ヤマハ | 【音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】KAAT 神奈川芸術劇場 演劇『リア王の悲劇』/ 神奈川

【音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】KAAT 神奈川芸術劇場 演劇『リア王の悲劇』/ 神奈川

Japan/Kanagawa Sep.-Oct.2024

演劇『リア王の悲劇』2024年9-10月公演
撮影: 宮川舞子 提供: KAAT神奈川芸術劇場

2024年9月16日から10月3日まで、KAAT神奈川芸術劇場にて、シェイクスピアの作品『リア王の悲劇』が上演され、イマーシブな音響演出を実現する音像制御システム「AFC Image」が使用されました。

本公演における「AFC Image」の活用方法や使用感などについて、神奈川芸術劇場 支配人・事業部長 堀内 真人 氏と、音響を担当した同 舞台技術課の徳久 礼子氏にお話をうかがいました。


公演概要

KAAT 神奈川芸術劇場にて実力派の俳優陣とスタッフが結集して上演された『リア王の悲劇』は、河合 祥一郎 氏による新訳のフォーリオ版を日本で初めて舞台化した作品です。演出は近年数々の演劇賞を受賞するなど注目を集める藤田 俊太郎 氏が手がけ、出演者には名優・木場 勝己 氏をはじめ、水 夏希 氏、森尾 舞 氏、土井 ケイト 氏、石母田 史朗 氏、章 平 氏、伊原 剛志 氏などが名を連ねました。

シェイクスピア『リア王の悲劇』
2024年9月16日(月)~10月3日(木) ホール内特設会場
作:W.シェイクスピア
翻訳:河合祥一郎(『新訳 リア王の悲劇』角川文庫)
演出:藤田俊太郎
出演:木場勝己
水夏希 森尾舞 土井ケイト 石母田史朗 章平 原田真絢
新川將人 二反田雅澄 塚本幸男
伊原剛志 ほか

公演詳細については こちら をご覧ください。


ヤマハ音像制御システム「AFC Image」について

「AFC Image」とは

「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、メディアアートなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。

詳しくは 「AFC Image」製品ページ をご覧ください。


「AFC Image」とNEXOシステムのセットアップについて

本公演における「AFC Image」の音像定位用スピーカーは、プロセニアム上部のバトン(手前)にNEXO「P10」を3基、客席天井にNEXO 「P12」を4基、さらに客席壁面にNEXO 「P12」を左右2基ずつ設置されました。


『リア王の悲劇』+「AFC Image」インタビュー

舞台を6分割したゾーンに台詞の音像をオブジェクトとして配置し
間口が広い舞台で自然な定位の音響を実現

『リア王の悲劇』で音響を担当した神奈川芸術劇場 舞台技術課 徳久 礼子 氏

『リア王の悲劇』の音響を担当した徳久さんにうかがいます。今回の公演で「AFC Image」を使用した経緯について教えてください。

徳久氏:
『リア王の悲劇』は、大劇場にせり上がる仮設の客席を設けた、舞台間口が大きい特殊な形式です。客席数は約390席とコンパクトなのですが、客席と役者との距離がどの席からも近くなり、ステージ間口が横長なので、端から端までの役者の声がしっかり聴こえるようにすることが課題となりました。そのため、この特殊な舞台形状において自然な音の定位を行う拡声のため、ヤマハさんのご協力のもと「AFC Image」を使用しました。

『リア王の悲劇』の舞台

「AFC Image」を使用してみて、その効果はどうでしたか。

徳久氏:
役者の台詞の拡声はほぼ全て「AFC Image」を使用しましたが、その具体的な手法としてはまず、舞台を仮想的に6ゾーンに分割し、各々のゾーン上にオブジェクトを配置することで、そのオブジェクトに信号を送ればそこに音像が定位するよう「AFC Image」のパラメーターを設定しました。これにより、役者の位置に応じてワイヤレスマイクの信号をミキサーでオブジェクトに送り込むだけのシンプルなオペレーションが可能となりました。それが効果を発揮し、どの席でも不自然さを感じない自然な声の音像定位が実現できました。

台詞のSR用スピーカーとしてはフロントに3基配置したNEXO 「P10」を使いましたが、十分自然な定位感が得られました。従来の音響方式ならセンター+LRで拡声をするところですが、ここまで間口が広い舞台だとそのシステムだけで自然な定位感を追求するには、かなりの手間と時間が必要だったと思います。

「AFC Image」設定画面
プロセニアム上部バトン(手前)に仮設した3基のNEXO「P10」
プロセニアム上部バトンに仮設したNEXO 「P10」
舞台袖に設置したAFC ImageのプロセッシングエンジンやI/O
NEXOスピーカーを駆動したNXAMPMK2
客席天井に仮設したNEXO 「P12」
客席壁面(前)に仮設したNEXO 「P12」
客席壁面(奥)に仮設したNEXO 「P12」

