【導入事例】富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール) 中ホール 様 / 富山

Japan/Toyama Jun.2024

2023年7月1日、2,196席の富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール)大ホールの北隣に、中ホールが開館。最大652席の可動式客席を備え、さまざまな用途に応える多目的な空間が特長です。その中ホールにNEXO「GEO M10シリーズ」、「Plusシリーズ」、「ID24シリーズ」などのスピーカーシステム、およびヤマハデジタルミキシングコンソール「CL5」、「CL3」などが導入されました。

その導入理由や使い勝手などについて、オーバード・ホール舞台技術課の課長 曽根 朗 氏にお話をうかがいました。

オーバード・ホール 舞台技術課 課長 音響 曽根 朗 氏(左端)
オーバード・ホール 舞台技術課 音響 池田 大輔 氏(中央)
オーバード・ホール 舞台技術課 音響 家城 隆一郎 氏(左から2番目)
有限会社石金音響 一級舞台機構調整技能士 川岸 勇也 氏(右から2番目)
有限会社石金音響 エンジニア 辻 晴妃 氏(右端)


舞台や客席の配置の自由度が高く、多目的な用途に対応する最大652席の「オーバード・ホール/中ホール」

「富山市芸術文化ホール(以下、オーバード・ホール)」についてご紹介ください。

曽根氏:
「オーバード・ホール」は1996年に開館した大ホールと2023年に開館した中ホールで構成されています。大ホールはオペラ劇場として建設された日本では珍しい三面半舞台を備え、客席は1,800席から最大約2,200席まで可変できます。オペラ以外にもミュージカル、演劇、バレエ、オーケストラなどを上演しています。

「オーバード」という言葉には「朝」という意味があるそうですね。

曽根氏:
「オーバード」はフランス語で「朝の曲」という意味で、小夜曲の「セレナーデ」の対になる言葉です。このホールを建てるにあたって、「新しい技術や芸術の夜明け」のような意味が込められていたのかもしれません。

オーバード・ホール 舞台技術課 課長 音響 曽根 朗 氏

中ホールは、どのような経緯で作られたのでしょうか。

曽根氏:
中ホールは2023年7月1日にオープンしました。もともと大ホールを計画している時から、中ホール、もしくは小ホールを併設する計画はあったのですが、諸事情により遅れていました。そのような状況で、大ホールは2,000席規模で一般の市民の方が利用するには大きいので、もう少し小さくて自由度の高いホールの需要が高まり、大ホールから27年を経て最大652席の中ホールが完成しました。

中ホールは大ホールとは違う用途が想定されているのですね。

曽根氏:
中ホールは舞台や客席の配置の自由度が高く、多目的な利用に対応できる点が最大の特長です。ステージと客席は可動式で、通常のステージ形式だけでなく囲み型のセンターステージ平土間使用も可能です。平土間ではブースを設置した展示会なども行えます。客席数の規模も最大で652席と手頃なので、大ホールの規模では大きすぎた催しで活用できるようになり、地域の方や企業の方にとって利用しやすい施設となっています。

通常のステージ形式
平土間形式

音響的には、どんなところが中ホールの特長なのでしょうか。

曽根氏:
大ホールはオペラ公演を意識した音響設計となっています。コンサートホールのような豊かな響きよりも客席に伝える言葉、台詞の明瞭性の高さを優先する建築です。残響時間はおよそ1.3秒。大ホールと中ホールでは劇場の様式は違いますが、音響設計は似ていると言えるかもしれません。中ホールは客席に声が明瞭に届くことを目的としており、建築音響的に響きを抑えられています。残響時間は1.2秒程度と短いのですが、素直で質のいい響きだと思います。変な響きが残らないところがPAを使用する音楽系の方からは好評です。

一方で豊かな響きを必要とするクラシックや合唱などの催しでは可動式の反響板を設置することで自然な響きを増強できます。ですから音響面でも講演や学会、展示会から音楽用途までさまざまな用途に対応できる自由度の高いホールだと言えます。

可動式の反響板を使用したステージ

プロセニアムスピーカーと移動型サイドスピーカーにNEXO 「GEO M10シリーズ」のラインアレイを採用

中ホールのメイン系であるプロセニアムスピーカー、移動型サイドスピーカーにNEXOの「GEO M10シリーズ」が採用されました。その選定理由を教えてください。

曽根氏:
実は大ホールにNEXOのスピーカーを長く使っているんです。そのため、NEXOの音はよく知っていて、中ホールにもNEXOの音が合うだろうと考えました。

センター、下手、上手のプロセニアムスピーカー(NEXO「GEO M1025」によるラインアレイ)

