【導入事例】四季株式会社 様 JR東日本四季劇場[春] / 劇場 / 東京
Japan/Tokyo Mar.2021
東京・JR浜松町駅のほど近く、浜離宮恩賜庭園の隣に誕生した新しい街「WATERS takeshiba(ウォーターズ竹芝)」。その一角に、かつてそこにあった劇団四季の2つの劇場を引き継ぐJR東日本四季劇場[春][秋]が開館し、このたび[春]劇場にデジタルミキシングシステム「RIVAGE PM5」が導入されました。
導入の経緯や選定理由などについて、四季株式会社 技術部 一級舞台機構調整技能士 音響 千葉 治朗氏、同社 技術部 音響 中島 祐実氏、同社 技術部 音響 高見 麻帆氏にお話しをうかがいました。
ミュージカルで要求されるミキサーの条件とは
劇団四季は、今どのくらいの劇場で公演されているのでしょうか。
千葉氏:
東京に6劇場、そして大阪、名古屋、京都、福岡でも公演をしています。多いときは全国ツアー公演もあわせて12,13本ぐらいの公演が同時に動いています。
劇団四季ではアナログミキサー時代からずっとヤマハのミキサーを使っていただいていますね。
千葉氏:
僕は入団して35年ぐらいになりますが、最初に使ったのはヤマハのアナログミキサー「PM3000」でした。デジタルミキサーに変わってもずっとヤマハです。
ミュージカル公演でミキサーに要求されるのはどんなポイントでしょうか。
千葉氏:
まず出力数です。フロントLRがあり、プロセニアムスピーカーがあり、客席の後方やバルコニーに補助スピーカーがあり、効果音を出すウォールスピーカーがあります。さらに舞台の中や奥にもスピーカーがありますので、合計の出力はこの場合でも20系統ぐらいになります。そのため出力数は重要なポイントですね。
入力も通常のコンサートよりずっと多いですよね。
千葉氏:
はい。たとえば現在公演中の『The Bridge ~歌の架け橋~』は出演者が18名で、全員ワイヤレスマイクを使用します。さらにタップダンス用のマイク、ハンドマイクで歌うシーンもあるので、マイクはあわせて30本ぐらいになります。でもこれは四季のミュージカルでは少ないほうで、入力が多い演目だとワイヤレスマイクだけで40本近く使う時があります。また音源も今回はカラオケを使っていますが、生のバンドやオーケストラが入るとマイクが一気に増えます。フルオーケストラが入ると、オーケストラだけで150本ぐらいマイクを使いますから、出演者のワイヤレスを加えるとインプットは200本ぐらいになってしまいます。アナログミキサーの時代はそれこそミキサーを3つも4つも使いました。このように入力数が多い時に大切なのが「音が崩れないこと」なんですよ。
音が崩れない、とはどういうことでしょうか。
千葉氏:
音を足していくと音がどんどん濁ってくるんです。分離も悪くなりますし、位相ずれも起こります。これが音が崩れている状態です。逆に音が崩れないということは、個々の音があるべき所からクリアに聴こえる状態です。私たちがヤマハのミキサーを使い続けてきた理由の1つには、それもあります。
「RIVAGE PM5」はフェーダーのタッチが素晴らしい
今回[春]劇場に「RIVAGE PM5」が導入されました。その選定理由を教えてください。
千葉氏:
[秋]劇場では「RIVAGE PM10」が稼動していますが、[春]劇場では「RIVAGE PM5」を導入しました。選定理由の1つは軽量・コンパクトで可搬性、設置性に優れていることです。現在公演中の『The Bridge ~歌の架け橋~』はこの後ツアーに出る予定になっていて、「RIVAGE PM5」のコントロールサーフェスは「RIVAGE PM10」の約半分なので運搬を考えると大きなメリットです。
実際に「RIVAGE PM5」を使ってみてどんな点が良かったと思いますか。
千葉氏:
機能や使い勝手などはもちろん良いのですが、「RIVAGE PM5」のフェーダーのタッチってすごく滑らかなんですよ。これまでのヤマハ卓と比べても段違いで良いですね。
中島氏:
私もそう感じます。音がピタっと手にはまる感じがするんです。
高見氏:
私も初めて「RIVAGE PM5」のフェーダーを触った時は衝撃でした。柔らかい感じですごく手に馴染みます。
千葉氏:
