Product Planning

フィンガードラミングの世界を大きく広げる可能性を秘めた FGDP シリーズ。その誕生の背景にせまる。

フィンガードラムパッドの誕生

フィンガードラム専用の楽器として、FGDPはフィンガードラミングの世界を変革する可能性に満ちている。この製品を生み出すきっかけとなったのは「ありそうでなかった」という閃きだ。この楽器は、打楽器の世界をさまざまな方向で広げる可能性を秘めている。ここではFGDPシリーズの企画者とディレクターが開発のはじまりと想いを語る。

FGDP product planner: Yamashita

山下:

ことの発端は2018年。ヤマハ社内の技術研究発表会で、とある技術者が考案したフィンガードラム専用楽器のプロトタイプを目にしたことでした。見た瞬間、これを商品化すればこれから音楽をはじめる人たちにとって大きな価値を提供できると直感しました。

まず、他の楽器ではメロディー・ハーモニー・リズムという音楽の三要素をすべて必要とするのに対し、打楽器はリズムだけで楽しむことができます。

また、例えば管楽器などは音を出すためにも練習が必要ですが、打楽器は叩けばすぐに音がなります。その打楽器をスティックよりもさらに身近な指で演奏するフィンガードラムは、管楽器やドラムまたはキーボードよりも親しみやすい楽器なのです。

FGDP product planner: Miura

三浦:

私自身ドラムを演奏するので、もっとドラムを叩く人が増えればいいなと常々思っていました。FGDPの企画とは関係なく偶然ですが、2017年にフィンガードラムに興味を持ちはじめたんです。YouTubeでフィンガードラムのパフォーマンスを見つけて驚きました。何気なく見ていた動画からはアコースティックドラムの奏法を使わないと出せないような音が聞こえてきて、てっきり誰かがアコースティックドラムを叩いていると思いきや、画面のどこにもドラムが映っていない。なんと、ドラムのセットそれぞれの音が割り当てられた 4×4のパッドを指で叩いて、リズムを演奏していたんです。

これを見たときは驚きましたが、とても嬉しかったです。どうすればドラム奏者の数を増やすことができるか、ずっと考えていましたが、その答えがここにありました。スティックを使わずに指だけでこれだけ高度な演奏ができるなら、誰でも簡単にドラムを楽しむことができる、と……。そうしてフィンガードラミングにハマってしまいました。

山下:

余談ですが、グリッドパッド型のコントローラーが登場する以前はキーボードの鍵盤にドラムやパーカッションの音を割り当て、それで音を鳴らすフィンガードラミングが行われていましたが、演奏するのが難しくポピュラーではありませんでした。その後、グリッド パッド型の コントローラーの登場により、フィンガー ドラム演奏が普及しはじめたんです。

三浦:

ある意味、このFGDPの企画は「このアイデアはいける!」という山下さんの閃きで始まっていました。そこにたまたまフィンガードラムにハマっていて、指の形状に合致するようなパッドインターフェイスを構想していた私が居合わせたことで始まったのです。これらの要素が組み合わさって、フィンガードラム市場に革命を起こし得る製品を生み出す準備が整いました。

山下:

実は、エンドユーザーはまだ製品を見ていないので答えられないと考え、企画段階でインタビュー等のリサーチはしませんでした。この世にまだ存在していない楽器の在り方を外に求めるのではなく、自分たち企画者・開発者が物を触りながら作っていくことで「これだ!」という、その解を見出せる確信があったからなんです。

ドラム演奏の大衆化

打楽器は他の楽器と比べて取っ掛かりやすい印象を持たれるが、誰でもいきなりドラムセット一式を買ってはじめられるわけではない。実はフィンガードラムも同じく、いざはじめようとすると色んな機材を買い揃えなければならない。

そういった、ドラムをはじめたいときに直面するさまざまな問題をFGDPは解決する。

FGDP product planner: Yamashita

山下:

初心者でも簡単にフィンガードラムをはじめられるように、FGDPはオールインワンの楽器であるべきだと考えました。フィンガードラムの演奏は手軽に楽しめる反面、はじめるためにはパッドコントローラーだけでなくパソコンやスピーカーなど、たくさん機材を買い揃える必要がありました。でもFGDPが1台あれば、他に何も買い足さずともドラム演奏をはじめられます。

三浦:

また、FGDPがドラムを演奏する楽器として受け入れられて、多くの人に楽しんでもらうためには、アコースティックドラムだけではなく、今ヒットチャートで流れている音楽のような演奏ができる楽器を作らないとダメだと考えました。

山下:

そう、この楽器に搭載する音を決める際に、アコースティックドラムの音だけを入れるという考えはまったくありませんでした。ロック、ポップ、エレクトロニック、ジャズから、世界中のさまざまな種類の音楽を演奏できるサウンドを幅広くカバーして提供することにこだわりました。また、新しい製品として世に出す段階からフィンガードラムの決定版であることを目指しました。だから、単にヒットチャートの曲に合うサウンドだけではなく、インドやアラブ音楽などの世界各地で親しまれている打楽器の音色も多数搭載しています。