「GEO M10」はサイズとパワーのバランスがとれており、この中ホール規模での使用に適しています。実際にいくつかのモデルと比較検討してみたのですが、「GEO M10」がマッチしていました。特に重視したのは取り回しの良さとサイズ感で、音量も十分でありながら、設置や移動が容易な点は大きな利点です。当時小柄な女性がスタッフもいましたし、今後音響業界においてさらに女性比率が上がっていくでしょうし、誰でも楽に扱えることを考えました。

グラウンドスタックされた移動型サイドスピーカー「GEO M1012」と「MSUB15」
サイドスピーカーのスタックを設置する音響スタッフの辻さん

移動用やシーリングスピーカーにNEXO「Plusシリーズ」、補助スピーカーにNEXO「ID24シリーズ」を導入

移動用にはポイントソースの「Plusシリーズ」が導入されました。

曽根氏:
NEXOの「P12」、「P10」、「P8」を移動用のユーティリティースピーカーとして導入しました。舞台にサイドスピーカーを置くスペースがない場合は、プロセニアムスピーカーに加えてスタンドに立てた「P12」をステージ上に置くことで音像を下方向にひっぱることができます。

ウォール、シーリング、補助スピーカーにもNEXOのスピーカーが導入されました。これは音質的に統一性を持たせるためですか。

曽根氏:
統一性もありますが、ウォールや補助スピーカーで使っているNEXO「ID24」も、シーリングスピーカーで使っているNEXO「P8」も過去に使ったことがあって、音質的に納得できる物だったので、トータルでNEXOスピーカーを採用しました。もう一つの理由として大ホールもNEXOなのでバックアップの意味合いもあります。

シーリングスピーカー NEXO「P8」
バルコニー補助スピーカー NEXO「ID24-T9040」

大ホールも中ホールもNEXOであればトラブルがあった場合バックアップになるということですか。

曽根氏:
そうですね。万一の場合はホール間で融通できます。

中ホール パワーアンプ架に組み込まれたNEXOのパワードTDコントローラー「NXAMPMK2シリーズ」

調整卓には高機能で可搬性の高いヤマハのデジタルミキシングコンソール「CL5」と「CL3」を選定

音響調整卓にはヤマハのデジタルミキシングコンソール「CL5」と「CL3」が導入されました。導入理由を教えてください。

曽根氏:
調整卓の選定にはこだわりました。お芝居では出力数がたくさんあった方がいいですし、バスやMATRIXも多い方が有利です。さらにバラしたり組み直しができればより自由度が増します。それにはハイエンドな大型卓が1台だけドーンと置いてあるより、高機能で可搬性の高いミキサーが2台あった方が柔軟な使いこなしができると考えました。それで、ヤマハのデジタルミキシングコンソール「CL5」と「CL3」の導入を決めました。

音響調整室のデジタルミキシングコンソール ヤマハ「CL3」(左)と「CL5」(右)
デジタルミキシングコンソール「CL5」
デジタルミキシングコンソール「CL3」

最後にうかがいます。曽根さんは中ホールの音響システムではどんな音を出していきたいと思いますか。

曽根氏:
この舞台音響設備工事はヤマハサウンドシステムさんが担当され、スピーカー調整も行っていただきました。この際、あえて私たちが調整できる余地を残したものにしてもらいました。中ホールは舞台や客席形状が変化しますので、その変化に私たちで柔軟さ、自由さを意識しました。上演する作品がかわれば、期待される「最高なもの」も変わると思っています。これは自分たちの作品の携わり方もあるし、外オペさんとの関係もあります。

ホールとして、「どんな音にしたいですか? どういう風に鳴らしたいですか?」と話し合いをして、「最高なもの」を提供するのが、私たちの仕事かなと思っています。

調整の余地を残すところが自由度の高さでもあるわけですね。本日はご多忙中ありがとうございました。

富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール)
https://www.aubade.or.jp

ヤマハサウンドシステム株式会社 納入事例ページ
https://www.yamaha-ss.co.jp/halls-in-japan/toyama-aubade.html