【導入インタビュー】Gemini Sound Records株式会社 / 石井 輝雄 氏

Japan/Tokyo Jun.2022

昨今、コンサートの映像収録やライブ音源収録などにおけるレコーディングを専門とするライブレコーディングエンジニアは、パッケージメディアのみならず、コロナ禍で急激に増えた動画配信でも音声を扱うエキスパートとして活躍の場が増えています。

このたびライブレコーディングエンジニアの石井 輝雄 氏が代表を務めるGemini Sound Records株式会社にI/Oラック「RUio16-D」とプラグインホストソフトウェア「VST Rack Pro」が導入されました。その導入理由や使用感などについて、お話をうかがいました。


PAエンジニアに限りなく近いレコーディングエンジニア

石井さんはライブレコーディングエンジニアですが、通常のレコーディングエンジニアとはどんな点が違うのですか。

石井氏:
レコーディングエンジニアはレコーディングスタジオで録音しますが、ライブレコーディングエンジニアはライブ会場で録音するのが仕事です。そして最大の違いはスタジオレコーディングは納得いくまで何度もやり直せますが、ライブは録り直しがきかない、ということです。ですから「一発勝負」という意味ではPAエンジニアに近い精神状況です。やり方はいくつかありますが、例えば音声中継車の中で録音やミックス作業をします。また音声中継車がない場合はライブ会場にミックスを行うスペースを仮設で組むので、その意味でもPAっぽいと思います。

ただ、実際にやっていることはレコーディングであって、我々が録音した音は一般視聴者が家の中でフラットな気持ちで聴くものなので、ライブの熱をどこまで音で再現できるかが勝負どころだと思っています。

「一発勝負」な部分と、レコーディングエンジニアとしての緻密な部分の両方が求められるんですね。

石井氏:
そうなんです。それとライブレコーディングエンジニアが必ずやることとして、オーディエンスマイクでの集音があります。ライブ録音では音場感や客席の熱気を伝えるためにお客さんに向けて必ずマイクを立てますが、ホールごとに響きが違うので、どこにどんなマイクを立てるのか、そのあたりの知識や経験がものをいいます。その辺もライブレコーディングエンジニアとしては工夫しがいのあるところです。

安心感があるヤマハのVSTエフェクトとSteinbergの「RoomWorksSE」「Maximizer」などを多用

最近石井さんはライブレコーディングの現場に「RUio16-D」を持ち込んでくださっていると聞きました。

石井氏:
「RUio16-D」用のケースを自分で作って持ち込んでいます。今日も持って来ました。

石井氏が作製した専用ケース。「RUio16-D」がケーブル類とともに収められている

そこまで気に入ってくださって光栄です。どんな点が「RUio16-D」のメリットですか。

石井氏:
例えば現場で音を確認した後に急にエフェクトを追加したいときには、本来であれば、それに備えて現場に入る前にアウトボードを準備しておく必要がありますが、「RUio16-D」とパソコン1台を現場に持ち込んでおくことですぐにエフェクターを追加できるのは、かなり大きいです。

そして、常に移動を伴う仕事なので「軽い」ことは何より正義です。さらに昨今Danteで構築されているPAシステムが増えているため、ライブレコーディングシステムをDanteのネットワークに簡単に組み込めるところも大きいです。もともと「RUio16-D」が発表された時から仲間内で評判になっていました。というのも、類似製品はありましたが、我々の中ではヤマハさんの製品は品質に対する安心感が全然違うので、これはかなり良さそうだと。

石井さんが気に入っているプラグインホストソフトウェア「VST Rack Pro」内のプラグインを教えてください。

石井氏:
まずリバーブ系は多用しています。やっぱりヤマハのリバーブは今まで使ってきたから安心して使えますね。ヤマハのミキサーがなくとも「RUio16-D」があれば、別のミキサーでも使い慣れたヤマハのリバーブが使えます。一方でSteinbergのエフェクトには違う魅力があります。たとえば「RoomWorksSE」はとてもきれいなリバーブで、ボーカルなどによく使います。単独で使うより、ヤマハのリバーブと混ぜて使うことが多いですね。

