【導入インタビュー】有限会社ティースペック / 橋本 敏邦 氏

Japan/Tokyo May.2022

和歌山を拠点とし、音響機器の設営や運営、レンタル業務を行っている有限会社ティースペック(以下ティースペック)。ヤマハデジタルミキシングシステム「RIVAGE PM7」「RIVAGE PM3」なども導入しているティースペックに、このたびI/Oラック「RUio16-D」とプラグインホストソフトウェア「VST Rack Pro」が導入されました。

導入理由や使用感などについてティースペック 代表取締役社長 橋本 敏邦 氏にお話をうかがいました。


「RUio16-D」はいい意味でヤマハっぽくない製品で、
コロナ禍に新製品を出してくれて希望が持てた

ティースペックさんはヤマハのデジタルミキサーなどを先んじて導入いただくことが多いですが、「RUio16-D」が出た時はどう思われましたか。

橋本氏:
こういう製品が出るとは全く想像していなかったので、意表を突かれたというか、ちょっと驚きました。「RUio16-D」って、言い方は変ですけど、ヤマハらしくないじゃないですか。Danteは16イン-16アウトなのに、マイクインプットは2つ、アナログアウトも2つ、そしてヘッドホンアウトもある。良いとこどりですね。
そして、一つ思ったのは、「RUio16-D」が発売された時、「未来に希望が持てた」ということです。というのも、このコロナ禍で、他メーカーも含めて新製品の発表がほとんどありませんでした。世の中全体が澱んだ空気で、これから音楽業界やエンターテイメント業界がどうなるのか不安になっていた中、新製品がヤマハから出るということ自体が、とても素晴らしいと思ったんです。それで発表された翌日ぐらいに「この光をみんなで盛り上げよう」という気持ちでFacebookのグループを立ち上げたら、たった3日で300人ぐらい集まったんです。これってすごいですよね。みんな同じ気持ちだったんだなと思いました。

ありがとうございます。ところで橋本さんは「RUio16-D」をどんな用途に使いますか。

橋本氏:
私はすでにDante対応機器を多数所有しているので、「RUio16-D」で特定の用途に限定することはないんですよ。むしろ専用化してしまうには機能がありすぎてもったいないので、フレキシブルに使いたいと思っています。

I/Oラック「RUio16-D」

このサイズで16 I/OのDanteのリダンダンシー!
音質も測定で使えるグレードの完全プロ仕様

「RUio16-D」を入手して、ハードウェア的に良かったことや便利な点などを教えてください。

橋本氏:
「RUio16-D」が発表された時、Danteが16 I/Oだったので「やった!」と思いました。このサイズで16 I/Oできて、しかもリダンダント接続できるというのは、他にはないアドバンテージだと思います。またリダンダント接続だけでなくデイジーチェーンでも接続できるから、別のパソコンにすぐにつなぐこともできて便利です。それにサイズも小さいのでオペレートのみの仕事でもパッと持って行けます。

「RUio16-D」はリダンダント接続に対応したDante16 I/Oが可能

音質はいかがですか。

橋本氏:
音質については品番に「R」が付いており、これはRioの仲間だろうなってことで「本気感」が型番に表れていたので期待していました。またマイクプリアンプは測定でも使えるように考えられており、ヘッドホンアンプにもコンピューターのUSBインターフェースレベルじゃなくて、プロレベルのものを入れたと聞いたので、届く前から絶対大丈夫だろうと思っていました(笑)。そして実際に届いて確認したら、本当にその通りでした! ヘッドホンの出力はしっかり出るし、音質も痩せた感じはないし、マイクプリも測定で使えるレベルでとても良かったです。「RUio16-D」は完全にプロユースです。

「RUio16-D」は音響測定にも使える精度の音質を実現

Steinbergの「MultibandEnvelopeShaper」は
これだけで買う価値がある

「RUio16-D」のもう一つの特徴であるVSTプラグインについてはいかがですか。

橋本氏:
VSTプラグインであれば何でも使えるメリットは大きいですね。PCの中での処理なので、レイテンシー的には少し不利ですが、推奨されているSteinbergのドライバーは速いのを知っていたので、これは期待できると思って測ってみたら、やはり想定より速かった。ライブでもインサート系でも問題なく使えるレベルだと思いますし、配信なら全く問題ありません。
この中に入っているプラグインで、まず「使える」と思ったのは、「REV-X」や「Dynamic EQ」などのヤマハのプラグインです。ライブでヤマハ以外のミキサーを使うことがありますが「ヤマハの卓に入っているリバーブが欲しいな」と思うことってあるんですよ。そんなとき今まではヤマハの「SPX2000」などのハードウェアのエフェクターを持っていくしかなかったんですが、その代わりに使えると思っています。

