけるような大掛かりな作業(まるで工事?)まで大家さんがしていたりと、DIY精神が浸透しているんだなと改めて感じました。たくましくもなりますよね・・・!

でもこの手作りの精神は例えば料理にも生かされていて、牛すね肉や香味野菜から丁寧にコンソメを作ったり、旬の果物でkompotを作ったり・・・このコンポート、日本のコンポートとは違って果物を水と砂糖で煮て作る飲み物のことなのですが、まさに果物そのものの味、といった感じで季節感満載なのです。

ジェラゾヴァ・ヴォラにあるその名も「Kompot」というレストランの美味しい料理。もちろんコンポートも種類豊富で絶品!

ジェラゾヴァ・ヴォラにあるその名も「Kompot」というレストランの美味しい料理。
もちろんコンポートも種類豊富で絶品!

先日も長くポーランドにいらっしゃる日本の方とお話ししていたのですが、ここでは納豆まで手作りしている方もいて、みんな色々手に入りにくいからこそ知恵を絞って挑戦している、と仰っていました。もちろん少し前に比べたら今はほぼ何でも手に入りますが、それでもこの国独特の食材や習慣があって、そういったものでアレンジすると思わぬ発見があったり・・・。何より、新しい食材を何かに見立てるって楽しいですよね!今週末はまたバザール(市場)に行ってみようと思います。

オープンテラスで夕食を楽しんだ帰り道。右手の建物が文化科学宮殿です。夜風が気持ち良い!

オープンテラスで夕食を楽しんだ帰り道。右手の建物が文化科学宮殿です。夜風が気持ち良い!

No. 222015.06.25 緑一色のポーランド

1年で一番日が長い時期を迎えました。夏時間の関係で22時頃まで明るく、毎日外のテラスで夕涼みをしたくなってしまいます。前回は成田空港でこちらを書いていましたので、その後どのようにワルシャワに到着したかご報告しますと・・・。日本を昼間に発つとヨーロッパ内の都市を経由しますのでポーランドに降り立つのがいつも夜。真っ暗な空のもと、オレンジ色の街灯が広い大地に広がる光景を目にするとワルシャワに戻ってきた、と思うのですが、今回はまるで昼間のような強烈な太陽が。そして何より、あまりの緑の多さに、一瞬別の国に来てしまったのではないかと思って搭乗券の半券を凝視してしまいました(笑)そのくらい、夏と他の季節ではポーランドの景色はガラッと変わります。何しろ1年のうち7~8か月は寒い季節、と言っても過言ではありませんから、その間にため込んでいたエネルギーを一気に爆発させているというのでしょうか、木々の緑の濃さには目が覚めるようです。その爽やかなイメージと同様、気温が上がっても湿度が低いおかげで本当に快適に過ごせます。日陰では上着がないと肌寒いくらい・・・でも路を歩く人々はそんなことはお構いなく思いきり薄着。風邪をひかないか余計な心配をしてしまいますが・・・!1年分の太陽の日差しを身体に取り込んでいるかのようです。

そんな心地よい季節に、ジェラゾヴァ・ヴォラにあるショパンの生家で演奏会をしてまいりました。ワルシャワから1時間ほど、今回は車に乗って向かいました。ワルシャワを抜けてしばらくすると両手に森が広がってきます。その合間に小さな湖や池が顔を出したり・・・車内でショパンを聴きながら過ごしていたのですが、その美しい風景とショパンの音楽がまるでセットのようにしっくりときたのです。窓から入ってくる風を顔に受ければ冷房も必要ありません。やはりショパンの源はこのような自然にあるのだと感じずにはいられませんでした。
そして道路標識が「Żelazowa Wola」を示してすぐ。世界各国からの観光バスが何台も停まっている駐車場の向かいに、生家のある公園へつながる門が見えます。昔はこの門から出入りしていたのですが、今はその横に近代的な入口兼ミュージアムショップがあり、そちらで受付をするようになっています。新しくなってから初めてこちらを訪れたのが昨年のことでしたが、そのあまりの変貌ぶりに驚きました。あれ?門が開かない・・・?こんなところに見た記憶のない建物が・・・?敷地内にカフェが出来てる・・・といった具合です(笑)でも肝心の生家は変わらずその場所にありました。
こちらの演奏会、ピアノが生家の内部の窓際にあり、公園内に流れるようにマイクが取り付けられていて、お客さまは外に並べられたベンチに座りながら聴くといった趣向です。お客さまからは弾いている姿はあまり見えないのですが、それによって不思議な落ち着きが生まれ、鳥の声や葉擦れの音を聞きながら私も心地よく弾かせていただきました。鳥の鳴き声、これがきちんと音楽の抑揚と合っているんです・・・!鳥もきっとショパンが好きなのですね・・・。
そして最後にサプライズが!演奏会が終わって車に戻ろうと思った時、ふと横を見ると素敵な絵の数々・・・。この画風、どこかで見覚えがあるのです。まさかと思ってサインを見ると・・・日本の自宅に、今から10年以上前にジェラゾヴァ・ヴォラで購入した生家の絵が飾ってあるのですが、それと全く同じ・・・!当時からずっとこちらで絵を描き続けていらっしゃる方だったのです。嬉しくなってしまってそのお話をしましたらとても喜んでくださいました。
緑とショパンの音楽に囲まれた素敵な一日でした。

ベビーカー・・・赤ちゃんも聴いてくれました

ベビーカー・・・赤ちゃんも聴いてくれました

白亜の生家は昔から変わっていません

白亜の生家は昔から変わっていません

見覚えのない建物が!レストランのようです

見覚えのない建物が!レストランのようです

No. 212015.06.05 「ポーランド」を形にしたら・・・?

梅雨の前に既に夏が来てしまったかのような気候が続いていますが、皆さまいかがお過ごしでいらっしゃいますか?爽やかな季節という印象があった5月、でも今年は湿度が高く、真夏日でなくても体力を奪われるような感じがします・・・。今成田空港でこちらを書いていますが、ワルシャワの気温を見ると日中27度・・・その暑さの「質」がどのようなものなのか、また体感して次回お伝えしますね!

沢山の皆さまに足をお運びいただき、無事に5月の演奏会を終えることができました。本当にありがとうございます。
中でも思い入れのある作品がショパンのヘ短調協奏曲でした・・・。私にはショパンの作品を「勝手に」ランク付けする癖があるのですが、例えば
「弾くと着替えが必要になる(=汗が止まらない)作品ベスト3」
これは葬送ソナタ、英雄ポロネーズ、スケルツォ1番といった具合です(笑)
そしてこの協奏曲は
「聴くとポーランドの風景を思い出してしまう作品ベスト3」
なのです。(ちなみにあと2曲はマズルカ41-1と、ピアノとオーケストラのための演奏会用クラコヴィアクです)
なぜショパンはこの作品を先に書きながらホ短調の方を1番としたのでしょうか・・・?その答えは現代の演奏会で取り上げられる頻度の違いに表れていると思います。つまりホ短調がより響きが豊かで人々に受け入れられやすい、ということをショパンは見抜いていたのではないでしょうか?しかしそれは作品の完成度とは関係がないと私は思っています。実はショパンは2番を演奏会で取り上げた際の聴衆の反応をかなり辛辣に、
「アレグロ(第1楽章)に対する反応は、聴衆が真面目な音楽を理解し、また評価する術を知っているという事を示そうとしたものだ。通ぶった人はどの国にもたくさんいる。アダージョとロンド(第2楽章、第3楽章)は素晴らしい効果を上げて、聴衆からの心からのブラボーが続いた」
と残しています。
私はこの作品が誤解されている理由が、ショパンの言うようにこの第1楽章にあるのではと思っています。確かにこの曲はホ短調の第1楽章のようにテーマ間の明確な対比がなく、同じような気分がずっと続く作品に見えるかもしれませんが、私は何回弾いてもこの作品に心から癒されます。一言で言うならば「透き通っている」というのでしょうか、ポーランドの大地の静かな、包み込むような、そして懐かしい雰囲気がするのです。これほど繊細なコンチェルトは私の中では他には有りません。良く批判されるオーケストラパートも、このピアノの動きを壊さないように寄り添っているその響きが、私にはこれ以外考えられないほど調和しているように思えます。
そんな作品を今回垣内悠希さまと大阪フィルの方々の素晴らしく温かい雰囲気の中で弾かせていただけましたことを心から幸せに思っております。ザ・シンフォニーホールのいつもながらの温かいお客さまに囲まれて、まるでポーランドで弾いているような気持ちになりました・・・。

長い冬から目覚めたポーランドは今が一番楽しい季節!またその様子を現地からお伝えできればと思っています。

マエストロと。幸せな1日でした

マエストロと。幸せな1日でした

これぞ正しい和朝食!こんな食事が心の栄養です

これぞ正しい和朝食!こんな食事が心の栄養です

No. 202015.05.22 折衷の国・日本

ポーランド人のお宅に招いていただいてお食事をご一緒すると、ほぼ必ず「純」ポーランドの家庭料理でもてなして下さいます。ニシンの酢漬け、ジューレック(スープ)、豚ヒレ肉のソテーに森のキノコのクリームソースを添えて、千切りの人参やビーツのサラダ、自家製セルニック(チーズケーキ)、そしてこちらも自家製の果実酒・・・こういったメニューが多く、ポーランド料理はやはり家庭でいただくのが一番!と実感するのですが・・・対して日本では和食、洋食、エスニック、そしてどのジャンルにも属さない折衷料理が当たり前のように並んでいますよね。カレーもラーメンももはや日本料理となっていますが、ルーツがどこであっても自分流にアレンジして美味しいものを生み出す日本人特有の力は本当に素晴らしいと思います!思えば日本語も漢字、ひらがな、カタカナ、そしてローマ字まで入れてしまえば4種類もの異なる文字を使っていて、これだけでもハイブリッドな国という感じがします。
ショパンは何人か、という問いにきっとポーランド人は「ポーランド人」、フランス人は「フランス人」と答えるでしょう。それだけ誇らしい才能を持った方ですが、実際はお父様がフランス人でお母様がポーランド人。苗字の「Chopin」はもちろんフランス語、ポーランドでは読み方に従って「Szopen(ショペン)」と書いたりもしますが、多くはそのままChopinを使っています。(ただ語尾変化するのはポーランド語ならでは・・・!)ショパンもまさに色々な国、様式の良さを併せ持ったハイブリッドな作曲家ではないでしょうか?こんなところにも日本人に愛される理由があると思うのです。演歌のように聞こえるメロディーがある、ともまことしやかに言われていますが、これはきっとショパンの時代のずっと後に演歌を作曲なさった方の脳裏にショパンのメロディーが薄っすらと浮かんだ、というのが真相だろうと想像しています・・・。いずれにしてもショパンは「世界市民」と言うのがしっくりくるのは私だけでしょうか・・・。

緑が好きなので日本でもポーランドでもよく自然を感じに出かけるのですが、日本は高原や山脈、ポーランドは森や草原のイメージがあります。日本の自然は雄大、ポーランドの自然は大らかというのでしょうか・・・?秋の紅葉も日本が色とりどりなのに対してポーランドは一面黄色に染まります。その違いを肌で感じるたびに季節の移り変わりの美しさを心に焼き付けています。加えて楽しみなのがもちろん山や森の恵み、山菜やキノコ、ベリーなどの果物なのですが・・・美味の話はまた長くなってしまうので(笑)別の機会に写真付きでお聞きいただきますね!

