【音像制御システム「Sound xR Image」使用事例レポート】『UME -今昔不届者歌劇-』/ 東京
Japan/Tokyo Feb. 2026
2026年2月15日~23日 東京・サンシャイン劇場、2月27日~3月1日 大阪・クールジャパンパーク大阪TTホール、そして3月7日 和歌山・紀南文化会館 大ホールにて、松岡充主演の音楽劇『UME -今昔不届者歌劇-』が上演されました。本公演のうち、東京公演および大阪公演では、ヤマハの音像制御システム「Sound xR Image」を用いた音響演出が行われました。
導入の背景や目指した音響効果、実際の使用感などについて、サウンドデザイナーの百合山 真人 氏、イマーシブコーディネーターの畠山 昂也 氏(株式会社トレジャーアイランドコーポレーション)、楠瀬 ゆず子 氏、音楽監督・作曲のYOSHIZUMI 氏、制作の高橋 戦車 氏にお話をうかがいました。
Vol.M 音楽劇『UME -今昔不届者歌劇-』について
公演概要
日程:東京公演:2026年2月15日(日)~23日(月・祝) サンシャイン劇場
大阪公演: 2月27日(金)~3月1日(日) クールジャパンパーク大阪TTホール
脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
音楽監修:松岡充
音楽・歌唱指導:YOSHIZUMI
音響:百合山真人
イマーシブコーディネーター:畠山昂也、楠瀬ゆず子
出演:松岡充、街裏ぴんく、阪本奨悟、雷太、Beverly、大平峻也、山田ジェームス武、藍染カレン、橘輝、仲田博喜、丸尾丸一郎
パーカッション演奏:岩澤駿、ヒロシ
津軽三味線演奏:津軽三味線小山流(小山慶宗、小山清雄)
音楽劇『UME -今昔不届者歌劇-』は、轢き逃げ事件で殺された妻の保険金詐欺を疑い、キャバクラに潜入する現代の男の物語と、徳川幕府八代将軍・徳川吉宗にまつわる江戸時代の暗殺劇とが交錯するスリラーです。現代と過去の「不届者」たちの生き様が時空を超えて絡み合い、徳川吉宗の虚像と保険金詐欺事件の実像が重なり合って立ち現れます。歌と音楽、そして芝居が自然に溶け合うエンターテインメント作品として昇華されており、観客をスリリングな物語の奥深くへと誘う音楽劇です。
『UME -今昔不届者歌劇-』におけるヤマハ「Sound xR Image」について
本公演では、イマーシブな音響演出を可能とする音像制御システム「Sound xR Image」が使用されました。さらに、俳優の位置情報をリアルタイムに追尾するオートトラッキングシステム「TiMax TrackerD4」と連携することで、演者の動きに合わせて音像が移動する、リアリティのある音響空間が創出されました。
「Sound xR Image」スピーカー構成(東京公演 サンシャイン劇場)
使用スピーカー
| 1 | フロントスピーカー | 5台 | 東京:NEXO「P12」 大阪:NEXO「P12」+センターのみ劇場常設 |
| 2 | 舞台中モニタースピーカー | 4台 | NEXO「P8」 |
| 3 | メインスピーカー | 2基 | 東京:劇場設備 大阪:NEXO「GEO S12シリーズ」 |
| 4 | リップフィルスピーカー | 東京:7台 大阪:9台 |
NEXO「GEO M1012」 |
| 5 | サブウーファー(フロント) | 2台 | NEXO「L15」 |
| 6 | エクステンションスピーカー | 2台 | NEXO「P8」 |
| 7 | 客席ウォールスピーカー | 東京:8台 大阪:12台 |
劇場設備 |
| 8 | リアスピーカー | 2台 | 東京:NEXO「ID24-T」 大阪:劇場設備 |
| 9 | リアサブウーファー | 東京:1台 大阪:2台 |
NEXO「L15」 |
『UME -今昔不届者歌劇-』+「Sound xR Image」インタビュー Part.1
音響 百合山 真人 氏
「秘すれば花」――音像の移動が余白と気配を生む
百合山さんがイマーシブオーディオを使い始めたきっかけを教えてください。
百合山氏:
最初は2023年に国内のミュージカルでイマーシブオーディオを使った公演に挑戦しました。それまでは「イマーシブオーディオ」という言葉すら知らなかったのですが、実際に仕組みを理解し、公演で使っていくうちに、サウンドデザインに対する根本的な考え方、いわば「思想」が変わっていきました。
思想が変わったというのは、具体的にどういうことですか。
百合山氏:
