【導入インタビュー】株式会社K.M.D Sound Design. / 小松 久明 氏
Japan/Tokyo Mar.2022
LUNA SEA、大黒摩季、手蔦 葵など日本を代表するアーティストのコンサートエンジニア、プランニング&サウンドデザインを手がける株式会社K.M.D Sound Design.(以下、K.M.D Sound Design.)代表取締役の小松 久明 氏。数多くのコンサートに参加する傍ら、洗足学園音楽大学では客員教授、講師を務めるなど後進への指導にも力を入れていらっしゃいます。
今回は小松 久明 氏にI/Oラック「RUio16-D」とプラグインホストソフトウェア「VST Rack Pro」の使い勝手やライブSRでの使用用途などをうかがいました。
「RUio16-D」はコンパクトで
USB端子にロックがあるからライブにピッタリ
さっそくですが「RUio16-D」を使ってみた感想はいかがでしょうか。
小松氏:
まずサイズがいいですよね。「よくこんなに小さくできたな」って思うぐらいコンパクトでびっくりしています。ライブハウスに機材を手持ちで行くこともあるので、バッグに入るサイズに仕上がっているのは素晴らしいです。
小松氏:
それとトップパネルにルーティングがすぐにわかる回路図がプリントされているのもいいです。一目で信号の流れが把握できるので、気が利いているなぁと思いました。USB端子にネジ式のロックが付いているのも、とてもいいです。PAの現場ってケーブルが抜けると大事故になりかねないので着脱をロックできない端子って怖いんですよね。そこがレコーディングスタジオとは違うところなんです。さすが、ヤマハはライブの現場がよくわかっているなと感心しました。
「VintageCompressor」や「Quadrafuzz v2」をボーカルのインサートに使ってみたい
まだ出たばかりの「RUio16-D」ですが、小松さんはどのように使ってみたいと思いますか。
小松氏:
「RUio16-D」はいろんな使い方ができると思います。アナログ入力はホームレコーディングにとっても便利だと思うし、ヤマハ系のハイグレードなVSTエフェクトが使えるから、かなりお買い得ですよね。僕はコンサートのエンジニアなので、逆にライブでプラグインホストソフトウェア「VST Rack Pro」を使ってみたいと思います。
どんな用途が考えられますか。
小松氏:
まずはボーカル用のインサートですね。ヤマハ系のエフェクトはPAエンジニアとして「RIVAGE PM10」をよく使っているので、どう使うかすぐイメージできますが、制作系でよく使われているスタインバーグのVSTプラグインはPAエンジニアにとっては初めて使うものが多いんですね。そこが画期的で、とても面白そうです。
どんなVSTが使えそうでしたか。
小松氏:
ぜひ使ってみたいのが「VintageCompressor」。これはボーカルがものすごく綺麗に前に出て、音色もとても良かった。今、手嶌葵さんの15周年ツアーをやっているんですけど、さっそくボーカルに「VintageCompressor」をインサートしてみたいと思っています。
小松氏:
それと、ディストーションの枠で「Quadrafuzz v2」っていうすごいのを見つけました。これは人間の可聴帯域の20Hzから20kHzの周波数を4分割して、各周波数帯域ごとに、テープのエミュレーション、チューブ、ディストーション、アンプ、デッキ、などのタイプでディストーションがかけられます。このエフェクトは、ぜひロック系のボーカルで使ってみたいです。ボーカルが声を張った時、いい感じにチューブで歪ませたいんですよ。ボーカルをかっこよく歪ませるというのが、僕が大事にしているポイントなんですけど、これはすごくいいんじゃないかと思っています。
ロックのボーカルって、レコーディングでもわざと歪ませてパワー感を出していることが多くて、それをライブでも再現しようと思ってエフェクターやHAで歪ませるんですけど、どうしてもハイ上がりの歪みになったり、ハウリングが起きそうになるので、EQで削るんです。そうするとどうしても大人しい歪みになります。この「Quadrafuzz v2」である帯域だけを歪ませることができれば、「歌詞は聴こえるけど、おいしいところはいい感じで歪んでいる」ってことができる気がします。
