ヤマハ | 【音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】KAAT 神奈川芸術劇場 KAATキッズ・プログラム2024『らんぼうものめ』/ 神奈川

【音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】KAAT 神奈川芸術劇場 KAATキッズ・プログラム2024『らんぼうものめ』/ 神奈川

Japan/Kanagawa Sep.-Oct.2024

演劇『らんぼうものめ』 2024年7月公演
撮影: 宮川舞子 提供: KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場にて2024年7月20日から7月28日まで、劇作家・演出家の加藤 拓也 氏 作・演出によるKAATキッズ・プログラム2024『らんぼうものめ』が上演され、イマーシブな音響演出を実現する音像制御システム「AFC Image」が使用されました。

「AFC Image」の活用方法や使用感について、本公演の音響を手掛けた神奈川芸術劇場 舞台技術課の星野 大輔 氏にお話をうかがいました。


公演概要

神々の世界に迷い込んだ少年の冒険を描く『らんぼうものめ』は、劇団「た組」を主宰する加藤拓也氏が初めてキッズ向けの演劇に挑んだ作品です。独創的な演出と鮮やかな舞台美術によって物語が彩られました。主演は鞘師里保。共演に安藤聖、金子岳憲、近藤隼、秋元龍太朗ら実力派キャストが名を連ねました。

KAATキッズ・プログラム2024『らんぼうものめ』
2024/7/20(土)~2024/7/28(日) 大スタジオ
作・演出:加藤拓也
出演:鞘師里保 安藤聖 金子岳憲
近藤隼 秋元龍太朗 中山求一郎 高田静流

公演詳細については こちら をご覧ください。


ヤマハ音像制御システム「AFC Image」について

「AFC Image」とは

「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、メディアアートなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。

詳しくは 「AFC Image」製品ページ をご覧ください。


『らんぼうものめ』+「AFC Image」インタビュー

「AFC Image」により、神様の声を舞台奥に定位させながら
響きは劇場全体に行き渡らせるという今までにない音響演出を実現

『らんぼうものめ』で音響を担当した神奈川芸術劇場 舞台技術課 星野 大輔 氏

今回 「AFC Image」を使用した理由について教えてください。

星野氏:
この舞台では、神様の声や物語の途中でいなくなってしまうお母さんの声など、舞台上に登場しない人物の「声」の演出が重要でした。その「声」を通常のリバーブで単に遠くから聞こえるようにするだけでは面白みに欠けると感じ、劇場空間全体にどのように「声」を響かせ、行き渡らせるかを考えていたところで「AFC Image」のことを知り、ヤマハさんのご協力のもと、使わせていただくことにしました。

具体的には「AFC Image」をどのように使用したのですか。

星野氏:
登場人物は舞台上にいないシーンで、「声」が舞台の奥から聞こえるようにする演出のために、舞台奥のバトンに「AFC Image」専用のスピーカーを4台配置しました。また、音像をさらに奥に引っ張れるように舞台奥にもスピーカーを設置しました。これらの「声」は単に舞台奥に定位させるだけでなく、劇場全体に音像が広がるようにするため、「AFC Image」のオブジェクトのパラメーター設定を工夫しました。

「AFC Image」エディター画面
音響卓として使用された「DM7 Compact」

「AFC Image」に内蔵されている「3Dリバーブ」も活用したのでしょうか。

星野氏:
はい、「3Dリバーブ」は使用しました。「AFC Image」で「声」の定位を奥に引っ張っても、そこに付加する響きが通常のリバーブでは雰囲気が出ませんでした。そこで、「AFC Image」に内蔵されている「3Dリバーブ」を使ってみたところ、自然でありながら、奥行きと方向感がある響きを持つ音場を作り出すことができました。最終的に、ミキサー内蔵のリバーブは使用せず、全て「3Dリバーブ」を使用しました。

音響調整ブース

「3Dリバーブ」と従来のリバーブとではどんな違いがありますか。

星野氏:
従来のリバーブはLとRの2チャンネル出力なので、響きの方向性を出しにくいんです。今までは、出力するスピーカーごとにミックスバスへのアサインで送りの量を調整し、あとは耳で聴きながらEQやディレイなどで響き具合を調整していました。ところが「3Dリバーブ」はオブジェクトの位置に応じて響きの方向を自動で計算し、正確に制御してくれます。また、残響の強さや遅延などのパラメーターを使って、響きの方向性を細かく設定できるため、たとえば神様の声は音源としては舞台奥にありますが、響きは客席全体に広がる不思議な音響効果を生み出すことができました。従来とは異なる、新しい音響表現を実現できたと思います。

3Dリバーブの設定画面。響きの方向性を調整できるパラメーターを備える。

この『らんぼうものめ』はKAAT神奈川芸術劇場さんだけでなく、他の劇場でも公演されたそうですね

星野氏:
はい。福島県いわき市の「いわき芸術文化交流館」の中劇場で1日、長野県松本市の「まつもと市民芸術館」の小ホールで2日、公演を行いました。もちろん、それぞれで「AFC Image」を使用しました。「AFC Image」の効果を得るために少しスピーカーを追加したものの、演劇公演をするときにはさまざまな位置にスピーカーを仮設しますので、「AFC Image」のために仕込みに時間がかかったとかの印象はありません。いつも、このくらいのスピーカーは仕込みますね(笑)。

今後「AFC Image」で試してみたいことはありますか?

星野氏:
今回は効果音の音像移動には、別のイマーシブオーディオ製品「Spat Revolution」を使用しました。「Spat Revolution」はOSC*を利用して「Ableton Live」と「QLab」を連携できますので、あらかじめ「QLab」に記憶させた音像の軌跡で効果音の音像をオートメーションで動かしました。今回は時間が限られていたため試すことができませんでしたが、「AFC Image」もOSCに対応しているので、次の機会では「AFC Image」と他のソフトウェアを連携させ、シンプルなオペレーションでオブジェクトの音像移動ができるような仕組みを考えたいと思います。

* OSC(Open Sound Control):ネットワーク経由で電子楽器/音響機器などの制御情報を伝送するプロトコル。

それともう一点試してみたいのは、舞台に仕込んだ床置きマイクを「AFC Image」でオブジェクト化することで、役者の位置や動きに合わせて音像が定位、移動する演出をぜひ試してみたいと思っています。

今回地方公演もあったので台詞などでは「AFC Image」を使わなかったのですが、今後はワイヤレスマイクだけでなく床置きのマイクを使った音源移動も試してみたいと思っています。

本日はありがとうございました。

KAAT 神奈川芸術劇場
https://www.kaat.jp

AFC

AFC(アクティブフィールドコントロール)は、あらゆる空間において、音を自在にコントロールし最適な音環境を創り出すことができるヤマハのイマーシブオーディオソリューションです。

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