5月の志賀高原。昼間でも10度しかありませんでしたが最高に澄んだ空気・・・!

5月の志賀高原。昼間でも10度しかありませんでしたが最高に澄んだ空気・・・!

No. 192015.05.13 ピアノの力!

桜前線がついに北海道の端に到達し、最近は初夏のような暑さの日本ですがいかがお過ごしでしょうか?雪が残っていたはずの山から白色が消え、気がつけば目に眩しい緑の山が眼前に迫っています。いつも思うのですがこんな鮮やかな桜色や緑色を隠し持っている冬の枯れ木、本当に気高いですよね・・・。ただあるだけで美しい、そんな偉大な自然を前にすると人間は身を委ねるのが一番だと実感させられます。

さて、そんな豊かな季節に松本に行ってまいりました!「松本ピアノフェスティバル」の名の通りピアノの音楽祭なのですが前例のない試みが・・・なんとノージャンルのフェスティバルなのです!思えばピアノという楽器はクラシック、ジャズ、弾き語り、ソロや2台3台と様々なことができるのに、垣根があってピアノの幅広い素晴らしさをなかなか感じられずにいました。私も自分が弾いたのち舞台袖で皆さまの演奏を聴かせていただいたのですが、ピアノの無限の可能性を感じずにはいられませんでした・・・。人を歓喜の渦にも巻き込むことができるし想い出に浸らせることもできる、ポツンとした静寂を作り出すこともできるしオーケストラのような重厚な響きも醸し出すことができる・・・こんなに多彩な表情を持つ楽器はなかなかないかもしれません。この素晴らしいフェスティバル、来年以降も引き続き開催されるそうです!ますますピアノの新しい世界を見せてくれる貴重な場になると確信しています・・・。

今日においてポーランドではクラシック音楽のことをmuzyka poważna(ムズィカ ポヴァジュナ=真面目な音楽)と言い、muzyka rozrywkowa(ムズィカ ロズリフコーヴァ=ポピュラー音楽)と区別していますが、思えばショパンが生きていた頃はそのような区分はなく音楽といえば今のクラシックだったのですよね。流行になる歌もオペラのアリアであったり・・・。ありとあらゆる音楽が身近な現代では、その日の気分によってジャンルを定めずに自由に聞くのも素敵かなと思います。やはり音楽は音を楽しむためにあるものなのですね・・・!

ちなみに実を申しますと・・・私は休日、無音の中で過ごすのが好きです(笑)厳密には葉擦れの音、波の音、風の音、そういった自然の音の中に身を置くのが最高です!これらも美しい音楽。本当に音楽にはジャンルがありませんね・・・。

松本ピアノフェスティバルにて、ライル・クライスのお二人と。衣装、偶然にも黒と赤でピッタリ!

松本ピアノフェスティバルにて、ライル・クライスのお二人と。
衣装、偶然にも黒と赤でピッタリ!

No. 182015.04.17 季節も時代も次の舞台へ・・・

いつの間にか既に樹々が芽吹いている最近のワルシャワ。冬が長いだけに、枯れ木の上に黄緑色の芽が姿をあらわすだけで感動します。これから一気に成長して青々とした葉を繁らせることでしょう・・・。目抜き通りの新世界通りでは、道に面してオープンテラスの準備が始まりました。吹雪いていて人気のなかった冬が嘘のような賑わいを見せます。市場でもどんどんと季節の味覚が並ぶ時期です。秋冬から春夏への変化はいつ見ても劇的で、この国が様々な表情を持つことを実感させてくれます。

日本では最近北陸新幹線が開業し、私も帰国して北陸まで乗車するのを楽しみにしているのですが、ここポーランドでも新型車両が完成して本当に便利になりました。

先端の形はまるで新幹線のよう!

先端の形はまるで新幹線のよう!

以前3時間半ほどかかっていたポーランド南部のクラクフまで2時間半で行けるようになりました。時間だけでなく座席も快適で、これなら電車の旅も良いかな、と思えるほどです。(旧型車両はコンパートメント式で座席は向かい合わせ、足を伸ばせる余裕もなく大変でした・・・)

そしてワルシャワ市内にはずっと地下鉄1号線しかありませんでしたが、先月やっと2号線が開通しました。1号線は南北を結んでいますが2号線は東西を繋いでいて、まだ暫定区間が開業しただけなのですが新世界通りやショパン博物館最寄りのNowy Świat-Uniwersytet駅もあり、利用価値があるかと思います。(もっとも新世界通りへは1号線のŚwiętokrzyska駅から歩いても5分もかからないのですが・・・!)

実は去年完成予定でした・・・

実は去年完成予定でした・・・

そのショパン博物館もジェラゾヴァ・ヴォラのショパンの生家もしばらく見ていないうちに近代的になっていて驚きました。コンピューターを駆使した展示、ガラス張りの建物・・・でもそこに流れるショパンの音楽には変わりがなく、時代が流れても愛されるショパンを見る気が致します。

いずれにしましてもこれからのポーランドは観光に最適な時期!この時期の気温の割に既に半袖、タンクトップの方が多いことに驚かれるかもしれませんが、冬が長いだけあって暖かくなった喜びが大きいのかもしれません・・・。明らかに寒そうな方もいらっしゃいますが(笑)その時その時の気候を体全体で受け止めて楽しむ・・・自然体で何か素敵ですよね。日本は桜真っ盛りの季節、この連載のタイトルにもありますがポーランドの方は桜に美しい日本のイメージを重ねています。花見、という言葉が存在する国って殆どないのではないでしょうか・・・?それだけ特別な日本の桜、ぜひこの時期にポーランドの方にも日本に来ていただきたいものです!

No. 172015.04.01 インスピレーションがたくさん・・・!

先月最終日曜日から夏時間が始まり、一気に日が長くなったワルシャワです!時計の針を早めたり戻したりするのは学生の頃からもう何度か経験していますが、それでも電車や飛行機の予定があると何度も何度も確認してしまいます。1時間空港に着くのが早かった、は問題ありませんが遅かった、は一巻の終わりですから・・・(笑)ワルシャワのショパン空港はコンパクトにまとまっていて迷うことはありませんが、以前パリのシャルルドゴール空港で乗継便のターミナル間の移動に思ったよりも時間がかかり、危うく乗り遅れそうになったことがありました。チェックインカウンターの方が「もう飛行機出発するところだったよ」と苦笑いしながら手続きしてくださったのですが、その時は本当にその方が救いの神に見えました・・・。特に飛行機は早めに行動しなければいけませんね・・・。

さて、そんな春間近のポーランドで面白い演奏会がありました!3日連続だったのですが、1日目は音楽学校、2日目は宮殿、そして3日目は植物園の中、という普段あまり経験できない組み合わせの場所で弾かせていただきました。
音楽学校はŻywiec(ジヴィエツ)というチェコやスロヴァキアとの国境に近いポーランド南部の都市にあり、この国では珍しく雄大な山々が見られるところです。緑豊かで美味しい水が湧く、となれば日本でもお酒の醸造所を思い浮かべてしまいますが、この地の特産は何と言ってもビール!その名も
Żywiecというポーランドで1、2を争う有名なビールの故郷です。音楽学校での演奏会の後すぐに次の町に移動しなければならなかったので本場の味はお預け、という悲しい結果になりましたが、その分ケーブルカーに乗ってある山の上まで登ってきました。ポーランドは「Pole=平原」からきている名前通り平坦な国土なので久しぶりに見る山は本当に嬉しい・・・!眼下には麓の町が一面に広がっています。

風は冷たくても太陽の光が温かい・・・

風は冷たくても太陽の光が温かい・・・

この日の夜に宮殿での演奏会を控えていましたので同行の方から「疲れない?大丈夫?」と聞かれましたが逆にすがすがしい気持ちになって気分転換できました。1日に6時間練習している、と言った弟子に対して「3時間以上はしてはなりません。そして練習の合間には読書をしたり、傑作をじっくり調べたり、気分転換に散歩でもしなさい」と言ったとされるショパンですが、当時からやはりそれが一番良い生活リズムだったのですね・・・。
そしてその宮殿コンサート。大きくない町にあるのですが、その立派なことと言ったら・・・!

思わず天井を見上げてしまいます

思わず天井を見上げてしまいます

現在は宮殿博物館として一般に公開されているのですが、パリから運んだという巨大な鏡をはじめ絢爛豪華で圧倒されます。そんな素敵な場所で演奏するのは本当に心地が良く、流れている空気が昔に戻ったような、そんな感じがしました。

そして最終日はなんと植物園内でのコンサート!厳密には巨大な温室になっていて、ヤシの木やサボテンなどの熱帯植物、隣には水族館もあってピラニアが泳いでいたり・・・。この日はそれほど寒くありませんでしたが、真冬の零下何十度と言った日には年間20度以上に保たれているこちらは天国のようでしょうね・・・。 そんな温室内の大きな池の前にステージがあって、演奏できるようになっていました。客席は通路に椅子を並べて作ってあり、ほとんどのお客さまの様子がステージからは見えないのですが(笑)それでも緑の匂いを感じながら弾くのはまさに非日常でした。この時のプログラムはショパンの舟歌、メンデルスゾーンのヴェネツィアの舟歌、そしてリストのエステ荘の噴水など水にちなんだものでしたが、水辺で弾くこれらの作品は格別で・・・インスピレーションに溢れた場所でした。格調高いコンサートホールも良いですが、このような趣あるところで演奏会が行われているというのも本当に素敵ですね・・・!

