【音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】森山威男ジャズナイト 2023 可児市文化創造センターala / 岐阜

Japan/Gifu Sep.2023

2023年9月16日、岐阜県・可児市 可児市文化創造センターalaにて「森山威男ジャズナイト 2023」が開催されました。そのコンサートにおいてイマーシブな音響演出が行える音像制御システム「AFC Image」が使用されました。

コンサートの様子や、「AFC Image」を採用した理由、狙った効果、そして実際の使用感などを可児市文化創造センターala 施設舞台課 音響主任 池田 勇人 氏とコンサートのPAオペレーションを担当したサウンドエンジニア 豊田 浩紀 氏にお話をうかがいました。


「森山威男ジャズナイト 2023」概要

日本ジャズシーンのレジェンドともいえるドラマー森山威男氏がプロデュースを務める「森山威男ジャズナイト」は、毎年9月に岐阜県可児市の可児市文化創造センターalaで開催されるコンサートであり、2023年で22回目を迎えました。森山威男氏は1969年から山下洋輔トリオで演奏を開始し、ヨーロッパツアーなど世界的な活動を通じてその名声を確立、多くの音楽ファンを引き込んできました。

このコンサートは2001年から森山氏の居住地である可児市で開催されており、2002年に可児市文化創造センターalaが開館してからは、毎年同センターで開催されています。地元可児市や周辺地域のみならず、日本各地から大勢の聴衆を集めており、全国のジャズファンから常に注目を集めているコンサートイベントです。

森山威男ジャズナイト 2023
2023年9月16日(土)
【出演】森山威男(ds)、佐藤芳明(acc)、渡辺ファイアー(as)、川嶋哲郎(ts)、田中邦和(ts)、中山拓海(as)、魚返明未(p)、冨樫マコト(b)
会場:可児市文化創造センター ala 主劇場


ヤマハ音像制御システム「AFC Image」について

「AFC Image」とは

「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、劇場、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。

主な特長

  • 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能。
  • 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載。
  • 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現。
  • DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載

詳しくは「AFC Image」製品ページをご覧ください。

「森山威男ジャズナイト2023」における「AFC Image」の使用方法

ステージ上方には仮設のフライングスピーカーとしてL、C、Rの3つのラインアレイが用意されました。この3つのラインアレイが「AFC Image」の再生を担います。

「AFC Image」用スピーカーとしてNEXO GEOS1210×4基のラインアレイクラスタを3系列使用

ステージの両袖にはグランドスタックのラインアレイがL、Rで用意されました。こちらは「AFC Image」用ではなく、補助用として通常のステレオミックスの再生が行われました。

NEXO GEOS1210×4基+サブウーファーLS18×2のグランドスタックを左右のステージ袖に用意

曲の内容によっては「AFC Image」に搭載する3Dリバーブも使用されました。3Dリバーブは既設のプロセニアムスピーカー・ウォールスピーカー・シーリングスピーカーを使用して再生されました。

「AFC Image」に搭載された3Dリバーブシステムはホール既設のプロセニアムスピーカー・ウォールスピーカー・シーリングスピーカーを使用
メインのコンソールとして使用されたデジタルミキシングコンソール「CL5」
モニター用コンソールとして使用されたデジタルミキシングコンソール「QL5」

森山威男ジャズナイト+AFC Image ミニインタビュー
AFC Imageなら、ホールで最良の席で聴ける音が、会場のほとんどの席で提供可能になります

可児市文化創造センターala 施設舞台課 音響主任 池田 勇人 氏(左)
「森山威男ジャズナイト2023」サウンドエンジニア 豊田 浩紀 氏(右)

最初に、今回で22回目となる「森山威男ジャズナイト」についてお聞かせください。

池田氏:
「森山威男ジャズナイト」はalaの開館当初から続いている事業で、今年で22回目を迎えます。森山威男さんは日本を代表するジャズドラマーで、現在可児に在住されています。もともとalaの開館前から可児に住まわれていてライブも行っていたそうですが、ala開館のタイミングで「ここでやろう」という話になり、それからは当館の自主公演としてずっと森山さんにご協力いただいてます。

森山さんは毎週月曜日、当館で「ドラム道場」(というドラムスクールで、生徒さんに指導)もされていて、そこから巣立ってプロになった人もおり、可児市文化創造センターalaとは非常に深い関わりがあるアーティストです。

森山威男ジャズナイトの歴代のポスターがロビーに展示されている
ジャズドラムのレジェンド 森山威男氏

「森山威男ジャズナイト」ではいつも新しい試みをされていて、イマーシブオーディオにも以前から取り組んでこられたそうですね。

池田氏:
「森山威男ジャズナイト」は自主公演ということもあり、これまで様々な試みをしてきました。イマーシブオーディオにも2018年から取り組んでいます。当初はイマーシブオーディオに対応した製品がなかったのですべて既存機器を使っての試行錯誤のアプローチでしたが、2022年からはヤマハさんのご協力で「AFC Image」をお借りして試させていただいております。

可児市文化創造センターala 施設舞台課 音響主任 池田 勇人 氏

「森山威男ジャズナイト2023」における具体的な「AFC Image」の音響システムの構成について教えてください。

池田氏:
ステージの上方に3本のラインアレイをフライング設置していますが、そこから「AFC Image」の音が出力されています。そして舞台の上手と下手にはグランドスタックのラインアレイがあります。こちらは通常のPAのLRの出力を行っています。

グランドスタックは「AFC Image」では使っていないんですね。

池田氏:
昨年はグランドスタックでも「AFC Image」の信号を再生しましたが、今年は通常のLR再生としました。グランドスタックは音量的には補佐的な役割です。ハース効果と言いますが、生音がお客様に先に聞こえてからPAの音が聴こえるように距離補正してありますので、あくまで生音の補強です。ハース効果が重要であることはイマーシブオーディオをやり始めてから気づきまして、今は通常のPAの時でも生音から先に定位するように、システムの音そのものをディレイで遅らせることもしています。