それと、これをアコースティックギターに使ってもいいかもしれないと思っています。歪ませるんじゃなくて、アコースティックギターの音をちょっと暖かい音にしたいんです。ガットギターもいいかもしれないね。いずれにしても歪みを帯域ごとにコントロールできるものは、僕は今までに見たことがなかったので、ライブで使うのが楽しみです。
チャンネルインサート以外の用途はいかがでしょうか。
小松氏:
配信用で便利そうなのが「Maximizer」です。最近のライブは配信とセットになっていることが多いのですが、配信用の音声はPA用の信号と別に出力します。というのも配信はスマホや自宅のパソコンのスピーカーとかで聴くので、大きな音が入力すると歪んでしまうし、MCなどの時のレベルは小さくなりがちで、ダイナミックレンジの広さが聴きづらさに繋がります。そのためPA用の音声のミックスと配信用のマスタリングは変えなければいけないのです。そこで「Maximizer」を配信のマスターコンプとして使うと音圧調節がかなりオートでいけるんじゃないかと思っています。
レコーディングで使われているエフェクターで
新しいPAのサウンドを追求してみたい
操作性や音の面での「RUio16-D」の印象はいかがですか。
小松氏:
操作性については今までヤマハの機材をずっと触ってきているので、まったく違和感なく使うことができます。音も問題ないですね。「RUio16-D」はDanteでパッチできるのでレイテンシーが小さいのもメリットです。こういうものをPAで使うときに一番怖いのがレイテンシーなんですよ。ものによってはいったんアナログで出力する必要があったりするんですが、そこでどうしてもレイテンシーが生まれてしまうんです。でもDanteのパッチならレイテンシーを最小に抑えられるのでレイテンシーの心配はないと思っています。またDante上でパッチできるのは効率の点でもメリットです。PAエンジニアって常に限られた時間の中で音を作らなくてはいけないので、プリセットを作っておいてすぐにDanteでつなげられることは大きいです。
では、ライブ用のデバイスとして「RUio16-D」、「VST Rack Pro」は、かなり使えそうですか。
小松氏:
かなり面白く使えると思います。特にレコーディング界隈で使われているスタインバーグのVSTエフェクトをライブで使ってみたいというのはありますね。「RUio16-D」は制作系の人がヤマハのハイグレードなクオリティのエフェクターを使えるというメリットもあると同時に、プロのPAエンジニアがスタインバーグのVSTエフェクトをライブで使うことができるという2つの面があると思います。
K.M.D Sound Designの倉庫にはビンテージのマイクやヘッドアンプなどがたくさん保管されているそうですね。
小松氏:
ライブPAでいい音を出したいと思って長年追求してきた結果、ヘッドアンプやマイクなどの入力系はビンテージの実機を使うことが増えたので集めました。特にヘッドアンプは実機でないと「その音」が出ないです。でもインサート系に関してはビンテージ機に頼らず、パソコンベースのプラグインを使っています。
プラグインには往年の銘機と言われるエフェクターのシミュレーションがあって、故障の心配もなく湯水のように使えるので、どうしても使ってしまうんです。でも今回スタインバーグ系のエフェクトをテストしてみて、なるほどこういうエフェクトを使っていい音を創造しているレコーディングエンジニアがたくさんいるんだから、PAエンジニアも復刻もののビンテージエフェクトばかりではなく、最先端のレコーディングで使われているエフェクトをどんどんライブでも使っていって、新しい「いい音」を追求していきたいと思いました。
本日はお忙しい中ありがとうございました。
株式会社 K.M.D Sound Design.
https://www.kmd-sd2021.com
製品情報
I/Oラック | RUio16-D |
プラグインホストソフトウェア | VST Rack Pro |