【導入事例】メズム東京、オートグラフ コレクション 様 / ホテル・レストラン / 東京

Japan/Tokyo Jan.2021

東京湾ウォーターフロントに位置する竹芝地区に、2020年4月、日本ホテル株式会社と世界最大のホテルチェーン、マリオット・インターナショナルが初提携して誕生した、新たなラグジュアリーホテル「メズム東京、オートグラフ コレクション」が開業しました。

全く新しいホテルブランドの開業に際し、シグナルプロセッサー「MRX7-D」、スピーカーシステム「VXL1-16」「VXL1-8」、シーリングスピーカー「VXC4」、パワーアンプ「XMV8280-D」などヤマハの音響システムが導入されました。その選定理由や使い勝手などについて、メズム東京総支配人 生沼 久氏、音響システムの設計・設置を担当した有限会社アステック 代表取締役 東 伸司氏、同社の石黒 栄一氏にお話をうかがいました。

(中央)メズム東京、オートグラフ コレクション 総支配人 生沼 久氏
(右)有限会社アステック 代表取締役 東 伸司氏
(左)同社 石黒 栄一氏

五感を魅了(メズマライズ)するホテル

最初にホテル「メズム東京」について教えていただけますか。

生沼氏:
メズムというホテルの名前は「メズマライジング」という言葉に由来しています。これは魔法をかける、魅了するといった意味です。メズム東京は“TOKYO WAVES”というコンセプトを掲げており、これは東京の「今」の波長や躍動感と伝統を融合させることによって、お客さまの五感を魅了することを目指しています。

メズム東京、オートグラフ コレクション 総支配人 生沼 久氏

具体的にはどのようにしてゲストの五感を魅了するのですか。

生沼氏:
“TOKYO WAVES”というコンセプトには4つの柱があります。まず一つ目は「ロケーション」です。東京の都心でありながら眼前に浜離宮恩賜庭園と水辺が広がっていて自然が感じられますし、夜になると東京の摩天楼が織りなす煌びやかな景色を望むことができます。
二つ目が「おもてなし」です。メズム東京ではホテルクルーがお客さまに寄り添うために、宿泊や料飲の垣根を超えたさまざまなサービスをワンストップでかつシームレスに対応します。私たちはこのサービスチームを「スターサービス」と呼んでいるのですがこれは他のホテルにはない独自のサービススタイルです。
三つ目は「東京モード」です。ホテルの顔となるスターサービスクルーがまとうユニフォームはヨウジヤマモト 社 のブランド「Y's BANG ON!(ワイズ バングオン)」とコラボレーションしオリジナルに制作されたもので、性差や対格差にとらわれないジェンダーレスなデザインになっています。黒を基調としたユニフォームにモードなヘアメイクといった、いい意味でホテルマンらしくないかっこいいビジュアルを実現しました。
そして最後が「インスピレーション」です。レストラン「シェフズ・シアター」で生み出されるビストロノミースタイルのフレンチや、絵画をモチーフにしたカクテルやスイーツが楽しめるバー&ラウンジ「ウィスク」など、メズム東京では創造力が掻き立てられるような体験を提供しています。また、客室のアメニティや館内のアートワークは、日本のクラフトマンシップが感じられる企業やブランドとの積極的なコラボレーションによって生まれました。館内の音響機器も日本を代表する楽器・音響メーカーであるヤマハの高音質な音響機器を導入し、さらに音響設計のアステックさんともコラボしながら、ほかにはない高いクオリティの音楽体験を追求しています。
五感を魅了するという表現は様々な施設が使っていますが、魅了する先に新たな発見や気づきがあり、お客さまの人生に変化が訪れ、人生が少し豊かになる、そんなホテルでありたいと思っています。

眼前に浜離宮恩賜庭園と水辺が広がる唯一無二のロケーション
メズム東京エントランス
スイートルームからの眺望

ゲストにインスピレーションを与える、とは具体的にはどんなことなのでしょうか。

生沼氏:
例えば最近Twitterで拝見したのですが、あるDJの方が当ホテルに宿泊され、その時クラブラウンジでかっこいい曲がかかっていて、それにインスパイアされたので今度自分のDJプレイに取り込もうと思っています、といったことが書かれていました。音楽にしても、ただいい雰囲気を出すだけでなく、この音はいいね、とか、この曲いいな、って聴く人のイマジネーションを刺激する、ひいてはゲストのライフスタイルにいい影響を与えるような体験を提供したいと思っています。

BGMではなくFGM(フォアグラウンドミュージック)

生沼さんは、「五感」の中でも特に音について、どんな空間をイメージされていたのでしょうか?