通常のPAと「AFC Image」によるイマーシブオーディオではどんな点がちがうのでしょうか。

池田氏:
とにかく音がいいです。特にバランスですね。わかりやすく言えば、コンサート会場の一番いい席で聴ける、最良のバランスの音が、会場のほとんどの席に提供できる、ということですね。

PAオペレーターの耳で聴いても全然違うのですか。

豊田氏:
それはもう、全然違います。音響を提供する側から言えば、もう今までのL/R 2チャンネルのPAには戻りたくないです。非常に自然でいいバランスの音を、会場の多くの席に届けられます。これは逆に言えば、今までのPAの場合、オペレーターが意図した音とは違う音で聴こえるエリアが、あまりにも多い、ということでもあります。

サウンドエンジニア 豊田 浩紀 氏

「オペレーターが意図した音とは違う音」とはどういうことですか。

豊田氏:
たとえば通常のライブの場合、上手側のスピーカーに近い席のお客様には、上手のスピーカーの音しか聞こえません。逆もそうですね。そうなると片方のスピーカーに近いお客様には常に非常にバランスの悪い音を聴いてもらうことになってしまいます。もしそれを回避するなら、両方のスピーカーから同じような音がでる状況、つまりモノラルに近いミックスになってしまいます。PAをやっていると、常にそういったモヤモヤというか、不条理な思いがあって。本当はもっと多くの人に、こう聴いてほしいのに、という思いが常にあるんです。そんなモヤモヤが「AFC Image」のイマーシブオーディオなら解消できます。

「AFC Image」の音像定位の設定画面 演奏者は画面上でオブジェクトとして示され、ほとんどの座席でこの音像が再現される

それは通常の2チャンネルにおけるL/RのPANでの表現ではなく、「AFC Image」では演奏者をオブジェクトとして扱えるからですか。

豊田氏:
その通りです。今までとは全く違う発想ですし、ある奏者のフェーダーを上げても「音が大きくなる」というより「存在が大きくなる」という感じで非常に音楽的です。

ほかに「AFC Image」のメリットはありますか

豊田氏:
オブジェクト(音像)をリアルタイムで動かせることですね。今回の「森山威男ジャズナイト2023」ではフロントの管楽器奏者が前に出て来て動き回りますから、演奏者の動きをみながら、オブジェクトをタブレットのタッチスクリーンでリアルタイムに動かしてみました。実際、音像もこのオブジェクト操作に伴って付いてきてくれます。これはたとえば花道から演者が登場する演劇などでも非常に有効だと思います。これもイマーシブオーディオでなければできなかったことです。

ライブ中にステージ上を動く管楽器奏者
奏者の動きにあわせてタブレットで音像をリアルタイムコントロール

「AFC Image」に内蔵された「3Dリバーブ」も使用しているそうですね。

豊田氏:
既設のスピーカーから「AFC Image」で演算された3Dリバーブの残響成分だけを再生しています。具体的にはプロセニアムスピーカーとウォールスピーカーとシーリングスピーカー合計19基を使って再生していて、すべて時間の補正なども行っています。それによって、いわゆるPA的なエフェクトのリバーブではなく、より自然に近い空間の質感と広さが感じられます。

「3Dリバーブ」の設定画面

豊田さんはオペレーターとして3Dリバーブの使い勝手はいかがですか。

豊田氏:
ものすごく自然な感じで、思ったより響きは良かったです。やっぱり通常のPAのエフェクターとは聴こえ方が違いますね。通常のPAならリバーブは楽器の音と同じスピーカーからいっしょに聞こえますが、3Dリバーブでは楽器の音はあくまで前から聞こえて残響音は壁や天井から響いてきますから、とても自然です。本番ではバラードの曲で使ったり、あるいは管楽器やアコーディオンのソロなど、ピンポイントで使用しました。

今回の「AFC Image」が実現したイマーシブな音響は素晴らしい体験でした。この素晴らしさを言葉で伝えるとしたら、どう言ったらいいのでしょうか。

池田氏:
「AFC Image」は専用のイマーシブプロセッシングを行っているという事もあり、これまでの既存機器で行ってきたイマーシブオーディオと音質が各段に違います。その効果が「PAをしていないみたいに自然に聴こえる」ということなので、ちょっと凄さが伝わりにくいかもしれません。

逆によくコンサートに行く方や、音響に詳しい人は、音のクリアさに驚かれると思います。コンサートホールで、今まで音のバランスが悪かった席が、イマーシブオーディオではほとんどなくなります。これはお客さんからのアンケートで、音が大変良かったという意見を多くいただいている事からも「AFC Image」の素晴らしさが分かることだと思います。

豊田氏:
イマーシブオーディオはむしろ、今までPAで不自然になっていたことが、現場に近い音に回帰して体験できるっていうことだと思いますし、PAオペレーターとしては「今までごめんね」という感じです。本当にモヤモヤしてましたから(笑)。とにかく一度イマーシブオーディオのライブを体験してほしいですよね。それには「AFC Image」に限らず、一般的なPAの方式としてイマーシブオーディオが今後もっと広がってほしいと、強く思います。

「AFC Image」による大変素晴らしいイマーシブオーディオを体験させていただきました。
お忙しい中インタビューのお時間をいただき、ありがとうございました。

可児市文化創造センターala
https://www.kpac.or.jp/ala/

AFC

AFC(アクティブフィールドコントロール)は、あらゆる空間において、音を自在にコントロールし最適な音環境を創り出すことができるヤマハのイマーシブオーディオソリューションです。