【音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】オーベロントライアルシリーズ Vol.2『短編集 説得してるのは僕の方』自主公演 / 東京
Japan/Tokyo Dec.2023
舞台公演“オーベロントライアルシリーズ Vol.2『短編集 説得してるのは僕の方』”が2023年12月7日から10日まで、東京・シアターグリーン BIG TREE THEATERにて上演されました。その公演においてイマーシブな音響演出が行える音像制御システム「AFC Image」が使用されました。
公演での「AFC Image」の活用方法や使用感などについて、音響を担当した株式会社オーベロン 音響 塩澤 宏光 氏にお話をうかがいました。
公演概要
オーベロントライアルシリーズは舞台映像や音響制作に携わるスタッフが理想的な舞台をどのように描けるのか、先進の技術や機器を用いて実験的なアプローチを試みる自主公演のプロジェクト。第2弾の『短編集 説得してるのは僕の方』はオムニバス形式で喜劇の表現を探求しつつ立体音響にも挑戦した野心的な作品です。今回、本公演にて音像制御システム「AFC Image」をデモで試用いただき、イマーシブな音響空間の創出にトライされました。
オーベロントライアルシリーズ Vol.2『短編集 説得してるのは僕の方』
2023年12月7日(木)~10日(日) シアターグリーン BIG TREE THEATER
脚本:渋谷コワイ 演出:大堀光威 出演:百瀬朔、矢島舞美、高木稟
公演詳細はこちらをご覧ください。
短編集 説得してるのは僕の方|オーベロントライアルシリーズ Vol.2
ヤマハ音像制御システム「AFC Image」とは
「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。
詳しくは「AFC Image」製品ページをご覧ください。
システム概要
本公演では音像制御システム「AFC Image」とデジタルミキサー「QL1」、NEXO社のスピーカーを組み合わせたイマーシブオーディオシステムを構築しました。音像定位に用いたスピーカーの配置は以下の通りです。
メインスピーカーとしてバトン吊り(奥)に3基のNEXO「P10」を、バトン吊り(手前)に3基のNEXO「PS10-R2」を設置、ステージフロントには3基のNEXO「ID24-T」を設置しました。サラウンドスピーカーとして、パワフルかつコンパクト・設置性の高いNEXO「ID14T」を壁面の客席前方に2基、後方に2基、左右合わせて8基設置しました。さらに、客席の後方にはリアスピーカーとして3基のNEXO「ID24-T」を設置することで、立体的な再生システムを構成しました。
ミニインタビュー 株式会社オーベロン 音響 塩澤 宏光 氏
株式会社オーベロンについてご紹介いただけますか。
塩澤氏:
弊社は主に演劇に関する映像・音響を手掛けている会社で、映像製作に加え、音響デザイン、映像・音響機材レンタル業務も行っています。音響部門は2023年に設立され、私はそのタイミングで入社しました。
『短編集 説得してるのは僕の方』はトライアルシリーズということで自主公演のようですが、自主公演を行ったのはどうしてですか。
塩澤氏:
自主公演を行った理由としては、映像や音響に関して依頼仕事ではリスクがあってできないような実験的なことをトライしてみよう、ということが背景としてあります。今回でトライアルシリーズは2回目となりますが、音響に関しては「AFC Image」をお借りしてイマーシブな立体音響に挑戦しました。こういったチャレンジは、普段のお芝居では照明さんとのバトン吊り込み場所の取り合いになったり、スピーカー数が多いぶん電源が普段の3倍ぐらい必要になったりと、自主公演でないと実施が難しかった部分もありました。ただこのようなトライアルで実績を積むことで、今後オーベロンとしての強みを自信を持ってご提案できると思います。
役者のマイク音声をオブジェクト化し、動きに合わせてリアルタイムに定位を移動
今回の公演における「AFC Image」の具体的な使用方法について教えていただけますか。
塩澤氏:
この公演では演劇での自然な拡声のために、3人の役者にワイヤレスマイクを装着しています。その役者のセリフを「AFC Image」でオブジェクト化して役者の動きに合わせてコントロールすることでリアルタイムに音像を定位させるというアプローチを取りました。それを実現するために今回はトライアルということで自社スタッフを動員し、出演者各々に専任のAFC Imageパンニングオペレーターをアサインしました。「AFC Image」のオブジェクトコントロールは複数台のPCやiPadのブラウザからアクセスして同時に行えるので、こういった使い方もでき便利です。
「AFC Image」によるセリフの音像定位の効果はいかがでしたか。
塩澤氏:
見に来てくださった多くの音響の専門家の方々が「声が自然だった」「役者の位置からセリフが聞こえた」などと高評価をいただきました。ここまで自然で、かつ役者の動きに追従する定位感は今までのLRのチャンネルベースの音響では実現できないと思います。
役者はステージを動き回りましたが、オペレーターは大変ではなかったですか。
塩澤氏:
確かに役者はステージ上を縦横無尽に動き回っていましたが、オペレーターは稽古の段階から「AFC Image」のパンニング操作を用いて参加し、わりとすぐに役者を追従できるようになりました。また、使い方が分かってくると、あるシーンではあえて役者と声の位置をずらしてみたりといった、クリエイティブな遊び心も生まれたりして、オペレーターたちも結構楽しんでやってくれました。