ジャングルからピアノが出てきたような・・・!?

ジャングルからピアノが出てきたような・・・!?

No. 162015.03.20 行きつけのお店!

さて皆さま、新鮮な食品をお求めになるときはどちらへ向かわれるでしょうか・・・?デパ地下?道の駅?露店?はたまた直接生産されている方のところへ・・・?悩ましいですよね・・・。最近は農業が大ブームのようで都心でも畑を借りて野菜を作っている方も多いと聞きますが、残念ながら植物を育てる能力がなく、食べられる状態になるまで待ってもいられない私にとってはどこで美味しい野菜(野菜に限らずですが)を手に入れられるかは大切な関心事なのです・・・!例えばイチゴなども売り場でこの上なく良い香りを漂わせているものがありますよね、でも実際口に運んでみると何とも水っぽい残念な味・・・イキモノなので個体差は勿論あるのですが、そういったことがあると期待していただけにガックリ!反対に美味しいものに当たると生産地からどこで常時手に入るかまで調べてしまいます(笑)
ポーランドでもやはり現地の方が並んでいるお店はまず間違いないと思って良さそうです。こちらにいつもすごい行列ができているパン屋さんがあるのですが、お店の前を通るだけでいい香りがしてきます。回転が良いので常に焼きたてのパンが運ばれてくるのですね・・・。以前ポーランドの友人で「世の中にパンとバターほど美味しい組み合わせはない」と言っている人がいましたが、こちらのパンとポーランド特産の濃厚で美味しいバターがあれば確かに他には何もいらなくなりそうです。「ご飯と味噌汁」というような感じでしょうか・・・?
日本と少し違うのはワルシャワのような都会でも個人経営の小さい商店が沢山あり、それぞれの方がお気に入りのお店を持っている、ということです。私も近所によく行くお店があり、世間話などをしていると人口170万を超えるとは思えない、人々のつながりを大切にしている街だと実感します。少し車で行けば大きなショッピングセンターがあり、その中に入っているスーパーには食料品は勿論日用品、衣類まで何でも売っているのですが、それでも近所の狭い商店で真っ赤なトマトや青々としたハーブを求める方が多い印象があります。(実際にこちらのほうがおいしい野菜であることが多いです!)ポーランドでは季節になると道端に期間限定で野菜や果物の屋台が出たりするのですが、そういったものが愛されているのもこの国の特徴と思います。まだ早いですが春になるとホワイトアスパラガスの季節、日本の山菜のような感覚なのだと思いますが、その時期にしか食べられないものをいただくと幸せな気分になりますよね・・・!
そして面白いのは、日本ではなかなか目にすることのない野菜の生産地。この間も何気なく見ていましたら、アスパラガスはスペインから、インゲンはケニアから、唐辛子はウガンダから・・・。スペインから輸入される野菜は特に多く、ヨーロッパの農業大国を伺わせます。でも一番よく食べられている野菜であろうジャガイモは勿論地元ポーランド産、ニンジンや西洋ネギなどもそうです。野菜ではありませんがハムやソーセージ類、乳製品に至ってはほぼ国内産で占められている印象です。アメリカでホームステイしたとき、ホストファミリーの方から「これはケウバサ・ソーセージよ!」と言われてビックリした記憶が・・・!「ケウバサ=Kiełbasa」はポーランド語でいわゆるソーセージですが、アメリカではポーリッシュ・ソーセージとしてポーランド語のこの名前が定着していました。Sushiが国際語となったのと一緒ですね!

食べ物と並んで大切なものが水、ですよね。基本的にこちらでは水道水を飲むことができません。硬水と軟水という違いだけではなく、水道管が古いものが多いため、サビなどが混入することもあるからだそうです。学生の時に自宅の水道管からいきなり真っ茶色の水が・・・なんていうこともありました。あるいは何の事前連絡もなく急に断水も・・・。
そして一番驚いたのが硬水による影響の数々・・・。洗濯機で白い服を洗っているとすぐに黄ばんできてしまうほか、柔軟剤を使わなければ信じがたいほどにゴワゴワに。タオルなどは皮膚が削れるのではないかと思うほど硬い仕上がりでした・・・。また食器乾燥機には日本で見慣れない「塩」を投入する部分が・・・。これは、こちらの水が硬水のためにそのまま使っていると管にカルキ分が付着し、最終的には故障してしまうからだそう(怖いですね)。この塩を使うことによってカルキ分が中和され、安全に使えるらしく・・・それを知らなかった私は、当初この塩は洗剤の代わりなのだと洗剤投入口に入れておりました、無知とは恐ろしい・・・。電気湯沸かし器も数回使うと内部に白い浮遊物が出てきますし同じ水でもここまで違うとは本当に驚きます。でもこの水で紅茶を淹れたりパスタを茹でるととても美味しいのです!(ご飯を炊くのにはちょっと合いませんが・・・)ちなみに私はこちらの炭酸入りのミネラルウォーターが大好きなのですが、これも硬水ならではの口当たりです。こちらへお越しの際はぜひお試しください!

ちなみに市場も健在。季節を間近に感じられる場所です。

ちなみに市場も健在。季節を間近に感じられる場所です。

No. 152015.03.09 2回の特別な日

歴史上の偉人は時として謎を残します・・・。私自身にとっての「偉人」は作曲家ですが、モーツァルトはお墓の位置が分からない、チャイコフスキーは亡くなった原因が分からない、そしてショパンは・・・いつ誕生したのか未だにはっきりしておらず、昔のことですからきっと今後も断定されることはないのでしょう・・・。でもそのおかげでショパンを愛する人々は2回彼の誕生を祝い、演奏会が行われます。「生誕○○年」といった節目の年はどの作曲家も何かしらのイベントがありますが、毎年祝われることはあまり多くないですよね・・・ショパンがいかに人々の記憶に残る作曲家か窺えます。

有難いことに2月23日(22日の誕生日の1日後ですが)、3月1日と2回、生誕記念コンサートで弾かせていただく機会がありました。どちらもあまり規模の大きくない町でしたので本当に皆さま来てくださるのかと思っていましたが、開演後舞台に出てみるとお客さまでぎっしり・・・!いつも驚くのですが、年配のご夫婦から若いお友達同士の方まで本当にいろいろな方が来てくださいます。そして開演7時であっても大きな都市以外では始まりのベルが鳴ることもなくゆっくりお客さまが集まり、数分経った頃「だんだんと」演奏会が始まります(笑)この気取りがない感じもまたなかなか素敵なのです。
演奏会が始まった瞬間から、コンサートに来ることが目的ではなくて皆さんご自分の楽しみのためにショパンの音楽を聴いていらっしゃるのだな、と強く感じます。ご存じのようにポーランドは1年の半分以上が冬、5月頃に枯れ木が一斉に芽吹くさまを見るのは本当に幸せなことですが、冬が長いからこそ生活を楽しむ知恵が生まれ、今ある楽しみを精一杯享受するという国民性が根付いたのではないでしょうか・・・?言葉を換えればまさに「自然体」、スーパーでも旬のもの以外を見つけるのが未だに難しいこの国ですが、その時旬を迎える食材であったり景色を眺めたりするのは何よりの贅沢、そして一番「らしく」生きられる秘訣なのかもしれません。日本にも旬や季節感という考え方が根底に流れていますが、この意味でも日本人とポーランド人は言葉こそ違えど通じるものがあると思うのです。日本人がショパンの音楽に感銘を受けるのも、感覚が近いからに他なりません。
話が飛んでしまいましたが・・・!お客さまが仰っていた言葉で一番印象に残ったのが
「Uczta duchowa(ウチュタ・ドゥホーヴァ)」というものでした。直訳すると「魂のご馳走」、いわゆる「心の保養」という意味ですが、ポーランドとショパン、というとどうしても「革命」や「英雄ポロネーズ」などから愛国心の象徴のように思われていますが、もっと広い意味でポーランドの方々にとっての心の拠り所だったのですね・・・。

2回誕生日があるショパン、ところがポーランドには名前の日「Imieniny(イミエニヌィ)」という習慣があって、それぞれの人が誕生日とは別に自分の「名前の日」を持っているので誕生日が2回来るようなものだそうです。しかも名前の日の方を大切にしている人が多いようなのですが、その理由は「名前の日だと自分の年齢を言わなくても良いから」だとか・・・!もちろん理由はそれだけではないと思いますが、ショパンは「Fryderykの日」と「Franciszekの日」も祝ったのでしょうか・・・?

温かい雰囲気

温かい雰囲気

演奏会後の幸せな瞬間!

演奏会後の幸せな瞬間!

お花いただきました

お花いただきました

No. 142015.02.24 魂が沸き立つような・・・

ワルシャワへの飛行機の中でこちらを書いています。1月からの日本での公演・・・大阪・千葉・長野・宮城・福岡・東京と、全国各地のみなさまの温かい雰囲気の中で弾かせていただけましたことを心より感謝申し上げます!毎回異なるジャンル、プログラムに挑戦した1ヶ月半でしたが、この充実感は本当にかけがえの無いものでした。
2月の3回はショパンのコンチェルトとオールショパンのソロでしたが、ワルシャワに戻って初めてのショパンでしたので自分でも演奏中どのような気持ちになるか興味がありました。間違いなく私にとって最も大切なショパンの作品・・・コンチェルトも、今までコンチェルトの中では一番演奏してきたショパンの1番ですが、出てきた感情は「懐かしい」ではなく、「新鮮」というものでした。まるで初めてこの作品に触れているような不思議な感覚になったのです・・・。それはソロも同じでした。「作品に身を任せて自由に想って演奏しても良いのかもしれない」と、気持ちが解放されたような気が致しました。その要因はほぼ間違いなく舞曲にあります。今回プログラムをイメージするにあたりまして今まで以上に「自分が演奏したい作品」を入れていったのですが、出来上がったものはほぼ舞曲で占められていました・・・。マズルカ風ロンド、ワルツ2曲、4つのマズルカ、幻想ポロネーズ・・・そして舟歌も一種の舞曲です。ショパンの舞曲には魂を沸き立たせるような不思議な力があると思っています。踊りはやはり身体を使うものですから、ピアノで演奏していても自然に足や身体全体が飛び上がったり着地したりします。その動きが身体を柔らかくして、一層美しい旋律に身を委ねられるのではないでしょうか・・・?ショパンご本人でさえ、マズルカは10回に1回うまく弾くことができれば良い方だと仰っていたくらい難しいものではありますが、聴く人や弾く人を幸せにする力を持っていると思います。今回無意識に舞曲を多く選んだのは、ますます自分自身がショパンに惹かれている表れかもしれません・・・!