生沼氏:
私は音楽をやっていたこともあるので、音にはこだわりがあります。館内で流す音楽も、メズム東京ではBGMではなくFGM、フォアグラウンドミュージックと言っています。通常はバックグラウンドですよね、でも僕は音楽をちゃんと楽しんでもらいたい、フォアグラウンドでいきたい。
また、ホテルのそれぞれの場所によって選曲を変えたい、しかも時間帯やシチュエーション、人の動きに合わせてシーンを作りたい。あとはゾーニングで切り分けて、お客さまに音がちゃんとついてくるようにしてほしい。そんな熱い想いを東さんにぶつけました。

東氏:
お話を受け、音響設計の前にまずは生沼さんのイメージする音空間の感覚について具体化する必要がありました。それで生沼総支配人と音楽をプロデュースされている方と3人でミーティングをし、どんなことが求められているのかを確認しました。
具体的なソリューションとしてはホテルを機能ごとにゾーニングし、それぞれ違う曲を流す、そして時間帯によって曲調が変わり、それに伴って音量や音質も変わります。たとえばバー&ラウンジでは朝と昼は軽めの音質ですが、夜になると低音を加えて音量も少し大きくなります。さらに同じゾーン内でも場所によって天上高が違うのでスピーカーから耳の高さまでの距離が変わります。その距離の補正も細かく調整しています。

有限会社アステック 代表取締役 東伸司氏

ゾーンとしてはどのくらいの数があるのですか。

東氏:
パブリックエリア、レストラン、クラブラウンジ、さらにフィットネスの4ゾーンです。ただパブリックエリアはエントランスやロビー、レセプションデスク、バー&ラウンジ、エレベーター内まで含まれるので場所としては非常に多いです。

生沼氏:
1階のエントランスからエレベーター、ロビーやレセプション、バー&ラウンジ、そして電話の保留音までもがパブリックエリアで流している音楽を使っていて、もちろん音量も全部場所ごとに調整してもらっています。例えばレセプションデスクでは、チェックインの時にゲストとクルーが会話がしやすいように音量を少し絞るなどしています。

バー&ラウンジ「ウィスク」
レストラン「シェフズ・シアター」
クラブラウンジ「クラブメズム」

シグナルプロセッサー「MRX7-D」でホテル全館を一括管理

ここからは具体的な音響システムと機種選定についてお話を聞かせてください。これだけ複雑なゾーニングや個々の音質補正などがあるとプロセッサーは必要ですよね。

東氏:
当然プロセッサーありき、Danteによるデジタル伝送ありき、のシステム構築となります。その中枢を担うプロセッサーにヤマハの「MRX7-D」を選定した理由は、プログラムの処理能力の高さ、高音質、Dante対応、そして操作パネルなどコントローラーの選択肢が多いことなどです。
基本的に1台の「MRX7-D」でプロセッシングをしています。かなり複雑なシステムですから、複数の機器を組み合わせて負荷を分散させる考え方もありますが、システムが複雑になるとトラブルの確率も高まりますし、操作性も複雑になります。そこで、今回は処理能力が高くトラブルが少ないヤマハの「MRX7-D」に集約した方がベターだと考えました。

とはいえ4つのゾーンで別の曲の再生、別の音量設定、音質補正、スピーカーごとの細かい音質補正や距離補正、さらに時間ごとの切り換えまでを含めた処理など複雑なシステムになりますね。

石黒氏:
苦労しました(笑)。最初に要望を伺って1系統ずつすべてプログラムしていったら、さすがに処理能力を超えてしまったので、プロセッシングの実効性は保ちながら負荷を減らしていって最終的に1台の「MRX7-D」で処理を完結させました。万が一トラブルが発生しても、ハードウェアのトラブルでなければ電源を一回切って再起動すれば自動的に復旧するように設定してあります。

音響ラック架に収納された「MRX7-D」。この1台で館内の音響システムを一括管理している
館内のスピーカーを駆動するDante対応のパワーアンプ「XMV8280-D」
有限会社アステック 石黒 栄一氏

ロビーにはインテリアにフィットする「VXLシリーズ」、レストランでは指向角の広い「VXCシリーズ」を導入

スピーカーについてですが、ロビーではコンパクトなラインアレイのスピーカーシステム「VXL1B-16」「VXL1B-8」を導入いただきました。その選定理由について教えてください。

