【ヤマハイマーシブソリューション「Sound xR」使用事例レポート】穂の国とよはし芸術劇場PLAT「市民と創造する演劇『赤鬼』舞台手話通訳付きバージョン」/ 愛知
Japan/Aichi Mar. 2026
2026年3月7日~8日、愛知県豊橋市にある「穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース」にて行われた「市民と創造する演劇『赤鬼』舞台手話通訳付きバージョン」の公演が行われました。本公演で、ヤマハの立体音響ソリューション「Sound xR」を用いた音響演出が行われました。
その採用理由や目指した音響効果、使用感などについて、音響を担当した佐藤 こうじ 氏(Sugar Sound代表)にお話をうかがいました。
市民と創造する演劇『赤鬼』舞台手話通訳付きバージョン
公演概要
日程:2026年3月7日(土)~8日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
作:野田秀樹
脚色・演出:樋口ミユ
音響:佐藤こうじ
音楽協力:棚川寛子
手話監修:河合依子
舞台手話:加藤真紀子、高田美香、水野里香
本公演は、「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」が手がける「市民と創造する演劇」プロジェクトの一環として、野田秀樹氏の戯曲『赤鬼』を上演したものです。市民とプロ、音声と手話が入り交じる、多様性に富んだ舞台作品となっています。また、「舞台手話通訳」が採用されており、手話通訳者も演出家の指導のもと、舞台上に立ち、視覚的な表現を担っている点も本作の演出における大きな特長です。
市民と創造する演劇『赤鬼』舞台手話通訳付きバージョン 公式ウェブサイト
「市民と創造する演劇『赤鬼』舞台手話通訳付きバージョン」におけるヤマハ「Sound xR」について
本公演では、イマーシブな音響演出を可能にする空間音響ソリューション「Sound xR」の音場支援システム「Sound xR Enhance」および音像制御システム「Sound xR Image」が使用されました。
スピーカー構成
使用スピーカー
| 1 | フロントスピーカー | 5台 | NEXO「P10」 |
| 2 | サブウーファー(フロント) | 2台 | NEXO「IDS108-T」 |
| 3 | 舞台上部スピーカー | 4台 | ヤマハ「VXS5」 |
| 4 | 舞台奥スピーカー | 2台 | NEXO「P8」 |
| 5 | メインスピーカー | 2台 | NEXO「P15」 |
| 6 | サブウーファー(メイン) | 2台 | NEXO「L18」 |
| 7 | インフィルスピーカー | 2台 | NEXO「P10」 |
| 8 | ウォールスピーカー | 8台 | ヤマハ「VXS5」 |
| 9 | リアスピーカー | 2台 | ヤマハ「VXS5」 |
| 10 | Sound xR Enhance用集音マイクロフォン(ステージ上) | 4本 | |
| 11 | Sound xR Enhance用集音マイクロフォン(客席上) | 4本 |
「市民と創造する演劇『赤鬼』舞台手話通訳付きバージョン」+「Sound xR」インタビュー
音響 佐藤 こうじ 氏(Sugar Sound代表)
劇場の響きを生かしながら「波の音」や
「洞窟の声」などで空間を変容させた「Sound xR」
今回の『赤鬼』で、ヤマハの「Sound xR」を導入したきっかけを教えてください。
佐藤氏:
私は「市民と創造する演劇」プロジェクトに、足掛け8年ほど関わっています。今回の『赤鬼』は波の音と声を中心とした音響デザインの中で「洞窟」のシーンを全体の質感とどのようにつなげるかが大きなテーマでした。そのために何か新しいアプローチはないかと模索していたところ、ヤマハの「Sound xR」のデモを見る機会に恵まれ「これは使える」と確信し、今回導入に至りました。
イマーシブオーディオには以前から興味があったのですか。
佐藤氏:
イマーシブオーディオがすごく良い、といった評判は以前から耳にしていましたし、自分自身としても新しい技術に挑戦したいという思いはありました。ただ、これまではスピーカー配置や位相を工夫して音を飛ばす疑似サラウンド的な手法で、ある程度満足していた部分がありました。しかし今回の『赤鬼』では、仕込みの時間を比較的長めに確保できることもあり、いい機会だと考えて、イマーシブオーディオへの初挑戦に踏み切りました。
「Sound xR Image」による直感的なオブジェクト制御と自在な音像定位
「Sound xR」には音像を定位・移動させる「Sound xR Image」と、空間自体の響きを制御する「Sound xR Enhance」があります。まず、「Sound xR Image」はどのように使われたのでしょうか。
佐藤氏:
主にSE(効果音)と楽器音で使っていて、合計で30個ほどの音を「Sound xR Image」上で音像、つまりオブジェクトとして設定しました。例えば波の音だけでも4つのオブジェクトを使い分けています。
最初は舞台上の円の向こう側にある「遠い波」。船を漕ぐ波音は、舞台の真ん中エリアに音像を設定し、船の動きに合わせて音が手前に近づいてくるよう、オブジェクトを切り替えしています。そして、最も波の音を広げたのは終盤の暗転シーンです。ここは時間が飛ぶ場面でもあるため、音を前方に大きく広げることで印象的な演出を行いました。
楽器の音ではどのようなアプローチをしましたか。
佐藤氏:
楽器音については、実際の楽器位置に音像を合わせたオブジェクトと、演奏者よりも前方に設定したオブジェクトの2つを用意しました。楽器の場所に設定したオブジェクトはとても自然なのですが、あまりに自然すぎて音が薄く感じられる部分がありました。それで、音が前に出るいわゆるPA感がほしいシーンでは演者よりも前に設定したオブジェクトを使用しています。このように、狙いに応じて音像の定位を自在に操れるのが「Sound xR Image」の魅力だと思います。