さて、ワルシャワに戻って早速演奏会が待っています!会場で自分が踊り出したくなるような(!?)そんな気持ちで舞曲を演奏したいと思います。次回はこちらからまたお伝えしますので、どうぞ引き続きよろしくお願いします!

No. 132015.02.03 氷の鍵盤

一年で一番寒い時期を迎えました・・・少し暖かくなったと思うとまた冬将軍なるありがたくない言葉が天気予報に登場、まだまだ春は遠いですね・・・。寒いといえばポーランドですが、今年の冬は暖冬のようで今も日中プラスの気温だそうです。ただ先が読めない気候の移り変わりのこと、ワルシャワに戻った途端零下数十度の世界にならないことを願うばかりです(笑)
長野県も日本の中ではかなり寒い場所だと思いますが、それでもワルシャワでマイナス28℃を指した温度計を見たときの衝撃といったら・・・!!温度計って0度を中心に上下に振れている印象がありますよね、それが0度の目盛りがものすごく上にあるのです。冷凍庫よりも寒い訳ですから、パーティーでの乾杯用のウォッカはみなさん当然のように外に置いていましたっけ・・・。ただその他の飲み物を一緒に出してそのまま室内に入れるのを忘れてしまうと・・・もちろんカチカチに凍ってしまいます。そんな時でも部屋は常時暖房が効いていますので、厚着をしていると汗ばむほど。暖房で熱くなった体を極寒の外で冷やす・・・ある意味では贅沢ですね。(こちらの暖房はお湯の熱を利用しているので経済的です)

寒い時期は練習時や演奏会前、いつも気を遣います。手が一度冷たくなってしまうと、お湯で手を温めても表面が温まるだけで深部の筋肉は全く動きません。ですのでリハーサルなどでウォーミングアップをしたあと、同じ状態を保つために日頃は暑がりなのですが楽屋ではしっかり暖房を効かせてカイロを手放しません。あと意外と見落としがちなのが実は「ピアノの鍵盤」なのです!どんなに温かい手で弾こうとしても長く寒いホールに置かれているピアノは鍵盤が冷たいのでそこから冷気が伝わりまた指先が冷たくなってしまうのですね・・・。
ショパン音楽院に通っていた頃、日本から大量のカイロを持って行っていました。それを見たポーランドの友人が一言、「日本にはこんな良いものがあるのか!?」やはり手や指先の冷えはみなさん共通の悩み。使い捨てカイロだといつか終わってしまうので、その友人には充電式のカイロをあげました!

それにしても日本にはカイロをはじめ、生活を豊かにするものがたくさんありますよね。ワルシャワにも「MUJI(無印良品)」がありますが、今日本の気の利いた雑貨類が大人気だそうです。特に日本製が良いな、と思ったものが台所用品。ザル、ボールなどは料理の下ごしらえに不可欠ですが、日本製のものは作りがしっかりしていて形もスマートで本当に使いやすいです。ワルシャワの大型スーパーで見つけたものはザルとボールがピタッとはまらない・・・。当たり前のようで実はすごいことだったのですね、サイズが合うのは。
それと圧倒的に日本製に軍配を上げたいのは食品ラップ。現地で買ったものは・・・なんとラップが伸びるのです、伸縮性のあるラップって・・・(笑) 伸びる、というより頼りない感じで食器にピタッとくっつかず、すぐに剥がれてしまいます。しかも全く切れない・・・。日本にいると当然のことと思っていましたが、使う人の立場に立った物作りって素晴らしいですよね。
「なくてもいい物こそ人生や生活を豊かにする」
以前どなたかが仰っていた言葉ですがけだし名言ですね。

さて、先月はグリーグ、ブラームス、メンデルスゾーンなどが続いていましたが今月は再びショパンに戻ります。コンチェルト、そして楽しみに組み立てたソロのプログラム!今感じたままをお伝えしたいと思っています。寒い冬でもこのプログラムのおかげで気持ちは温かです・・・!

◆ピアノリサイタル CFXコンサート情報
2/11(水)開演:14時 柳川市民会館大ホール
2/12(木)開演:19時 ヤマハホール

No. 122015.01.16 欧州音めぐり

バロック、古典派、ロマン派・・・音楽の時代区分ですが、そういった時代の流れも去ることながら、やはり作曲家の出身地の空気感が音楽になんとも言えない色彩を与えているといつも感じます。たとえその場所に行ったことがない人でも彼の地に身を置いている気持ちになる・・・そんな力が音楽にはありますよね。

先日大阪のザ・シンフォニーホールにてグリーグのピアノ協奏曲を演奏させていただきました。グリーグは「北欧のショパン」とも呼ばれているそうですが、その美しさはショパンとはまた明らかに異なっています。印象的なのが第1楽章の第2主題や第2楽章のピアノの導入、そして第3楽章のフルートに導かれる中間部・・・ピアノが静かに奏でている間オーケストラも最弱音で音を保っていますが、その透き通るような音に支えられて弾いているととても平和な気持ちがしてきます。「北欧」からイメージされる深い森の緑と波風一つ立たない青い湖がそこに見えるようです・・・。
私自身は北欧はフィンランドに一度行きましたがノルウェーはまだ訪れたことがありません。でもフィンランドでの体験はそれまでの欧州のイメージとはまた違う興味深いものでした。上空から見たヘルシンキ周辺は無数の湖に抱かれたまさに「森の国」、そして現地の方に「季節になると森へベリー類を採りに行く」と聞いたときに頭の中にあったフィンランドのイメージとピッタリ重なったのです。深い森の緑のなかにある紫色や赤色の木の実、その色彩が澄み渡った空気とこれ以上なくよく合うのですよね・・・。思えばトナカイのソテーもベリーソースでいただきますしデンマークのミートボールもベリーが添えてあります。自然の恩恵を受けて人生を楽しんでいらっしゃる感じがしませんか・・・!?きっとグリーグの協奏曲も北欧の大自然が舞台になっているに違いありません。

ワルシャワも首都でありながらいい意味で「擦れていない」と言いますか、住んでいて落ち着きます。実は私の初ヨーロッパはポーランドだったのです。夏期講習の時だったのですが、日本でいただいたことのないチーズやキノコの餃子(ピエロギ)やビーツの真っ赤なスープ(バルシチ)に強烈な異文化体験をしたことを覚えています。「このピエロギ、美味しいけれど食べても食べても減らない」とか「ショッキングピンクの温かいスープなんて初めて!」と叫んでいました(笑)そういった異国の味、スケールの大きな緑豊かな公園、そして何より寡黙に見えて親切な人々に惹かれてポーランドで勉強することを決めたのですが、狭い範囲に多くの国がひしめき合っている欧州は国それぞれ個性的ということをのちに知ることになりました。確かにポーランドはスラブ語系ですが隣のドイツはゲルマン系の言語、これだけでもかなり違いがありますよね。当時ワルシャワから電車に乗った時、車内の表示がポーランド語、ドイツ語、フランス語、ロシア語だけで英語がなかったのにはビックリしましたっけ・・・。でも例えばチェコに滞在していますと、どことなくポーランドと同じ「東欧」の香りがしてきて落ち着くのです。
音楽もそうですよね。同じロマン派の括りでもショパンとシューマンではまた違います。作品の構造などももちろん異なりますが、それよりも決定的に違うのは「薫り」のようなものではないでしょうか・・・?それが作品全体を貫く空気感になっています。東欧に住んでいるせいか北欧の音楽に親しみを感じますが、素朴で豊かという価値観がどちらにも共通しているように思えます。

空気感とはその名の通り目を閉じてかすかに感じる風のようなものなのかもしれません。土地の空気を伝えてくれる音楽、今回また一つ知ることができました!

指揮の藤岡幸夫先生と。

こんな素敵なカードが楽屋近くに・・・。

No. 112015.01.05 2015年を気持ち新たに・・・。

皆さま、新春のお慶びを申し上げます!本年も皆さまにおかれまして素敵な一年となりますことを心からお祈りしております。私は昨年末に日本に戻り、落ち着いた日々を過ごしております。日本の自宅にはショパンの生家の絵を、ポーランドの自宅には東山魁夷さんの絵を飾っているのですが、それぞれに眼を向けると瞬時にポーランド、そして日本へ思いを馳せることができるので、どちらに居ても温かい気持ちになりますね・・・。

昨年の4月に、ショパンの心臓が安置されているワルシャワの聖十字架教会にて実に70年振りに心臓の調査が行われたと耳にしました。入って左手の柱にショパンの名が書かれたプレートがあるのですが、いつもどの位置に心臓があるのだろう、と疑問に思っていました。なんと穴をあけて取り出すそうです・・・! でも、そのくらい厳重にしなければ持ち出されてしまいますよね。 なぜこれほど手厚く守られ、そして数十年も調査が許されなかったのか、それは貴重な歴史的資料だからというだけではなく、とてつもない影響力があるからなんだそうです。 きっと、ポーランドの人々にとって真の意味で国宝、なのでしょうね・・・。この話を聞いたとき、音楽の力について考えさせられました。ある時は人々をこの上なく幸せにしてくれる希望であり、ある時は人々を洗脳する道具にもなり・・・それだけ力がある音楽、ぜひ美しい形でのみ世に残ってほしい、心からそう思いました。

それにしましても久しぶりの日本の繊細なお料理は本当に美味しい・・・!!改めて日本の食文化の豊かさを実感しています。
例えば最近海外でラーメンが大ブームですが、人気があるのは決まってとんこつラーメンなんだそうです。日本に観光に行ってきたというポーランド人の友人は味噌カツが一番美味しかった、と語っていましたっけ・・・。(私もとんこつラーメンも味噌カツも大好きですが!)概してパンチのあるものが好まれていますよね。お吸い物は具が浮かんだお湯みたい!?なんていう感想も・・・。日本料理は見た目の美しさや細やかな味付けも特徴的ですが、やはり外国に居て益々感じるのは食材の鮮度が抜群だということでしょうか。それには産地での手際の良さや運送状況が良いということも大きく関わっていそうです。これから道端で食品を卸している車を見かけたら心の中で感謝しようと思いました!