東氏:
メズム東京のようにラグジュアリーな空間では室内デザインを損なわないことが前提です。ですからロビーでは最もコンパクトなバータイプの「VXL1B-16」「VXL1B-8」をできるだけ目立たないように工夫して設置しました。特に天井が低い場所ではスピーカーが視界に入ってしまうので、天井に埋め込む形で設置しています。ロビーでは「VXL1B-16」を6台、そして「VXL1B-8」をレセプションカウンターに1台設置しています。

レセプションデスク。天井の照明が設置されている黒い縦長の開口部にスピーカーも格納されている
レセプションカウンター天井の「VXL1B-8」
ロビーの天井に設置された「VXL1B-16」

ロビー、バー&ラウンジとレストランは同じフロアにあり、しかも壁などの区切りがないオープンなスペースです。それぞれに違った音楽を流すとなるとゾーニングは難しくなかったですか。

東氏:
これが大変でした。「VXL1B-16」はラインアレイなのであらかじめ指向角と直接音がきちんと計算できるのですが、建物の2次反射に関しては正確な計算はできません。しかもFGMというコンセプトで、とにかく音は出す、ということだったので実際に設営して音を聴くまで胃が痛かったです。数値上では大丈夫でも、人間の耳って繊細な部分があるので、違う曲が混ざった時の不協和音はものすごく不快に感じるんです。ですから、最終的には開業前の試泊で石黒と耳でチェックして最終調整を行ってパラメーターを決めました。

レストランではシーリングスピーカー「VXC4」を採用いただきました。

東氏:
レストランは吹き抜けのロビーとは違い天上高があまりないので、指向角が広くて音圧差が少ない、なるべく均一な音量が得られるシーリングスピーカー「VXC4」を選択しました。

石黒氏:
また、お客さまの会話の妨げにならないように、プロセッサーの設定としては人の声の帯域である800Hz~1.2kHzあたりをEQ(イコライザー)でカットしつつ全体的の音質補正を行っています。

生沼氏:
さきほど話があったロビーとレストランの切り分けですが、お客さまの動線ってロビーからレストランのオープンキッチン側に入ってからテーブルに着くんです。その導線に沿って歩くと音楽が自然と切り替わって、着席すると完全にレストランの音楽しか聴こえなくなるんです。これはすごい技術だと思います。

レストラン(手前)とパブリックエリア(奥)はオープンスペースで区切りのない作り。それぞれ別の音源が再生されている
レストランに設置された「VXC4W」はオープンキッチンのノイズをカバーするためキッチン側にオフセットされている
天井に設置されたシーリングスピーカー「VXC4W」

25階のクラブラウンジのバルコニーではラインアレイスピーカー「VXL1W-8」を、フィットネスではサーフェスマウントスピーカー「VXS5」を導入

25階のクラブラウンジでは「VXL1W-8」を導入いただきました。その選定理由を教えてください。

生沼氏:
浜離宮恩賜庭園を一望できるバルコニーでヤマハのスピーカーを使っています。ここはルーフトップバー的な屋外空間です。

東氏:
バルコニーでは「VXL1W-8」を天井から縦に吊り下げています。ここは内側が室内ラウンジなので、後ろ側に大きな音は出したくない、でもバルコニーでは端まで同じように音が聴こえたい、というなかなか厳しい要望がありました。しかもクラブラウンジは地上25階です。風が結構すごいんですよ。風があるとスピーカーって音量を上げてもなかなか届かないんです。吹かれてしまって。ここでもいろんなスピーカーを検討しましたが、結局「VXL1W-8」がラインアレイ構造で指向性が強く、音がしっかり飛ぶのでセレクトしました。ただし海沿いのバルコニーでの設置なので雨風の対策や塩害対策は十分施してあります。

25階にあるクラブラウンジ「クラブメズム」の開放的なバルコニー
バルコニーに設置された「VXL1W-8」には風雨対策、塩害対策が施された

フィットネスにはサーフェスマウントスピーカー「VXS5」を導入いただきました。

東氏:
今までご紹介してきたスピーカーは、基本的にインテリアにフィットして存在感が出ないように注意を払って設置したものですが、フィットネスはEDMなどをかけながら運動するスペースですから、逆にスピーカーが見えた方がフィットネススタジオ感が出ると考え、あえて吊り下げ型の「VXS5」を選びました。ジムのロビーにはシーリングスピーカー「VXC4W」も入っています。

パワードスピーカー「DXR15mkII」も導入いただいています。これは主にイベント用途の移動用PAでしょうか。

生沼氏:
はい。マイクを使うイベントのための移動用PA機器としての導入です。今、メズム東京のロビーでは音楽ライブをはじめとしたパフォーマンスが楽しめる無料イベント「ショーケース」を毎日開催しています。さまざまなアーティストの方にご出演いただいているのですが、その演出などで使っています。