これまではステレオ方式をベースとした音響システムでしたから、そこで何とか空間感を作ろうとして、スピーカーをあちこちに仕込んだりしていました。それは「空間を変質させたかった」からなんです。それがイマーシブオーディオに出会ったことで、その表現をより深く、精緻に追求できるようになりました。
今回の『UME -今昔不届者歌劇-』では、現代のシーンを従来のステレオで、江戸時代のシーンをイマーシブオーディオで表現するという使い分けでした。ここにもその思想が反映されているのでしょうか。
百合山氏:
それがまさに「空間の変質」です。現代は情報過多で飽和しています。一方、江戸時代は高い建物もなく、だだっ広い空間で、現代とは響きの質が全く違うはずなんです。そこで今回は、全面的にイマーシブオーディオを使うのではなく、あえて現代はステレオ、江戸時代はイマーシブオーディオと切り替えることで、音の風景を変容させました。
ただ、単なる物理的なタイムスリップを表現したかったわけではありません。物理的な時間の切り換えではなく、主人公の脳内世界にダイブしていくような感覚を表現したいと考えました。
空間を変質させるために、具体的には「Sound xR Image」をどのように使ったのですか。
百合山氏:
イマーシブオーディオというと、いろんな方向から音が鳴るように、どこに音を配置するかに意識が向きがちです。しかし私は、「音を置くことで、その周りに空間(余白)が生まれる」ということを強く意識しました。好きなアーティストにイサム・ノグチという彫刻家がいますが、彼は「彫刻とは、彫刻を置くことで、その周囲の空間がどう変化するかをデザインする芸術だ」と言っています。音像の配置もこれとまったく同じで、私は彫刻に近い感覚でイマーシブオーディオを捉えています。
今回の舞台では、その「余白を生む」アプローチはどのように実践したのですか。
百合山氏:
物語の終盤で、下手奥で鳴っていた三味線の音像をステージ中央の「梅の木」へと、ゆっくり移動させる演出を行いました。この梅の木は、300年という時を超えて人間の不届きな業を見つめ続けてきた、特別な存在です。三味線の音を梅の木に集約することで、梅の木以外の場所に圧倒的な余白が生まれます。ただ、それがなぜなのかは観客にはわかりません。感じるだけです。世阿弥の「秘すれば花」と同じで、「なぜか、あそこに音が動いた」と感じる。その気配、それが重要なんです。そして音が梅の木に集まった後、舞台は暗転し静寂が訪れます。そこが、今回私が一番力を入れたサウンドデザインでした。
日本人は古来から静寂を大事にしてきました。静寂が訪れた瞬間、梅の木の「存在感」や「気配」がふっと浮かび上がる。イマーシブオーディオは、舞台空間にそうした「気配」を生むことができるのです。
「Sound xR Image」の使用感はいかがですか。
百合山氏:
「Sound xR Image」は、日本文化との親和性が非常に高いと感じました。例えば、西洋の劇場は基本的にプロセニアム・アーチの中で完結しますが、日本の歌舞伎には「花道」、能には「橋掛かり」があり、客席と舞台が地続きです。役者が花道から登場する際も「Sound xR Image」では、その動きに沿って音をとても自然に表現できます。これは日本の劇場空間や演出手法において、圧倒的なアドバンテージだと思います。ヤマハという日本のメーカーの技術だからこそ、こうした空間的な美意識が打ち出せるのではないか、と期待しています。
最後に、今後イマーシブオーディオを使ってどのようなことに挑戦していきたいですか。
百合山氏:
まずは、日本のオリジナル作品や、日本独自の「間」や「静寂」の表現を、イマーシブオーディオを使って世界に発信していきたいですね。同じシステムを使っても、文化的な背景によって生み出される空間は全く異なりますから。今後は、できるだけ日本の多くの劇場に、日本の文化を背負ったイマーシブオーディオシステムが入ることを願っています。
『UME -今昔不届者歌劇-』+「Sound xR Image」インタビュー Part.2
イマーシブコーディネーター 畠山 昂也 氏 / 楠瀬 ゆず子 氏
「Sound xR Image」のアドバンテージは
空間を操る「ゾーン」と卓越した「3Dリバーブ」
今回の舞台は、物語の舞台となる現代のシーン(ステレオ)と江戸時代のシーン(イマーシブオーディオ)でシステムを切り替えるユニークな演出手法が採られました。音楽の聴こえ方やミックスにはどのような違いがあったと思いますか。
畠山氏:
今回は、現代シーンにロック系のビートの強い曲が集まり、江戸時代のシーンにはバラード系のしっとりした楽曲が集まったので、ステレオとイマーシブオーディオの使い分けがうまく機能したと思います。
ミックスに関して言うと、イマーシブオーディオは、ステレオミキシングのようにEQやパンニング、コンプレッサーなどで無理に「居場所」を作らなくても、オブジェクトを置きたい場所に置くだけで、分離の良いミックスできるのが大きな特徴です。一方で、キックやスネアを押し出したいロック系の楽曲では、いわゆるステレオミックスのほうが、音を「面」で押し出す表現ができます。今回は、その使い分けが効果的に行えました。
楠瀬氏:
私もステレオとイマーシブオーディオでは、ミックスの手法がまったく異なると感じました。バラード系の楽曲をオブジェクトベースで扱うことで、それぞれの楽器、ひいては楽曲全体を舞台空間上に落ち着かせることができます。楽曲の持つ「静寂感」を客席にしっかり届けることができたのは、イマーシブオーディオだからこそだと思います。
「Sound xR Image」を使用してみて感じたことを教えてください。
畠山氏:
波面合成かアンプリチュード(音量差)かという技術的基盤の違いによる特性もありますが、「Sound xR Image」は鳴らす音源ごとにスピーカーのゾーン分けができるのがメリットだと思います。たとえば「この音は客席のスピーカーだけで鳴らしたい」ということがゾーンで簡単にできるので、お芝居やミュージカルで音響表現のプランでは非常に有用だと思います。
楠瀬氏:
大阪公演では、このゾーン機能があるからこそ可能だった音響表現がありました。物語の最後の場面で、三味線のオブジェクトを梅の木のある場所に移動させることで視線誘導を図ったのですが、響きに関しては3Dリバーブで生成した響きだけを客席側にこぼして空間を広げていた状態から曲の終わりに向けて3Dリバーブを絞り込むオペレーションをしていました。これにより実音と響きが「梅の木」にすっと集約していく効果が作り出せました。
この音響効果により圧倒的な静寂感と視線誘導が可能になりました。これは「Sound xR Image」でなければ不可能でした。
畠山氏:
劇中の「爆発」のシーンでもゾーン機能を使いました。爆発の音はLRのメインスピーカーで鳴らし、爆発音の響きだけを客席側のスピーカーに送り込んだのです。これは現代から江戸時代へ観客を巻き込むための演出です。「Sound xR Image」に搭載された「3Dリバーブ」は、こうした演出的な使い方もできると感じました。
今後、イマーシブオーディオを使ってどのような表現に挑戦してみたいですか。
畠山氏:
イマーシブオーディオの技術によって、音響でもようやく照明や映像のようにステージに「絵を描ける」ようになったと実感しています。ミュージカルや演劇でイマーシブオーディオを極めていけば、世界で戦える日本のオリジナル作品が生まれてくるのではないでしょうか。
また、私はライブPAの出身なので、今後はPAの領域でも使っていきたいですね。例えば「落語」。現在は高座の下にスピーカーを仕込み、音源を高座に集約させていますが「Sound xR Image」ならもっと簡単、かつ自然に実現できるはずだと感じています。
楠瀬氏:
私がイマーシブオーディオのメリットとして強く感じたのは「一発目の声でお客様の視線を持っていける」力を持っていることです。これまでは、キャストが客席や舞台奥から登場した際、前方のスピーカーの音に注意が引っ張られてしまい、お客様がキョロキョロと探してしまうことが多々ありました。しかし、イマーシブオーディオでキャストとPA音の場所を一致させることで、瞬時にキャストへ視線を向けさせることができます。
私は2.5次元舞台など同年代同性別の役者が多く出る舞台も手掛けていますが、推しのキャストの登場を「一発目の声」で認識できる体験は、配信では味わえない、劇場ならではの体験価値になると思っています。
また、お芝居だけでなく、生のオーケストラとダンスの舞台などで、ダンサーの動きや空間の変化に合わせて、楽器の音像や響きのサイズを照明のように伸縮させる表現も面白そうです。そうしたパフォーミングアーツにおける新たな音響表現に挑んでみたいですね。
『UME -今昔不届者歌劇-』+「Sound xR Image」インタビュー Part.3
音楽監督・作曲 YOSHIZUMI 氏
空間に音を「置く」感覚。境界線が溶け合う新しい舞台音楽