効果音(SE)もオブジェクトとして制御しリアルな環境音を実現
セリフ以外でも「AFC Image」を使ったのでしょうか。
塩澤氏:
今回は効果音(SE)も「AFC Image」のオブジェクトとしてステージ上や客席空間上に配置したり動かしたりしました。たとえば自動車が到着する音などはオブジェクトとして壁面からステージ方向に動かしたりすることで音の動きがリアルかつ滑らかに表現できました。今までもウォールスピーカーを活用しての音像定位は行ってきましたが、音像の動きの滑らかさと自然さ、自由度の高さは「AFC Image」が圧倒的です。
第一幕の蝉の音がとてもリアルに感じ、劇場内に本当に蝉がいるのではと見回してしまいました。
塩澤氏:
あの蝉の鳴き声がリアルに感じられたのは定位感が良かったからなのかもしれません。「AFC Image」で客席の中央付近にオブジェクトを置きました。ですから客席全体を包み込み、響くような効果が出せたのだと思います。
同じ効果を今までの手法で実現するのは大変だったんですか。
塩澤氏:
今までの手法であれば、まず全てのスピーカーに対して距離補正や音量の調整を行ってあらゆるスピーカーから均等に音が聞こえるように調整しなくてはいけません。これは時間と労力がすごくかかります。でも「AFC Image」なら客席の中央に蝉の声のオブジェクトを配置するだけで、今まで手作業で行っていた処理を「AFC Image」が計算してくれます。蝉の声のような環境音的なSEについては設定したい場所にオブジェクトとして配置するだけで、SEの特徴に合わせた住み分けが簡単にできるようになりました。
例えば、舞台の奥で車が走っている間に、客席の手前で蝉が鳴いているような情景を同一の空間上に簡単に作り出すことができます。いままではこれをLRの再生システムで表現するのに苦労していましたが、「AFC Image」なら空間をレイヤーに分けて表現できます。これはすごいことだと思います。
役者の携帯電話が鳴るシーンがあり、その音もSEとして役者の位置から聴こえたことが印象的でした。そういった演出も今までは難しかったのではないでしょうか。
塩澤氏:
そうなんです。今までなら効果用のスピーカーをステージに配置したと思います。でも役者は常に動いていますし、役者の位置がいつもとずれてしまっていたらもうダメです。その点「AFC Image」は携帯のSE音もオブジェクト化して役者の実際の動きに合わせて動かせたので、よりリアルに、誰の携帯が鳴っているのかまで表現できました。
それと舞台の前面中央で役者が窓を開ける動きをするシーンがあるのですが、これも窓が開く音のオブジェクトを舞台の中央に配置したことで、本当にそこに窓があるかのように聞こえたと好評でした。これは以前なら舞台のセンタースピーカーと客席前のスピーカーで高さの定位を作り、さらに客席のサイドスピーカーも調整する必要がありました。
それとお芝居が始まる前の影アナがイマーシブに動き回っていて面白かったです。
塩澤氏:
これは演出家ではなく僕のアイディアでしたが、公演前の影アナに足音の効果音を加え、オブジェクトとして会場内を歩き回らせました。今回「AFC Image」で音が動くこと、いろんなところから音が聴こえることを、専門家だけでなく一般のお客様にも分かりやすく伝えたいと考えたからです。毎回開演前にリアルタイムに動かしていたので、その日の気分や状況に応じて客席を一周したり、舞台上を歩いたり、客席の背後にまわったりと、毎回動き方は変わりました。
今までのエフェクターでは不可能だった「AFC Image」の3Dリバーブの効果
「AFC Image」の機能の一つである「3Dリバーブ」は使用しましたか。
塩澤氏:
使いました。物語の中で主人公が穴に落ちるシーンがあるのですが、演出家から「暗くて深い穴に落ちた感じを出してほしい」と言われ、それなら「3Dリバーブ」を使うしかないと思いました。これも役者の口元から発せられた言葉が場内壁面に反射してまさに洞窟に響きわたる感じになり、穴の深さや距離が感じられる効果が出せました。
3Dリバーブと通常のリバーブとではニュアンスは違いますか。
塩澤氏:
通常のリバーブではこのような効果は出せないと思います。今後も様々な舞台演出に活用できそうです。
今回「AFC Image」システムを初めて使ってみて、トータルの印象はいかがですか。
塩澤氏:
全く初めてでしたから正直不安もありましたが、稽古段階から「AFC Image」を使用してパンオペレーターもしっかりとテストしてくれたおかげで安心して最終日まで問題なく使えました。オブジェクト操作による音の動きもスムーズで、とても満足しています。
今後も「AFC Image」を使ってみたいと思いますか。
塩澤氏:
ぜひ使ってみたいです。さらに「AFC Image」を使い込んでいけば声の定位でより自然な臨場感が出せるようになると思います。特に生声が届きにくい大きな劇場や、センターステージで使うお芝居で使ってみたいです。特にセンターステージは「AFC Image」の可能性が最大限に引き出せそうです。それと天井からスピーカーを吊すのも面白そうですね。これまでになかったような「高さ」を使った3次元的な音響演出が可能になると思います。
お忙しい中インタビューのお時間をいただき、ありがとうございました。
株式会社オーベロン
https://o-beron.com