『Shibuya Crossing Jam By Keishi Tanaka / NiKA』 2025年10月4日(土)@Yamaha Sound Crossing
2026.6.16
魅力的な歌と音楽が交差する
一期一会のスペシャル・パフォーマンス

渋谷サクラステージのYamaha Sound Crossing Shibuyaにフラッと立ち寄ったミュージシャンたちが、その場にある楽器を手に取り、繰り広げられる一夜限りのスペシャルショウ『Shibuya Crossing Jam』。2025年10月4日(土)開催の第2回には、Keishi TanakaとNiKAがゲストで招かれた。初回に続いて入場無料となり、立ち見が出るほどの観客で賑わう中、ヤマハの楽器や機材を配備したシンプルかつエレガントなステージに、まずはKeishi Tanakaが大きな拍手に迎えられて登壇。
「本番まで1か月を切ってるくらいの時期にこの出演が決まりました。そういったことは普段あまりないし、けっこう急だなと思いながら(笑)。しかも“手ぶらで来てください”という、異例のオファーなんですよ。今日はすべて、ここにあるヤマハの楽器でライブをします!」
スツールに腰掛けるなり、挨拶がてら特殊なイベントであることを告げたKeishiは、アコースティックギターを軽やかに鳴らし、13年前のRiddim Saunter解散直後にリリースしたソロデビューミニアルバムの表題曲「夜の終わり」でライブをスタートさせる。包み込むような優しいボーカル、自然と身を任せてしまうキャッチーなメロディ。場所や聴き手を限定しない彼の音楽が、序盤から心地よいムードを醸成していく。

「僕みたいにギター歴がそこまで長くない人間は、楽器屋さんでもコソコソ隠れて、誰にも聴かれないように試奏をするんですけど。まさかね、初めて使うギターでライブをやることになるとは……」
貴重な時間を噛み締めつつ、そのまま弾き語りで、村松拓(Nothing's Carved In Stone)に楽曲提供した「ラブレター」へ。先程のピック弾きから変化を付け、こちらのセルフカバーは曲調に合う指弾きスタイルでプレイしたりと、ギターの音色も豊かに伝えてくれる感じが嬉しい。
「今日だけのラテとかクラフトビールがあるそうなので、よかったら飲んでみてくださいね。僕もあとでいただこうと思ってます(※Yamaha Sound Crossing Shibuyaには楽器類に加え、オリジナルのコーヒーやビールを取り揃えたカフェがステージのすぐそばに併設されている)」
場が温まってきたところで、もうひとりのゲストであり、MIDORINOMARU、VOLOMUSIKS、渡辺俊美&THE ZOOT16などで活動する鍵盤奏者のNiKAを呼び込み。Keishiのバンドセットもサポートしている彼女だが、こうしたデュオ/対バン形式で一緒にライブに臨むのは初めてだという。

貴重なコラボ一発目に届けられたのは、Keishiのレパートリー「One Love」。サウンドに奥行きを生むNiKAのウォーミーなオルガン(YC61)に乗せ、フィンガースナップを交えたり、立ち上がって歌う瞬間があったり、曲半ばで再びアコギを弾いたり、いっそう伸び伸びとパフォーマンスするKeishiの姿が印象深く、ふたりのポジティブでエネルギッシュな演奏に、客席からはハンドクラップが湧き起こる。
その後はKeishiがいったんステージを降り、ヤマハのキーボード(CP88)を用いたNiKAのソロセクションに移行。「先日、これの大群に追いかけられて怖かったですが(笑)」というエピソードから、彼女は童謡「鳩」のカバーを愛らしく奏で出す。原曲の親しみやすいメロディに絡むジャジィで溌溂とした打鍵など、新鮮な響きを湛えるピアノインストによって、オーディエンスの頬が自然と緩む。