実は最近ある本を見つけまして、ポーランド人の気質や伝統について書いてあるものなのですが、
「食」の項に「フランス人は食べるために生きている。ポーランド人は生きるために食べている」
「ポーランド人にとって量の少ない食事は食事とは言えない」と随分思い切ったことを書いてあるのです(笑)確かに食事の量は驚くほど多いですが・・・。スープは具だくさんでそれだけで食事を終えたくなることもありますし、メインは大体お肉料理にジャガイモ、という形が基本なのですがとにかくそのジャガイモの量が尋常ではありません!!スーパーでは、ジャガイモはまるで農家さんが収穫したままを置いて行ったような巨大な網に入って売られていますが、これだけ消費するのだからこのくらいにはなるだろう!と納得してしまいます。でも慣れとは恐ろしいもので・・・最近ついつい完食・・・。

本では散々な書かれようのポーランドの食事ですが、実際はそんなことはありません。特にスープは本当に絶品です!まさに気候に合った料理ですよね。きっとポーランドで食べるから尚更美味しく感じるのだと思います。そして特徴的なのは、ポーランド料理はレストランではなくて家庭で食べるのが一番美味しい!それと地方、もっと言ってしまうと、どこで食材を調達しているか分からないような辺鄙な場所に行くほど驚くほど美味しい料理が食べられる気がします。そういったところの料理は心がこもっていて温かくて本当に素敵なのです!これこそポーランドの美徳でしょうか。ポーランドにいらっしゃいましたら都会だけではなく、ぜひ小さい町も訪れてみてください!時の流れがゆっくりに感じられます。
ちなみにショパンの好物はホットチョコレート、甘いもの、炭水化物、鶏胸肉や魚の白身だったそうです・・・随分と偏りが・・・(笑)でも炭水化物が好き、というところは日本人に似ていて微笑ましくありませんか・・・?

私にとって心を平和な気持ちで満たしてくれるのはいつも決まって音楽、旅、そして食事。素敵な料理との出会いを願いつつ、そこから力をもらって今年の日本での演奏会、皆さまに楽しんでいただけるよう精一杯取り組みたいと思います。

お正月なので目出度く紅白で!
こんなに美しくて美味しい牛肉を育てられるのは日本の美意識に他なりません

No. 102015.01.01 ピアノを背負って楽屋口から・・・

ショパンと言えばピアノ、ピアノと言えばショパンというほどショパンはピアノの作品に特化した特殊な存在ですが、その彼の名前を冠するショパン音楽大学にピアノ以外の楽器専攻の方も沢山在籍している、と言うと驚かれることが多かった記憶があります。これがモーツァルテウム大学、モスクワ・チャイコフスキー音楽院といったところでしたらきっと普通にピアノ以外の楽器もイメージされるのでしょうか・・・。もちろんショパン音楽院(通っていた頃のこちらの名称に馴染みがあるのでここでは「音楽院」で・・・)はピアノだけではなく音楽の総合大学で、専攻楽器によって学部が分かれています。ピアノやオルガンなどの鍵盤楽器専攻は第2学部なのですが、ショパンが偉大な作曲家だったことに敬意を表して第1学部は作曲専攻になっています。

ピアノを始めたきっかけ、それは歌とピアノとの出会いでした。元々幼稚園で童謡や合唱曲を歌うことが好きで一人で口ずさんだりしていたところ、先生が弾くピアノの伴奏が聞こえてきたのです。
その時、幼心に「ピアノの響きの中で歌っているととても楽しい」と思ったことを覚えています。この時に歌ではなくピアノに興味が向いたのは、どちらかというと主旋律に寄り添う内声のような、響きを添えられるところが好きだったからだと思います。今よく考えると、弾いているときに作品に感動する部分は旋律もそうなのですがそれより和声に多いということが分かりました。(今更、でしょうか!?)ショパンのあの美しい旋律の数々は不滅ですが、彼の場合水の中に墨汁を一滴落としたようなものすごく繊細な和声を持っていて、そこに何よりも惹かれるのかもしれません。それもこの幼い時の体験に繋がっている気がします。

ショパン音楽院から随分話が逸れてしまっているようですが・・・ピアノに興味を持ったきっかけがそもそも「アンサンブル」でしたので、今でも室内楽や協奏曲が大好きで他の楽器にもとても興味があります。もちろん音に、という意味で・・・自分が演奏するなんて考えただけでも恐ろしいです・・・(笑)ショパンはピアノソロはもちろん、協奏曲や歌曲、室内楽にも必ずピアノが登場するので全ての作品を演奏できる唯一無二の存在ですが、自分がもしこの楽器を選んでいたら、とため息が出る作品があります。冒頭にも登場しましたが1つはモーツァルトのクラリネット協奏曲、そしてもう1つはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲です。どちらの作品も本当に隅から隅まで美しいのですよね・・・。始めの1音目から最後まで感化されたままです。演奏することはかなわないので聴く側に徹していますが・・・。

ただきっとこれは贅沢、というものでしょうか・・・?弦楽器や管楽器の方はオーケストラ、声楽の方はオペラ、と同じようにピアノは何よりも一人で演奏できる作品が沢山あるのですから・・・。 ちなみにショパンのどの作品が一番好きか、と尋ねられることも多いのですが、あまりに多すぎて決められません、というところが本音です・・・!歳を重ねるにしたがって雰囲気が移ろってはいますが、どの時期の作品をとってもこんなに感動するのは自分にとってはショパンだけかもしれません。あまり演奏されない作品を中心に据えたプログラムにも近いうちに挑戦しようと思っています。

ただピアノの唯一の欠点は・・・他の楽器の方は自分の楽器を持って楽屋口から入れば「ああヴァイオリニストの!」「ああチェリストの!」と分かってもらえますよね、でもピアノは・・・時々警備の方に名前を聞かれてしまうことでしょうか(笑)

No. 92014.12.03 ポーランドらしいものあれこれ

12月に入りましたが皆さまいかがお過ごしでしょうか?
師走、というと何故か急に年末の忙しさと賑やかさが感じられるから不思議です。 日本の暦、素敵ですよね・・・。こちらは数日前から急に寒くなり、今日は最低気温氷点下7度、最高気温も氷点下7度でした・・・。1度も気温が上がらないまま一日が終わったということですね・・・!
こちらの連載で「帽子は必需品」とお伝えしましたが、そんなことを言っていながら実は肝心の帽子を持ってきていなかったのです。 年末日本に戻るまで我慢しよう、と思っていたのですが、外に出てみると肌(頭?)を刺すような寒さ!帽子をかぶっていない人などほぼ見かけません。寒さで頭痛がしてきたところで堪らず帽子を購入することに・・・危険ですね・・・。

さて、こちらポーランドでは12月は行事が目白押しです。
12月6日はMikołajki (ミコワイキ)、聖ミコワイというのは英語で聖ニコラウス、サンタクロース伝説の元になった聖人です・・・ということでサンタクロースがプレゼントをくれる日です!日本ではプレゼントといえばクリスマスのイメージがありますが、ポーランドではこのミコワイキと12月24日の両方プレゼントをもらえるとあって子供たちは大喜び。
そして12月24日のWigilia(ヴィギリア=クリスマスイブ)と12月25日のBoże Narodzenie (ボージェナロゼニエ=クリスマス)。24日は伝統に則り肉を食べず、代わりに鯉のフライやゼリー寄せ、キャベツのピエロギ(餃子のような料理です)、バルシチ(ビーツで作った真っ赤なスープ)などを囲んで厳粛に過ごしますが、25日はお肉もお酒も解禁で日本のお正月のように朝から晩までとにかく食べる、食べる、食べる・・・!!ポーランドでは26日まで祝日なので、その宴は3日間も・・・。もちろん皆で教会のミサに行ったり、本来の行事も大切に受け継がれています。テレビではミサの中継が流れますので、教会が遠くて足を運べない人でも安心なんだそうです。
そして1年を締めくくるのはSylwester(スィルヴェステル)、年越しですね!初めて目にしたときは驚きました。とにかく日本の比ではない騒がしさ!うっかり繁華街を歩こうものなら、大量にお酒を飲んだ(と思われる)人々が楽しそうに声を上げながら向こうからやってきて、間違いなくその輪に巻き込まれます(笑) 広場には特設ステージができて大規模なライブが行われたりあちこちで花火があがったりと、とにかくこの日は無礼講で祝いましょうという雰囲気。この騒ぎですから新年を迎え日付が変わったくらいではもちろん終わりません。学生の時に自宅に友人を呼んでホームパーティーで年越ししたのですが、皆様朝5時、6時にやっとお帰りに・・・。この後はどうなるかお気づきですよね・・・1月1日は騒ぎ疲れた人々の休息日、街はゴーストタウンのように誰も歩いていません。こうしてイベント盛り沢山の12月は幕を閉じます。

街もそろそろ年末の雰囲気が漂ってきました。日本では25日まではクリスマス用の展示がなされてローストチキンやテリーヌ、ケーキなどが並んでいますがその後すぐに年越しやお正月用の食材に切り替わるのを見て、いつもお店の方大変だなと思ってしまいます。ただ品揃えも1年で一番豊富で見ているだけで楽しくなってきますが・・・!ポーランドでは12月頭からずっとクリスマスの食卓を彩る食材が並べられています。華やかな雰囲気が漂うのは日本と同じ。ほとんど海に接していないので魚を食べる習慣があまりないこの国ですが、クリスマス前だけは生きた鯉が大量に売られています。果たしてポーランドの人に生きた鯉が捌けるのか、と思っていたのですが、なんと各家庭のバスタブで捌くそう・・・大仕事ですね!