効果音でも「AFC Image」を使用したのでしょうか。

徳久氏:
音が出る場所が決まっている効果音に関してはそこにスピーカーを設置して直接出しましたが、その他の効果音は「AFC Image」を使用しました。

中でも特に「AFC Image」が活躍したのは嵐の場面です。演出としては舞台上に実際に雨を降らせて嵐を表現しましたが、音響面では「AFC Image」用のスピーカーとして設置した客席天井と壁面の計8台のスピーカーを駆使することで、劇場内のすべてが嵐の音で包まれるようなダイナミックな音響効果を出すことができました。

もう一つ重要な役割を持つ効果音に「軍太鼓」がありました。軍太鼓は劇中に何度か出てくるのですが、その役割が場面ごとに異なります。遠くの草原で鳴って広さを感じさせる音、戦争が間近に迫ったことを感じさせる近い場所でのリアルな音、そして権力を掌握したことを示す象徴的な音など、様々なニュアンスの太鼓の音がありました。それらを各場面の演出意図に沿って「AFC Image」のオブジェクト配置で響きや定位を変えていきました。

「AFC Image」に内蔵されているエフェクター「3Dリバーブ」も使用したのでしょうか。

徳久氏:
はい、軍太鼓など、印象的な響きが必要な場面で使用しました。初めて「3Dリバーブ」を聴いた時は、ちょっと驚きましたね。今までのリバーブとは違い、実音がしっかりとありつつ、劇場空間のいろいろなところから響きが聞こえてくる、空間に馴染むとても自然な響きだと感じました。これは演劇音響に非常に有効な響きで、今後活用の幅が広がると思います。

操作や作業の面で「AFC Image」のメリットはありましたか。

徳久氏:
それは大きかったですね。「AFC Image」の使用は今回が初めてだったので慣れの問題はありましたが、慣れれば作業時間を今までの半分以下、感覚的にはもっと減って1/5とか1/8ぐらいにまで短縮できるのではないかと感じました。音響の仕込みはいつも舞台稽古で実際の音を出しながら演出家と相談して決めていくのですが、従来なら変更があるたびに修正時間をもらって各スピーカーへの出力を細かく修正していました。

「AFC Image」ならばオブジェクトベースなので、音源の位置や効果の強弱の変更をPCのエディターでリアルタイムに行え、瞬時に変更に対応できます。これはかなりの時間短縮と労力の軽減になりました。

ゲネプロ中の音響ブース

「AFC Image」で今後やってみたいことはありますか。

徳久氏:
今回、嵐のシーンで、雨音の音像を移動させましたが、それはリアルタイムに手動で操作していました。今後同じようなシーンがあったら、その音像の動きをあらかじめ記録しておいて、スイッチ一つで再現できるといいなと思います。

お忙しいところ、ありがとうございました。


「AFC Image」はスピーカーから音が出ていることを
感じさせない自然な音響だった

神奈川芸術劇場 支配人・事業部長 堀内 真人 氏

神奈川芸術劇場 支配人・事業部長 堀内 真人 氏にも「AFC Image」の印象についてうかがいました。

演劇の世界では俳優の声の定位が非常に重要です。演劇を見ている時、私はいつもスピーカーの存在が気になります。通常のLRスピーカーの拡声だと、どうしても音像が上がりすぎたり、音源の位置に違和感を覚えたりすることが多いのです。しかし『リア王の悲劇』では台詞が演者に自然に定位して、スピーカーの存在を感じることなく芝居に没入できました。

また台詞だけでなく効果音も空間に自然に溶け込んでいました。効果音も従来なら効果音用のスピーカーから明確に音が出ていると感じましたが、今回は音が劇場空間全体にあるように感じました。これらは「AFC Image」の素晴らしい功績だと思います。

もちろん従来の手法でも時間をかけて丁寧に調整すれば「AFC Image」に近い音響は得られるとは思います。しかしそのためにはより多くのスピーカーを仕込み、設定を非常に細かく詰めていく必要があるでしょう。いままではそうしていました。それでも「ここから音が出ている」と感じてしまうことが多かった。しかし「AFC Image」の音はスピーカーの存在を忘れさせてくれました。音響が観客に意識されないというのは最高の結果だと思います。

イマーシブオーディオは特殊な効果の飛び道具ではなく、今後演劇の音響デザインにおいて、なくてはならない新たなインフラになるのではないでしょうか。

KAAT 神奈川芸術劇場
https://www.kaat.jp

AFC

AFC(アクティブフィールドコントロール)は、あらゆる空間において、音を自在にコントロールし最適な音環境を創り出すことができるヤマハのイマーシブオーディオソリューションです。

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