「(誰かを羨むのではなく)できることをやっていけば、それがきっと自分らしさ、私にしかできないことになるんじゃないかなと思って書いた曲です」と前置きした「隣の芝生は永遠に青い」は、オリジナルのインストナンバー。幅広いシーンに対応可能なCP88の特性を活かして「柔らかいピアノの音色を選んだ」という、NiKAの哀愁と希望が薫るドラマティックな調べも絶品だ。
ここでヤマハのクラフトビールを持ったKeishiが再登場し、ゴキゲンに乾杯の音頭を取る。さらに「僕もピアノを弾いてみたい」というまさかの発言で驚かせ、自身の楽曲「Hand Is」をNiKAとともに鍵盤2台で披露。生きている実感が滲むようなエモーショナルな歌唱、フレーズや声の重なりが美しい、今夜しか観られない演奏を展開した両者は、「なんか……上手くいったんじゃない?」と笑顔で話す。
サプライズは本編ラストにも用意され、Keishiが「この夏から歌っている」という桑田佳祐「祭りのあと」を同じくNiKAとカバー。暑い季節の余韻をじんわりと纏った心に染みる曲、アコギ&ピアノが寄り添い合う和やかなアンサンブルで、45分に及ぶライブパートが味わい深く締め括られた。

イベントのキュレーターである尾藤雅哉(BITTERS/元ギター・マガジン編集長)を交えてスタートしたトークパートでは、「怖かった(笑)」「初めての経験でした!」と手ぶらで臨んだライブを楽しく振り返るふたり。両者の出会いは、2018年9月に企画されたMIDORINOMARUの主催イベント『PERMANENT vol.1』だったそうで、ミュージシャンとしての印象を改めて言及する場面も。
Keishi 「自分のバンドに入ってもらって感じたのが、NiKAさんは1回目のリハから仕上がってる人なんですよ。“明日もうライブできちゃう”みたいな、なかなかいないタイプ。新しい風を吹き込んでくれる人でもありますね」(Keishi)
NiKA 「めっちゃ好青年で、もともとのイメージよりも100倍くらい良い人です。それが彼の声だったりとか、本当に隅々まで行きわたっていて、Keishi Tanakaの音楽になってるんだなと感じますし、私自身も救われてます」(NiKA)
また、お互いを見て思う、ギターボーカルとキーボーディストそれぞれの利点については、「ピアノでしか弾けないコードというものに惹かれますね。僕が鍵盤で演奏できるのは、まだ3曲だけなんですけど(笑)」(Keishi)、「ギターは持ち運びがしやすくて、ずっと触ってられるのが魅力かな。あと、パーカッシブなリズム感もいいですね。鍵盤じゃ出せないから」(NiKA)とコメント。
話がヤマハの思い出に転じると、「私は鍵盤を弾き始めたきっかけがヤマハ音楽教室なんです。(その選択で)正解っ! 3歳からエレクトーンを習うようになり、約12年間通ってました」と明かすNiKA。一方、Keishiは「兄がピアノ教室に入っていて、自分もやりそうな雰囲気だったんですけど、“絶対に嫌だ”と当時の僕は言ったらしくてね。行っておけばよかったな」とちょっぴり悔しい表情を浮かべる。
そんな流れから「(Yamaha Sound Crossing Shibuyaにある)ドラムのパッドと小さくてかわいいシンセが気になってます。今日はマイクも事前に選ばせてもらって、指向性やハイがどう出るかを聞いたり。せっかくだし、いろいろ使わせていただきました。普通できないことじゃないですか。本番を通して試せるのがありがたい」と語ったKeishi。
「すごく楽しかったです!」(NiKA)、「触ったことのない楽器に触れる機会を経て、自分の表現がまた広がったらいいなと思ってます」(Keishi)とまとめたふたりは、最後の最後にアンコールでKeishiのオリジナル曲「Just A Side Of Love」をセッション。モータウンビートでグルーヴィに駆ける、心が弾むようなアップチューンを、アコギとピアノで息ぴったりに解き放ち、プレミアムなイベントは終演となった。

「これをきっかけに、安いものでOKなので、好きになれそうなギター、キーボード、ドラムなど、何か買ってみたらいいんじゃないかな。ぜひ、音楽を楽しみましょう!」とKeishiも呼びかけていたが、楽器を身近に感じられる場所として、さまざまなクロスオーバーが起こっている唯一無二のスペースとして、このYamaha Sound Crossing Shibuyaがもっと多くの人に知られてほしい。

◎SET LIST
- 夜の終わり(Keishi Tanaka)
- ラブレター(Keishi Tanaka/村松拓カバー)
- One Love(コラボ)
- 鳩(NiKA/童謡カバー)
- 隣の芝生は永遠に青い(NiKA)
- Hand Is(コラボ)
- 祭りのあと(コラボ/桑田佳祐カバー)
En.Just A Side Of Love(コラボ)
◎EQUIPMENTS
<Keishi Tanaka>
<NiKA>
取材・文:田山雄士
撮影:山川哲矢

