【導入インタビュー】株式会社J-WAVE / 新井 康哲 氏
Japan/Tokyo May.2022
1988年に東京で開局したFM放送「J-WAVE」。洋楽を中心とした最先端の音楽とカルチャー、ライフスタイルを提案し、音楽好きを中心に高い支持を集めています。
このたび株式会社J-WAVE(以下J-WAVE)にI/Oラック「RUio16-D」とプラグインホストソフトウェア「VST Rack Pro」が導入されました。導入理由や使用感などについてJ-WAVE コーポレートマネジメント局 技術部長 新井 康哲 氏にお話をうかがいました。
ラジオの生演奏用のエフェクトとして「VST Rack Pro」を使用
J-WAVEといえば「音楽に強いFM局」という印象ですが。新井さんは音響を担当されているのでしょうか。
新井氏:
私はミキサー関連をはじめとしたスタジオのシステム設計や管理、音声が電波に至るまでを担当していますが、音楽系の収録や生放送、ライブ音源のトラックダウンなどもやっています。ということでフルタイムの音楽のエンジニアではありませんが、J-WAVEには国内外のトップクラスのアーティストが出演され、生演奏される機会がありますので、そんな場合はしっかりとした音楽的な対応をする必要があります。そうした知識と技能が要求される仕事です。
このたびJ-WAVEに「RUio16-D」を導入いただきましたが、使用用途を教えてください。
新井氏:
生演奏の時のエフェクターとして「VST Rack Pro」を使いたい、というのが主な導入理由でした。弾き語りぐらいのシンプルなものであれば音声卓内蔵のエフェクターで処理しますが、バンドものなど演奏規模が大きくなると複雑な処理が必要になるので外部エフェクターを使用しています。
ただ、ここはFM放送局なので、高価なアナログアウトボード類はそれほど数も種類も揃っていません。そこで以前からPCベースのプラグインエフェクトを活用していましたが特定ブランドのものしか動かないという制約がありました。トラックダウンなどではいろいろなブランドのプラグインを使用していましたが「RUio16-D」に付属する「VST Rack Pro」はリアルタイムで制限なくVSTプラグインが使えるということだったので、それであれば生演奏でもクオリティが高いコンプやリバーブなどが使えそうだなと思って導入しました。
具体的にはどんなエフェクトを使っていますか。
新井氏:
まずはヤマハの「Buss Comp 369」は使いたいですね。自社では所有していませんが、ヤマハデジタルミキサーのQLシリーズやCLシリーズは音楽ものの収録で借りて使わせていただくケースが多く、「Buss Comp 369」などの内蔵エフェクトを高く評価していましたので、これらが生放送で使えるのは嬉しいです。アナログのアウトボードはあまり無いなか、これをモデリングされたと思われるリビジョンの実機があるのですが遜色ないと感じていますし、プラグインは何台でも使えますからね。
放送用途に関して「RUio16-D」が使いやすいと感じた点はありますか。
新井氏:
「RUio16-D」のバイパスは放送局としては非常にありがたい機能です。我々は生放送で使うことを目的としているので、どんなに音が良くても不安定なものは選択肢に入りません。「RUio16-D」はPCとの通信が切れた時バイパスする機能があります。しかもチャンネルごとに音声をバイパスするかミュートするかを設定できるんです。これが便利です。
たとえばインサートしたものは切れた時にすぐにバイパスしないと音が切れてしまうので「バイパス」にしておき、リバーブなどのセンド系はバイパスすると送った音がそのまま戻ってきてしまいますので「ミュート」にする、といった設定ができます。こうしたきめ細かな設定ができる機材がなかなかないので、これは「さすがヤマハ!」と思いました。
「RUio16-D」とノートパソコン2台で
ラジオ番組用のライブ収録システムが完結
Danteに対応したコンパクトなI/Oとしての活用方法はあるのでしょうか。
新井氏:
J-WAVEのスタジオのシステムはDanteを用いた運用がされており、そのDanteの出入り口に繋げば一発で回線がつながるので、いろんな可能性があると思います。逆に言うともはや「Danteじゃないと困る」という感じです。局のスタジオ常設としての活用方法はまだ思いつきませんが、これがないと成り立たないといったVSTプラグインが出てきたら、現状これ一択ですよね。
ライブ収録で「RUio16-D」はどんな使い方が考えられるでしょうか。
新井氏:
ラジオ用のライブ収録の場合、会場でPAさんから2ミックスをもらい、さらに自分たちでオーディエンスマイクを立ててアンビエンスを加えることが多いんです。近年のPA機器はほぼDanteに対応しているので「RUio16-D」にDanteのLANケーブルを1本つないで2ミックスをもらって、オーディエンスマイクは「RUio16-D」のアナログ入力にマイクを立てれば、それだけでライブ収録が完結しますね。
今話していて気がつきましたが、アンビエンスのマイクもDanteで出し、別のパソコンで「Dante Virtual Soundcard」(以下DVS)を使って録音すれば、14トラックを越えるインプット数でも2ミックスではなくマルチでの収録が「RUio16-D」とノートパソコンで完結できます。PAさんのスイッチの口に予備があればPC追加で冗長化も可能です。これなら収録にリュックを背負って電車で行けますね(笑)。
確かにノートパソコンと「RUio16-D」なら電車でライブ収録にいけますね。
新井氏:
プラグインのかけ録りはネイティブではまだまだリスクがあります。しかし「RUio16-D」は16チャンネルのDanteが入力できますから、インプットチャンネルが少なかったり、PAさんにお願いしてドラムやボーカルというようにSTEMでミックスをもらえる場合、「RUio16-D」でプロセッシングしたものをDVS経由で別のPCのDAWに取り込むことができます。
DAWはフェーダーバランスだけの操作とすれば、スペースや運搬の問題で卓を持ち込めないところでも、PC2台でかなり手の込んだリアルタイム2ミックスの収録が可能になると思います。DVS経由となると少しレイテンシーは出ますが、DAWからAUXで「RUio16-D」に戻ってきたものにリバーブをかけて戻してもプリディレイと考えれば全く許容範囲ですね。
例えば配信ライブなどで映像さんに音声を渡す場合も、どのみちリップシンク合わせのため受け側でディレイが入りますので、そういったケースでも問題ないでしょう。
「RUio16-D」にはヘッドホン端子が搭載されていますが、これの使い勝手はいかがですか。
新井氏:
実はすごくありがたいんですよ。収録はDVSを使うことが多いのですが、DVSで収録しているときはMacのヘッドホンアウトが使えないんですよ。でも「RUio16-D」を使えばパソコンのモニターミックスをDanteで「Ruio16-D」に戻せるのでヘッドホンでモニターできます。これは助かります。
今後「RUio16-D」でやってみたいことや、期待することはありますか。
新井氏:
今後Steinbergのプラグインでもイマーシブ系のものが載ってくれると嬉しいですね。Dolby Atmosなどのデコードが必要なフォーマットはアナログステレオのラジオではOAできませんが、ステレオ音声でもヘッドホンで聴くと360度の定位ができるフォーマットも出てきているので、ラジオ放送でもイマーシブコンテンツを放送することが可能になってきました。そういったコンテンツ制作にはもちろんイマーシブに対応したプロセッシングが必要になるのですが、高価なプラグインを購入せずともプリインストールのプラグインで試せるとハードルがすごく下がると思います。
本日はお忙しい中ありがとうございました。
株式会社J-WAVE
https://www.j-wave.co.jp
製品情報
I/Oラック | RUio16-D |
プラグインホストソフトウェア | VST Rack Pro |