国産鯉1キロ8.99ズウォティ(約315円)いったい一家族でどのくらい食べるのでしょう・・・

国産鯉1キロ8.99ズウォティ(約315円)いったい一家族でどのくらい食べるのでしょう・・・

クリスマスでなくても手に入るものなのですが、スーパーで売っているポーランドらしい食材をいくつか・・・。

・キノコのピクルス
以前の記事でポーランドではポルチーニが良く採れるとお話ししましたが、ポルチーニだけでなく様々なキノコが手に入ります。乾燥もオススメですが、瓶詰のピクルスも!丸ごとキノコがそのまま香味野菜やハーブと酢漬けになっていて、とろけるような食感は癖になります。日本のピクルスよりも若干酸味が強めですがさっぱりしていて美味しい。

・ソーセージ
ポーランドのスーパーでは生の肉類の売り場よりハム、ベーコン、ソーセージ売り場の方がずっと大きく、いつも行列ができています。とにかく種類が豊富で、その美味しさは主要な輸出品の一つにもなるほど。中でもポーランドらしいものがkabanosy(カバノスィ)。細長いソーセージなのですが、乾燥させているのでうまみが凝縮していて噛むほどに味が出てきます。ある日本の方から「これに柚子胡椒をつけて食べると美味しい」と教えていただいて、本当によく合うので時々和風でいただいています。

・乳製品
こちらの乳製品は本当に美味しいです。ヨーグルト一つとっても「クリーム ヨーグルト(コクのあるタイプ)」「チーズヨーグルト」「デザートヨーグルト」「飲むヨーグルト」「ヤギのヨーグルト」などなど沢山の種類があります。またポーランドには果物を飾ったホイップクリーム「だけ」のデザートがあるのですが、その胃にもたれそうなイメージとは違い、原料の質が良いので軽い口当たりです。

ポーランドにお越しの際はぜひ召し上がってみてください!

キノコのピクルスとカバノスィ。瓶自体がキノコの形でかわいいです。

キノコのピクルスとカバノスィ。瓶自体がキノコの形でかわいいです。

さて、今月放映されますNHK「名曲アルバム」にてショパンのノクターン遺作 嬰ハ短調を弾かせていただいております。
ワルシャワの美しい映像も流れますので、ぜひポーランドの雰囲気をお楽しみください!

放送日時:
12月3日(水) Eテレ 10:25~10:30
12月14日(日) 総合 4:20~4:25
12月24日(水) Eテレ 10:25~10:30
12月30日(火) Eテレ 6:20~6:25
http://www.nhk.or.jp/meikyoku/

No. 82014.11.18 マズルカとワルツ・・・?

11月11日は日本では電池の日、箸の日、そしてチーズの日など様々なものの記念日だそうですが(一つも知りませんでした・・・)ポーランドは独立記念日。第一次世界大戦が終結した1918年のまさにこの日にポーランド共和国が再生し、123年にも渡る分割~「ポーランド」が地図上から消えていた時期~が終わりを告げました。この後第二次大戦の悲劇などがあり、ポーランドに本当の平和が訪れたのはのちの事ですが、やはりポーランドの方にとって11月11日は忘れることのできない、そして語り継がれるべき大切な日のようです。他国から侵攻を受けた時も、「ポーランド」という名前が消えた時も、人々は固有の言葉や文化を守り抜きました。ショパンを英雄として讃え、外国人が少しでもポーランド語を使うと大変に喜んでくださるのはやはりこのような時代背景も大きく関わっているのだと感じます。
日本では祝日というと賑やかなイメージがありますがポーランドは静かなことが多く、自宅で楽器の音を出すのをためらってしまいます。この独立記念日も静かな曲を選んで早めに切り上げました・・・!
そして当然のことながらお店やレストランもほぼ全て閉まっています。このような時に限って水などを切らしてしまうことが多く、学生の時は休みになる前に食糧を備蓄(!?)していたものですが、最近は僅かながら開けておいてくださるお店もあって本当に助かっています。

独立記念日に通りかかった路にて。各家庭もポーランド国旗を掲げています

独立記念日に通りかかった路にて。各家庭もポーランド国旗を掲げています

さて、こちらで再び暮らし始めてから実はある心境の変化がありました。ショパンの作品において「ポーランド」というとやはり彼の故郷を思い起こす言葉ですよね。マズルカ、英雄ポロネーズ、革命のエチュード、ピアノ協奏曲・・・このような作品を弾きたくて堪らなくなるものだと思っていました。しかし実際に今弾きたくなるものが少し違うのです・・・。マズルカはいつどこにいても大好きなのですが、なぜか「ポーランド」と言えばこの作品、のはずの英雄ポロネーズよりも「幻想ポロネーズ」、ポーランドというよりフランスの薫りが強い「ワルツ」、このようなものが頭の中に出てきます。これには自分でも驚きました。
英雄ポロネーズはショパンが晩年にフランスで作曲したもの、そうなればショパン流の理想のポーランドを異国(お父さまはフランス人ですが)で描いたようにも思えます。離れているからこそ見える美しさなのでしょうか・・・。ドビュッシーの「版画」も、彼自身一度も東洋やスペインに行ったことがなかったにもかかわらず「想像で埋め合わせて」作曲したとのことですが、どこを切り取っても現地の音楽としか思えません。でもそれは厳密な意味での「正確な」民族音楽ではなくてファンタジーの世界、イメージや理想像から生まれたからこそ醸し出せる薫りというのでしょうか、そういった魅力があるように思います。ショパンがマズルカを壮大な芸術作品に拡大していったのも、故郷を離れて暮らさざるを得ない状況だったからこそかもしれません・・・。
またワルツは第1番の作品番号が18と他に比べて少々遅いこと、そして作品番号付きで出版した数と同じくらい遺作があることからショパンがワルツの出版を躊躇していたことも窺えそうですが、何故でしょうか・・・?
(あまりに「フランス的」だから?)ただその優雅さはショパンの気質と見事に合っていますよね。ワルツを弾きたくなったのはフランスでマズルカを弾くのと同じような感情からかもしれません。

再びマズルカやポロネーズの息遣いを感じられると思っていた私にとってはいきなり思いがけない発見となりましたが、幻想ポロネーズやワルツ、弾いていて愉しくなります!余り構えずに、日々の中から生まれ出てくる感情を素直に受け止めてゆきたいと思っています。そんな自由な想いから作ったオールショパン・プログラムを来年2月12日に銀座のヤマハホールにて弾かせていただきます。季節の移り変わりが早いポーランドのこと、その時まで気持ちも様々に変化すると思いますので、2月にどのような心境で楽器に向かっているのか自身でも楽しみにしています。

>>コンサート情報はこちら

No. 72014.11.04 既に晩秋のワルシャワより

皆さまこんにちは!先日夏時間が終わったワルシャワよりお送りします。留学していたとき、当初はこの夏時間の切り替えにいつもハラハラしていたことを思い出します・・・。終わる際は1時間時計の針を戻すので何だか得な気持ちになるのですが、3月末の夏時間が始まるその日に飛行機に乗ったことがありまして、目覚ましの時間を間違えないか何度も見返していました・・・!冬時間に戻ったことで日の入りの時間も早くなり、本格的な冬がもう目の前なのを実感します。数日前一時的に最高気温が1、2度ほどになって愕然としましたが今日は10度くらいあってほっと胸をなでおろしています。

実はワルシャワへ到着してからすぐに急遽演奏会が入りまして、ワルシャワから4時間ほどの
Antonin(アントニン)で弾いてまいりました。その名も「ショパンの命日記念演奏会」。このAntoninという場所にはポーランドの貴族、ラジヴィウ公爵の狩猟の館があり、自身でもチェロを演奏し作曲までしていた音楽を愛する公爵に招かれショパンが滞在したことで知られています。ピアノ三重奏曲ト短調は紛れもなく公爵に捧げられたもので、こちらに滞在中共演をしたそうです。この館、吹き抜けになっていて一階部分は広いサロンとレストラン、それより上はホテルとして滞在できるようになっていますが、まさにこちらに宿泊し、そしてサロンで演奏を致しました。周りが森になっているために空気のきれいなこと・・・!そして近くには大きな湖もあって、17時からの演奏会の前は散歩をして楽しみました。こんな過ごし方ができるのもAntoninならでは!急遽決まった演奏会でしたのであまり準備の時間が取れなかったのですが、久々にポーランドの温かいお客さまに囲まれて(ピアノの周りにお席があるので本当に「囲まれて」いました!)へ短調バラード、そして英雄ポロネーズなどを演奏していると、自然と顔がほころんでゆくのが分かりました・・・。またしてもそんなご縁をくださったショパンの音楽に感謝、感謝です。

鉄でできた演奏会の壮大な?ポスター

鉄でできた演奏会の壮大な?ポスター

久しぶりにポーランドへ戻った私ですが、この地の洗礼も再び・・・(笑)まずスーパーのレジが全く進まない!15人ほども並んでいるのにレジのおばさまはゆっくりゆっくり・・・途中でレシートの紙が終わるとそのままどこかへ消えてしまい、待っている人同士顔を合わせて苦笑い・・・。5分後やっと戻ってきたと思ったら今度は隣のレジの人と世間話を始められました(笑)そんなこんなで結局会計までに
40分も!日本ならば多くのところはきっとものの数分でさばいてしまいそうです。ポーランド在住の方が仰っているのを聞いたのですが、「個々のポーランド人はすごく人が良いのだけど、組織になると急に非効率的になる」と・・・確かにあるかもしれませんね・・・。ただ面白いのが、誰かが割り込みをしようとすると自分の前か後ろかは関係なく必ずどなたかが注意してくださるのです。自由に生きているように見えてこういった必要なマナーには厳しく、何度も救われたことがあります。国民性というのは本当に興味深いですよね!また日々の出来事、こちらで随時お伝えしていきます。

ワジェンキ公園のショパン像。いつ見ても趣があります。

ワジェンキ公園のショパン像。いつ見ても趣があります。

No. 62014.10.15 黄金の秋、黄金のワルシャワ

今ワルシャワへ向かう飛行機の中でこちらの原稿を書いています。予報ではまだ日中20度近くまで気温が上がるそうですが、さて現地はどうでしょうか・・・!?