16階ロビーでは音楽ライブをはじめとしたパフォーマンスが楽しめる無料イベント「ショーケース」が毎晩開催されている

東氏:
イベント用PA機器としてパワードスピーカー「DXR15mkII」を選んだのは、音質の良さとサービスエリアが絞れることです。屋外PAではないので音量はさほど必要なわけではなく、むしろ音を絞った状況でのサービスエリアのコントロールが重要でした。

ツマミとスイッチ、またはiPadのタッチパネルで簡単に操作できるコントローラーを用意

ヤマハの機器の操作性についてはいかがでしょうか。

石黒氏:
今までご説明したようにメズム東京の音響システムは非常に大がかりで複雑なのですが、ほとんどの動作はプロセッサーで自動化してあります、具体的にはスケジュール機能によって自動的に音量や音質の切り換えが動作します。ですから日常的に触る部分はツマミとスイッチのコントロールパネルで十分ですし、もしもう少し触りたいという場合はタッチパネルでシステムを手動で操作いただけるようにしてあります。また、ロビーではiPadのアプリ「ProVisionaire Touch」で遠隔操作することもできます。

生沼氏:
アステックさんには基本的には触らなくてもいいように設定してもらったので、オペレーションは非常に助かっています。いまホテルクルーがやっているのはイベント時に音をオフにするぐらいです。

クラブラウンジ「クラブメズム」の壁面に設置されたウォールマウントコントローラー「MCP1」
バックヤードの音響ラックに設置されたデジタルコントロールパネル「DCP4V4S」と「DCP1V4S」
各ゾーンの音源・音量は専用にカスタマイズされたiPadアプリ「ProVisionaire Touch」で直感的に操作可能

24時間365日稼動するホテルの音響システムにおいてヤマハを選んでいただいた理由の一つに信頼性もあるのでしょうか。

東氏:
おっしゃるとおり、ホテルなどの施設では常に安定して音響が提供できるということが最も重要です。したがって安定性・耐久性は最も重視した要素でした。私が知る限りヤマハのプロセッサーの故障はほとんどありません。それもあってオールインワンでシステムが完結できる「MRX7-D」を導入しました。

ホテルの「音の良さ」を、メズム東京でぜひ味わってほしい

2020年の4月にオープンして半年あまりですが、お客さまから音に関して反響はありましたか。

生沼氏:
ロビーなどでは音圧的には強いのにスピーカーが見えないので不思議なんでしょうね。「どこから鳴っているんですか」と尋ねられることはよくあります。音圧が高いのに全然嫌味じゃないのは、音をしっかり作りこんでいるからだと思います。

お仕事柄いろいろなホテルを見られていると思いますが、他のホテルと比べてメズム東京の音質はいかがですか?

生沼氏:
メズム東京の音響システムは私が知る限りでは最高です。今まで海外のホテルに行っても正直納得いかなかった、音楽が大きい音で鳴ってるけどやっぱりうるさいんですよね。楽しい気持ちにはなるんだけど、ずっといると疲れちゃう。でもここは疲れない。音量が大きくても音質がよければ疲れないし、楽しめるということがよくわかりました。

東氏:
私どもアステックは、今までブランドショップなどの音響システムは数多く手掛けてきましたが、ホテルでここまで音にこだわった音響システムは初めてです。これも生沼総支配人の熱い想いがあってこそでした。

最後にメズム東京を訪れるお客さまにメッセージをお願いします。

生沼氏:
今までも自分なりに「いい音」は追求していたんですよ。でも今回アステックさんに丁寧に作り上げてもらった音響システムで、ホテルでの「音質」の重要さを改めて認識しました。長年考えてきた「ホテルのいい音」がメズム東京でやっと実現したと思っています。この「音の良さ」を、ぜひ多くの人に体験してもらいたいと思います。

本日はご多忙の中、ありがとうございました。

mesm Tokyo, Autograph Collection <公式>
https://www.mesm.jp

有限会社アステック
http://astec-web.com/

製品情報
シグナルプロセッサー MRX7-D
ラインアレイスピーカー VXLシリーズ
シーリングスピーカー VXC4
サーフェスマウントスピーカー VXS5
パワードスピーカー DXR15mkII
パワーアンプリファイアー XMV8280-D
デジタルコントロールパネル DCP4V4S-USDCP1V4S-US
コントロールパネルソフトウェア ProVisionaire Touch