どんな時にヤマハのリバーブがほしくなるのですか。

橋本氏:
何にでもハマって使い勝手がとてもいい。他のリバーブはハマる時はめちゃくちゃハマるんだけど、ハマらない時はついつい深め深めになっちゃうことがあるんです。でも「REX-X」の「HALL」だと、ほどよく上品にかけられます。

ヤマハ以外はいかがでしょうか。

橋本氏:
とにかくVSTプラグインで私が一番気に入っているのは「MultibandEnvelopeShaper」です。もう、ぶっちぎりでこれがすごい! これだけのために「RUio16-D」を買ってもいいぐらいおすすめです。

「MultibandEnvelopeShaper」のどんなところがお気に入りですか。

橋本氏:
「MultibandEnvelopeShaper」は4バンドに分割された各帯域の信号のシェイプを任意にコントロールできるんです。たとえば2kHzから4kHzのボーカル帯域の耳障りなあたりを抑えたいとすると、今までならマルチバンドコンプレッサーかダイナミックEQを使っていました。でも「MultibandEnvelopeShaper」なら、そのアタックだけを減らせます。もう完全にレコーディングの領域です。この手のプラグインは、レコーディングでは使われているんですけど、PAで使えるような遅延の少ないシェーピングの使えるアプリケーションって少ないんですよ。

「MultibandEnvelopeShaper」で今までにない表現がライブでできる、ということですか。

橋本氏:
「MultibandEnvelopeShaper」が使えると、今までのコンプ、ゲート、ダイナミックEQでできなかったことができます。例えば響きすぎで環境がよくない場所でも、出音のアタックを強調して余韻が短くなるようシェイプをコントロールすれば、スタッカートが効いたような印象にできる。そうすればコンプですれた感じもなく、EQで処理した感じもなく、出音としては自然です。実際はアタック・リリースを触るなんていうことは、音楽的にも影響があるぐらいのことをやっているわけで、こんなことができるシェーパーの存在を知らない人も多いかもしれないので、使ってみたらきっと仰天すると思います。

アイディア次第でなんにでも使える
「便利ツール」として持ち歩くのがベスト

橋本さんは音楽配信の分野でも活躍されていますが、「RUio16-D」は配信でも活躍するシーンはありますか。

橋本氏:
私自身はすでに配信用の機器を揃えているので、「RUio16-D」がなくても困ることはありませんが、「VST Rack Pro」には例えば「SuperVision」なども入っているので、これから配信用の機器を揃える人にはとても便利でお買い得だと思います。

それとVSTで接続できるものとしてひらめいたのが、NDIという映像のネットワーク規格との組み合わせです。NDIからVSTプラグインが出ているんです。パソコンに入ってきた音をVSTプラグインを用いてNDIに出し入れできるので、例えばミキサーの音を、「RUio16-D」を用いて「VST Rack Pro」へ送り込み、NDIのVSTプラグインで、NDIネットワークに変えてパソコンのLANからNDIとして送り出すことができるんです。そうしたら、映像と合わせてそのまま配信できます。

もっと面白い使い方としては、パソコンにカメラを付けて、そのカメラ映像にNDIのVSTプラグインで変換した音声信号を混ぜて、それをWi-Fiで飛ばせば映像と音をiPhoneで視聴することができます。そうすると、ちょっと離れた楽屋や運営の部屋でもiPhoneでステージの様子を見られるようになります。夏フェスとかで便利そうですよね。

ティースペック 代表取締役社長 橋本 敏邦 氏

「RUio16-D」は本当にアイディア次第でいろんな使い方が考えられるんですね。

橋本氏:
とにかく使い方として一番いいなと思ったのは、フレキシブルに使えること。用途を決めて使用するより「もしかしたら何かで使うかもしれない」というつもりで「RUio16-D」を持っていく。そして急に変更が出た時に「いいものがあるんですよ」って(笑)。とりあえず「なんでも便利ツール」として常に持ち歩くのがいいと思います。

最後に、私のとっておき使用方法ですが、ヤマハさんの遠隔合奏アプリケーション「SYNCROOM」のマルチチャンネルアウトのインターフェースとして便利です。「RUio16-D」を「SYNCROOM」のオーディオインターフェースとして使うことで、マルチアウトを簡単にDante化出来ますからDante対応ミキサーにすぐ取り込めます。そして遠隔セッションで大切なレイテンシーの短さもクリアしています。私自身日頃は、デスクトップにPCI-eカード「AIC128-D」を入れて「SYNCROOM」でリモートライブ配信で使っているのですが、ノートパソコン+RUio16-Dは手軽に使えますね。

本日はお忙しい中ありがとうございました。

有限会社ティースペック
http://www.t-spec.co.jp

製品情報

I/Oラック RUio16-D
プラグインホストソフトウェア VST Rack Pro