今回の『UME -今昔不届者歌劇-』では、松岡充さんが創った強い「核」となる楽曲を、どう劇場の空間に馴染ませるか、という点がテーマでした。当初、音響の百合山さんから「Sound xR Image」を使って静寂を設計したい、と聞いた時は、正直なところ、その意味がよくわかりませんでした。しかし、実際にイマーシブオーディオを前提として音楽制作に取り組んでみると、音を平面的な足し算で埋めていくこれまでの音源制作とはまったく別物なのだと気づきました。例えば、音で遠景を表現する際、従来は音をこもらせて「後ろで鳴っているように」加工していましたが、イマーシブオーディオであれば、音源を実際に舞台奥に配置すればいいんです。
またSTEM(楽器ごとの音源)の段階から「空間のどこに音を置くか」を百合山さんと相談しながら進めていくことで、音楽家と音響家の職能の境界線が溶け合い、一緒に音の設計図を書いているような新しい感覚がありました。
実際の空間デザインでは、まず視覚情報との整合性を一番に考えました。ステージ上にいる奏者の音は、当然その位置に定位させます。しかし、そこに「Sound xR Image」で空間の響きを付加することで、単なる拡声ではなく「今、この劇場で鳴っている」という臨場感をより強く出すことができます。一方で、アンビエント的なシンセの音などは、あえて客席の後方やサイドから出すことで、登場人物の心の中の「揺れ」といった深層心理が表現しました。
今後は、イマーシブオーディオの存在を大前提とした作品、たとえば劇場の真ん中にピアノがあり、その周りの空間を音が自由自在に回るような、空間そのものをキャンバスにした新しい音楽表現にぜひ挑戦してみたいですね。
『UME -今昔不届者歌劇-』+「Sound xR Image」インタビュー Part.4
制作 高橋 戦車 氏
見えない音のベクトルが、演劇の価値と興行を変える
これまで私が参加した舞台の多くは、音楽を多用する演目であっても、左右のスピーカーから大音量を出す「面」での音響デザインがセオリーでした。しかし、百合山さんたちと作品づくりを共にする中で、単なるステレオのサウンドだけでなく、空間を活かしたさまざまな音響表現があることを知りました。
今回は、その一つとして「Sound xR Image」を導入しました。ただ、セットや照明と違って音は目に見えないため、正直なところ、当初は不安もありました。しかし、「Sound xR Image」を組んだ稽古場で馬が走ってくるシーンを再現した際、明確なベクトルと移動感があって「あ、今、馬があっちへ走ってった!」と、その場にいた全員が驚いたんです。その瞬間、これはお客様にとっても新しい体験が提供できるのでは、と感じました。
実際の公演では「イマーシブ音響がすごかった」と直接言われることはありませんでした。でも、それでいいと思っています。お客様から「作品がすごく良かった」「歌が素晴らしかった」と評価いただけたのは「Sound xR Image」が悪目立ちすることなく、作品や楽曲の世界観に完全にマッチし、下支えしてくれた証拠だからです。
舞台に立つ役者にとっても、大きなメリットがありました。響きの少ない舞台環境でも「Sound xR Image」は適切な残響を生み出してくれるので、役者が無理に声を張らずに歌えるんです。これはアーティストケアの面から見ても高い価値があると感じました。もちろん、興行面では「コスト増」という課題がありますから、その分、それを上回る体験価値や付加価値を提供する必要はあるでしょう。
今回の私たちの公演では既存作品にシステムを合わせる形でしたが、今後はイマーシブオーディオを前提とした舞台を、演出家と一緒に練り上げいくなど、より密接に関係性を作っていけると面白いと思いました。
『UME -今昔不届者歌劇-』公式ウェブサイト
https://shika564.com/ume/
音像制御システム「Sound xR Image」について
「Sound xR Image」とは
「Sound xR Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。
主な特長
- 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能
- 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載
- 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現
- DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載
詳しくは「Sound xR Image」製品ページをご覧ください。