「Sound xR Enhance」が創り出す、自然な空間の「響き」と拡声効果
空間独自の響きをつくる「Sound xR Enhance」は、どのように使われたのでしょうか。
佐藤氏:
今回は、俳優にワイヤレスマイクを使いませんでした。セリフはすべて、天井から吊った集音マイクで拾った音を「Sound xR Enhance」で処理しています。そのため、声をマイクで直接増幅するというよりも、劇場内に響いている反響音を拾い、それを増幅するというアプローチになります。
「Sound xR Enhance」を使った拡声について、演出家からの反応はいかがでしたか。
佐藤氏:
演出家の樋口さんは、「Sound xR Enhance」の音を聴いた後、第一声で「劇場の音が自然に響いている感じがして、きれいに広がっている」と高く評価してくださいました。「Sound xR Enhance」が目指している効果を、そのまま感じ取ってくれたのだと思います。
今回、佐藤さんが「Sound xR Enhance」で特にいいと感じた点を教えてください。
佐藤氏:
やはり「洞窟」のシーンの残響のクオリティです。舞台で深い響きを作ろうとすると、従来のデジタルリバーブでは、同じ処理をした音が多方向から一律に出ているだけになりがちでした。しかし「Sound xR Enhance」は、空間の響きそのものを増幅するため、極めて自然です。今回は一発でイメージ通りの響きが創出することができました。
また、「Sound xR Enhance」は洞窟のシーンだけでなく、群像シーンや冒頭の鼻歌のシーンなどでも、響きを短かめに設定して多用しています。俳優にとっても、自分の声がどう響いているかをしっかり認識できるため、心地よく演じられたのではないかと思います。
これまでの方法では、ここまで深く豊かな響きの質感は出せないのでしょうか。
佐藤氏:
できないと思います。一般的なデジタルリバーブと決定的に違うのは、実際に「壁」が存在するかのように、反射音が返ってくる点ですね。加えて、スピーカー同士のつながりが圧倒的に素晴らしいです。たとえスピーカーのアライメントを厳密に揃えたとしても、通常はこんなにスムーズにはつながりません。
しかし「Sound xR Enhance」では、深い響きの中でありながら、俳優のセリフが明瞭に聞き取れます。しかも、響きが深くなってもハウリングはまったく起きませんでした。これは舞台音響の常識からすると驚異的なことで、正直、衝撃でした。まさに異次元の体験です。この音を一度体験してしまうと、もう元には戻れませんね。
「Sound xR」は、作業効率と自由度を劇的に変える「夢の機材」
これまでのシステムによる音作りと比較した場合の「Sound xR」のメリットは何でしょうか。
佐藤氏:
例えば、ある音を客席のちょうど真ん中(前後・左右のど真ん中)に定位させようと考えた場合、これまでであれば各スピーカーに1つずつ音を送り、実際に客席を歩き回りながら確認する必要があり、時間も手間も膨大にかかっていました。さらに根本的な問題として、従来のシステムでは最奥のスピーカーに合わせて距離補正のディレイをかけるため、そもそも「真ん中に定位する」という概念自体が存在しません。
それを擬似的に作ろうとするのですが、実際には不可能に近いのです。しかし「Sound xR」は、発想そのものがまったく異なります。高さも含めて、音像を自由な位置に、しかも瞬時に配置できる。この自由度と手軽さは、まさに「夢の機材」だと感じています。
今後「Sound xR」でやってみたいことはありますか。
佐藤氏:
今回はアートスペース(約250席)規模でしたが、「Sound xR Enhance」に関しては、例えば50~60席程度の東京の小劇場で、どれくらいの効果が出せるのか、ぜひ試してみたいですね。
また、「Sound xR Image」で挑戦してみたいのは、効果音オブジェクトのリアルタイム移動です。例えば、頭上をヘリコプターが移動したり、舞台上を妖精が飛び回ったりといった、客席の頭上をふわっと浮遊するような音の表現です。音が頭上で滑らかに動く感覚は、これまでは実現が難しかった表現だと思います。
一般的な音響システムでは、複数のスピーカーをまたいで音を移動させるのは難しいのでしょうか。
佐藤氏:
1つのスピーカーから別のスピーカーへ動かすだけならまだしも、複数のスピーカーを連動させて音像を移動させるのは、従来の機材では至難の業です。相当な時間をかけて仕込んでも、思うようにいかず、最終的に「雰囲気だね」で終わることがほとんどでした。でも「Sound xR Image」なら、画面上で音像を動かすだけ。それで滑らかに音像が移動します。
芝居の中でやってみて駄目なら駄目でいいんですよ。「試してダメなら、すぐにやめられる」というトライアンドエラーのしやすさこそが、音響が進化する可能性だと思いますし、それが「Sound xR Image」の大きな魅力だと感じています。
ご多忙中ありがとうございました。
音像制御システム「Sound xR」について
「Sound xR Image」とは
「Sound xR」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。
主な特長
- 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能
- 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載
- 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現
- DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載
詳しくは「Sound xR」製品ページをご覧ください。