【導入事例】COUNTDOWN JAPAN 25/26 / フェスティバル / 千葉
Japan/Chiba Dec. 2025
年末の風物詩として定着した日本最大級のロックフェスティバル「COUNTDOWN JAPAN」。2025年末から年始にかけて幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催された「COUNTDOWN JAPAN 25/26」では、5日間にわたり全4ステージで計179組のアーティストが出演しました。
今回、この大規模なフェスティバルを支える全ステージのモニターミキサーとしてヤマハのデジタルミキシングコンソール「DM7」が採用されました。その導入の背景や使用感などについて、音響を担当した株式会社MSI JAPAN東京の杉田 達矢 氏と小島 美咲 氏にお話をうかがいました。
イヤモニ運用の拡大に対応し、
全ステージのモニターミキサーに「DM7」を導入
MSI JAPANでは大規模な音楽フェスの音響を多数手掛けていますが、これまではモニターミキサーは「CL5」をご使用いただいていました。今回の「COUNTDOWN JAPAN 25/26」では全ステージを「DM7」に切り換えられました。その理由を教えてください。
杉田氏:
おっしゃるとおり我々にとってフェスのモニター卓と言えば、ずっと「CL5」でした。2012年に発売されて間もなく導入して使ってきましたが、大きなトラブルもなく、今でも素晴らしい卓だと思っています。
ただ、ここ数年でモニター環境に求められることがよりシビアになりました。プレイヤー全員がイヤモニ(IEM)を装着した上でモニタースピーカーも併用するハイブリッドな運用が増え、さらに楽器毎、プレイヤー毎に違うリバーブを使用して…と。そうなると「CL5」ではすぐにバスの数が足りなくなってしまいます。
小島氏:
現場の感覚で言うと、例えば大所帯のアイドルグループの場合、メンバーが9人いれば、イヤモニだけでステレオ9系統、合計18chが必要です。さらにステージ上のサイドモニターやウェッジでステレオ2系統の4ch、さらにバンドへのLR送り、クリックやマニピュレーターへの送りなどを積み上げていくと、モニター出力はあっという間に32ch近くまで埋まってしまうんです。
それが今回「DM7」になり、MIXバスは48ch、MATRIXバスは12chと大幅に増えました。これだけあれば、イヤモニをフルに使っても、ステージのエアーモニターやサブアウトへの送りなど、柔軟な回線設計が余裕で行えます。これまでのように「何かを削らなければ次を追加できない」というやりくりのストレスがなくなったのは、本当に助かりました。
今回、一部のステージだけでなく、全ステージのモニターミキサーに「DM7」を導入したのはどうしてですか。
杉田氏:
「切り替えるなら中途半端に混在させず、まるっと全部入れ替えよう」という方針でした。今回のフェスには計179組ものアーティストが出演しました。当然、乗り込みのオペレーターの数も膨大です。こうした大規模フェスの特徴として、同じオペレーターが、ある日はEARTH STAGEを担当し、翌日はMOON STAGEを担当する、とステージを渡り歩くケースが多々あります。
その際こっちのステージは「DM7」だけど、あっちは「CL5」という状況は避けたかった。データの互換性はもちろん、操作感の切り替えなどがオペレーターにとって大きな負担になるんです。また機材を提供する我々としても、運用面やサポートを考えると、機種は統一されていた方が良いんです。
I/Oラック「Rio3224-D2」(下段)
とはいえ、この巨大なフェスで、一気に導入することに不安はなかったのですか。
杉田氏:
正直に言えば、全くなかったわけではありません。今回のフェスでの実績をお伝えすると、全4ステージで計6台の「DM7」を5日間、朝から晩まで過酷な環境で稼働させました。StageMixの運用では課題も見えましたが、音が出なくなるとか、システムがフリーズして落ちるといったトラブルは1回もありませんでした。
小島氏:
フェーダーの動作がおかしいとか、画面が固まるといった不具合も無かったです。
これだけの過酷な長丁場を止まらずに走り切ったというのは、驚異的な安定感だと思いますし、ヤマハ製品の信頼性の高さを改めて実感しました。
フェスの現場で実証された「DM7」の音質
フェスの現場で実際に音を出してみて、音質はいかがでしたか。
小島氏:
音は非常に良かったです。多くのオペレーターが「CL5よりも一段と良くなった。」と言っていました。特に「分離感」と「レンジの広さ」は抜群でした。96kHz稼働になって、今まで混み合って聴こえにくかった帯域がすっきりと整理された印象があります。