10月17日はショパンの命日。最晩年はマズルカなどの規模の小さな作品しか残しませんでしたが、絶筆と言われているヘ短調のマズルカのほぼ無調とも言える神秘的な和声には本当に驚かされます。転調を続けた先に待っているイ長調の部分ではふるさとのマズルカの足音が微かに聞こえるよう・・・でも2回繰り返されるとヘ短調に戻って同じ旋律を物悲しく奏でます。作品34のイ短調のワルツにも出てきますが、長調のモティーフをそのまま短調で繰り返す手法は本当に涙を誘いますよね・・・。このように最期の最期まで人の心を惹きつける作品を残したショパンはやはり特別な存在と言わざるを得ません。生誕日も命日も、いつもショパンに対してありがとう、という気持ちになります。(ちなみに生誕日は3月1日と2月22日、2つの説がありますが、ポーランドでは2月22日と思っている方が多い印象です)

命日の前ですのでショパンの晩年の作品のことが頭に浮かびます。最後の大作といえばロ短調ソナタ、舟歌、ポロネーズ幻想曲、そしてチェロソナタ。最後の力を振り絞るがごとく書き上げた奇跡のような作品の数々ですが、作曲した張本人でさえその真価にまだ確信が持てなかったようです。チェロソナタについては「自身で弾いてみるのですがある時はこの作品に満足し、ある時は不満なのです」と言っていますし、ポロネーズ幻想曲に至ってはその曲名について作曲した直後は「まだ題の決まっていない曲」と、どう名付けて良いか迷っていた様子が伺えます。(日本語では「幻想ポロネーズ」と訳されることが多いですが、幻想的なポロネーズ、という意味ではなく、はっきり「ポロネーズ − 幻想曲」と2つの異なる題を並列しています。つまりこの作品はポロネーズでもあり幻想曲でもあるのですね・・・)

チェロソナタには作品番号65が与えられていますが、ショパンが自身で出版を許可した最後の作品、文字通り彼の白鳥の歌となりました。あまりに独創的過ぎたために特に難解な第1楽章は生前人前で演奏されなかったという逸話も残っていますが、それも頷けるほど自在な転調に彩られた中身の濃い作品です。ショパン音楽院で学んでいた時に室内楽の教授が仰っていたお言葉を今でも忘れることができないのですが、それは

「ショパンはこのチェロソナタを生み出すために生を受けたに違いない」

というものでした・・・。ショパンコンクールでは予選で変ロ短調ソナタかロ短調ソナタを選んで演奏することになっていますが、その選択肢にチェロソナタも入れるべきだ、とも熱弁していらっしゃいました。確かにこの作品に込められたエネルギーと美しさは凄まじく、そして特殊とも言える作品だと感じます。それは殆どピアノ曲しか書かなかった彼の数少ない室内楽曲であること、そして例えばアンダンテ・スピアナートと大ポロネーズのようにピアノパートのみでも十分成立する作品とは違い、チェロパートとピアノパートが分かち難く結びついている珍しい形式だという点が大きいと思います。ピアノパートだけだと空虚で、書き忘れとも思えるような和音なのですが、チェロパートに目を向けるときちんとその足りない音を補っているのです・・・。まさにショパンがピアノとチェロの音色の親和性を感じていた証と言えそうです。ラフマニノフが変ロ短調のピアノソナタを、そしてト短調のチェロソナタを書いたことにもショパンの影響が少なからず感じられます。

命日を迎えるにあたって、これらの晩年の作品の楽譜を今一度ゆっくり眺めてみたく思います。演奏しても楽譜を眺めても美しいショパンならではの楽しみです・・・!

No. 52014.10.02 音楽が引き寄せてくれる「出逢い」

先月は素晴らしい方々とのたくさんの出逢いがありました。日頃ピアノに携わっていますと演奏中ステージでは一人のことが多く、また他の楽器の方だけでなくピアノの方との交流もなかなか機会がなくて寂しく感じることがあるのですが、どちらの方々とも新しいご縁ができて本当に楽しい時間を過ごしました。管楽器や弦楽器、打楽器とピアノ以外の楽器はたくさんありますが、お話を聞いていて他の楽器の構造や音の出し方もこんなに知らないことがあるんだ、と驚きの連続・・・でも皆に共通するのは音楽が大好きだということ!その言葉さえあれば、楽器を演奏する人、しない人問わずいつでもどこでもあらゆる人と繋がることができると思っています。

思えばポーランドで勉強をしよう、と思い立ったのも本当に偶然の出来事でした。当時そろそろ初めての夏期講習を受けてみようかな、と何気なく雑誌をめくっていて見つけたワルシャワのショパン音楽院の夏期講習のお知らせ。実を言いますと・・・お世話になる先生が一番大切と思っていて場所はどちらでも良いと思っていましたので、この時の出会い次第では他の国に行っていたかもしれません。ショパンはもともと大好きなのでポーランドへは一度行ってみたいと思っていました。
そして得たご縁・・・音楽院に張り出された一言もわからないポーランド語のチラシに怖気つつも、その空気に触れて一気に好きになりました。例えば・・・

街を歩く人々が自然体で伸び伸びとしている
(夏だったので特に!冬伸び伸びしていたら間違いなく凍ります)

通りにその時期の旬の果物や野菜がカゴいっぱいに入って売られている
(数週間で消えてしまうので本当に限られた時期だけの楽しみです)

乳製品の種類が豊富で美味しい
(バターもヨーグルトも、普通のお店で買っても何故か信じられないくらい美味しいのです)

首都ワルシャワでも公園が多くて緑が豊か
(皆さんいつも思い思いに散歩を楽しんでいます)

初めはとっつきにくい印象でも一度仲良くなると本当に親切な人々
(この辺りは日本とよく似ています)

挙げていくとたくさんあって書き切れないのでこの辺りで・・・確かにヨーロッパの他の観光国に比べて娯楽や見所はあまり多くないかもしれませんが、何故か初めてなのに懐かしい感じがしたのです。そして現地に住んでみて、その何となく感じた印象は正しかったのだと思いました。今の時代、季節の食材などもほぼ一年中手に入るようになりましたが、旬のものはやはり一番美味しくて栄養価もある、ということなのでしょうか!ポーランドである食材がお店から消えるとこれでもう来年まで食べられないな、と寂しくなりますが、同時に入れ替わりの走りの食材を発見したりすると先ほどの寂しさは何処へやら、という状態に・・・。
(蛇足ですが・・・私が常々不思議に思っているのが日本で「秋はキノコの季節」と銘打って栽培キノコしか使わないレシピや料理をよく見ること・・・松茸などの天然のキノコはもちろん季節ものですが、栽培キノコは年中ありますよね・・・笑)
ポーランド人もキノコが大好きらしく、スープはもちろん肉料理のソースにしたりピクルスに仕立てたりして楽しんでいます。ちなみに・・・イタリアやフランスでも珍重されるポルチーニ茸、ヨーロッパで売られている9割はポーランド産だそうです!産地だけあってとてもお手頃なので、もし皆さまがポーランドのスーパーでボロヴィク(Borowik)という表示のキノコを見つけたらすぐに手に取ることをオススメします(笑)

ご縁の話から大分飛んでしまいました・・・!というわけで今月からまたポーランドへ戻ることができるのもまさしくご縁・・・皆さまにピアノをもっと楽しんでいただけるよう、自分自身も楽しみながら楽器に向かいたいと思います。

新潟の演奏会。素晴らしい方々との出逢いに感謝・・・。

新潟の演奏会。素晴らしい方々との出逢いに感謝・・・。

No. 42014.09.16 ヘ短調ワルツを思い浮かべながら・・・

秋冬はショパンの季節・・・ポーランドの家の中の温もりと同じように、疲れた心身を温めてくれる、そんな作品の数々・・・。

近頃急に秋めいてきたように感じられます。
例年は9月はまだ夏の名残を感じられたと思うのですが、今日空を見上げると、もはや入道雲ではなくうろこ雲が広がっていました。あれほど猛暑はもうたくさん、と思っていたのが嘘のように寂しささえ覚えます。お世話になっていた冷房にもそろそろ一休みしていただきましょうか・・・!?
日本では当然のごとく冷房が完備されていますが、ワルシャワでは大部分の家にはそれがありません。日本ほど蒸し暑くなるのは稀とはいえ、音が漏れるので窓を締め切らなければならず、扇風機だけで汗を流しながら練習するのはなかなかつらいものがありました・・・(笑)
反対に冬は寒波がやってくるとワルシャワでもマイナス30度近くなることもあり、セントラルヒーティングはどこも完備されています・・・と言いますか、なければ凍死してしまいます!きっと北海道など北日本にお住まいの方は良くご存知だと思うのですが、この暖房が素晴らしいのは、室内だけでなく例えばアパートやマンションでも一歩建物に入っただけで既に廊下が暖かいのですよね。ポーランドの寒さを見くびっていた私は、当初現地の方からすると考えられないような薄い格好で極寒の外を歩こうとしていたのですが、ポーランドの友人から一言

「帽子を被らないと頭の血管が切れるよ」

と・・・。はじめ真意が理解できなかったのですが、つまり暖房の効いている室内と極寒の外では温度差があり過ぎて、急激に血管が伸縮、収縮を起こすのだそうです。確かに街を歩くみなさん、分厚い帽子を耳が隠れるまでかぶっていらっしゃいましたっけ・・・。ファッションというよりも命を守るためだったのですね(!!)
そんなポーランド人が 日本の方が寒く感じる、と口にした時は本当に驚きました。きっと一部を除いて日本では寒くなると手動で暖房を入れているために、常時暖かい室内で冬を過ごしている彼らにはそちらのほうが身にこたえたのかもしれません。

ただ寒い地ならではの楽しみもあります!ワルシャワの冬は気温が低い上に毎日どんよりした空のことが多く、気持ちも滅入ってしまいがちなのですが、そんな時こそ皆で集まってパーティーをします。しかもレストランやバーで、ではなくほぼ誰かの家に大勢集まって楽しく過ごすことが定番。室内では半袖で過ごせるほど暖かいので、誰もが嬉々として大騒ぎ!ちなみにポーランドの友人に和食で特に喜ばれたのが何と海老の天ぷら・・・。反対に苦手な方が何人かいたのが意外にも豆腐でした。日本人からするとあっさりしていてクセがないと思いがちですが、大豆の風味は食べ慣れないとちょっと特殊に感じるのだそうです。でも和気あいあいと過ごす時間は本当に楽しいですね!

