今まさにすべての演奏家に求められているもの Songs from My Heart 2015 10周年コンサート

とにかくしんどい。このシリーズに10年参加させていただいて、真っ先に浮かぶ感想だ。何人もの美女に囲まれ、ハーレム気分で楽しんでいると言いたいが、そんな余裕はどこにもない。このシリーズには、公演規模におよそ似つかわしくない立派なプロデューサーがいる。数々の名舞台を手掛けた構成作家による完璧なプログラムは、弾き手が好みで並べる選曲とは次元が違う。「なぜここでこの曲?」と当初は不思議に感じることもあったが、実際に演じてみれば目から鱗の連続だった。選曲だけではない。舞台の進行に沿って台本が書かれているので、作品の背景はもちろん、どんな口調でどの程度の分量を話せばいいかを実践で学ぶことができる。それはまるでテレビの生放送に出演しているよう。

だが、用意されるのはそこまで。他の一切は演奏者が埋めなければならず、とりわけエレクトーン奏者の役割は大きい。エレクトーン用への編曲は、単にひとつひとつの作品を仕上げるだけでなく、要求された雰囲気や演奏者の個性、構成の流れに沿って適切に調整する。シンプルゆえに頭を捻る作品が取り上げられることも多い。本番当日になれば、弾いて喋っては当然のこと、共演者が安心できるよう包みこむ配慮も欠かせないが、自分のペースで好きなように展開する自由はない。まさに同時通訳的な集中力とフルマラソンの持久力が求められる。もちろん、そんな苦労を舞台で見せるわけにはいかず、心で冷や汗、顔は余裕というそぶりもすっかり板に付いた。

それはさておき、ここでの経験は世界の至るところで役立っている。公演全体を見渡す視野、聴き手本位の選曲、丁寧で親切だがさりげないトーク。当シリーズで学ばせていただいたこれらのスキルは、今まさにすべての演奏家に求められているものであり、エレクトーン奏者が真に多才であることを示すのにも有益である。確かにしんどいが、それ以上の価値がある演奏会だ。次の無理難題が待ち遠しい。

エレクトーン演奏家/神田 将

エレクトーン演奏/神田 将

2015年3月22日 エレクトーンシティ渋谷