三浦:

ところでオールインワン機材であることは既にフィンガードラムをはじめている人にとっても魅力的です。膝にのせて、すぐ叩ける。ドラムセットを用意しなくても、いつでもどこでも演奏できる。スタジオやライブハウスだけでなく、公園などの屋外にもドラムセットを持って行ける。あるいはちょっとしたセッションにもFGDPを取り出してその場ですぐに参加できる。

山下:

例えばドラムセットが置かれていない結婚式場のような場所も、パフォーマンスできる場所の選択肢になり得ます。

はじめやすさと奥深さを兼ね備えていることの意義

音楽の真髄は「やっていて楽しい」ことに尽きる。楽しむためには多少の練習は必要かもしれないが、挑戦して少しずつでも習得することには喜びを感じるもの。上達するから面白くなり、自信にもつながる。そういう体験をFGDPを叩いてぜひ味わってほしい。やりはじめから楽しい楽器だが、高度な演奏やテクニックを追求したいという欲求にも応えてくれる。これから楽器をはじめたいという人にとってハードルが低く、テクニックを身につけた奏者にとっては高度な演奏に応えるだけの品質とパワーを兼ね備えている画期的な楽器だ。

FGDPは音楽の楽しさをすぐに、そして長く味わうための最良のパートナーになってくれるだろう。

Miura playing FGDP-50

三浦:

もともとドラム奏者である私は、すぐにフィンガードラムの世界にハマりました。音楽として楽器として可能性に満ちあふれているので、フィンガードラムの世界は今後も拡大し続けると信じています。

山下さんがおっしゃるように、フィンガードラムが初心者にとって取っ付きやすいことはもちろん大きな魅力のひとつですが、フィンガードラムの演奏は、極めるとアコースティックのドラムセットによる演奏を軽々と超えることもできる、そんな奥深さも兼ね備えています。

なぜかというと、一般的なドラム演奏をするときは両手に持ったスティックと両足、つまり4つの入力ソースを使って演奏するからです。一方でフィンガードラムは両手の指10本をフルに使える。つまりドラムスティックと足だけでやるよりも表現の可能性を模索できるということです。また、電子楽器なので叩く以外にもパッドを押し込んでドラムロールを鳴らす(アフタータッチ)など、スティックを使わずとも指先でさまざまな表現ができてしまいます。

これについて賛否両論あるだろうことは承知しています。私自身もドラム奏者なので、指でパッドを押すだけでドラムロールが鳴るのは「なんだかズルい」という気持ちも理解できますし、スティックを使った難しいテクニックはドラム演奏の魅力のひとつです。でも、一歩下がって見てみると、電子楽器ってそういうものなんですよね。

誰もがドラム演奏を楽しめる方法として、フィンガードラムは素晴らしい発明です。それと同時に、ドラム演奏そのものの新たな可能性にも光を当てていると思います。

山下:

もちろんアコースティックドラムの演奏はかっこいいです。でもFGDPがドラム演奏の入り口になってもいいんじゃないか。逆もしかりで、アコースティックドラム奏者の人にも、FGDPを通じて新しい演奏、新しい音楽表現に出会ってほしいです。

三浦:

FGDPはフィンガードラム専用に作られた楽器です。演奏の楽しさや奥深さと、はじめるハードルの低さも合わせて持っている、ある意味奇跡的な楽器です。通常のドラムセットでは楽しく演奏できるレベルに到達するまでに多少の時間がかかったりもしますが、FGDPならすぐに楽しめるようになります。

FGDPを開発するにあたり、社内のたくさんの人に演奏の仕方を教えましたが、楽器経験者なら1時間もしないうちに8ビート(8分音符のリズムパターン)を叩けるようになりました。楽器の演奏経験がない人でも、その日のうちに楽しく叩けるようになります。

さらに、演奏スキルを追求すれば奥が深く、通常のドラムセットの演奏では困難な表現もできてしまう。無限に遊べる楽器でありながらも、自分のスキルを無限に磨き、深めていける魅力が備わっています。

FGDPが世に出た後に何が起きるのかが非常に楽しみです。これによってフィンガードラマーのコミュニティが盛り上がってほしいですし、もっと多くの人に楽しんでもらいたい。私たちは今フィンガードラム界隈で燃えている興奮の火をさらにかき立てたいと思っていて、私自身も引き続きこのコミュニティに参加し続けて、より多くの人が楽しめるよう一緒に盛り上げていきたいです。

Yamashita and Miura conversing while looking at FGDP on their lap

山下:

私はFGDP シリーズの他にポータブルキーボード関連のプロジェクトにも数多く携わってきましたが、その根底にある思想として、音楽を奏でる楽しさを世界中の人たちに提供したいというものがあります。音楽は、それそのものが素晴らしいということに加えて、実際に演奏してみること、そして上達することの楽しさがあります。この喜びを味わってくれる人が、FGDPを通じてひとりでも増えれば本望ですね。