涼しくなったので何故か季節を通り越して冬の話題にいってしまいました。 ポーランドで必見なのが 「黄金の秋」と呼ばれるこれからの季節。木々の葉が一気に黄色くなるその光景は言葉にできないほど美しいです。秋というと思い浮かべるのがショパンの遺作のヘ短調ワルツOp.70-2。ショパンの生前は出版されなかった小さいワルツですが、そのショパン特有の深みのある調べからは秋色を感じてやみません。秋は数週間で終わってしまうために、例えば私は風邪で幾日か寝込んだ後、治って外に出ると葉がすっかり落ちて冬になっていた、という悲しい体験もしましたが、これからワルシャワにお出かけになる方はショパンの像のあるワジェンキ公園をゆっくり散策して、その帰りには体の温まる種類豊富なスープを楽しまれてはいかがでしょうか?素朴だけれど味わい深い体験が出来るはずです・・・!

No. 32014.09.01 日本人とショパン

さて、そろそろ「ピアノ」ダイアリーらしい(!?)話題をお届けしたいと思います。
私がポーランドの方から最もよく受けた質問が

「何故日本人はこんなにもショパンが好きなのか」

というものでした。実は私ははじめこの質問自体に驚いていて、ショパンは世界中で愛奏、愛聴されていると信じて疑わなかったのです。もちろんピアノに携わっているならばショパンを知らない人はまずいないだろうと思いますが、他の国ではどうやらこんなに熱心ではないようなのです・・・。
2010年は生誕200年ということで日本は大変な盛り上がりでしたが、あるアメリカの知人に聞いたところ、「そういえばそうだったかな」くらいの認識しかないという答えでびっくりしたのを覚えています。
そのくらい日本での愛され方は本家本元のポーランドからみても特殊だったのですね!

私はこの質問を受ける度にどのように答えたら良いか悩みました。 確かに幾つかの作品には東洋音楽のような響きを持つ旋律が出てきたりしますが、ドビュッシーの「塔」のように意図的に具現化したとは考えられませんし、まずショパンの存在自体が謎だらけなのです。突然変異と言っても良いかもしれません。
ポーランドという当時の音楽の中心地とは離れた国に生まれ、既に学生時代に師エルスネルから「驚くべき才能、音楽の天才」と評されたショパン。作風を刻々と変化させる作曲家が多い中、基本的な音楽語法は既に10代で確立、亡くなるまで変わることがないどころか最晩年の作品では逆に若い頃を思い出しているかのよう。そして何よりオペラや交響曲が書けないと一流とはみなされなかった当時の風潮などどこ吹く風でここまでピアノ曲ばかりを作った作曲家は他に例がなく、きっともの凄い信念の持ち主(言い換えれば頑固!?)だったに違いありません。「別れの曲」も「雨だれ」も「革命」も、付けようと思えばいくらでもタイトルが付けられるほどのキャッチーな作品を書きながら、自身は練習曲、前奏曲といったある意味では無機質な題しか残していないことも、殊に同時代のシューマンとは正反対です。

そのシューマンはショパンの音楽を「花に包み隠された大砲」と評しましたが、まさに本質を言い当てていると感じます。とにかく自分をさらけ出しているようで隠しているのですよね・・・。ちょっとした和音の濁りや旋律の違いに色々な心情を散りばめていますがよく注意しないと見落としてしまうものばかりで、何だか「分かってくれる人にだけ気付いてもらえれば良いです」と言われているようで背筋が凍るようです・・・。

リストもショパンを尊敬している一人でした。 幻想ポロネーズについて「この痛ましい幻影は芸術の域を超えている」と言ったそうですが、私はとかく否定的な意味に捉えられやすいこのリストの発言こそ、本当にショパンの音楽を理解していた彼ならではの言葉だと感じています。葬送ソナタの終楽章もそうなのですが、これら得体の知れない音楽は実態のない魂まで表現してしまっているのでは、と・・・。やはり大作曲家同士通じ合うものがあるのかもしれませんね・・・。

このように当時から議論を巻き起こしてきたショパンの作品ですが、最近どうして日本人がショパン好きなのか何となく見えてきた気がします。こう言ってしまうと身も蓋もないのですが、やはり「感覚が合う」という漠然としたものではないでしょうか・・・。ショパンの音楽に全く違和感がなく、なぜ好きなのか疑問を感じたこともない・・・これこそが答えなのかもしれません。ポーランドでは当然のことながらショパンを誇りに思っている方が多く、そんな彼の作品を愛している日本という国を私たちが思うよりもっと大切に捉えています。ショパンも自分の音楽が両国の架け橋になるなんて当時は思いもしなかったでしょう。もしショパンがまだ生きていて来日することがあったなら、ぜひ感想を聞いてみたいものです・・・!

ワルシャワの王宮広場。こちらも大戦後復元されたとは信じられません。

ワルシャワの王宮広場。こちらも大戦後復元されたとは信じられません。

No. 22014.08.19 季節を想う

お盆が終わり季節は秋へと移り始め・・・・・・、と言うにはまだまだ暑い日々が続きますが皆さまいかがお過ごしですか?
近頃は10月で真夏日を記録したり、12月が紅葉の真っ只中だったりしますが、それでもその季節の食材が店に並び始めると日本には四季があることを実感します。群青、萌黄、山吹と日本には美しい色彩の名前が沢山ありますが、きっとこの豊かな四季がなかったら生まれなかった言葉ばかり・・・音楽、自然、食事、言葉、どれも別々に存在しているようで実は分かち難く結びついていますよね。
同じ「夏」の音楽でも作曲家や演奏家の育った、暮らした国によって微妙に表情が異なるのが興味深いところです!

毎年11月1日はポーランドの祝日で、万聖節(Wszystkich Świętych)と呼ばれる日本のお盆に当たる日です。元々ポーランドの墓地は緑が多く清々しい感じがして、無心で穏やかに歩くことができるような場所なのですが、この日は数え切れないほどのろうそくに火が灯され、夜になると寒さを忘れて思わず見入ってしまいます。
そして少しまだ気が早いですが、忘れられないのがクリスマス(Boże Narodzenie)。あの温かい雰囲気はやはりカトリックの国、ポーランドならではでしょうか・・・?何度かあるご家族のお宅に招いていただいたことがあるのですが、明かりを控えめにしてろうそくの柔らかい火を感じながらいただくご馳走は、心に沁み渡るようでした。驚いたのが、必ず一人分多く食器と食事が用意されること・・・身寄りのない人が訪ねてきても食べてもらえるように・・・。ショパンのロ短調スケルツォは、踏みつけられた人々の苦しみや絶叫を表しているような胸が締めつけられる作品ですが、そのトリオに使われている安らかなクリスマスキャロルの旋律、実はまだ歌われ続けていて、実際にツリーを囲んで皆で口ずさみました。ショパンもクリスマスをこのように過ごしたのでしょうか・・・?
・・・というようにポーランドの方も日本と同じく季節を大切にしていらっしゃいます。まだまだ暑い中、少し涼しさを感じていただけたでしょうか!?

そしてもう一つ!信州の名勝「雷滝」を訪ねてきました。身近なところにありながら実は初めてだったのですが、その圧倒的な水量といったら・・・!!
別名「うらみの滝」というそうですが、あまりの迫力に「え・・・恨みの滝・・・!?」と勘違い・・・(笑) このような自然を目の当たりにすると、日本に生まれて本当に良かったと心から思います。

本当は「裏見の滝」。何と滝が流れ落ちる姿を真裏から見ることが出来ます!

本当は「裏見の滝」。何と滝が流れ落ちる姿を真裏から見ることが出来ます!

No. 12014.08.01 波蘭

皆さまこんにちは、山本貴志です。いよいよ夏本番、いかがお過ごしでしょうか…?これから暫くの間、こちらの連載を担当することになりました。どうぞよろしくお願い致します!

「Kraj kwitnących wiśni ~桜の花咲く国 ~」。ポーランドでは日本のことをこう表現します。ワルシャワでの学生時代、演奏会開演前にこの美しい表現で私を紹介していただいた時のことは今も忘れません。
最近日本でも親日国ということでポーランドが広く紹介されるようになりました。以前はポルトガルと間違えられることもあったり(「ポ」しか共通点がありませんよね!?)寂しい思いをしていたのが嘘のようです。もちろんショパンは欠かせませんが、彼だけではない、ポーランドの素晴らしさはたくさんあります(今回の題の「波蘭」とは日本語で「ポーランド」を意味します)。 そしてまたポーランドが日本を憧れをもって表現したように、外から見て初めて分かる、今まで気付かなかった日本の素晴らしさもいくつもあると思います。

ご縁があって今秋から再びワルシャワに住むことになりました。音楽はもちろん、季節の移ろいや食事に至るまで私が感じた両国の素晴らしさをこれから皆さまにお伝えしてゆきたいと思います。

どちらも大好きな日本のお椀とポーランドのコンソメスープ…!

どちらも大好きな日本のお椀とポーランドのコンソメスープ…!

Profile:山本 貴志 Takashi Yamamoto

ピアニスト
1983年長野県生まれ。5歳でピアノを始め、97年第12回長野県ピアノコンクールでグランプリ受賞。98年第52回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部で第3位入賞。2001年には第70回日本音楽コンクール第3位。02年、桐朋女子高等学校音楽科を首席で卒業後、ソリストディプロマコースに在籍。03年より5年間、ワルシャワ・ショパン音楽アカデミーに在学。 04年第56回プラハの春国際音楽コンクール第3位入賞及び最年少ファイナリストに贈られる“ヴァレンティーナ・カメニコヴァー”特別賞を受賞。第6回パデレフスキ国際ピアノコンクール第5位。04年度文化庁新進芸術家海外留学研修員。05年、第4回ザイラー国際ピアノコンクールにおいて満場一致で優勝およびショパン作品最優秀演奏賞受賞。同年、第15回ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞。アメリカ・ソルトレークシティでの第14回ジーナ・バッカウアー国際ピアノ・コンクール第2位入賞。第33回日本ショパン協会賞を受賞。08年、ショパン音楽アカデミーを首席で卒業し、代表としてワルシャワ・フィルと共演。これまでに大島正泰、玉置善己、ピオトル・パレチニの各氏に師事。現在はリサイタル、室内楽、コンチェルトなどを精力的に行っている。avex-CLASSICS よりショパン:ワルツ集とノクターン集をリリースするなど、今もっとも期待される若手ピアニストのひとりである。今秋よりポーランドに在住。

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