VSTプラグイン「RoomWorksSE」

石井氏:
また配信では「Maximizer」が便利です。ミックスを使用する先によってはリファレンスレベルが違うことがありますし、YouTubeやインターネット配信ではより大きな出力レベルが必要となります。そんな時できるだけ大きくフルビットまでレベルを持ち上げるのに便利です。

プラグイン「Maximizer」

これらのエフェクトは実際にライブレコーディングで使われているのでしょうか。

石井氏:
レイテンシーの問題があるので用途次第ですが、生配信には向いていると思います。配信で使う時ならレイテンシーグループを組むのが結構ポイントじゃないかな。配信はお客さんに生音が聴こえないわけですからステージの生音とのレイテンシーは関係なくて、遅れるんだったら全部遅らせて揃えればいいんですね。レイテンシーが発生するんだったら発生していないものと揃えればいいんです。例えばレイテンシーを合わせたいものと、合わせなくていいものをそれぞれグルーピングする。1から8chにプラグインを挿すとすると、レイテンシーグループにそれを入れておいて、15ch、16chはマスターとしてグループに入れない、といった使い方ができます。

「レイテンシーグループ画面」

一発勝負のライブ配信やライブレコーディングでは
「RUio16-D」のBYPASSスイッチの存在は重要

「RUio16-D」のハードウェアとして気に入った点などあったら教えてください。

石井氏:
なんと言ってもBYPASSスイッチです。とにかく何かあったらすぐにバイパスできるのは、一発勝負では絶対的に必要です。生配信中にパソコンがフリーズして無音のまま絵だけがずっと配信されていく、というどうにもならない事態って、本当にあり得る話なんです。だからプランニングの段階でプラグイン用のPCがフリーズすることも想定していないといけないんですね。正直言って、僕の頭のほぼ80パーセントぐらいは「これが駄目だったらどうしたらいいのか?」ってことばかり考えています。だから、このBYPASSスイッチは本当に心強いです。

「BYPASSスイッチ」はワンプッシュでバイパス可能

そのほかにいいと思った点はありますか。

石井氏:
ヘッドホン端子です。モニターに関して言えば、レコーディングスタジオならスピーカーで聴けばいいのですが、ライブの現場だとPAの音が混じってしまうことがあるので、ヘッドホンでモニターできるのは大きなメリットです。

ぜひお勧めしたいのは「RUio16-D」と
小型アナログミキサーのハイブリッドなシステム

石井氏:
今まで使って思ったんですけど「RUio16-D」って、アナログミキサーとの相性が意外といいんじゃないかと思います。今ライブ配信が流行ってますけど、レコーディングエンジニア目線で言えば操作系が盤面に全て見えていますし、簡易的なシステムを組むときにはアナログミキサーもありと考えています。ミキサーにはEQとダイナミクスとパンニングだけあればよくて、あとはフェーダーでバランスを取る。そしてインサートとして「RUio16-D」を入れるといいと思います。アナログケーブルでインサートに入れてしまえば、すぐに使えます。

アナログミキサーと「RUio16-D」でハイブリッド化するってことですか。

石井氏:
例えば「Dynamic EQ」なんてアナログミキサーには無理ですけど、そういうものは「RUio16-D」に任せればいいんです。それと最近のアナログミキサーにはUSB端子が装備されているものが多いので、そのままパソコンに録音できます。

アナログミキシングコンソール「MGシリーズ」+パソコン+「RUio16-D」のシステム。アナログI/Oで簡単に接続できる

それは手軽で便利そうですね。

石井氏:
いままでだったら外部のエフェクトラックが必要になるようなシーンで「RUio16-D」が、かなり使えると思います。しかもヤマハの機材ですから、信頼性が担保されている。たとえばBYPASSスイッチを付けてくれるような「よくわかってる」的な配慮も含め、我々の中ではヤマハの信頼性は抜群ですから。

石井氏の現場使用状況(石井氏撮影)

本日はお忙しい中ありがとうございました。

製品情報

I/Oラック RUio16-D
プラグインホストソフトウェア VST Rack Pro