それともうひとつ大きかったのがヘッドホンアウトの音質です。私たちモニターエンジニアにとってヘッドホンはまさに命綱なので、その出音のクオリティが「CL5」よりも向上したことは大きな安心材料でした。クリアで歪みが少なく、耳の中でのバランスをよりシビアに判断できるので、オペレートの精度が自然と上がりました。これも「替えてよかった」と思える大きなポイントです。
フェスは転換時間が短くて「時間との戦い」だと思いますが、その点についてはいかがですか。
杉田氏:
ファイルロードの時間が短くなったのも地味にありがたかったですね。「CL5」の時は体感で1分くらいかかっていたので。
小島氏:
「DM7」は体感で5秒以下!あまりの速さに最初は「本当にデータ読み込めている?」と確認したくなるほどでした。秒数的にはたいしたことないように思えますが、1日に多数のバンドが入れ替わるフェスの現場では「1分」の積み重ねは大きいです。特にリハーサル日は、約40バンド分の回線チェックを次々とこなす必要があり、そこが劇的に速くなったのは助かりました。
それとサイズがコンパクトになった点も良かったです。フェスのステージ袖は常に機材や楽器ケースで溢れかえっています。「DM7」はフェーダー数や画面サイズを確保しつつ、スリムになったので、舞台袖という限られたスペースでも動線を妨げることなく、快適にオペレートできました。「小さくなったね」と周囲のスタッフの評判も上々でした。
定位を任意に設定できる「センドパン」と最大64chに対応するDuganオートミキサーがモニターミキサーとしての新たな戦力に
モニターミキサーとして「DM7」の機能面での使い勝手はいかがですか。
小島氏:
一番感動したのはSend Panの操作性が向上したことです。アーティストにイヤモニを送る際、FOHのL/Rと、イヤモニ内のL/R定位を逆転したいケースが多々あります。「DM7」には、ミキサー側の設定で瞬時にLとRを反転できるボタンがあり、一見地味ですが、モニターエンジニアの長年の悩みを解消してくれる素晴らしい機能です。
それと、インサートできるラック数が4つに増えたことも大きいです。最近はイヤモニの中で緻密な音作りを求められるため、EQを入れ、コンプレッサーを入れ、さらに別のプロセッサーも……と重ねていくと、以前はラック数が足りなくなることがありました。でも4ラックあれば、アーティストからの細かなオーダーにも余裕を持って応えられます。
最近のフェスでは、大人数のアイドルグループが出演する機会も増えていますね。
小島氏:
はい。アイドルグループのメンバーが十数人いると、曲中にマイクの受け渡しが発生することがあるのですが、初めて担当するグループの場合、誰がいつ歌うのかを把握しながらフェーダーを追うのが難しい、といった課題に直面することも増えました。それにはDuganオートミキサーにかなり助けられています。
「DM7」では最大64チャンネルまで使用可能になりましたから、メンバー全員のチャンネルにDuganオートミキサーをインサートしておけば、とりあえず自動でゲインを最適化してくれます。まさに現場の「守り神」のような機能です。Duganオートミキサーはスピーチ用途で使われることが多い機能だと思うのですが、フェスのように人数が多く転換も激しい現場でも、オペレーションを補助するテクニックとして非常に有効だと感じました。
実際今回も「Duganオートミキサーが無かったら無理だったかも」という場面が何度もありました。
大規模フェスで実力が実証された「新たなスタンダード」
「DM7」は、今後どのように使っていく予定でしょうか。
杉田氏:
オムニバスフェスのモニター卓は「DM7」でいくつもりです。もちろん長年使い込んできた機材には安心感がありますし、操作に慣れているメリットもあります。しかし機材を提供する我々が保守的では、業界全体の技術は進歩しません。
最初は若干戸惑いもありますが、新しい機材にはそれを補って余りあるメリットがあります。今回、これだけ大規模なフェスのモニター卓として大きなトラブルなく完走できたことで「DM7」の信頼性は確認できました。今後は我々の現場だけでなく「DM7」が、業界のスタンダードになるでしょうね。我々も、その流れをリードしていきたいと思います。
小島氏:
個人的には一度「DM7」を経験してしまったらもう戻れません(笑)。実際に現場に来たオペレーターのみなさんも、「あ、DMだ! 触りたかったんだよね」と目を輝かせていましたし、使ってみて「音が良い」と満足して帰られる姿を見て、提供する側としても非常に嬉しかったです。