人生のターニングポイントを迎えて… 神田将リサイタル2017 響像II

東京文化会館でのリサイタルは、エレクトーン演奏家になって以来の悲願だった。それが実現したのは2015年1月。そして今回、二度目のチャンスをいただいた。多くの人にとって特別な3月11日、さらに個人的には50歳まで2週間というタイミングに、企画が始まった時点から、これが人生のターニングポイントになると確信した。ふだんなら、いかにお客様に楽しんでいただくかを念頭にプログラムを構成するが、今回ばかりは違った。自分がこの先エレクトーンを弾き続けていく価値があるのかを自分自身に問うために、あえて経験や能力を超える選曲をした。

当然のように、準備の段階で幾重もの高い壁に直面したが、当日に起こり得るすべてのリスクを受け入れる覚悟をしながら、ひたすら稽古に没頭した。その一方で、ご案内の手紙を書いたり、チケットの申込みにも対応するし、経費の心配もしなければならない。リサイタルとはそういうものだ。不眠不休の努力を重ねても、なかなか思うような仕上がりに届かず、この調子で幕が上げられるのかという不安は直前まで続いた。

だが、時間だけは正確に進んでいく。迎えた当日、空は非情なほどに青かった。太陽に別れを告げ、地下の楽屋に降りる。大ホールではパリ・オペラ座のスペシャルガラコンサートがあり、楽屋フロアはいつにない活気とともに、芳しい芸術の香りに満ちていた。自分がその片隅に居られることの喜びが、胸を張る勇気を与えてくれた。そして我が舞台の様子を見に小ホールへ。私の愛するエレクトーンが、舞台の中央に鎮座し、仕込みが進むライトを反射して輝いている。二度目の光景だが、実に惚れ惚れするし、これだけで感無量だ。

我にかえると、今度は総勢20名のスタッフが準備に勤しむパワーに圧倒された。あらゆるジャンルの舞台に精通したベテランたちが、知恵とセンスを惜しみなく注いで支えてくれるのだ。メインスピーカーはフランス製だという。なるほど、パワフルなのに上品な音がする。いつもはPA卓を通さず、アンプ内蔵スピーカーに直結するが、東京でのリサイタルではいつもエンジニアに委ねている。照明も、事前にすべての演奏を聴いてもらい、イメージを共有しながらプランを練ってもらった。こうしてエレクトーンにとって最高の環境が出来上がっていく。あとは私がよい演奏をするだけだ。

残念ながら演奏のことはよく覚えていない。忘れたいほどひどくもなかったのだが、意識することがあまりに多く、演奏そのものを楽しむ余裕はなかった。だが、満場のお客様が実に素晴らしく、難解な音楽にも心を開き、私の無謀な挑戦を正面向いて支えてくださった。こうして一年間の準備で臨んだリサイタルは幕を閉じた。私がここで得たのは、死ぬまで弾き続けたいという意欲と、常に挑戦を忘れず、進化を続ける演奏家でいるという決意だった。この、まだまだ進化し続けるだろうエレクトーンとともに。

[演奏曲目]

◇ 第1部 ◇

ベートーヴェン/交響曲第5番 ハ短調 作品67 第1楽章

シュトラウスII/喜歌劇「こうもり」序曲

ラヴェル/組曲「鏡」 海原の小舟

ラヴェル/組曲「鏡」 道化師の朝の歌

ガーシュウィン/ラプソディ・イン・ブルー

◇ 第2部 ◇

ラフマニノフ/交響的舞曲 作品45

◇ アンコール ◇

モリコーネ/ニュー・シネマ・パラダイス メドレー

チャイコフスキー/「眠れる森の美女」より ワルツ

エレクトーン演奏家/神田 将

2017年3月11日 東京文化会館小ホール