フェーダーってオペレーターにとってすごく大事で、ちょっとの加減でニュアンスというか表現が変わるので。絶対こっちのほうがいいと思うよね。
高見氏:
もちろんそうです。
中島氏:
他のミキサーに戻りたくないくらいですね。
「RIVAGE PM5」のサーフェスをツーマンでオペレート
「RIVAGE PM5」の操作性についてはいかがでしょうか。
千葉氏:
私たちは通常ツーマンでオペレーションしています。これまでは「CL5」と「CL1」を並べていたのですが、「RIVAGE PM5」は1つのサーフェスを2~3分割して使えるので、サーフェス1台でツーマンオペレーションができます。今までツアーで卓2枚運んでいたところを1台の「RIVAGE PM5」だけで完結できれば機材も減りますし、PAブースのスペースも最小限に抑えられますので、これは大きなメリットですね。
この後のツアーは「RIVAGE PM5」、1台だけで行く予定ですか。
千葉氏:
はい。1台のサーフェスを2人で、左右に別れて使います。
操作上の戸惑いなどはありましたか。
千葉氏:
稽古場で使い始めたのが2020年11月の終わりぐらいなので、2~3ヶ月ぐらい使っていますが、特に戸惑いとかもなく使えています。みんな「CLシリーズ」を使っていたので操作性は近いのかなと思います。
ワイヤレスマイクチェック卓と配信卓にそれぞれ「CL1」を使用
「RIVAGE PM5」の横に「QL1」がありますが、これはどんな用途で使われているのですか。
千葉氏:
この「QL1」はエマージェンシー用の卓ですが、万一演者のワイヤレスマイクにトラブルが起きて音が出なくなったときに、予め録音してある音源を出すためのものです。ほとんど出番はないですけどね。
PAブース以外にもミキサーはあるのでしょうか。
千葉氏:
あります。1つは舞台袖にある「CL1」で、これは演者のワイヤレスマイクの稼動状況をモニターするものです。さらに裏手にはもう一台「CL1」があって、こちらは配信用のミックスを行っています。
配信用の音に関しては頭で完全に分けるのですか。
千葉氏:
頭で分けるケースもあるし、「RIVAGE PM5」のアウトがたくさんとれるのでPA卓からDanteで送ることもあります。Danteは同じソースを分けたり、アウトを分配したりするのがとても簡単で便利です。
「RIVAGE PM5」によりシーンごとのきめ細かな設定が可能に
今後やってみたいことを教えてください。
千葉氏:
「RIVAGE PM5」になってから、事細かにいろいろなパラメーターや設定などをシーン毎に記憶できるようになったので、以前より音を作り込めますし、音響に表現力が上がったと思います。たとえばリバーブのパラメーターもシーンごとに全部変えられますから、今後はさらに各シーンの音作りを突き詰めていきたいと思います。
今回の演目では何シーンぐらいあるのですか。
千葉氏:
今回のシーンは全部で60ぐらいですね。たとえば同じ俳優でも曲ごとにEQが違うんですよ。シーンによって歌いかたが変わりますし、メインボーカルの時とコーラスのときでもEQが変わります。これらを全部シーンに記憶させて切り換えていきます。
中島さんはいかがですか。
中島氏:
私は今までパーカッショニストと音源、というお芝居はやったことがありますが、完全に生オケでの仕事はしたことがないので、いつか「RIVAGE PM5」で生オケに挑戦したいと思います。
高見さんはいかがですか。
高見氏:
「RIVAGE PM5」は現在48kHzのDanteシステムで運用していますが、今は伴奏の音源も96kHzで録音し始めているので、いずれ96kHzのDanteシステムで運用することになると思います。どんな音になるのかとても楽しみです。
本日はお忙しい中ありがとうございました。
JR東日本四季劇場[春][秋]特設サイト|劇団四季
https://www.shiki.jp/theatres/shikitheatre/
『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』
https://www.shiki.jp/applause/bridge/
製品情報
デジタルミキシングシステム | RIVAGE PM5 |
デジタルミキシングコンソール | CL1、QL1 |
I/Oラック | Rio3224-D2、Rio1608-D2 |